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第一部 名も無き島の小さな勇者とお姫様

第60話 お姫様、また敗北する

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 寝室でただ、レオにくっついて、何気ない会話をする。
 それだけで癒されて、静かに過ぎていく時間が好き。
 言葉が無くても一緒にいるだけで満たされるのよね。
 お陰で冷静に考えることが出来たわ。

 昼食はレオに任せて……え?
 お嫁さんアピールをしているのになぜ、料理をしないのか、不思議かしら?
 決まっているじゃない。
 わたしが料理をするとかえって、後片付けが大変になるからよ?

「うむ。ダンジョンに眠っている可能性が高い。可能性のあるものを試すべきだろう」
「ワシも勇者様の考えに賛成だ。この島にも確か、あったはずだが……」
「セベクさん、あれだろお。偉大なる深淵に通じてるとか、何とかっていうアレだろお?」
「面白そうだね」

 新婚(自称)の家の昼食にお邪魔しているという遠慮がないのよね。
 レオは興味津々なのが隠せてないし……。
 勇者は冒険したり、動いていないといけない生き物とでも言うのかしら?

「ダンジョンには見たことがないような不思議なアイテムや武具があるだけでなく、封印された魔法があるなんていう話もあるわよ?」

 あら? 皆、黙ってしまって、どうしたの?
 もしかして、言ってはいけない情報だったのかも……。

 神々ですら、分からないのよね。
 迷宮はなぜ、あるのか?
 いつから、あるのか?
 誰が何の目的で造られたのか?

 お祖父様オーディンですら、はっきりしたことを知らないんですもの。

「でも、ダンジョンへ行く前にレオはわたしとヘルヘイムに行くの。これは決定事項だわ」
「あ、うん。そうだね」

 また、全員だんまりですの?
 君もあまり、乗り気ではなさそうな返事ね。
 ダンジョンの話を聞いたから、冒険心をくすぐられたんでしょ?

 だったら、余計にわたしの服バトルドレスを選ぶのに集中して欲しいわ。
 君の隣にいつもいたいから、わたしも一緒に戦うんですもの。
 それくらいの我儘は言ってもいいでしょ?



 レオは夕食には戻ってきた。
 それまでの間、どこに行っていたのかは分からない。
 ネズミ君のところにでも行っていたのかしら?
 まぁ、それくらいはいいのですけど……。
 男同士の友情に口を挟んだりしないわ。

 おとう様、叔父様シグムンドと迷宮に対する一応の見解に達したのよね。
 まず、世界各地の迷宮でそれらしい情報が流れていないのかを探ってもらう。

 聖遺物アーティファクトらしきアイテムの噂があれば、それとなく広がっているはずだわ。
 ヘイムダルか、叔父様ヘルモーズあたりが詳しいでしょうから、そこで妥協すべきかしら?
 お祖父様オーディンに聞いても知っているにわざと教えてくれないか、体よくおつかいさせられるのが分かるわ。
 だから、却下。

 それで情報が判明したら、迷宮に挑まなくてはいけないのですけど、その方が問題ですわね。
 少数精鋭でいかないとダメね。
 メンバーの選抜も考えないといけないわ。

 でも、それより気になるのが帰ってきてからのレオの何とも言えない視線なのよね。

「レオ君、どうしたの? 何か、変よ」
「そ、そんなことないよ」

 怪しいっ……!
 あからさまに噛んだし、誤魔化すようにお肉を口に放り込んだわ。
 君は嘘を付けないんだから、そんなことをしても無駄なのよ?
 全く、何を話していたんだか。

 やたらとわたしの顔を見てくるのは何が気になっているのかしらね?
 それにしてもこの果実ジュース美味しいですわ~。

 甘くて、滑らかなのどごしで何杯でもいただけそう。
 それに何だか、身体がホカホカしてきたわよ?

「リーナ。それさ。ジュースじゃないよ」
「まっさかぁ~? しょんなわけないれひょ」
「これ、またダメなヤツだ……」

 そこから、わたしの記憶はプッツリと途絶えている。
 わたしがアルコールに弱いことを知っているのはレオだけ。
 まだ、打ち明けていなかったのが悪いのだ。

 しかし、この時のわたしは全く、知らなかった。
 レオがネズミ君と何を話していてたのか。
 そして、何をしようとしていたのか。

 真夜中に目を覚ましたわたしとレオの視線が交錯して、地獄の門が開くなんて、知らなかった……。
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