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幕間 番外編

いい夫婦の日記念・お姫様の熱(三人称視点)

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 リリアナが気が付いた時にはレオニードの顔が目の前にあった。
 二人の距離は息がかかるくらいに近付いており、少し動いただけで唇が触れ合いそうだった。

「本当だ。ちょっと熱いね。熱があるんだよ」
「う、うん」

 彼女が熱を出しているかどうかは知るには手を額に当てるだけで済んだだろう。
 しかし、レオニードはそうはしなかった。
 顔を近づけて、自分の額で確かめようとしたのだ。

 その行為はリリアナにとって不意打ちとなった。
 熱があるからというだけではなく、彼女の顔が薔薇色に染まっていく。

「ねぇ、レオ君。熱は伝染うつしたら、治るって知ってる?」
「そうなんだ?」

 リリアナは熱にうなされているせいなのか、潤んだ目で哀願するように妙なことを口走る。
 言った後でバツが悪そうに視線を逸らしたリリアナを見たレオニードに躊躇いは一切、ない。
 「じゃあ、俺に伝染うつす?」という言葉を口にした彼はどこか、大人の男のようだった。

「本当に伝染うつしてもいいの?」
「俺は頑丈だから、平気さ」

 いつもは勝気で言いたいことを言っているリリアナも熱のせいか、妙に弱気になっている。
 熱のせいでうまく言葉で言い表せないのだ。

 代わりとでも言うようにリリアナがとった行動は意外なものだった。
 軽いキスではなく、まるで噛みつくようにレオニードの唇に自らの唇を触れ合わせると互いの舌を絡ませた。

「こうやったら、伝染うつるでしょ?」

 交換された体液が二人の間に銀色の橋を架けていた。
 突然のリリアナの行動にレオニードは驚き、目を丸くする。

「そんなのでは無理じゃないかな?」
「え? ちょっとレオ君!?」

 しかし、キスの余韻も冷めやらぬうちに攻守が逆転した。
 リリアナが逃げることを許さないとでもいうようにしっかりと体を抱き締め、激しく唇を奪われるレオニードは既に大人の男だった。
 始めこそ、抵抗するようにレオニードの背に爪を立てていたリリアナだったが、やがて、観念したのか体の力を抜いて、身を任せていた。

「激しく動いたら、治るかもよ」
「ま、待ってってばぁ」

 それがいけなかったのだろう。
 レオニードはキスをしている間に器用にリリアナの服を脱がしている。
 負担がかからないように優しく、ベッドの上に彼女の身体を寝かせたレオニードだったが、自分の服を脱ぐのには手間取っていた。
 既に生まれたままの姿になっていたリリアナは一瞬、呆れたような表情を浮かべたが、甲斐甲斐しく、レオニードの服を脱がせる。

 二人が選んだ熱を解消する愛の交わりは確かに激しい運動を必要としていた。
 ただし、動いているのは主にレオニードの方であり、リリアナはそれでなくても枯れていた声が余計に悪化しただけなのだが……。

 その後、二人が仲良く、寝込むことになったのはまた別の話である……。
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