上 下
28 / 56

第28話 だから、何でもないんだもん

しおりを挟む
 初めて、出来た学園のお友達サーラの家にお泊り。
 それも何となく、押し切られて一緒の部屋で寝ることになった。

 寝るまでの間、他愛のないお喋りをしているだけでも楽しい。
 でも、状況が状況だった。
 エヴァエヴェリーナを助けることが出来たし、家を離れられたのはいいけど何も解決してないのだ。
 あたしが小さかった頃はみんな、もっと明るく笑っていて、優しかった。
 ユナユスティーナだって……。

 だから、サーラとのお喋りも心から楽しめない。
 そうは言っても屈託なく、からからと笑うサーラの底抜けの明るさにどこか、救われてる気がするのは嘘じゃない。
 ただ、一つ気になるのはユリアンの言葉だった。
 どういう意味なんだろう。

 安らかな寝息を立てて、幸せそうな寝顔を浮かべてるサーラを見ると悩んでる自分があほらしくも感じる。
 そもそも悩んだり、考えるのは苦手だし、あたしの性に合ってないのだ。



 夜、ちょっと深く考えようとしただけで『めぇめぇ』と踊り狂う羊さんの群れが出てきて、あっという間にすやすやと眠れた。
 状況が状況だからとか、考えてた昨日のあたしは悲劇のヒロインを気取りたかっただけなのかもしれない。
 そう考えたら、少しは気が楽になってくる。
 むしろ、あたしは今の状況に

 今日から、アカデミーは長い冬期休暇に入る。
 ビカン先生は学園に住んでる。
 だから、休暇でも変わりなく、いつでも訪ねてくるといい。
 先生はそう言ったはず。
 ちょっと内容が違うかもしれないけど、ほぼ合ってると思う。

 間違っていても呆れた顔をしながら、「お前というヤツは」と言って受け入れてくれる気がするのだ。

 だから、てっきりポボルスキー家の馬車に乗せてもらうだけと思っていたのに……。

「どうしたんだい、エミー」
「別に何でも」
「朝は苦手だったよね」
「そうですけど。そういう訳じゃなくって。うん。何でもないんです」

 隣の馭者席には朝から、元気な王子様でいらっしゃるロビーロベルトがいる。
 ロビーは朝食の席が終わるか、終わらないかのタイミングでやって来た。
 あたしがロビーのカブリオレに乗るのは確定事項だったらしい。

 昔から、朝は苦手だった。
 苦手なのを無理して、食卓を盛り上げようとしてたのだから、いつか限界が来るのは分かってた。
 ロビーはそんなあたしと真逆の存在と言ってもいい。
 いつでも王子様でいられる彼はキラキラと輝いて見える太陽みたいなのだ。

 今もキラキラと輝いていて、眩しすぎる。
 カブリオレに乗るのにしたって、おかしいと思う。
 本物の王子様みたいにエスコートをしてくれるなんて、ありえないってば。
 朝が苦手なあたしの目が一気に冷めちゃったくらいにおかしい。

 だから、何でもないんだもん。



「いつでも来ていいとは言ったが、休暇初日から来るとは思っていなかったぞ。ネドヴェト嬢」

 先生は腕を組み、不敵な笑みを浮かべて、出迎えてくれた。
 着てるローブと先生の纏う雰囲気のせいか、「ふはははは。よく来たな」という台詞が似合いそうな美形の悪役にしか、見えない。
 小説にこんなキャラいると浮かれると怒られそうなのでやめておこう。

 先生があたしのことをわざと他人行儀な呼び方をしてるから、機嫌がよくないんだと思う。
 『ペップ』と『エミー』と呼び合える関係だったんだから、先生もきっと朝が苦手だったんだろう。
 これは失敗したかも……。

 でも、何だろう。
 ロビー、ユリアン、先生。
 三人の間に見えない火花が散ってるような……。

 気のせいかしら?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。

夢風 月
恋愛
 カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。  顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。  我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。  そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。 「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」  そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。 「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」 「……好きだからだ」 「……はい?」  いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。 ※タグをよくご確認ください※

好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……? ※小説家になろう様にも掲載させて頂いております。ただ改稿を行い、結末がこちらに掲載している内容とは異なりますので物語全体の雰囲気が異なる場合がございます。あらかじめご了承下さい。(あちらはゲオルグと並び人気が高かったエイドENDです)

今さら救いの手とかいらないのですが……

カレイ
恋愛
 侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。  それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。  オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが…… 「そろそろ許してあげても良いですっ」 「あ、結構です」  伸ばされた手をオデットは払い除ける。  許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。  ※全19話の短編です。

婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。

和泉鷹央
恋愛
 アイリスは国母候補として長年にわたる教育を受けてきた、王太子アズライルの許嫁。  自分を正室として考えてくれるなら、十歳年上の殿下の浮気にも目を瞑ろう。  だって、殿下にはすでに非公式ながら側妃ダイアナがいるのだし。  しかし、素知らぬふりをして見逃せるのも、結婚式前夜までだった。  結婚式前夜には互いに床を共にするという習慣があるのに――彼は深夜になっても戻ってこない。  炎の女神の司祭という側面を持つアイリスの怒りが、静かに爆発する‥‥‥  2021年9月2日。  完結しました。  応援、ありがとうございます。  他の投稿サイトにも掲載しています。

裏切りのその後 〜現実を目の当たりにした令嬢の行動〜

AliceJoker
恋愛
卒業パーティの夜 私はちょっと外の空気を吸おうとベランダに出た。 だがベランダに出た途端、私は見てはいけない物を見てしまった。 そう、私の婚約者と親友が愛を囁いて抱き合ってるとこを… ____________________________________________________ ゆるふわ(?)設定です。 浮気ものの話を自分なりにアレンジしたものです! 2つのエンドがあります。 本格的なざまぁは他視点からです。 *別視点読まなくても大丈夫です!本編とエンドは繋がってます! *別視点はざまぁ専用です! 小説家になろうにも掲載しています。 HOT14位 (2020.09.16) HOT1位 (2020.09.17-18) 恋愛1位(2020.09.17 - 20)

【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。 運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。 殿下、婚約破棄致しましょう。 第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。 応援して下さった皆様ありがとうございます。 本作の感想欄を開けました。 お返事等は書ける時間が取れそうにありませんが、感想頂けたら嬉しいです。 賞を頂いた記念に、何かお礼の小話でもアップできたらいいなと思っています。 リクエストありましたらそちらも書いて頂けたら、先着三名様まで受け付けますのでご希望ありましたら是非書いて頂けたら嬉しいです。

妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません

編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。 最後に取ったのは婚約者でした。 ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

処理中です...