上 下
85 / 85
第二部 名も無き島の大迷宮

第73話 隠し子の名はニール

しおりを挟む
「ニルくた《きた》」

 大きな背負いカバンを背負った小さな女の子は、どこかで見覚えがあるような……。

 きれいに切り揃えられた濡れ羽色の髪。
 猫の目を思わせる大きな目と輝く金色の瞳。

 色こそ、違うもののわたしの幼い頃の姿にそっくりではなくって!?

 でも、この色合いって……。
 漆黒の鱗。
 黄金の色をした瞳。
 間違いないわ。
 ニルと名乗ったのだし、あの子よね?

「ニーズヘッグなの?」
そでしそうだよ

 ニールニーズヘッグは言えないのにマーマは言えるのね。
 どうなっているのよ、この子の言語能力!

「リーナ。その子は一体、誰なんだい?」
「ニル。マーマのこだ。パーパもよろく☆」
「う~ん。レオ君。話がややこしくなりそうだから、一度、お家に戻りましょ」
「わ、分かったよ」
「わーい。パーパ、おんぶー」
「よーし! おいで」
「うん」

 よく分からない状況でいきなりパパと呼ばれて、おんぶをせがまれたら、普通は嫌がると思うわ。
 君がそういう子でないって、わたしはよく知っているけど……。
 いくらなんでも打ち解けすぎではないかしら?

 ちびトカゲドラゴンの姿のニールをレオも知っているから、意気投合するのは分かるわ。
 分かるけど!
 あまりにも仲が良すぎるでしょ。
 ニールをおんぶしているレオ。
 ぴったりとくっついて、歩くわたし。
 親子にしか、見えないわよ?



 どこか楽しそうで周りを見ていないレオとニールは気が付かなかったのかしら?
 好奇の視線が刺さってくるのですけど!
 目が「その子は何?」と訴えているのよ。

 違うんだから。
 わたしとレオは愛し合っているけど、まだ赤ちゃんは来ないし、そもそもニールは赤ちゃんじゃないでしょ!

 どうにか寝室に辿り着けたのでよかったわ。
 逃げたんじゃないんだからね?
 これは戦術的撤退なの。

「リーナ。また、難しい顔になってるよ」
「うん? ごめん、レオ君。ちょっと考え事をしてたから」

 わたし似の容姿で髪の色はレオ。
 勘違いされてもおかしくないわね。
 わたしとレオの子供と言っても納得されるかもしれないわ。

 これはまずいわよ。
 まだ、結婚式も挙げていないのに!
 お祖父様オーディンはいいとして、お祖母様フリッグお母様ゲェルセミにどうやって、言い訳すれば……。

「じゃあ、この子が服を持ってきてくれたんだね?」
「しょだよ。ニルもてきた」
「ん? そ、そうよね。やだぁ。わたしったら!」

 こういう時こそ、冷静になるべきよね。
 ニールに人化の魔法を教えたのはバステトだわ。
 全く、余計なことをしてくれるんだから!

 彼女としては「また、いいことしてしまったのだわ」とでも思っているのでしょうけど。
 でも、物は考えようかしら?

「まずは着替えましょうか?」
「うん。分かった」
「ニールも着替えましょうね。あのレオ君……」
「あーい」
「何かな?」

 レオは既に上着を脱ぎ捨てて、トラウザーまで脱ごうとしていた。
 叔父様の修行で鍛えられたからか、上半身にさらに筋肉がついてたくましく見える。
 どんどん男らしくなっていくのね、君。

 違った!
 見惚れている場合ではないわ。
 どうして、君はここで着替えようとしているのよ?

「レオ君はあっちで着替えて」
「分かったよ」

 レオの返事がちょっと残念そうに聞こえたのですけど。
 もしかして、わたしの着替えを見たかったのかしら?
しおりを挟む
感想 74

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(74件)

やっちゃん
2023.01.13 やっちゃん

ドラゴンの女の子が出てきたお話を知らないので楽しみ🐉
大抵オスですよね🤔
メスの水龍の昔話は読んだ事あります🤭
雨乞いのお話でした😌

黒幸
2023.01.14 黒幸

やっちゃん(^-^)ノ様、ありがとうございます/(=╹x╹=)\

フランスのメリュジーヌが竜の血族扱いの女性の姿で有名ですね。
竜の翼と尻尾が生えている半人半妖だったかな🤔
確か、貴族の家でメリュジーヌの子孫みたいな話もあるから、人間と結婚して子供までいるという雪女とかに近い扱いでしょうか。
日本だと清姫は大蛇に化けたのであれも一応、竜の眷属なんでしょうか。

龍と水は切っても切れない仲みたいですね。
荒ぶる川を龍とか、蛇の名にしたり、龍神自体が水の神様みたいな扱いですよね。

解除
月影 流詩亜(旧 るしあん)

更新ありがとうございます。

レオ君は、良いお父さんに成りそうですね。

ニール……女の子なんですね。
どうしても、ニールと云うと キャンディーキャンディーの意地悪ストーカー男を思い出してしまいます。

こちらのニール嬢は良い娘のようですね。

黒幸
2023.01.13 黒幸

るしあん先生、ありがとうございます/(=╹x╹=)\

10歳くらいと5歳くらいなので見た目は面倒見のいいお兄ちゃんくらいにしか見えないのですが、確かに将来的にはいい父親になりそうなレオです。
リーナが厳しいかというと二人とも甘やかしそうな気配しか、しないのが危険ではありますw

ニールことニーズヘッグは女の子でした、ドラゴンですけどね。
あとはガンダム00の初代ロックオンの兄もニールでした。
ニーズヘッグだと言いにくいので女の子ではあまり、ない名ですが愛称としてニールになっています。

ニールは普段はいい子ですが、加減を知らない辺りは母親(リーナ)に似ており、温泉掘りでもやらかしてます。

解除
月影 流詩亜(旧 るしあん)

第72話を読んで


意味深な終わり方ですね。

一波乱ありそうな気がします。
もしかしたら、未…………


続きを楽しみにしてますね。

黒幸
2022.12.08 黒幸

るしあん先生、ありがとうございます/(=╹x╹=)\

アルファでは章を小分けに出来ないので付いてないのですが、小見出しの題名が『姫の隠し子騒動』になっています。
意味深な終わり方ですが、二人とも一線は越えていないし、そもそもレオはまだ子供なので現れた女の子の存在は謎のベールに包まれています。
果たして、誰の子供なのでしょうか?それとも……という展開ですが今回のテーマは第二クールの新衣装お披露目だったはずなのに脱線しております!?

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。