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6 禁書と呼ばれたモノ

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 『鈴鳴村』が看過できない案件なのは変わらない。
 自死希望者を贄として、喰らう『鈴鳴村』をこのまま放置するのはあまりに危険な存在だわ。
 レオが怒っているし……。

 何よりも優先させる最優先事項は何かと問われたら、間違いなくレオと答える自信があるの。
 だから、『鈴鳴村』に乗り込み、借りをきっちりと返してもらうつもりだった。
 予定ではそうなっていたのだけど……。
 どうやら、そういう訳にはいかなくなったみたい。

 わたしは誂えられた黄金の玉座に腰掛けていた。
 目の前には厳かな空気で満ちた静寂の空間が広がっている。
 見渡す限り、本ばかり。
 右を見れば、本棚。
 左を見ても、本棚。
 どこまでも続く、本の世界なのだ。
 そう。
 ここは無限なる図書館(インフィニトゥム・ビブリテオカ)と呼ばれるアカシックレコードが生成した異空間であって……。

「そうもいかねーと思うんですよー。そう思いませんかー。思いますよねー? ねー?」
 
 全く似つかわしくない高音質とハイテンションでまくし立てる変な生き物。
 人間が見たら妖精と勘違いしそうな見た目をしたモノ。
 でも、この子は妖精ではない。
 そのような可愛らしい生き物では決してない。

 見た目は愛らしいのよ?
 背は172センチあるわたしの三分の一程度だから、幼児くらい。
 黒地に鮮やかな瑠璃色が配された蝶々の翅が背中を飾っているから、見た目だけなら妖精そのものではあるのだけど……。

 頭はちょっと大きめだけど、手足がすらっとしていて、体つきもスリムだからか、幼い子供というよりは陶器人形(ビスクドール)に似ているかもね?
 耳もちょっぴり尖っているし、鼻筋が通っている。
 ぱっと見ではアールヴ(エルフ)を模したビスクドールと見間違えてもおかしくないかも……。

 でも、よく見ないといけないと思うわ。
 そんな気持ちは全て、失せると思うの……。
 その子の目は深淵を思わせる闇一色で染め上げられていて、見た者の心を凍てつかせるのだから。

「アジフ。できるだけ簡潔かつ明瞭に本題をお願いできるかしら?」
「えー? えーえー? それって姫の感想ですよねー? よねー? もっとトークを楽しむべきだと思うんですよー。よー? そう思いますよねー? ねー?」

 超疲れる。
 どっと疲れる。
 あぁ、本当にひたすら疲れるとしか言えないんだけど!
 まともに相手をするとこちらの精神が疲弊する一方なのよね。

 何しろ、この妖精もどきの見た目に騙されてはいけないんだから……。
 物凄く、恐ろしい代物なのよ、この子。
 生きている人の皮を剥いで装丁したなんて、伝説まである忌まわしき禁書。
 またの名を『ネクロノミコン』。
 でも、わたしはアジフと呼んでいる。
 その方が近い関係みたいでしょう?

「あのねー。こっちのを先にどーにかすべきだと思うんだよー。よー?」
「えぇ? どこなの?」
「K県C市だよー。よー? それとK県K市にもあるねー。ねー? どっちも危ないよ? よー?」

 K市にもあったのはこちらの手落ちだわ……。
 確かに怪しい作用を感じる不自然なポイントはいくつか、あったのは事実。
 しかもそのうちの一点が近いとは思っていたら、まさかのK市なのだから!

「C市のはPホテルだよー。よー? K市のはKトンネルだねー。ねー? どっちをやるのー? のー?」
「どちらかをやるのは確定なのかしら?」
「やるよねー。ねー?」

 感情の欠片も感じられない無機質な黒い瞳に見つめられたら、普通の人間は縮こまるのでしょうけど!
 生憎とわたしにはそんなの効かないのだから……。
 だって、わたしは……。
 ……匹の……を……し……黒……。
 赤……衣……し……の女なのだから。
 だから、わたしは……ブ……ラ……。
 あぁ、そういうこと!
 人の言葉では発音しにくいみたいね?

「そうでしょう?」
「そうだねー? ねー? やるよねー?」
「ええ。やるわ。まずはPホテルから、片付けるのでどうかしら?」
「それがいいねー。ねー?」

 アジフはそう言って、くつくつではなく、カタカタと頭蓋骨そのものを揺らして笑う。
 そうとしか表現しようがない独特の笑い方をするのだ。
 相変わらず、見る人によっては卒倒しかねない気味の悪い笑さだわ。

 見慣れていても気味が悪いのだから、指摘してあげるべきなんだろうけど……。
 疲れるだけで徒労に終わるから、放置することにしたわ。

 この子を欲する者はそれ相応の重荷を背負うべきだと思わない?
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