上 下
20 / 56

第20話 これ、あひるちゃんよね?

しおりを挟む
 ベティベアータは追いかけてこない。
 追いかけようと思えば、出来ると思う。

 お母様がそれほど、背が高くないからだろう。
 マリーマルチナユナユスティーナも小柄ではないものの特別、大きくはない。
 多分、平均的な身長くらいしかない。

 ベティは違う。
 ほぼ同じくらいの背丈のマリーとユナよりも頭一つは大きい。
 手足が長くて、スラッとしてるのだ。
 あの手足で追っかけられたら、あたしではひとたまりもない。

 それなのにそうしない。
 あたしが戻ろうがどうでもいいってことかしら?
 ベティにとってはあたしがいようがいまいが、関係ないのかもしれない。

「エミー、慌ててどうしたの?」

 誰の目もなさそうなのを確認してから、エヴァエヴェリーナの部屋に滑り込むように入るとキョトンとした顔の彼女と目が合った。
 どうやら、かなり回復してるみたい。
 顔色も大分、よくなってるし、ちょっぴりふっくらしたように見える。

「エヴァ。すぐに動けそう?」
「ええ?」

 あたしの言葉にエヴァの目が点になった。
 あたしと同じ蒼玉サファイアの色をした瞳が、揺らいでるのを見るのは何とも不思議な気分になる。

 でも、今はそんな感傷に浸ってる暇はない。
 急がないといけないわ。

 あたしは説明するのが得意じゃない。
 得意じゃないというよりは苦手だ。
 それに加えて、時間がないという焦りもあった。

 うまく説明出来たという自信はまるでないけど、エヴァは理解したみたい。
 きっと、エヴァはあたしよりも頭がいいんだと思う。

「本当にそんなことが出来るの?」
「うん。出来るはず。先生が教えてくれた」
「へぇ」

 そして、あたしは今、一枚の絵を描き上げ終わった。
 エヴァの絵だ。
 目の前にいる彼女はまだ栄養が足りてないのか、細い体のままだけど、血色がよくなったお陰か、そこまで不健康そうには見えない。
 でも、絵の中のエヴァは以前の彼女の姿に似てる。

「これで大丈夫よ。こうやって、目を描いて色を塗ったら……」
「あら。すごいわ」

 ベッドの上に眠ってる病身のエヴァがもう一人、現れた。
 我ながら、いい出来だと思う。
 じっくりと観察されたら、バレそうだけど……。

「時間稼ぎにはなると思うの」
「そうね。でも、エミー。ここから、どうやって出るの? 二階なのよ」
「それなんだけど、いい考えがあるの」

 あたしが自信満々で披露したアイデアにエヴァが首を捻った。
 記憶にある限り、エヴァが眉間に皺を寄せたり、難しい顔をしたことはない。
 でも、今、目の前でエヴァが難しい顔をしてる。

「ねぇ、エミー。これ、あひるちゃんよね?」
「そうよ、アヒルちゃんよ」
「飛べるの?」
「た、たぶん?」

 スケッチブックに描こうとしたのはあたしとエヴァを乗せて、大空に羽ばたく大きな鳥だ。
 そのはずだったのだが、気が付いたら、あひるちゃんになってた。
 丸っこくて、黄色くて、かわいい。
 つぶらな瞳に小さな翼がチャームポイント。
 飛べるのかと聞かれたら、「さぁ?」としか答えようがない。
 どうして、こんな物を描いてしまったのか、自分でも分かんない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。

夢風 月
恋愛
 カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。  顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。  我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。  そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。 「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」  そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。 「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」 「……好きだからだ」 「……はい?」  いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。 ※タグをよくご確認ください※

好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……? ※小説家になろう様にも掲載させて頂いております。ただ改稿を行い、結末がこちらに掲載している内容とは異なりますので物語全体の雰囲気が異なる場合がございます。あらかじめご了承下さい。(あちらはゲオルグと並び人気が高かったエイドENDです)

婚約者マウントを取ってくる幼馴染の話をしぶしぶ聞いていたら、あることに気が付いてしまいました 

柚木ゆず
恋愛
「ベルティーユ、こうして会うのは3年ぶりかしらっ。ねえ、聞いてくださいまし! わたくし一昨日、隣国の次期侯爵様と婚約しましたのっ!」  久しぶりにお屋敷にやって来た、幼馴染の子爵令嬢レリア。彼女は婚約者を自慢をするためにわざわざ来て、私も婚約をしていると知ったら更に酷いことになってしまう。  自分の婚約者の方がお金持ちだから偉いだとか、自分のエンゲージリングの方が高価だとか。外で口にしてしまえば大問題になる発言を平気で行い、私は幼馴染だから我慢をして聞いていた。  ――でも――。そうしていたら、あることに気が付いた。  レリアの婚約者様一家が経営されているという、ルナレーズ商会。そちらって、確か――

【完結】夫もメイドも嘘ばかり

横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。 サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。 そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。 夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。

婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。

和泉鷹央
恋愛
 アイリスは国母候補として長年にわたる教育を受けてきた、王太子アズライルの許嫁。  自分を正室として考えてくれるなら、十歳年上の殿下の浮気にも目を瞑ろう。  だって、殿下にはすでに非公式ながら側妃ダイアナがいるのだし。  しかし、素知らぬふりをして見逃せるのも、結婚式前夜までだった。  結婚式前夜には互いに床を共にするという習慣があるのに――彼は深夜になっても戻ってこない。  炎の女神の司祭という側面を持つアイリスの怒りが、静かに爆発する‥‥‥  2021年9月2日。  完結しました。  応援、ありがとうございます。  他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。 運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。 殿下、婚約破棄致しましょう。 第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。 応援して下さった皆様ありがとうございます。 本作の感想欄を開けました。 お返事等は書ける時間が取れそうにありませんが、感想頂けたら嬉しいです。 賞を頂いた記念に、何かお礼の小話でもアップできたらいいなと思っています。 リクエストありましたらそちらも書いて頂けたら、先着三名様まで受け付けますのでご希望ありましたら是非書いて頂けたら嬉しいです。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません

編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。 最後に取ったのは婚約者でした。 ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。

処理中です...