上 下
71 / 85
第一部 名も無き島の小さな勇者とお姫様

第64話 小さな勇者に芽生える独占欲!?

しおりを挟む
 レオの唇についてしまった紅を手巾ハンカチーフで拭うとまた、見つめ合ってしまった。
 危なかったわ。
 また、口付けしそうな雰囲気になったんですもの。

 わたしは別に構わないのですけど……。
 君と一緒なら、どこでも何でも永遠にだって、いられるわよ?
 でも、それだといつまで経っても森を出られないわ。



 後ろ髪を引かれる思いで森を出て、ようやく着いたとホッとしていたら……『おいでませ! 小さな勇者様』と書かれた派手な横断幕を持った群衆が待ち受けているなんて、予想していなかったのですけど!?

「な、何なの、これ……」
「歓迎されてるのかな?」

 『おめでとう』という祝いの言葉とともに色とりどりの花びらが宙を舞い、まるで雨のように降り注いでくる。
 きれいですけど、数と量に限度がありましてよ!?

 祝福の花の雨の中、嬉しいはずなのになぜか、疲れたわ。
 レオは元気そうで何よりですけど。
 しまいには横抱きに抱えられたので、にこやかな笑顔を崩さないレオに負けないようにと笑顔を振りまいたから、余計に疲れたのよ。

「レオ君のせいですからね?」
「え? 何の話?」

 わたしに急に責められた君はキョトンとした表情になる。
 それが見たくて、やっている訳では……あるわね。
 かわいいんですもの。
 仕方ないでしょう?

「君が似合っていると言ってくれたのはこれでしょ?」
「うん」

 勝手知ったるわたしの城。
 自分の部屋に戻ったら、連絡しておいたくだんの服がちゃんと用意してあるのよ。
 乳母スカージの手配かしら?
 さすが、わたしのことを良く分かってくれていると言うべきだわ。

「本当に似合う?」

 体に当ててみるけど、自分では良く分からない。
 女王就任の儀式を行う『運命の泉』に向かう際に着た絹製の純白のローブ。

 袖や裾に金糸で装飾エングレービングが施されていて、防護の効果がある小さな魔石がそこに紛らせてある。
 見た目では分からないけど、とても頑丈なのよね。

 ただし、別の意味での防御力が低いのよ?
 裾丈が短くて、ギリギリ隠せるくらいしかないのに素肌に着て、レオと旅した。
 見えそうで見えないとはお母様ゲェルセミの言葉ですけど、見えそうで見えるのよ。

「リーナは白いイメージがあるし、似合ってるよ」
「そ、そうなの?」

 君に言われると悪い気がしないどころか、また着てもいいかもと思ってしまうわ。
 ただし、二人きりで誰にも見られないのが絶対条件ね!

「これを基にして、新しい普段着バトルドレスを考えてもらうわ」
「うん。分かった」

 彼はにこやかにわたしの言うことを許してくれる。
 もしかしたら、水着のように肌が露わになっているのでもそんなににこやかな顔で許可を出すのかしら?
 気になったことは聞いておかないと損よね

「ねぇ、レオ君。アニマル柄の水着でもよくない?」
「ダメだよ」

 あら? そうではないの?
 ちょっと不機嫌な顔になったし、即答なのね。

「他の人に見られると何だか、心が落ち着かないんだ。よく分からないけど、嫌なんだ」

 わたしの旦那様(自称)がかわいすぎるので抱き締めたいわ。
 思わず、レオの顔を胸に抱き締めようとしたのはいいのですけど、単に抱き着いただけの状態になっています。

 ええ、分かってますわ。
 身長差のことをすっかり、忘れていました。
 今はレオの方がちょっとですけど、大きいんですのよね。

 逆にわたしの方が優しく、抱き締められているのですけど……。
 これはこれで悪くないわ。
 君の腕で抱き締められて、体温を感じていると安心出来るんですもの。
しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

処理中です...