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備忘録1 湘南Pホテル編
22 迂闊なラスボス
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まさか、ベルが鳴り終わった途端にエレベーターが消失するとは想定外の趣向ね!
落ちていくこともなく、平衡感覚を失いかねない一面の闇で包む。
中々に趣向を凝らした出迎えだと思うの。
それくらいにしか、捉えられないのに状況の変化でチャットは慌てふためているから、逆に不思議な気分になるわね。
「えっと、こういうのをなんていうの? ラス……ラスカ……何?」
「ラスボスかな?」
「そうそう! それだわ。それっぽい雰囲気じゃない?」
「そうとも言うけど……降りるかい?」
「うん」
むしろ、こういう時は落ち着いて振る舞わないといけないわ。
相手に隙を見せるのは悪手だもの。
慌てない、慌てない。
レオったら、まるで割れ物でも扱うように大事にしてくれる。
嬉しい反面、人に見られている状況だと恥ずかしさもあって、複雑だわ。
そんな厳重にチェックしなくても、ドレスの生地はそこそこしっかりした物だし、真紅だから濡れても透けないので大丈夫なのだけど……。
「やれやれ」
わたしの声ではないし、レオのでもない。
じゃあ、誰なの?
聞くまでもなく、多分ラスボスとやらなんでしょうね。
大人になっていない変声期を迎えたばかりの男の子ってところかしら?
まだ幼さが残っていて、子供っぽい感じがする声なのよね。
闇の中にふわふわと浮いているのが、その声の主みたい。
レオが使っているのと同じような大きな外套(マント)を羽織っていて。
風もないのに靡いているわね。
どういう仕組みになっているのか、気になるけど、多分、そういう演出が好きなのよね。
男の子はそういうのが好きなのかしら?
「さあ始めよう。最終闘争(ファイナルゲーム)の開始だよ」
思った通り、男の子だと思う。
それも透き通るような白い肌と黒曜石みたいな瞳と切れ長の目で顔立ちも整っているから、少年ではなく少女と言っても通る儚い美しさのある子……。
これから、このダンジョンの最後を飾るのにふさわしい最終戦が訪れるんだし、当然のように神聖な雰囲気が場を支配している。
……なんてことはないのよ?
「どうするの?」
「俺がやろうか?」
「うん。それがいいかも。わたし、動きにくいし」
「そうだよね。分かった」
残念だわ。
ラスボスというのだから、てっきりダンジョンの主が顔を出すのかと思って、期待していたのに……。
じゃんけんとやらで勝負を付けて、どちらがやるのか決めるもいいわね。
少年の存在など目に入っていないかのように振る舞っていたら、男の子が切れた。
チャットも「そりゃキレますわー」というコメントが多いわ。
堪忍袋の緒って、どうやら細くて、切れやすいものなのかしら?
「僕は大魔導スバル。さあ。さっさとかかってこい。バケツ野郎! ……とおっぱいお化け」
聞き捨てならない言葉を耳にしたのだけど!
チャットも「確かに大きいですな」「同意」とどっちの味方か分からないコメントが占めていて。
キレかけているのはわたしと少数の女性ファンってところね。
「はぁ?」
思わず、どすの利いた低い声になっちゃったけど、仕方ない。
これでも抑えたのだから。
「ぶち殺しますわよ、小僧!」と言わなかっただけ、優しいと思って欲しいわ。
わたしのことを悪く言われて、腹が立たないのかと聞かれたら、それは否。
でも、それ以上に許せないのはレオをバカにしたことよ。
絶対に許さないんだから!
でも、レオはあまり、気にしてないのよね。
バケツを被っているのは事実だからと思っているんだわ。
だけど、レオのことをいじっていいのはわたしだけ。
他の人がいじるのは許さない。
絶対に……。
「ああ。おっぱいお化け。お前はいらん。魔法がちょっと使える程度だろう? おっぱいに栄養がいきすぎた役立たずは黙って見ているがいい」
スバルだったかしら?
言うに事欠いて、言ってはならないことを言ったわね。
役立たずですって?
このわたしが?
へぇ……。
面白いわぁ。
面白過ぎて、世界を全部氷漬けにできそうだわぁ。
レオは既に何かを感じ取っているのか、わたしがこれ以上、暴走しないようにと願っているのでしょうけど……。
無理かしらぁ?
無理よね。
無理!
もう止められないからねっ?
「ᛟᛋᛟᚱᛖ ᛁᚴᚪᚱᛖ ᛗᚪᛞᛟᛖ」
人には聞き取れないから、不明瞭に聞こえる言語でメロディを口遊む。
聞き取れなかった人には幸いを。
心が安らかでありますように。
聞き取れた人には災いを。
心を壊してあげるわ。
完膚なきまでに。
永遠にねっ!
