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閑話 五人の王子3
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三人称視点
燭台の頼りない炎が照らす薄暗い部屋に二人の男の姿があった。
一人は背が高く、服を着ていても分かる鍛え上げられた肉体が分かるほどに全身から、逞しさを感じる。
一人は背が低く、小柄で女性のように華奢な体を隠すように純白のローブを着込んでいる。
純白に金糸の装飾が施されたローブが魔術師としての証であることを知る者は少ないだろう。
まず、魔術師の数が極端に少ないからだ。
「動き出したようだよ。どうするんだい?」
「ああ。分かっている」
苛つきを抑えられないのか、机を指で無意識に叩く筋肉質の男に魔術師――ヨーゼフは呆れたとばかりにいささか、冷ややかな視線を向ける。
この男はいつも、こうだ。
戦場にあれば、活気づいて別人のように生き生きとしているのに何だ、この生き物は。
そう思いながらも見捨てることが出来ないのは兄弟の情だろうか。
「兄さん。分かっているのに何もしないと終わりですよ」
「しかしだな」
「しかしもかかしもないですよ。剣を振っている時の勇ましさはどこに行ったのですか? お留守ですかね?」
何も言い返すことすら、出来ない兄エルヴィンに向ける瞳に氷のような冷たさと炎のような激しさが混じっていることにヨーゼフ本人も気が付いてはいない。
「このままではアイツの思うがままに事が運ぶのですが、いいのですか、兄上」
「分かっている。分かっているさ」
「分かってないから、こうなっているのですよ、兄さん。現実を見てくださいな」
「ぐぬぬ」
机を勢いよく叩くと立ち上がったヨーゼフだが、それでも座っているエルヴィンと同じくらいの背格好しかない。
「すまん。お前に心配をかける」
そう言うと座ったまま、ヨーゼフの頭に手をやり、幼子にするように自然に撫でるエルヴィンにヨーゼフは視線を逸らすと「コホン」とわざとらしく、咳をする。
「そう思っているのなら、少しは動いてくださいな。行きますよ」
「うん? どこへだ?」
「決まっているではありませんか。ランマトワですよ」
ヨーゼフは何か、新しい悪戯を思いついたいたずらっ子のような無邪気な笑みを浮かべると人差し指を唇に当てた。
その仕草はどこか、艶めかしく、色香のあるものだ。
「しかし、あそこは馬でもかなり遠……」
「私を誰だと思っているのですか?」
「ヨーゼフだろう?」
「この国で一番の魔導師! 大魔導師ですよ? 兄上の頭の中には砂利でも詰まっているんですかね」
「普通に脳が入っているが?」
「……兄さんには嫌味が意味ないんでしたね」
ヨーゼフは呆れて、両手を上げるが顔は朗らかに笑っている。
だから、この憎めない素直な兄が好きなのだと。
「行きますよ。いざ、悪党退治としゃれこみましょうか」
燭台の頼りない炎が照らす薄暗い部屋に二人の男の姿があった。
一人は背が高く、服を着ていても分かる鍛え上げられた肉体が分かるほどに全身から、逞しさを感じる。
一人は背が低く、小柄で女性のように華奢な体を隠すように純白のローブを着込んでいる。
純白に金糸の装飾が施されたローブが魔術師としての証であることを知る者は少ないだろう。
まず、魔術師の数が極端に少ないからだ。
「動き出したようだよ。どうするんだい?」
「ああ。分かっている」
苛つきを抑えられないのか、机を指で無意識に叩く筋肉質の男に魔術師――ヨーゼフは呆れたとばかりにいささか、冷ややかな視線を向ける。
この男はいつも、こうだ。
戦場にあれば、活気づいて別人のように生き生きとしているのに何だ、この生き物は。
そう思いながらも見捨てることが出来ないのは兄弟の情だろうか。
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「ぐぬぬ」
机を勢いよく叩くと立ち上がったヨーゼフだが、それでも座っているエルヴィンと同じくらいの背格好しかない。
「すまん。お前に心配をかける」
そう言うと座ったまま、ヨーゼフの頭に手をやり、幼子にするように自然に撫でるエルヴィンにヨーゼフは視線を逸らすと「コホン」とわざとらしく、咳をする。
「そう思っているのなら、少しは動いてくださいな。行きますよ」
「うん? どこへだ?」
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その仕草はどこか、艶めかしく、色香のあるものだ。
「しかし、あそこは馬でもかなり遠……」
「私を誰だと思っているのですか?」
「ヨーゼフだろう?」
「この国で一番の魔導師! 大魔導師ですよ? 兄上の頭の中には砂利でも詰まっているんですかね」
「普通に脳が入っているが?」
「……兄さんには嫌味が意味ないんでしたね」
ヨーゼフは呆れて、両手を上げるが顔は朗らかに笑っている。
だから、この憎めない素直な兄が好きなのだと。
「行きますよ。いざ、悪党退治としゃれこみましょうか」
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