上 下
34 / 37
備忘録2 鈴鳴村編

34 村長、自殺志願者と対話する

しおりを挟む
 贄の村なのに村長がいるのって、変だと思わない?
 でも、何とも妙な話ではあるけど、絶対にない。
 そうとも言い切れないのよね。

 村落として、集落として機能していて、村長もいて村人もいる。
 だから、普通の村かと思ったら、大間違いなの。
 偶に迷い込んでくる旅人を祭りの主賓として、盛大におもてなしをするけど、その目的は旅人を村人が崇める邪悪なモノ=魔物の生贄にすることなんだからっ。
 おもてなしに入っていた毒で眠らされた憐れな旅人は着の身着のまま、生贄の洞窟へと放り投げられてしまうの。

 こんなお話しだってあるのだから、贄の村であって、村落としての機能はなくても村長と名乗る”役者”は必要なのかもしれないわ。

「そういうのは困るんですよ」

 村長と名乗ったおじいちゃんはあからさまに困惑した表情を浮かべながら、そう言ったわ。
 レオよりも遥かに演技が上手だとは思うの。
 でも、怪しいのよ。
 困惑した表情が如何にも狙ってやっていますって、分っちゃうのだから。

「あの。いや。村長さん。僕達はそういうのではないので……ええ。すぐに退去します」
「分かってもらえたら、いいんですよ」

 んんん?
 案内人のイカリが代表して、おじいちゃんとお話しするのはいいと思うのよ。
 でも、勝手に話を進めすぎじゃない?

 そういうのって、多分、自殺者が出た村なんて悪評が立つのは我慢ならない、迷惑だからやめてくれってことなのでしょう?
 ここが本当に単なる小さな村だったら、その言い分に正当性ありと認められるもの。

「ねぇ。これがテキレースなのぉ?」
「ああ。出来レースだね」
「そ、そう。それよぉ、それ」

 小声でレオに甘えるように言ったら、言葉を間違っていたわ。
 ただ、間違えたけどコソコソとお喋りするのが楽しくて。
 間違えたことなんて、どうでもよくなったけど。

「そういうことでして。皆さん、今日のところは退去するしかないようでして」

 イカリが相変わらず、ボソボソと喋るのは仕方ないと思うの。
 でも、そういうとか、ないようとか。
 会話がアバウトすぎるのよっ。
 そんなことで内容がちゃんと伝わるのかしらと考えたのはどうやら、わたしだけ。

 他のメンバーはどうやらイカリの話を理解できているみたい。
 いそいそと帰り支度をする者もいれば、「くそっ」「うぜえ」と物に当たる者もいる。
 物に当たりながらも帰り支度を始めているところを見ると、複雑な感情を抱きやすい思春期の少年ならではの激情かしら?

 一方、帰り支度をするのが三人いたら、それを横目に様子見をしている三人がわたしとレオ、それにナンちゃん。
 イカリは何を考えているのかしらね。
 どこか遠くを見るような……あれって、トリップしている目とも言うのではなくて。

「何か、気に入らないわぁ」
「まあまあ」

 レオがそう言いながら、優しく頭をナデナデしてくれるから……。
 危うく大事なことを忘れかけたわ。
 気持ちよすぎるのも考え物ね。

 そうよ。
 これは一味が仕掛けてきた罠なのよ。
 彼らは集めた贄の分断を目論んでいるのだわ。
 分断して、孤立したところを料理しようという魂胆ではないかしら?

(だから、分断が狙いなのよ)
(なるほどね。そういうことだったのか。そうなると危ないのは帰ろうとしている人達じゃないかな?)
(でも、あからさまに妨害するとバレるんじゃないかしら?)
(どうにか、できないかな)

 実はコソコソと小声で喋らなくてもわたしとレオ、念話で意思疎通できるのよね。
 では何でしないのかって、思ったでしょう?
 案外、使いにくいのよ。
 集中しないといけないし、うっかりして口から声に出すこともあるから、危ないんだもの。

(ここは様子を見てから、動くべきだと思うの)
(そうだね。迂闊に動くのも危ないか)

 レオは納得してないみたい。
 彼は優しいから、できるだけ犠牲者を出さずに解決したいと思っているし、そうすべきだと考えているのね。
 何とか、うまくできたら、いいのだけど。

 この時のわたしはまだ、事態を甘く見ていたのよ。
 慢心とか、油断とか。
 きっと、そういうのだわ。
 もしも時が戻せたのならと後悔しても遅いのだけど……。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

アレキサンドライトの憂鬱。

雪月海桜
ファンタジー
桜木愛、二十五歳。王道のトラック事故により転生した先は、剣と魔法のこれまた王道の異世界だった。 アレキサンドライト帝国の公爵令嬢ミア・モルガナイトとして生まれたわたしは、五歳にして自身の属性が限りなく悪役令嬢に近いことを悟ってしまう。 どうせ生まれ変わったなら、悪役令嬢にありがちな処刑や追放バッドエンドは回避したい! 更正生活を送る中、ただひとつ、王道から異なるのが……『悪役令嬢』のライバルポジション『光の聖女』は、わたしの前世のお母さんだった……!? これは双子の皇子や聖女と共に、皇帝陛下の憂鬱を晴らすべく、各地の異変を解決しに向かうことになったわたしたちの、いろんな形の家族や愛の物語。 ★表紙イラスト……rin.rin様より。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ
ファンタジー
月舘萌知には、決して誰にも知られてならない秘密がある。 それは、魔術師の家系生まれであることと魔力を有する身でありながらも魔術師としての才覚がまったくないという、ちょっぴり残念な秘密。 特別な事情もあいまって学生生活という日常すらどこか危うく、周囲との交友関係を上手くきずけない。 そんな日々を悶々と過ごす彼女だが、ある事がきっかけで窮地に立たされてしまう。 間一髪のところで救ってくれたのは、現役の学生アイドルであり憧れのクラスメイト、小鳩篠。 そのことで夢見心地になる萌知に篠は自身の正体を打ち明かす。 【魔道具の天秤を使い、この世界の裏に存在する隠世に行って欲しい】 そう、仄めかす篠に萌知は首を横に振るう。 しかし、一度動きだした運命の輪は止まらず、篠を守ろうとした彼女は凶弾に倒れてしまう。 起動した天秤の力により隠世に飛ばされ、記憶の大半を失ってしまった萌知。 右も左も分からない絶望的な状況化であるも突如、魔法の開花に至る。 魔術師としてではなく魔導士としての覚醒。 記憶と帰路を探す為、少女の旅程冒険譚が今、開幕する。

赤い流星 ―――ガチャを回したら最強の服が出た。でも永久にコスプレ生活って、地獄か!!

ほむらさん
ファンタジー
ヘルメット、マスク、そして赤い軍服。 幸か不幸か、偶然この服を手に入れたことにより、波乱な人生が幕を開けた。 これは、異世界で赤い流星の衣装を一生涯着続けることになった男の物語。 ※服は話の流れで比較的序盤に手に入れますが、しばらくは作業着生活です。 ※主人公は凄腕付与魔法使いです。 ※多種多様なヒロインが数多く登場します。 ※戦って内政してガチャしてラッキースケベしてと、バラエティー豊かな作品です。 ☆祝・100万文字達成!皆様に心よりの感謝を! 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...