上 下
5 / 37

5 歌姫の細やかなる日常

しおりを挟む
「リーナ、この話は本当なのかい?」
「本当なのよ? あっ、そこ。そこが気持ちいいわ」

 決して、変なことをしている訳ではなくて。
 お風呂からあがったら、レオに肩を揉んでもらうマッサージをしてもらっているだけなのだから。
 あまりに気持ちいいから、眠くなってくる。
 でも、寝ても大丈夫!
 朝、目を覚ますとちゃんとベッドの上で寝ているもの。

 そして、これがわたし達夫婦のルーチンワーク。
 誰にも干渉されない二人だけの時間だから、一日の情報交換にもっとも適した時間でもあるわ!

「だから、問題なのよ」
「その言い方からすると既に調査したようだね」
「ええ」
「そっか」

 レオはどちらかと言えば、口が重い。
 無駄なことは言わない。
 だけど、大事なことはちゃんと言ってくれるし、伝えてくれる。

 普段、「好き」「愛している」と言って憚らないわたし。
 彼に病的なほど執着しているのは、他人に言われなくても自覚がある。
 勿論、否定するつもりはない。
 それはわたしがわたしである為に必要なことだと思うから……。

 レオが「好き」「愛している」と口にすることは滅多にない。
 それでも満たされたと感じられるのは彼の行動全てから、愛を感じられるからなの。
 わたしは確かに愛されていると感じる……。
 え?
 それは勘違いかもしれないって?

 そんなことはないのよ?
 だって、わたしと彼は星が瞬くよりもずっとずっと昔。
 ずっと一緒にいるって決まっているんですもの。
 これは運命だから、誰にも邪魔させない……。

「…………」
「…………」

 ちょっと遠いところに意識が飛んでいたせいか、妙な沈黙が気まずいわ。
 レオがいつもより、無口になっているし……。
 今回の案件が相当、気にかかっている証拠ね。

 彼は嘘を言うのが苦手だから、すぐに顔に出るんだもの。
 隠そうとしてもバレるのよ。
 無口で難しい顔をしている時はつまり、そういうこと。

 いつもだったら、肩ではないところもそれとなく、触ってきて何とも形容しがたい気分になるのだけど……。
 そんなこともないのだから、重症だと思うの。

「この案件を最優先でやるべきかしら?」
「そうだね。すぐにやろう」

 こういう時、こちらから歩み寄ったところを見せるのがポイントだと思うの。
 そう思わない?
 頼りになるお姉さんぽいでしょう?
 レオもきっと、そう思うはず!

 不安要素がなくなったからなのか、彼はいつもの調子を取り戻したみたい。
 ちゃんと肩を揉んでくれるし、何か違うところまでマッサージされている気がするけど……。
 気持ち良くて、体だけでなく心までポカポカしてきて。
 力加減が絶妙過ぎるから、眠さに耐えられそうにない。

 違うところを触られても、気にしてはいけないんだって、誰かが言っていたわね。
 気にしない振りをしておくのがベターだと思うことにする。
 マッサージを頼んだら、二つ返事でやってくれるのが最初は不思議だったけど。
 男という生き物はそうしないといけない難儀な生き物らしい。
 これもらしいと断定できないのは全て、誰か……友人からの受け売りだから。

 それを認めてあげて、泳がせてあげるのが良き妻だとも言っていたわ。
 このまま、寝てもレオがベッドまで連れて行ってくれるから、安心なんだもの。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

サフォネリアの咲く頃

水星直己
ファンタジー
物語の舞台は、大陸ができたばかりの古の時代。 人と人ではないものたちが存在する世界。 若い旅の剣士が出逢ったのは、赤い髪と瞳を持つ『天使』。 それは天使にあるまじき災いの色だった…。 ※ 一般的なファンタジーの世界に独自要素を追加した世界観です。PG-12推奨。若干R-15も? ※pixivにも同時掲載中。作品に関するイラストもそちらで投稿しています。  https://www.pixiv.net/users/50469933

