58 / 85
第一部 名も無き島の小さな勇者とお姫様
第52話 帰れない二人
しおりを挟む
レオはわたしの膝枕が気に入ったのかしら?
彼が目を覚ましたのは、百貨店が終業の時間を伝えるベルを鳴らしていた頃。
随分と長く、眠っていたみたい。
わたしはその間、買ったばかりのロマンス小説を読みましたわ。
これがまた、とても刺激的な内容だったのよね。
色々と新しいことを知ってしまいましたの。
新しい世界を知ったとも言いますし、知らない方が良かったとも言いますわ。
分からないことがたくさん、増えてしまいましたもの。
「……ありえないわね」
「何の話?」
「あら? 起きたのね」
眠れる王子様のようやくのお目覚めですわ。
このまま、起きなかったら、百貨店の店内で一夜を過ごす羽目になったかもしれないもの。
「何か、変だよ」
「へ、変ではナクッテノコトヨ?」
起き上がったレオは怪訝な表情を隠そうともしないので慌てて、目を逸らしましたけどバレたのかしら?
さっきまで読んでいた本のせいで気になって、つい目が離せなかったのよね……。
レオが寝ている時にこっそりと試す勇気はないわ。
もしも、刺激で彼の目が覚めたら、どういう言い訳をするの?
『美味しそうだったから♪』なんて、答えたら軽蔑されるわ。
でも、物語の中でヒロインは美味しそうに舐めたりしているのよね……。
謎ですわ。
「リーナ。また、難しい顔になっているよ。悩みがあるなら、僕に言ってよ」
「え? ええ? そ、そうね」
悩みの原因が君なのですけど?
そうは言えないので曖昧に笑ってごまかすしか、なかったわ。
百貨店を出ると既に夜の帳が下りた空は宵闇の色で彩られていて、散りばめられた宝石のような星々と赤く、大きなお月様が顔を覗かせている。
「すっかり、暗くなってしまったわ」
「帰るんだよね?」
レオと手を繋ぎ、通りを歩いていたら、辿り着いたのは観光名所でもある噴水広場。
明るい時間帯に訪れていれば、また印象が違ったのでしょうけど、暗いと風情があるというよりもやや不気味ですわ。
「まさか。今から、帰るのは無理よ?」
「そうなんだ。あっ。お月様がきれいだね」
ふと空を見上げたレオが急にそんなことを言い出したのでびっくり。
「一緒に見ているからよ」
「そうなんだ。一緒だからか。そっか」
噛み締めるように言われると恥ずかしいのよね。
それに帰れないのは嘘よ?
転移は瞬時にどのような場所であろうとも移動が可能な魔法ですもの。
夜であろうとも関係なく帰れますし、何なら、寝室に直帰も出来るのよね。
シュンとしてしょげているレオに悪いとは思っているわ。
でも、この機会を利用させてもらうけど♪
「そうなのよ。だから、宿に泊まりましょ♪ お食事で有名な宿があるのよ~」
「そ、そうなんだ。何で嬉しそうなのかな」
嬉しいのがバレてる!?
本当、君は妙なところだけ、鋭いわね?
二人きりで誰にも邪魔されないの。
こんなに嬉しいことはないわ。
「レオ君と二人きりになれるのよ? 喜んだら、ダメ?」
「そうなんだ。僕も……嬉しいよ」
珍しく、ちょっとだけ口角を上げるだけの笑い方だけど、迷いながらも嬉しいと言ってくれた。
それだけで、わたしは幸せな気分を味わえたわ。
「エスコートして、わたしの大好きな旦那様♪」
「だ……んなさま? 何、それ? 僕、宿の場所も知らないんだ」
「…………」
忘れていたわ。
レオはようやく男女の違いと結婚、お嫁さんについて、おおよそ学んだ程度の常識しかないということを……。
まぁ、仕方ないですわ。
わたしが勝手に盛り上がったのが悪いんですもの。
「一緒に行けば、いいわね」
「うん」
ともに歩んでいると考えたら、悪くないわ。
君はまだまだどこか、頼り無くて、子供みたいなんですもの。
今はこれで十分ね。
彼が目を覚ましたのは、百貨店が終業の時間を伝えるベルを鳴らしていた頃。
随分と長く、眠っていたみたい。
わたしはその間、買ったばかりのロマンス小説を読みましたわ。
これがまた、とても刺激的な内容だったのよね。
色々と新しいことを知ってしまいましたの。
新しい世界を知ったとも言いますし、知らない方が良かったとも言いますわ。
分からないことがたくさん、増えてしまいましたもの。
「……ありえないわね」
「何の話?」
「あら? 起きたのね」
眠れる王子様のようやくのお目覚めですわ。
このまま、起きなかったら、百貨店の店内で一夜を過ごす羽目になったかもしれないもの。
「何か、変だよ」
「へ、変ではナクッテノコトヨ?」
起き上がったレオは怪訝な表情を隠そうともしないので慌てて、目を逸らしましたけどバレたのかしら?