「まずい」
レオが後のことはやってくれるから、心置きなくやれるわ。
世界と世界を融け合わせるライブから、力を制御することに専念してきたの。
どれくらいが適当なのかも分かっている。
思い切りやれば、どうなるのかも勿論、知っている。
最大の出力(フルパワー)で唄を歌えば、意識が喪失するのも承知の上。
でも、大丈夫。
レオがいるのだから。
大丈夫。
だって、きっと支えてくれるから……。
落ちていくこともなく、平衡感覚を失いかねない一面の闇で包む。
中々に趣向を凝らした出迎えだと思うの。
それくらいにしか、捉えられないのに状況の変化でチャットは慌てふためているから、逆に不思議な気分になるわね。
「えっと、こういうのをなんていうの? ラス……ラスカ……何?」
「ラスボスかな?」
「そうそう! それだわ。それっぽい雰囲気じゃない?」
「そうとも言うけど……降りるかい?」
「うん」
むしろ、こういう時は落ち着いて振る舞わないといけないわ。
相手に隙を見せるのは悪手だもの。
慌てない、慌てない。
レオったら、まるで割れ物でも扱うように大事にしてくれる。
嬉しい反面、人に見られている状況だと恥ずかしさもあって、複雑だわ。
そんな厳重にチェックしなくても、ドレスの生地はそこそこしっかりした物だし、真紅だから濡れても透けないので大丈夫なのだけど……。
「やれやれ」
わたしの声ではないし、レオのでもない。
じゃあ、誰なの?
聞くまでもなく、多分ラスボスとやらなんでしょうね。
大人になっていない変声期を迎えたばかりの男の子ってところかしら?
まだ幼さが残っていて、子供っぽい感じがする声なのよね。
闇の中にふわふわと浮いているのが、その声の主みたい。
レオが使っているのと同じような大きな外套(マント)を羽織っていて。
風もないのに靡いているわね。
どういう仕組みになっているのか、気になるけど、多分、そういう演出が好きなのよね。
男の子はそういうのが好きなのかしら?
「さあ始めよう。最終闘争(ファイナルゲーム)の開始だよ」
思った通り、男の子だと思う。
それも透き通るような白い肌と黒曜石みたいな瞳と切れ長の目で顔立ちも整っているから、少年ではなく少女と言っても通る儚い美しさのある子……。
これから、このダンジョンの最後を飾るのにふさわしい最終戦が訪れるんだし、当然のように神聖な雰囲気が場を支配している。
……なんてことはないのよ?
「どうするの?」
「俺がやろうか?」
「うん。それがいいかも。わたし、動きにくいし」
「そうだよね。分かった」
残念だわ。
ラスボスというのだから、てっきりダンジョンの主が顔を出すのかと思って、期待していたのに……。
じゃんけんとやらで勝負を付けて、どちらがやるのか決めるもいいわね。
少年の存在など目に入っていないかのように振る舞っていたら、男の子が切れた。
チャットも「そりゃキレますわー」というコメントが多いわ。
堪忍袋の緒って、どうやら細くて、切れやすいものなのかしら?
「僕は大魔導スバル。さあ。さっさとかかってこい。バケツ野郎! ……とおっぱいお化け」
聞き捨てならない言葉を耳にしたのだけど!
チャットも「確かに大きいですな」「同意」とどっちの味方か分からないコメントが占めていて。
キレかけているのはわたしと少数の女性ファンってところね。
「はぁ?」
思わず、どすの利いた低い声になっちゃったけど、仕方ない。
これでも抑えたのだから。
「ぶち殺しますわよ、小僧!」と言わなかっただけ、優しいと思って欲しいわ。
わたしのことを悪く言われて、腹が立たないのかと聞かれたら、それは否。
でも、それ以上に許せないのはレオをバカにしたことよ。
絶対に許さないんだから!
でも、レオはあまり、気にしてないのよね。
バケツを被っているのは事実だからと思っているんだわ。
だけど、レオのことをいじっていいのはわたしだけ。
他の人がいじるのは許さない。
絶対に……。
「ああ。おっぱいお化け。お前はいらん。魔法がちょっと使える程度だろう? おっぱいに栄養がいきすぎた役立たずは黙って見ているがいい」
スバルだったかしら?
言うに事欠いて、言ってはならないことを言ったわね。
役立たずですって?
このわたしが?
へぇ……。
面白いわぁ。
面白過ぎて、世界を全部氷漬けにできそうだわぁ。
レオは既に何かを感じ取っているのか、わたしがこれ以上、暴走しないようにと願っているのでしょうけど……。
無理かしらぁ?
無理よね。
無理!
もう止められないからねっ?
「ᛟᛋᛟᚱᛖ ᛁᚴᚪᚱᛖ ᛗᚪᛞᛟᛖ」
人には聞き取れないから、不明瞭に聞こえる言語でメロディを口遊む。
聞き取れなかった人には幸いを。
心が安らかでありますように。
聞き取れた人には災いを。
心を壊してあげるわ。
完膚なきまでに。
永遠にねっ!
「まずい」
レオが後のことはやってくれるから、心置きなくやれるわ。
世界と世界を融け合わせるライブから、力を制御することに専念してきたの。
どれくらいが適当なのかも分かっている。
思い切りやれば、どうなるのかも勿論、知っている。
最大の出力(フルパワー)で唄を歌えば、意識が喪失するのも承知の上。
でも、大丈夫。
レオがいるのだから。
大丈夫。
だって、きっと支えてくれるから……。
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