上 下
11 / 85
第一部 名も無き島の小さな勇者とお姫様

第9話 わたしの旦那様が最高すぎる

しおりを挟む
「ガルム。あなたの鼻で地下深くの水源と熱源を探して」
「わんでふわん」

 擬態している手足の短い愛らしい仔犬の姿ではさすがに動きにくかったのかしら?
 普通にいる狼くらいの姿に転じたガルムは元気な返事をすると駆け出していきました。

ニールニーズヘッグ。あなたはガルムが見つけた地点を地下深くまで掘り進めて。いい?」
「いいよ~いよ~」

 中型犬くらいの黒い蜥蜴もどきの姿に蝙蝠のような翼を生やしたニーズヘッグも空から、ガルムを追いかけていきます。
 これでとりあえずの準備は終わりかしら?
 あとはあの子らの頑張り次第ですわ!

「ねえ、リーナ。何をするのか、教えてよ」
「ひ・み・つ」
「えー。リーナのケチんぼ。それなら、って、呼ぶよ」

 口を尖らせて、拗ねているレオもかわいいけど……それはちょっとイラッときますわ。
 レオにと呼ばれるのは何か、嫌なのよね。

 彼と対等な立場でいたいと願うのは単なるわたしの我儘ですけど。

「そういうこと言うのはこの口かしら?」
「いひゃいよ」

 口の端を摘まんで引っ張っるとちょっと涙目になるレオ。
 そんな彼の顔を見ているだけでわたしの心が満たされるのはなぜなの?

「だって、先に知ったら、面白くないでしょう?」
「どういうこと?」
「出来てからのお楽しみよ、レオ
「また、くんって、言ったね。リーナのこと、姫……いひゃいれす。いいまひぇん」
「よろしい」

 抓るだけで言うことを聞いてくれる勇者様はかわいいわ。

 でも、わたしはわたしだけの勇者様の喜んでいる顔が見たいの。
 だから、今は秘密なの。



 それから、レオに島を案内してもらうことにしました。
 あの子らの仕事に何らかの進展が出るには今少し、時間がかかるでしょうから。

 島の水源でもあるカルデラ湖へと向かうことになったのですけど、ただ、手を繋いで歩いているだけで妙な気恥しさを感じるのはなぜかしら?

「ありがとう、レオ」

 ちょっとした山登りになるとゴシックドレスにロングブーツを履いているわたしのことを気遣って、レオはさりげなく、エスコートしてくれるのです。
 男女の違いは分からないし、結婚のことも知らないのにこういうところはしっかりしていて、頼りになるのよね。

「お姫様を守るのが勇者だからね」
「また、言いましたわね?」
「あ、ごめん。でも、リーナは僕のお姫様だから。ダメかな?」

 腰に手を当てて、ちょっと怒った振りをすると謝ってくれるんですもの。
 素直でよろしい。
 ……なんて、お姉さん顔をふかそうと思ったのに、ドキッとすることを言ってくるのね。

「仕方がありませんわ。許しましょう」
「うん。ありがとう、リーナ」

 また、そんな無邪気な笑顔を向けてくれるんですもの。
 ずるいわ。
 勝てっこないのね。
 わたしの……わたしだけの勇者はあなたなの。

「わたしの勇者はあなただけなんだから」
「何か、言った?」

 良かったですわ。
 聞こえてなかったみたい。
 もし、ちゃんと聞こえていたら、レオはどういう反応を示してくれたのかしら?

 素直なあなたのことだから、普通に受け取るのかしら?
 そうではないの。
 あなたしか、見えないの。
 でも、この気持ちは伝えない方がいいのだわ。

 レオにはまだ、分からないのでしょうから。
 彼はまだ、子供なんですもの。
 色々なことを学んで、世界を知って。
 それでもわたしのことを好きでいてくれるのかは分かりませんわ。

「もうちょっとで湖だよ」

 レオがそう言って、指差した先にエメラルドグリーンの湖面が広がる大きな湖が見えてきた時、耳をつんざくような爆裂音が突如、空気を切り裂きました。

「何だ、今の?」
「何かしら……もしかして!?」

 遥か彼方の方に激しく噴き上げる水柱が見えましたの。
 やってくれましたわね、ニール。
 やりすぎですわよ。

「あっ……」
「どうしたの、リーナ?」
「わたしのせいだわ」

 ニールに簡単な指示しか出さないなんて、どうしようもないくらいの失態ですわ。
 彼女は言われた通りのことは出来ますけど、それ以上のことは無理なのです。
 どうしましょう。
 レオに喜んでもらおうと思ったのに……。
しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生するも魔法に夢中でいたら王子に溺愛されました

黒木 楓
恋愛
旧題:悪役令嬢に転生するも魔法を使えることの方が嬉しかったから自由に楽しんでいると、王子に溺愛されました  乙女ゲームの悪役令嬢リリアンに転生していた私は、転生もそうだけどゲームが始まる数年前で子供の姿となっていることに驚いていた。  これから頑張れば悪役令嬢と呼ばれなくなるのかもしれないけど、それよりもイメージすることで体内に宿る魔力を消費して様々なことができる魔法が使えることの方が嬉しい。  もうゲーム通りになるのなら仕方がないと考えた私は、レックス王子から婚約破棄を受けて没落するまで自由に楽しく生きようとしていた。  魔法ばかり使っていると魔力を使い過ぎて何度か倒れてしまい、そのたびにレックス王子が心配して数年後、ようやくヒロインのカレンが登場する。  私は公爵令嬢も今年までかと考えていたのに、レックス殿下はカレンに興味がなさそうで、常に私に構う日々が続いていた。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

きみは運命の人

佐倉 蘭
恋愛
青山 智史は上司で従兄でもある魚住 和哉から奇妙なサイト【あなたの運命の人に逢わせてあげます】を紹介される。 和哉はこのサイトのお陰で、再会できた初恋の相手と結婚に漕ぎ着けたと言う。 あまりにも怪しすぎて、にわかには信じられない。 「和哉さん、幸せすぎて頭沸いてます?」 そう言う智史に、和哉が言った。 「うっせえよ。……智史、おまえもやってみな?」 ※「偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎」のExtra Story【番外編】です。また、「あなたの運命の人に逢わせてあげます」「お見合いだけど、恋することからはじめよう」のネタバレも含みます。 ※「きみは運命の人」の後は特別編「しあわせな朝【Bonus Track】」へと続きます。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?

もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。 王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト 悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。

処理中です...