さっきまで読んでいた本のせいで気になって、つい目が離せなかったのよね……。
レオが寝ている時にこっそりと試す勇気はないわ。
もしも、刺激で彼の目が覚めたら、どういう言い訳をするの?
『美味しそうだったから♪』なんて、答えたら軽蔑されるわ。
でも、物語の中でヒロインは美味しそうに舐めたりしているのよね……。
謎ですわ。
「リーナ。また、難しい顔になっているよ。悩みがあるなら、僕に言ってよ」
「え? ええ? そ、そうね」
悩みの原因が君なのですけど?
そうは言えないので曖昧に笑ってごまかすしか、なかったわ。
百貨店を出ると既に夜の帳が下りた空は宵闇の色で彩られていて、散りばめられた宝石のような星々と赤く、大きなお月様が顔を覗かせている。
「すっかり、暗くなってしまったわ」
「帰るんだよね?」
レオと手を繋ぎ、通りを歩いていたら、辿り着いたのは観光名所でもある噴水広場。
明るい時間帯に訪れていれば、また印象が違ったのでしょうけど、暗いと風情があるというよりもやや不気味ですわ。
「まさか。今から、帰るのは無理よ?」
「そうなんだ。あっ。お月様がきれいだね」
ふと空を見上げたレオが急にそんなことを言い出したのでびっくり。
「一緒に見ているからよ」
「そうなんだ。一緒だからか。そっか」
噛み締めるように言われると恥ずかしいのよね。
それに帰れないのは嘘よ?
転移は瞬時にどのような場所であろうとも移動が可能な魔法ですもの。
夜であろうとも関係なく帰れますし、何なら、寝室に直帰も出来るのよね。
シュンとしてしょげているレオに悪いとは思っているわ。
でも、この機会を利用させてもらうけど♪
「そうなのよ。だから、宿に泊まりましょ♪ お食事で有名な宿があるのよ~」
「そ、そうなんだ。何で嬉しそうなのかな」
嬉しいのがバレてる!?
本当、君は妙なところだけ、鋭いわね?
二人きりで誰にも邪魔されないの。
こんなに嬉しいことはないわ。
「レオ君と二人きりになれるのよ? 喜んだら、ダメ?」
「そうなんだ。僕も……嬉しいよ」
珍しく、ちょっとだけ口角を上げるだけの笑い方だけど、迷いながらも嬉しいと言ってくれた。
それだけで、わたしは幸せな気分を味わえたわ。
「エスコートして、わたしの大好きな旦那様♪」
「だ……んなさま? 何、それ? 僕、宿の場所も知らないんだ」
「…………」
忘れていたわ。
レオはようやく男女の違いと結婚、お嫁さんについて、おおよそ学んだ程度の常識しかないということを……。
まぁ、仕方ないですわ。
わたしが勝手に盛り上がったのが悪いんですもの。
「一緒に行けば、いいわね」
「うん」
ともに歩んでいると考えたら、悪くないわ。
君はまだまだどこか、頼り無くて、子供みたいなんですもの。
今はこれで十分ね。
0
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
聖女と聖主がらぶらぶなのが世界平和に繋がります(格好良すぎて聖主以外目に入りません)
ユミグ
恋愛
世界に淀みが溜まると魔物が強くなっていく中ある書物に書かれてある召喚をウォーカー国でする事に…:
召喚された?聖女と美醜逆転な世界で理不尽に生きてきた聖主とのらぶらぶなオハナシ:
極力山なし谷なしで進めたいっ…!けど、無理かもしれない………ーーツガイ表現がありますが、出てきません
悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました
黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました
乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。
これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。
もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。
魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。
私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました
あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。
どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる