17 / 47
17話 その男、狂犬につき
しおりを挟む
オスワルド視点
王の為の『王の騎士』たる、近衛騎士団。
しかし、その実態は惨憺たるものである。
オスワルド子飼いの破落戸のような貴族の子弟。
『騎士に非ざる』者として騎士団を放逐された不逞の輩。
かねてより、素行が悪く、規範に従わず、団長に不満を持っていた輩。
そのような者ばかりを狙って集めたのかと疑いたくなる陣容だが、こうなってしまったのも致し方無い事情がある。
第一騎士団は団長と副団長という大黒柱を失い、指令系統に混乱を来していたにも拘らず、窮状に喘ぐ地方へと急行した。
第二騎士団は副団長ブルーノの指揮のもと、それぞれの隊を敢えて、分散させ行方をくらましていた。
その為、王都には真面な騎士など、残っていなかった。
だが、これは近衛騎士団長であるオスワルドにとって、好都合だったとも言える。
近衛騎士団は『王の騎士』ではなく、オスワルドの意のままに動く都合のいい手勢に過ぎなかったのだ。
「チッ。あのくそじじじいめっ!」
馬上で先日の出来事を思い出したオスワルドが舌打ちをする。
「団長。 落ち着いて下さいよ」
部下の一人が宥めるように声をかけるが、あまり効果は無いようだ。
オスワルドは歯軋りしながら、拳を握り締め、離れたばかりの王都で起きた出来事を思い返す。
レイチェル・ブレイズはいけ好かない女だった。
何もしていない癖に『聖女』だと敬われ、慕われる。
気に入らない。
憎い。
そんな女を追放し、ようやく羽を伸ばせると自由を満喫していたところにあのくそじじいが乗り込んできた。
イラリオは単純な奴だから、じじいの言うことを聞いて、考えが二転三転しないとは限らない。
だから、俺とビセンテが代わりに話を聞くことにした。
「このような暴挙は許されませんぞ。レイチェル様は聖女ですぞ。然るべき手順を示し、民に……」
「うるせえ! 黙れっ!」
俺は一喝して、話を遮った。
こいつらはいつも、そうだ。
俺がやることをいつも、いつも、止めようとする。
駄目だ。
もっと考えろ。
兄を見習え。
いつの間に剣の柄を握っていたかも分からないが、 抜剣していた。
露わになった白刃の閃きが俺に力を与えてくれる。
そうだ。
剣があれば、何でも出来る。
「待つのじゃ。話せば、分か……」
じじいがそれ以上、言葉を発する前に体が動いていた。
気が付けば、袈裟懸けに体を切られ、滅多刺しになり、血の海に沈むくそじじいの体があった。
「ああ。やってしまいましたね」
この状況でもいつもと変わらない落ち着いたビセンテの呟きが聞こえたが、もう遅い。
また、やってしまった。
「やってしまったことは仕方ないですよ。後は僕に任せてください」
「すまない……。俺はまた……」
「大丈夫さ。僕に任せて」
「あ、ああ」
柔らかな笑顔を浮かべ、労わるように俺の肩に手を置くビセンテの気遣いに持つべきものは友と改めて、思った。
また、余計なことをした俺を一切、咎めようとはしない。
ビセンテはいつも頼りになる。
くそじじい――竜神殿の最高位にあるベネディクト大司教――を罪人として、告発した上で刑に処したと発表したのだ。
罪状は国家反逆罪。
『聖女』レイチェルと共謀し、国費を横領し神職にある者とは思えない奢侈に驕った行いは断じて、許すべきではない。
そうして、じじいを晒し首としたのだ。
最高じゃないか。
レイチェルといい、じじいといい、口うるさい連中が消えてくれたんだ。
これでやっと、自由だ。
目の上のたん瘤だった親父と兄貴ももういない。
くそじじいを消して、障害になりうる神殿の排除にも成功した。
なのに、この違和感は何だ……。
なぜだ?
もう俺達の邪魔をする者はいないはずだろう。
横暴な『聖女』に加担し、王を弑しようと画策した反逆者。
ついに牙を剥いた辺境伯ブレイズ家を討伐べく、北へと向かう途上、俺は心の中に僅かに生じた微かな違和感を敢えて無視し、歩みを進める。
俺には前に進むことしか、出来ないのだから。
王の為の『王の騎士』たる、近衛騎士団。
しかし、その実態は惨憺たるものである。
オスワルド子飼いの破落戸のような貴族の子弟。
『騎士に非ざる』者として騎士団を放逐された不逞の輩。
かねてより、素行が悪く、規範に従わず、団長に不満を持っていた輩。
そのような者ばかりを狙って集めたのかと疑いたくなる陣容だが、こうなってしまったのも致し方無い事情がある。
第一騎士団は団長と副団長という大黒柱を失い、指令系統に混乱を来していたにも拘らず、窮状に喘ぐ地方へと急行した。
第二騎士団は副団長ブルーノの指揮のもと、それぞれの隊を敢えて、分散させ行方をくらましていた。
その為、王都には真面な騎士など、残っていなかった。
だが、これは近衛騎士団長であるオスワルドにとって、好都合だったとも言える。
近衛騎士団は『王の騎士』ではなく、オスワルドの意のままに動く都合のいい手勢に過ぎなかったのだ。
「チッ。あのくそじじじいめっ!」
馬上で先日の出来事を思い出したオスワルドが舌打ちをする。
「団長。 落ち着いて下さいよ」
部下の一人が宥めるように声をかけるが、あまり効果は無いようだ。
オスワルドは歯軋りしながら、拳を握り締め、離れたばかりの王都で起きた出来事を思い返す。
レイチェル・ブレイズはいけ好かない女だった。
何もしていない癖に『聖女』だと敬われ、慕われる。
気に入らない。
憎い。
そんな女を追放し、ようやく羽を伸ばせると自由を満喫していたところにあのくそじじいが乗り込んできた。
イラリオは単純な奴だから、じじいの言うことを聞いて、考えが二転三転しないとは限らない。
だから、俺とビセンテが代わりに話を聞くことにした。
「このような暴挙は許されませんぞ。レイチェル様は聖女ですぞ。然るべき手順を示し、民に……」
「うるせえ! 黙れっ!」
俺は一喝して、話を遮った。
こいつらはいつも、そうだ。
俺がやることをいつも、いつも、止めようとする。
駄目だ。
もっと考えろ。
兄を見習え。
いつの間に剣の柄を握っていたかも分からないが、 抜剣していた。
露わになった白刃の閃きが俺に力を与えてくれる。
そうだ。
剣があれば、何でも出来る。
「待つのじゃ。話せば、分か……」
じじいがそれ以上、言葉を発する前に体が動いていた。
気が付けば、袈裟懸けに体を切られ、滅多刺しになり、血の海に沈むくそじじいの体があった。
「ああ。やってしまいましたね」
この状況でもいつもと変わらない落ち着いたビセンテの呟きが聞こえたが、もう遅い。
また、やってしまった。
「やってしまったことは仕方ないですよ。後は僕に任せてください」
「すまない……。俺はまた……」
「大丈夫さ。僕に任せて」
「あ、ああ」
柔らかな笑顔を浮かべ、労わるように俺の肩に手を置くビセンテの気遣いに持つべきものは友と改めて、思った。
また、余計なことをした俺を一切、咎めようとはしない。
ビセンテはいつも頼りになる。
くそじじい――竜神殿の最高位にあるベネディクト大司教――を罪人として、告発した上で刑に処したと発表したのだ。
罪状は国家反逆罪。
『聖女』レイチェルと共謀し、国費を横領し神職にある者とは思えない奢侈に驕った行いは断じて、許すべきではない。
そうして、じじいを晒し首としたのだ。
最高じゃないか。
レイチェルといい、じじいといい、口うるさい連中が消えてくれたんだ。
これでやっと、自由だ。
目の上のたん瘤だった親父と兄貴ももういない。
くそじじいを消して、障害になりうる神殿の排除にも成功した。
なのに、この違和感は何だ……。
なぜだ?
もう俺達の邪魔をする者はいないはずだろう。
横暴な『聖女』に加担し、王を弑しようと画策した反逆者。
ついに牙を剥いた辺境伯ブレイズ家を討伐べく、北へと向かう途上、俺は心の中に僅かに生じた微かな違和感を敢えて無視し、歩みを進める。
俺には前に進むことしか、出来ないのだから。
5
お気に入りに追加
1,787
あなたにおすすめの小説
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
無能だと言われ続けた聖女は、自らを封印することにしました
天宮有
恋愛
国を守る聖女として城に住んでいた私フィーレは、元平民ということもあり蔑まれていた。
伝統だから城に置いているだけだと、国が平和になったことで国王や王子は私の存在が不愉快らしい。
無能だと何度も言われ続けて……私は本当に不必要なのではないかと思い始める。
そうだ――自らを封印することで、数年ぐらい眠ろう。
無能と蔑まれ、不必要と言われた私は私を封印すると、国に異変が起きようとしていた。
殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?
星ふくろう
恋愛
聖女認定の儀式をするから王宮に来いと招聘された、クルード女公爵ハーミア。
数人の聖女候補がいる中、次期皇帝のエミリオ皇太子と婚約している彼女。
周囲から最有力候補とみられていたらしい。
未亡人の自分でも役に立てるならば、とその命令を受けたのだった。
そして、聖女認定の日、登城した彼女を待っていたのは借金取りのザイール大公。
女癖の悪い、極悪なヤクザ貴族だ。
その一週間前、ポーカーで負けた殿下は婚約者を賭けの対象にしていて負けていた。
ハーミアは借金のカタにザイール大公に取り押さえられたのだ。
そして、放蕩息子のエミリオ皇太子はハーミアに宣言する。
「残念だよ、ハーミア。
そんな質草になった貴族令嬢なんて奴隷以下だ。
僕はこの可愛い女性、レベン公爵令嬢カーラと婚約するよ。
僕が選んだ女性だ、聖女になることは間違いないだろう。
君は‥‥‥お払い箱だ」
平然と婚約破棄をするエミリオ皇太子とその横でほくそ笑むカーラ。
聖女認定どころではなく、ハーミアは怒り大公とその場を後にする。
そして、聖女は選ばれなかった.
ハーミアはヤクザ大公から債権を回収し、魔王へとそれを売り飛ばす。
魔王とハーミアは共謀して帝国から債権回収をするのだった。
【完結】家族から虐げられていた私、実は世界で唯一精霊を操れる治癒精霊術師でした〜王都で癒しの聖女と呼ばれ、聖騎士団長様に溺愛されています〜
津ヶ谷
恋愛
「アリーセ、お前を男爵家から勘当する!」
理不尽に厳しい家系に生まれたアリーセは常に虐げられて来た。
身内からの暴力や暴言は絶えることが無かった。
そして16歳の誕生日にアリーセは男爵家を勘当された。
アリーセは思った。
「これでようやく好きな様に生きられる!」
アリーセには特別な力があった。
癒しの力が人より強かったのだ。
そして、聖騎士ダイス・エステールと出会い、なぜか溺愛されて行く。
ずっと勉強してきた医学の知識と治癒力で、世界の医療技術を革命的に進歩させる。
これは虐げられてきた令嬢が医学と治癒魔法で人々を救い、幸せになる物語。
護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる