29 / 47
27話 災厄を呼ぶ浄化の炎
しおりを挟む
三人称視点
時は少々、遡る。
それは『砂漠の民』の集落に最凶の捕食者が近づく、ちょっと前のことである。
かつて、その街並みの美しさと王城の壮麗な威容で知られた王都が僅かな期間で見る影もなくなっていた。
目抜き通りに木霊するのは威勢のいい商いの声でもなければ、元気に走り回る子供の声でもない。
まるで生きとし生ける者を恨むかのように声を上げる動く死者達の怨嗟の声だった。
責め苦にでもあっているように苦し気に呻き声を上げながら、ゆっくりと歩みを進める『ゾンビ』の群れが次々と放たれる火矢の前に一体、また一体と灰燼に帰していく。
腐りはてた肉が削がれ、焼かれていく様は凄惨そのものだった。
王命に従っている射手の中にはそのあまりの光景に堪え切れず、吐瀉する者の方が多かったほどだ。
王城の一室で城下の凄惨な光景を鏡で見つめる一人の貴公子の姿がある。
銀糸のように細やかで美しい白銀の髪が顔にかかるのも一切、気にせず、一心に見つめていた。
こころなし、その唇が軽く弧を描いている。
あの子は中々、どうして面白いことを考える。
『ゾンビ』と名付けたのか。
しかも燃やすのか。
何て、面白いことをするんだ。
貴公子――ビセンテは心の底から、湧き上がる愉悦を抑え切れない。
人とは何と愚かな生き物なのだろう。
姉マリベルと同じ、紫水晶の色をした瞳が僅かに揺らぎ、まるで血に染まったように一瞬、赤くなった。
「ああ。偉大なる主よ。間も無くです。偉大な貴方の御心のままに……」
ビセンテが感極まったように天を仰ぐ。
鏡は未だ、城下の光景を映していた。
紅蓮の炎が魔物の舌のように天を焦がしていた。
まるで不浄なるものを清めるように燃え盛る赤い炎とともに立ち上る煙はとても不快な色をしている。
空高く、上がっていく煙は不安だけではなく、さらなる恐怖を呼び起こすことになろうとは……。
『燃やす』ことを提案したヒメナは知る由もなかったのである。
時は少々、遡る。
それは『砂漠の民』の集落に最凶の捕食者が近づく、ちょっと前のことである。
かつて、その街並みの美しさと王城の壮麗な威容で知られた王都が僅かな期間で見る影もなくなっていた。
目抜き通りに木霊するのは威勢のいい商いの声でもなければ、元気に走り回る子供の声でもない。
まるで生きとし生ける者を恨むかのように声を上げる動く死者達の怨嗟の声だった。
責め苦にでもあっているように苦し気に呻き声を上げながら、ゆっくりと歩みを進める『ゾンビ』の群れが次々と放たれる火矢の前に一体、また一体と灰燼に帰していく。
腐りはてた肉が削がれ、焼かれていく様は凄惨そのものだった。
王命に従っている射手の中にはそのあまりの光景に堪え切れず、吐瀉する者の方が多かったほどだ。
王城の一室で城下の凄惨な光景を鏡で見つめる一人の貴公子の姿がある。
銀糸のように細やかで美しい白銀の髪が顔にかかるのも一切、気にせず、一心に見つめていた。
こころなし、その唇が軽く弧を描いている。
あの子は中々、どうして面白いことを考える。
『ゾンビ』と名付けたのか。
しかも燃やすのか。
何て、面白いことをするんだ。
貴公子――ビセンテは心の底から、湧き上がる愉悦を抑え切れない。
人とは何と愚かな生き物なのだろう。
姉マリベルと同じ、紫水晶の色をした瞳が僅かに揺らぎ、まるで血に染まったように一瞬、赤くなった。
「ああ。偉大なる主よ。間も無くです。偉大な貴方の御心のままに……」
ビセンテが感極まったように天を仰ぐ。
鏡は未だ、城下の光景を映していた。
紅蓮の炎が魔物の舌のように天を焦がしていた。
まるで不浄なるものを清めるように燃え盛る赤い炎とともに立ち上る煙はとても不快な色をしている。
空高く、上がっていく煙は不安だけではなく、さらなる恐怖を呼び起こすことになろうとは……。
『燃やす』ことを提案したヒメナは知る由もなかったのである。
6
お気に入りに追加
1,788
あなたにおすすめの小説
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?
青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。
二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。
三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。
四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。
孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます
天宮有
恋愛
聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。
それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。
公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。
島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。
その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。
私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。
婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。
鈴木べにこ
恋愛
幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。
突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。
ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。
カクヨム、小説家になろうでも連載中。
※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。
初投稿です。
勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و
気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。
【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】
という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。
【完結】女癖の悪い第一王子に婚約破棄されました ~ところでお二人は王妃様の教育に耐えられますか?~
つぼみ
恋愛
レーナは婚約者のロイド様のことでいつも頭を悩ませていた。
ロイド様は第一王子なのに女癖が悪く、数々の令嬢を泣かせてきた人で、レーナはその後始末をやっていた。
そんなある日、レーナはロイド様に婚約破棄をされてしまう。
ロイド様はリリカさんという一番のお気に入りと婚約するらしい。
ショックを受けたレーナは家族に相談をする。
すると、家族は思い思いの反応をしめす。
一週間王宮に行かなくていいといわれたレーナはその間自由に過ごすことにする。
そのころロイド様とリリカさんは王妃様から教育を受けていて……。
*婚約破棄ざまぁものです。
*ロイド、リリカ、ともにざまぁ展開があります。
*設定ゆるゆるです(コメントでいろいろ教えていただきありがとうございます。もっと勉強しようと思います)
誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。
木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。
それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。
誰にも信じてもらえず、罵倒される。
そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。
実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。
彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。
故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。
彼はミレイナを快く受け入れてくれた。
こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。
そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。
しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。
むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる