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第一部 名も無き島の小さな勇者とお姫様

第48話 わたしの仔犬はかわいい

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「今日はわたしの買い物に付き合ってくれるということでいいのよね?」
「うん」
「よろしい♪ 二階に行きましょ」

 館内案内図を確認すると目当ての物は二階にあるということが分かったわ。
 パ・シェル・ブークは高層建築で昇り降りが大変でしたけど、エ・ウンポ・カーロは二階建てだから、分かりやすいわね。
 その代わりに敷地面積が広い分、歩かないといけないのかしら?

「女の人がたくさんだ……」
「そりゃ、そうでしょ? 女性用肌着の売り場に男の人がいたら、変じゃない」
「ええ!? 僕がいたら、おかしくない?」

 ちょっと焦っている君の姿を見るのも好きなのよ?
 そんなことを口にしたら、嫌われるから言わないですけど。

「いいの。わたしと一緒にいれば、大丈夫だって♪」
「う、うん」

 レオの背が伸びたこともあって、単に手を繋ぐだけよりも効果的な手段を思いついちゃったわ。
 もっと体をぴったりと寄せて、押し付けるようにすれば、良かったのよ。

「リーナ。歩きにくくないの?」
「気にしないの。男の子でしょ?」
「男の子なのは関係ない気がするんだ」

 そう言っている君の頬が薄っすらと赤く、染まってくる。
 わたしの努力も全くの無駄にはなってないのだわ。
 だって、レオが意識してくれ始めているってことですもの。

「気になるのを持ってくるから、ちょっと待っていてね」
「うん。分かった」

 この花園のような場所にいくら短時間とはいえ、レオを一人にしたのは迂闊でしたわ……。



 背はそんなに伸びなかったのでまだ、僅かな差とはいえ、レオに抜かれてしまった。
 運動量と食べる量の差が出たのだわ。
 でも、別に背で負けてきたからといって、悔しいのではなくて。
 段々と男らしくなっていく彼が眩しいだけなのよ。

 違うところは成長しているのよね。
 下着の締め付けがきつくなってきた胸元を見て、溜息を吐くしかない。
 それで今回の買い物を思いついたんですもの。
 どうせなら、お洒落でかわいい肌着の方がいいわ。

 一枚目は薄い桃色でレースをふんだんに使って、フリルでかわいさを狙ったデザインのにした。
 二枚目はパ・シェル・ブークで選んだのと同じ黒い肌着。
 一枚目は敢えて幼さを強調したから、今度は大人をアピールして、そのギャップでレオの反応を楽しみたいのよね♪
 三枚目は赤の系統の方がいいかしら?

 まずいですわ……。
 色々と目移りして、ショッピング自体を楽しんで時間が結構、経った気がするの。

「お母さんと一緒に来たの?」
「いえ、違います」
「じゃあ、お姉さんかな?」
「え、えっと……ちょっと違うかな」
「ふーん。一人でこんなところで待っていてもつまんないよね? お姉さん達と……」

 レオを待たした場所に慌てて戻ると数人の女性に囲まれて、困っているのか眉尻を下げた彼の姿があった。
 年齢はわたしと同じか、ちょっと年上といったところかしら?
 袖が無くて、胸元も大きく開いた上着やほぼ足全体が露わになったショートパンツといい姿はわたしと正反対の開放的なものね。
 見た目も十分にかわいい部類に入るようですし、あまり女性という種を知らない彼にとって、刺激的すぎるわ。

 この町の男性は女性を見ると挨拶代わりに口説く、と言ったのは誰だったかしら?
 ヘイムダルではないから、叔父様ヘルモーズ
 まさか、女性までも積極的とは思っていかったわ。

「あっ! リーナ! 終わったの?」

 わたしがどうしてやろうかと思案するよりもレオの動きは早かった。
 周囲を取り囲んでいた女性陣を全て無視して、わたしのところにやって来てくれたのだ。
 まるで仔犬が駆け寄って来たみたいだわ。
 尻尾を振っている幻が見えてしまったもの。

 レオに無視される形になった女性陣がわたしに向ける視線は「何なの、あの子」という敵愾心ね。
 残念でしたわね?
 レオはわたしのレオでわたしはレオのものなんですもの。

「たくさん、選んできたから、後はレオに見てもらって決めたいの」
「え? う、うん……」

 その後、狭い試着室の中で着替えながら、密着してレオにどの下着が好みなのか、聞くという無謀なことをした結果、彼が鼻から出血するという多少のトラブルに見舞われたのは取るに足らない些細な出来事ね♪
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