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備忘録1 湘南Pホテル編
8 ダンジョン・湘南パシフィックホテル
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レオは登場する際、どうやら喋ってはいけないと釘を刺されていたみたい。
多分、心配性のスカージの仕業ね。
あのバケツを被っていると微妙に声質も変わるから、そこまで心配しなくても大丈夫だとは思うのだけど。
何しろ、スカージはわたしが小さい時から、傍にいてくれる存在で母親代わりみたいなものだし……。
きっと過保護気味のおばあさまとママから、何らかの指示をされているのよね。
そうとしか、思えないもの。
「…………」
レオはただ無言でサムズアップする。
うん、分かるのよ?
最高の笑顔と共にしているって。
わたしにしか、伝わらないと思うけど。
チャットは予想通りの展開といったところかしら?
期待と失望が入り混じっているのでしょうね。
さらに燃え上がって、炎上気味だけど問題ないわ。
YoTubeの技術は世界一と胸を張って言えるのだから。
「みんなぁ~、ありがとぉ~」
しかし、意外と言うべきなのかしら。
不思議なことに「バケツマンwww」とレオが好意的に受け止められているの。
冒険ライブは本格的に世界が融け合ってから、始めたものだけどこれまでにも何度か、開催していて。
バケツを被ったレオもスポット参戦でそれとなく、顔見せのように出演させてはいたの。
だけど、正式に紹介するのは今回が初めて。
ましてや旦那様として公表するのは初。
全てが初なのに意外過ぎる結果だわ。
でも、御祝儀代わりで貢いでくれるのだから、人間ってちょろい生き物?
そう考えるのは早計ね。
チャットでは中々に賢しいファンが、件の動画に出ていた黒髪の青年がバケツマンの正体だと予想していたの。
件の動画はこれまた、うっかりと誤配したレオとのやり取りであって。
本来は表に流すと大炎上しかねない二人のプライベートなやり取りを流しちゃったの。
しかもこれがめっちゃバズってしまって。
不幸中の幸いなのは、レオの顔がはっきりと映っていないことかしら。
どうも身長や体格差から、割り出しているみたい。
人間って、やはり侮れない生き物なんだと思うの……。
「今日、チャレンジするのはここよぉ♪」
チャットの鋭い指摘と勝手に始まった考察談義でたじろいだところを見せてはダメ!
気を取り直して、カメラスタッフにダンジョンの全景を映し出すように指示を出す。
話題の転換、これが大事よね?
ここは湘南と呼ばれる日本でも有名な観光スポットのあるエリアなの。
もっともお日様は隠れていて、わたしに力を与えてくれるお月様が顔を覗かせる時間。
だから、あまり湘南らしさは伝えられないのよね。
それでもカメラが映し出した白亜の巨大な高層建築物は見物だと思うわ。
かつてこの国が高度経済成長期で湧いた時代に建てられたリゾート施設の中核をなす十一階建ての高層ホテル『Pホテル』。
何でも当時、芸能界で活躍している人間や彼に所縁のある人物が、経営に参画していたらしく、バブルの象徴みたいなところがあったみたい。
もっとも既にそのホテルは存在しないものになっていたけど。
経営破綻を起こして、倒産したから建物も管財人がきれいに処理したのよ。
ところが更地になって、何もなかったところに一夜のうちに全盛期の威容を誇る姿で出現したって訳。
そう。
融合した世界特有の現象『ダンジョン』としてねっ。
「Pホテルよ☆」
予想通り、チャットは湧いている。
わたしのスキャンダラスな話から、見事に話題転換に成功したわ。
それもそのはず。
客室フロアがある五階から、九階が張り出したような少し頭でっかちの独特のデザインが何と言っても人目を引くのよ。
経営破綻に陥り廃墟となった後、取り壊されて、既に失われたはずの建物だけど、結構人気のある建造物だったらしいから……。
「な~に? どうしたのかしら、レオくん」
彼が身バレしないようにとあれだけ配慮していて、なぜレオと呼んでいるのか。
気になるでしょう?
