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第一部 名も無き島の小さな勇者とお姫様
閑話 神々の思惑
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三人称視点
神々の大地アスガルドに戻ったオーディンは玉座に座り、思案に耽っている。
「解せんのう」
玉座の前にはトール、ヘイムダル、フレイ、バルドルといった名だたる神々が勢揃いしていた。
「どうされたのですか、父上。何か、ありましたか?」
普段、見られない父神の様子に愁いを帯びた表情を見せる光の神バルドルの容貌はアスガルドで最も美しいとさえ、言われている。
「ふむ。おかしいとは思わんのか、お前らは」
「はて? 俺には分かりませんな」
即答したのは考えることが苦手なトールだけで多少は思慮分別がある他の面々は即答を避けただけなのだ。
「もしや、あの運命ですかね?」
ヘイムダルの呟きに近い推理にオーディンはただ、頷くことのみで答える。
「考えてみよ。まるであの娘を誘うが為だけに置かれた撒き餌のようにも見えるじゃろう?」
「確かに。あの娘はしっかりしているようでまだまだ、子供なところがあります。あれが罠であるとすれば、何者の仕業でしょう?」
フレイの美貌はバルドルと並び称されるものでアスガルドの女神界隈では二人が並ぶ姿に密かな黄色い声援が飛ぶほどである。
リリアナはこの二人とも母方の血で繋がっており――フレイは大伯父であバルドルは伯父なのだ――、容貌だけではなく、ただ一途という性質まで似通っている。
特にフレイは愛の為に自らが持つ魔剣を手放している。
「そんなもの、どうせあいつの仕業だろうよ!」
「お前さんの決めつけはいつも通りだねぇ」
「何だと!?」
「今回ばかりはトールの意見が正しいやもしれんのう」
そのまま、ヒートアップしそうなトールとヘイムダルを静かに手を上げ、制したオーディンは長い白髭を撫でながら、眉間に皺を寄せる。
「ロキの狙いは何でしょうか?」
「そりゃ、お前。あいつは性格が悪いからだろ」
「そんな理由だけであんな豪華な撒き餌を撒くもんかねぇ?」
瞼を閉じ、何かを考えているバルドルを除く、三神は思い思いの考えを述べていた。
どれも真であり、真でないと感じるオーディンは白髭を撫でる手を止めず、何も語らない。
その時、バルドルが瞼を開けた。
「もしかしたら、彼の狙いは神々の運命ではないでしょうか?」
バルドルの言葉に誰もが口を噤み、静寂が場を支配した。
重苦しい雰囲気に誰一人、言葉を紡ぐことが出来ないでいる。
「まさしく、その通りじゃろうな。であるならば、どうすべきかじゃよ」
全てを識る者であるオーディンには視えていた。
大きすぎる餌を用意して、ロキが企むのは何であるのか?
狙いが神々の運命であるならば、言わずと知れたことだった。
ヘルヘイムの女王がアスガルドの敵になる。
それ以外はないという結論に至ったのだ。
「その点に関してですが、私に一つの腹案がございます。この案に関して、父上のご裁可が必要ですが、よろしいでしょうか?」
「ふむ。何かのう?」
「シグムンドをかの勇者のもとに遣わすのです」
「ほお。シグムンドか。よいぞ、よいぞ。面白い案じゃな」
バルドル以外の三神には合点がいってないようで首を捻っているが、オーディンはそれをさして、気にしていない。
シグムンドはかつて、オーディンが与えた聖剣グラムを手にした勇者だった。
過去形なのはそのグラムをオーディン自らがグングニルで粉砕したことで、勇者としてのシグムンドが既に死に体だからである。
「ヘイムダルよ。分かっておるな」
「は、はぁ。全く、損な役回りだぜ」
ヘイムダルによって、隠遁生活を送っていたシグムンドにオーディンの命が伝えられ、かつての勇者と勇者が出会うのは少し先の未来の話である。
神々の大地アスガルドに戻ったオーディンは玉座に座り、思案に耽っている。
「解せんのう」
玉座の前にはトール、ヘイムダル、フレイ、バルドルといった名だたる神々が勢揃いしていた。
「どうされたのですか、父上。何か、ありましたか?」
普段、見られない父神の様子に愁いを帯びた表情を見せる光の神バルドルの容貌はアスガルドで最も美しいとさえ、言われている。
「ふむ。おかしいとは思わんのか、お前らは」
「はて? 俺には分かりませんな」
即答したのは考えることが苦手なトールだけで多少は思慮分別がある他の面々は即答を避けただけなのだ。
「もしや、あの運命ですかね?」
ヘイムダルの呟きに近い推理にオーディンはただ、頷くことのみで答える。
「考えてみよ。まるであの娘を誘うが為だけに置かれた撒き餌のようにも見えるじゃろう?」
「確かに。あの娘はしっかりしているようでまだまだ、子供なところがあります。あれが罠であるとすれば、何者の仕業でしょう?」
フレイの美貌はバルドルと並び称されるものでアスガルドの女神界隈では二人が並ぶ姿に密かな黄色い声援が飛ぶほどである。
リリアナはこの二人とも母方の血で繋がっており――フレイは大伯父であバルドルは伯父なのだ――、容貌だけではなく、ただ一途という性質まで似通っている。
特にフレイは愛の為に自らが持つ魔剣を手放している。
「そんなもの、どうせあいつの仕業だろうよ!」
「お前さんの決めつけはいつも通りだねぇ」
「何だと!?」
「今回ばかりはトールの意見が正しいやもしれんのう」
そのまま、ヒートアップしそうなトールとヘイムダルを静かに手を上げ、制したオーディンは長い白髭を撫でながら、眉間に皺を寄せる。
「ロキの狙いは何でしょうか?」
「そりゃ、お前。あいつは性格が悪いからだろ」
「そんな理由だけであんな豪華な撒き餌を撒くもんかねぇ?」
瞼を閉じ、何かを考えているバルドルを除く、三神は思い思いの考えを述べていた。
どれも真であり、真でないと感じるオーディンは白髭を撫でる手を止めず、何も語らない。
その時、バルドルが瞼を開けた。
「もしかしたら、彼の狙いは神々の運命ではないでしょうか?」
バルドルの言葉に誰もが口を噤み、静寂が場を支配した。
重苦しい雰囲気に誰一人、言葉を紡ぐことが出来ないでいる。
「まさしく、その通りじゃろうな。であるならば、どうすべきかじゃよ」
全てを識る者であるオーディンには視えていた。
大きすぎる餌を用意して、ロキが企むのは何であるのか?
狙いが神々の運命であるならば、言わずと知れたことだった。
ヘルヘイムの女王がアスガルドの敵になる。
それ以外はないという結論に至ったのだ。
「その点に関してですが、私に一つの腹案がございます。この案に関して、父上のご裁可が必要ですが、よろしいでしょうか?」
「ふむ。何かのう?」
「シグムンドをかの勇者のもとに遣わすのです」
「ほお。シグムンドか。よいぞ、よいぞ。面白い案じゃな」
バルドル以外の三神には合点がいってないようで首を捻っているが、オーディンはそれをさして、気にしていない。
シグムンドはかつて、オーディンが与えた聖剣グラムを手にした勇者だった。
過去形なのはそのグラムをオーディン自らがグングニルで粉砕したことで、勇者としてのシグムンドが既に死に体だからである。
「ヘイムダルよ。分かっておるな」
「は、はぁ。全く、損な役回りだぜ」
ヘイムダルによって、隠遁生活を送っていたシグムンドにオーディンの命が伝えられ、かつての勇者と勇者が出会うのは少し先の未来の話である。
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