魔王城の面子、僕以外全員ステータスがカンストしている件について

ともQ
ファンタジー
昨今、広がる異世界ブーム。 マジでどっかに異世界あるんじゃないの? なんて、とある冒険家が異世界を探し始めたことがきっかけであった。 そして、本当に見つかる異世界への経路、世界は大いに盛り上がった。 異世界との交流は特に揉めることもなく平和的、トントン拍子に話は進み、世界政府は異世界間と一つの条約を結ぶ。 せっかくだし、若い世代を心身ともに鍛えちゃおっか。 "異世界履修"という制度を発足したのである。 社会にでる前の前哨戦、俺もまた異世界での履修を受けるため政府が管理する転移ポートへと赴いていた。 ギャル受付嬢の凡ミスにより、勇者の村に転移するはずが魔王城というラストダンジョンから始まる異世界生活、履修制度のルール上戻ってやり直しは不可という最凶最悪のスタート! 出会った魔王様は双子で美少女というテンション爆上げの事態、今さら勇者の村とかなにそれ状態となり脳内から吹き飛ぶ。 だが、魔王城に住む面子は魔王以外も規格外――そう、僕以外全てが最強なのであった。

フォーリーブス ~ヴォーカル四人組の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
デュエットシンガーとしてデビューしたウォーレン兄妹は、歌唱力は十分なのに鳴かず飛ばずでプロデューサーからもそろそろ見切りをつけられ始めている。そんな中、所属する音楽事務所MLSが主催する音楽フェスティバルで初めて出会ったブレディ兄妹が二人の突破口となるか?兄妹のデュエットシンガーがさらに二人の男女を加えて四人グループを結成し、奇跡の巻き返しが成るか?ウォーレン兄妹とブレディ兄妹の恋愛は如何に? == 異世界物ですが魔物もエルフも出て来ません。直接では無いのですけれど、ちょっと残酷場面もうかがわせるようなシーンもあります。 == ◇ 毎週金曜日に投稿予定です。 ◇

学園アルカナディストピア

石田空
ファンタジー
国民全員にアルカナカードが配られ、大アルカナには貴族階級への昇格が、小アルカナには平民としての屈辱が与えられる階級社会を形成していた。 その中で唯一除外される大アルカナが存在していた。 何故か大アルカナの内【運命の輪】を与えられた人間は処刑されることとなっていた。 【運命の輪】の大アルカナが与えられ、それを秘匿して生活するスピカだったが、大アルカナを持つ人間のみが在籍する学園アルカナに召喚が決まってしまう。 スピカは自分が【運命の輪】だと気付かれぬよう必死で潜伏しようとするものの、学園アルカナ内の抗争に否が応にも巻き込まれてしまう。 国の維持をしようとする貴族階級の生徒会。 国に革命を起こすために抗争を巻き起こす平民階級の組織。 何故か暗躍する人々。 大アルカナの中でも発生するスクールカースト。 入学したてで右も左もわからないスピカは、同時期に入学した【愚者】の少年アレスと共に抗争に身を投じることとなる。 ただの学園内抗争が、世界の命運を決める……? サイトより転載になります。

男装の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。 領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。 しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。 だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。 そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。 なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

インフィニティ•ゼノ•リバース

タカユキ
ファンタジー
女神様に異世界転移された俺とクラスメイトは、魔王討伐の使命を背負った。 しかし、それを素直に応じるクラスメイト達ではなかった。 それぞれ独自に日常謳歌したりしていた。 最初は真面目に修行していたが、敵の恐ろしい能力を知り、魔王討伐は保留にした。 そして日常を楽しんでいたが…魔族に襲われ、日常に変化が起きた。 そしてある日、2つの自分だけのオリジナルスキルがある事を知る。 その一つは無限の力、もう一つが人形を作り、それを魔族に変える力だった。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...