でも、これにはカラクリがあるの。
融合した統一世界で此方と彼方で魂を同じくする者は、等しく覚醒者(アウェイカー)になった。
アウェイカーの中でも特に適性の高い者は、少数のみ。
彼らは資格者(プレイヤー)であって、そういった者は世界を乱す可能性があるわ。
そうしないように管理しなくてはいけないと団体が作られたのは道理よね。
ここが肝になるの。
プレイヤーの行動は管理の名の下に監視されていて、ポイント制が施工されているの。
行動でポイントが増減するから、人間でいうところのプロスポーツ選手に近いかしら?
これはエリアごとにランキングの発表も義務付けられているわ。
日本は環太平洋機構に属しているけど、ちょっと特殊な土地柄なのよね。
ランキングは世界でも注目の的になっているの。
ではそこのトップランカーは誰でしょう?
それがリリスなのだけど……。
実はわたしなの!
正確にはわたしとレオで常に争っていると言った方が正しいわね。
プレイヤーネームには制約がかけられているの。
本名が推察されやすい物にしたの。
なぜって?
その方が面白いからよ。
だから、わたしはリリアナから、『リリス』と名乗っているの。
レオは『レオンハルト』という堅苦しい名前を名乗っていて、本人も気に入っている……らしい。
「くっくっくっ。我はレオンハルトだ!」って、バケツ被って言ってたから♪
それでリリーとレオと呼んでも身バレしにくいし、違和感も持たれにくいの。
うっかりミスで本名バレをする恐れもないので安心ねっ!
「あの。リリーさん。その恰好はどうしたんです?」
「動きにくかったから? これ、動きやすいでしょう? ほら、蹴りやすいし」
「ちょっと見えすぎじゃないですか」
「そうとも言うわね。でも、ちゃんとショーパン穿いているから、問題ないわ」
「…………」
バケツの下でレオが不満たらたらの顔をしているのが分かるわ。
分かってしまうのはきっと愛よね?
うん、そうに違いない!
わたしは足癖がよろしくないから、裾丈の長いスカートを穿いていてもつい本能的に蹴りを繰り出しちゃう。
これは癖なので止めようがないの。
ミニスカぽい方が動きやすいもの。
それもあって、動きやすさを重視したのに二の腕と太腿が出ているのが、レオは気に入らないみたい。
他の男に見せたくないという独占欲かしら?
それとも嫉妬?
嬉しいから、隠したいところだけど、お仕事はお仕事だもの。
でも、次回からは肌見せを抑えたデザインのドレスにしようかしら。
「次は気を付けるわ」
「あ、ああ。リーナが心配だからさ」
レオの顔がトマトみたいに真っ赤になっているに違いないわ。
分かる! 分かるの!
わたしには分かるの。
え?
そういう自分も顔が赤い?
リーナって、誰?
あぁ、本当に……。
チャットは本当、目敏いんですけど!
わたしのことを愛称でリーナと呼ぶのはレオだけなのよね。
血の繋がった家族や親しい者でもリリー呼びが圧倒的に多いのだから。
だから、特別とも言える。
二人の親密さが駄々洩れになっているから、チャットで指摘されるような疑問が生じるのも当然の話だわ。
でも、これも意外なことに平然と受け入れられているのでびっくりした。
チャットでは「夫婦で特別の愛称の呼び合いって素敵です」と好意的な意見が多いんだもの。
しかし、それ以上にチャットが沸いている理由はわたしの衣装の話題ね……。
ライブの撮影に使っているカメラは特殊な機材よ。
世界が一つになっても変わらないことがあるの。
高位の存在は特殊な体と存在ゆえ、普通のカメラには映らないし、鏡にも映らない。
ヴァンパイアが鏡に映らないとされる伝承を御存知かしら?
そんな存在が偶々、具現化して、これまた運悪く出会った人間がいて。
彼らの残した物が神話や伝説になったってことなのよ、きっと。
今回はそんなモノでも映るカメラを複数台を使っているの。
理由は単純なものだわ。
複数視点で別視点でのライブ配信も行った方がより効率的で稼げるからよ。
もっとたくさん稼げるのに逃さない手はないでしょう?
それがまさか、自分が恥ずか死する羽目に陥ろうとは思わなかったけど……。
いわゆるライブ視点で全体像が把握できるメインカメラは一般的な視点。
これは一般開放されたチャンネルだから、多くの視聴者が見られるものね。
しかし、『歌姫リリー』のチャンネルメンバーになるとメンバーのみの特典が与えられるの。
人間はこういう限定された物に弱いとリサーチ済みなんだから。
メンバー限定で視聴可能な限定の視点が見られる。
これに踊らされない人間はいないはずだわ。
しかも限定配信に視点を二つ用意したの。
わたしの視点。
一人称視点って言うのかしら?
もう一つはレオ目線の物なの。
アンの提案によるものであって。
彼女はその方が絶対に稼げると強硬に主張したの。
まぁ、どちらの視点にもそれぞれ、固定客みたいに視聴者が多いようだけど……。
「それにほら、特注のグリーヴ(脛当て)も付けてるから、大丈夫だって。それに守ってくれるんでしょ☆」
「そ、そうだね。だ、大丈夫だよ。俺が……守る、絶対に」
わたしの視線は大概にバレバレなものらしい。
常にバケツマンを追いかけていて。
片時も離さないほどに熱い視線を送っているとチャットでも指摘されているわ。
だって、仕方ないじゃない?
レオはバケツを被っていてもカッコいんだから!
これも不思議なことだけど、恋する乙女の思いに共感してもらえるらしい。
同じ思いを抱く恋する女性視聴者が多いのか、嬉しい誤算だわ。
ただ、そのせいなのか、バケツマン=レオを見る目が少しばかり、厳しいのよね。
視聴者はなぜか、わたしの母親のような目線で見てない?
一方のレオ視点はどうかって言えば、これが対照的なの。
ほぼ男性視聴者が占めていて、男しかいない感じ。
まぁ、それも頷けるけど。
レオの目が向けられる先はわたし。
これはわたしと同じだと思うのだけど……。
見ている場所が何だか、もやっとしてくるのは気のせいかしら?
撮影スタッフに混じっているアンが「バッチリです!」と無言のジェスチャーを送ってくるけど、多分そういうことなんでしょ。
わたしがただひたすらにレオの動きを無自覚に追っていて。
時に自然と吐息をついていて。
そんな様子に共感してくれるコメントが大多数なのと比べると……。
レオ視点のチャットは混沌そのものなんだもの。
「もっと近づいて見ろ」といった実に分かりやすくて、願望を直球する欲望の固まりに満ちているわ。
「激しく揺れる大きなメロン最高」「もっと近づけ」って何なの?
チャットはわたし視点よりも遥かに沸いているけど、解せないんですけどぉ!
多分、心配性のスカージの仕業ね。
あのバケツを被っていると微妙に声質も変わるから、そこまで心配しなくても大丈夫だとは思うのだけど。
何しろ、スカージはわたしが小さい時から、傍にいてくれる存在で母親代わりみたいなものだし……。
きっと過保護気味のおばあさまとママから、何らかの指示をされているのよね。
そうとしか、思えないもの。
「…………」
レオはただ無言でサムズアップする。
うん、分かるのよ?
最高の笑顔と共にしているって。
わたしにしか、伝わらないと思うけど。
チャットは予想通りの展開といったところかしら?
期待と失望が入り混じっているのでしょうね。
さらに燃え上がって、炎上気味だけど問題ないわ。
YoTubeの技術は世界一と胸を張って言えるのだから。
「みんなぁ~、ありがとぉ~」
しかし、意外と言うべきなのかしら。
不思議なことに「バケツマンwww」とレオが好意的に受け止められているの。
冒険ライブは本格的に世界が融け合ってから、始めたものだけどこれまでにも何度か、開催していて。
バケツを被ったレオもスポット参戦でそれとなく、顔見せのように出演させてはいたの。
だけど、正式に紹介するのは今回が初めて。
ましてや旦那様として公表するのは初。
全てが初なのに意外過ぎる結果だわ。
でも、御祝儀代わりで貢いでくれるのだから、人間ってちょろい生き物?
そう考えるのは早計ね。
チャットでは中々に賢しいファンが、件の動画に出ていた黒髪の青年がバケツマンの正体だと予想していたの。
件の動画はこれまた、うっかりと誤配したレオとのやり取りであって。
本来は表に流すと大炎上しかねない二人のプライベートなやり取りを流しちゃったの。
しかもこれがめっちゃバズってしまって。
不幸中の幸いなのは、レオの顔がはっきりと映っていないことかしら。
どうも身長や体格差から、割り出しているみたい。
人間って、やはり侮れない生き物なんだと思うの……。
「今日、チャレンジするのはここよぉ♪」
チャットの鋭い指摘と勝手に始まった考察談義でたじろいだところを見せてはダメ!
気を取り直して、カメラスタッフにダンジョンの全景を映し出すように指示を出す。
話題の転換、これが大事よね?
ここは湘南と呼ばれる日本でも有名な観光スポットのあるエリアなの。
もっともお日様は隠れていて、わたしに力を与えてくれるお月様が顔を覗かせる時間。
だから、あまり湘南らしさは伝えられないのよね。
それでもカメラが映し出した白亜の巨大な高層建築物は見物だと思うわ。
かつてこの国が高度経済成長期で湧いた時代に建てられたリゾート施設の中核をなす十一階建ての高層ホテル『Pホテル』。
何でも当時、芸能界で活躍している人間や彼に所縁のある人物が、経営に参画していたらしく、バブルの象徴みたいなところがあったみたい。
もっとも既にそのホテルは存在しないものになっていたけど。
経営破綻を起こして、倒産したから建物も管財人がきれいに処理したのよ。
ところが更地になって、何もなかったところに一夜のうちに全盛期の威容を誇る姿で出現したって訳。
そう。
融合した世界特有の現象『ダンジョン』としてねっ。
「Pホテルよ☆」
予想通り、チャットは湧いている。
わたしのスキャンダラスな話から、見事に話題転換に成功したわ。
それもそのはず。
客室フロアがある五階から、九階が張り出したような少し頭でっかちの独特のデザインが何と言っても人目を引くのよ。
経営破綻に陥り廃墟となった後、取り壊されて、既に失われたはずの建物だけど、結構人気のある建造物だったらしいから……。
「な~に? どうしたのかしら、レオくん」
彼が身バレしないようにとあれだけ配慮していて、なぜレオと呼んでいるのか。
気になるでしょう?
でも、これにはカラクリがあるの。
融合した統一世界で此方と彼方で魂を同じくする者は、等しく覚醒者(アウェイカー)になった。
アウェイカーの中でも特に適性の高い者は、少数のみ。
彼らは資格者(プレイヤー)であって、そういった者は世界を乱す可能性があるわ。
そうしないように管理しなくてはいけないと団体が作られたのは道理よね。
ここが肝になるの。
プレイヤーの行動は管理の名の下に監視されていて、ポイント制が施工されているの。
行動でポイントが増減するから、人間でいうところのプロスポーツ選手に近いかしら?
これはエリアごとにランキングの発表も義務付けられているわ。
日本は環太平洋機構に属しているけど、ちょっと特殊な土地柄なのよね。
ランキングは世界でも注目の的になっているの。
ではそこのトップランカーは誰でしょう?
それがリリスなのだけど……。
実はわたしなの!
正確にはわたしとレオで常に争っていると言った方が正しいわね。
プレイヤーネームには制約がかけられているの。
本名が推察されやすい物にしたの。
なぜって?
その方が面白いからよ。
だから、わたしはリリアナから、『リリス』と名乗っているの。
レオは『レオンハルト』という堅苦しい名前を名乗っていて、本人も気に入っている……らしい。
「くっくっくっ。我はレオンハルトだ!」って、バケツ被って言ってたから♪
それでリリーとレオと呼んでも身バレしにくいし、違和感も持たれにくいの。
うっかりミスで本名バレをする恐れもないので安心ねっ!
「あの。リリーさん。その恰好はどうしたんです?」
「動きにくかったから? これ、動きやすいでしょう? ほら、蹴りやすいし」
「ちょっと見えすぎじゃないですか」
「そうとも言うわね。でも、ちゃんとショーパン穿いているから、問題ないわ」
「…………」
バケツの下でレオが不満たらたらの顔をしているのが分かるわ。
分かってしまうのはきっと愛よね?
うん、そうに違いない!
わたしは足癖がよろしくないから、裾丈の長いスカートを穿いていてもつい本能的に蹴りを繰り出しちゃう。
これは癖なので止めようがないの。
ミニスカぽい方が動きやすいもの。
それもあって、動きやすさを重視したのに二の腕と太腿が出ているのが、レオは気に入らないみたい。
他の男に見せたくないという独占欲かしら?
それとも嫉妬?
嬉しいから、隠したいところだけど、お仕事はお仕事だもの。
でも、次回からは肌見せを抑えたデザインのドレスにしようかしら。
「次は気を付けるわ」
「あ、ああ。リーナが心配だからさ」
レオの顔がトマトみたいに真っ赤になっているに違いないわ。
分かる! 分かるの!
わたしには分かるの。
え?
そういう自分も顔が赤い?
リーナって、誰?
あぁ、本当に……。
チャットは本当、目敏いんですけど!
わたしのことを愛称でリーナと呼ぶのはレオだけなのよね。
血の繋がった家族や親しい者でもリリー呼びが圧倒的に多いのだから。
だから、特別とも言える。
二人の親密さが駄々洩れになっているから、チャットで指摘されるような疑問が生じるのも当然の話だわ。
でも、これも意外なことに平然と受け入れられているのでびっくりした。
チャットでは「夫婦で特別の愛称の呼び合いって素敵です」と好意的な意見が多いんだもの。
しかし、それ以上にチャットが沸いている理由はわたしの衣装の話題ね……。
ライブの撮影に使っているカメラは特殊な機材よ。
世界が一つになっても変わらないことがあるの。
高位の存在は特殊な体と存在ゆえ、普通のカメラには映らないし、鏡にも映らない。
ヴァンパイアが鏡に映らないとされる伝承を御存知かしら?
そんな存在が偶々、具現化して、これまた運悪く出会った人間がいて。
彼らの残した物が神話や伝説になったってことなのよ、きっと。
今回はそんなモノでも映るカメラを複数台を使っているの。
理由は単純なものだわ。
複数視点で別視点でのライブ配信も行った方がより効率的で稼げるからよ。
もっとたくさん稼げるのに逃さない手はないでしょう?
それがまさか、自分が恥ずか死する羽目に陥ろうとは思わなかったけど……。
いわゆるライブ視点で全体像が把握できるメインカメラは一般的な視点。
これは一般開放されたチャンネルだから、多くの視聴者が見られるものね。
しかし、『歌姫リリー』のチャンネルメンバーになるとメンバーのみの特典が与えられるの。
人間はこういう限定された物に弱いとリサーチ済みなんだから。
メンバー限定で視聴可能な限定の視点が見られる。
これに踊らされない人間はいないはずだわ。
しかも限定配信に視点を二つ用意したの。
わたしの視点。
一人称視点って言うのかしら?
もう一つはレオ目線の物なの。
アンの提案によるものであって。
彼女はその方が絶対に稼げると強硬に主張したの。
まぁ、どちらの視点にもそれぞれ、固定客みたいに視聴者が多いようだけど……。
「それにほら、特注のグリーヴ(脛当て)も付けてるから、大丈夫だって。それに守ってくれるんでしょ☆」
「そ、そうだね。だ、大丈夫だよ。俺が……守る、絶対に」
わたしの視線は大概にバレバレなものらしい。
常にバケツマンを追いかけていて。
片時も離さないほどに熱い視線を送っているとチャットでも指摘されているわ。
だって、仕方ないじゃない?
レオはバケツを被っていてもカッコいんだから!
これも不思議なことだけど、恋する乙女の思いに共感してもらえるらしい。
同じ思いを抱く恋する女性視聴者が多いのか、嬉しい誤算だわ。
ただ、そのせいなのか、バケツマン=レオを見る目が少しばかり、厳しいのよね。
視聴者はなぜか、わたしの母親のような目線で見てない?
一方のレオ視点はどうかって言えば、これが対照的なの。
ほぼ男性視聴者が占めていて、男しかいない感じ。
まぁ、それも頷けるけど。
レオの目が向けられる先はわたし。
これはわたしと同じだと思うのだけど……。
見ている場所が何だか、もやっとしてくるのは気のせいかしら?
撮影スタッフに混じっているアンが「バッチリです!」と無言のジェスチャーを送ってくるけど、多分そういうことなんでしょ。
わたしがただひたすらにレオの動きを無自覚に追っていて。
時に自然と吐息をついていて。
そんな様子に共感してくれるコメントが大多数なのと比べると……。
レオ視点のチャットは混沌そのものなんだもの。
「もっと近づいて見ろ」といった実に分かりやすくて、願望を直球する欲望の固まりに満ちているわ。
「激しく揺れる大きなメロン最高」「もっと近づけ」って何なの?
チャットはわたし視点よりも遥かに沸いているけど、解せないんですけどぉ!
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