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13話 聖女、砂漠の民と出会う

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 武器を持った謎の男の集団に取り囲まれて、大ピンチです。
 わたしとお母さん。
 一見、無力そうな女性二人でこの場合の対処法って何でしょうか?

 大声を上げて、助けを呼ぶ。
 駄目ですね……。
 『動くな』と言われたのにそんなことをしたら、刺激するだけですし、そもそも……こんな砂漠で助けを呼んで誰が来てくれるのでしょう。

 お母さんに任せる。
 これはいけません。
 赤い雨が降るのはいただけません。

「……どうしよう?」

 誰とは無しに呟いたのが、聞こえたのでしょうか?
 お母さんは他人事のように周囲を見回しています。
 つまり、余裕なのでわたしの反応を見て、楽しんでいるようです。

「まずいことになったわね」

 お母さんが言います。
 顔はニヤニヤしているのでどう見ても楽しんでいます。

「うん。でも、どうしてこんなことに……」

 喉が渇いたのでオアシスを見つけて、来ただけなんです。
 ちょっと飲んでしまいましたが、もしかして、いけなかったのでしょうか?

「飲む前に周りを確認しないからよ?」
「うっ」

 そう言われると反論できません。
 確かにわたしはあの時、何の警戒心も持たず、水を口にしてしまいました。
 それがこの事態を招いたのです。
 後悔先に立たず。

「お母さんだって、飲みませんでしたか?」
「我はいいのよ。あなたと違って、ちゃんと考えてから、飲んだから」
「ぐぬぬぬぬぬ」

 お母さんの言葉に思わず、唇を噛み締めました。
 確かにわたしの行動は軽率だったかもしれません。
 そして、お母さんに口でも勝ったことがないのを忘れていました。

「この状況でお前ら……状況を分かっているのか?」

 先程の凛とした声がまた、聞こえてきました。
 心無し、怒りの色を含んでいる気がします。
 わたし、分かってしまうのです。
 感情の色を感じてしまうのです。

「あー、えーと、はい……多分?」
「ほう……」

 武装した男性達はわたし達の様子を窺うようにしているだけで動きを見せません。
 声の主は少なくとも、地表にいないようです。
 どういう原理か、分かりませんが砂の中にでも隠れているのかしら?

「説明するほどのことでもないと思いますけど……。ただ、水を飲もうと思ったのです」
「そうだろうな……」
「そうしたら、いきなり、こうなっていまして……」
「……」

 声が沈黙しました。
 沈黙されると感情を読み取れません。
 ただ、呆れられているような気だけはひしひしと感じられます。
 でも、本当のことですから、嘘は言ってません。

「えーと。勝手に水を飲んだのがいけなかったんですよね? 悪かったと思っています。知らなかったのです」
「……」

 返事がない。

「だから、その……許してもらえたら嬉しいかなと思うんですけど、駄目でしょうか?」
「……」

 やっぱり、何も言わない。

「お母さんも何か、言ってください」

 隣にいるお母さんを肘で突っつき、促しますが我関せずの態度を崩さないようです。
 こうなったら、わたし一人で何とかするしかありません。

「ごめんなさい。 本当に申し訳ありませんでした」

 誠心誠意、謝ってみました。
 これで駄目だったら、どうしましょう?

「ふむ……」

 呆れたような、それでいて根負けしたように掠れた笑い声とともに取り囲む集団の背後の砂が水柱のように勢いよく、上がりました。
 驚いたのはわたし一人でお母さんは相変わらず、楽しそうです……。
 そして、起き上がってきたモノと目が合ってしまいました……。



 それはまるで人のように二本の足で大地に立っていました。
 でも、大きさが人とは違います。
 軽く見積もっても武器を構えた人達の五倍はあるでしょう。
 全身甲冑を着込んだ騎士に似ていて、洗練された流麗なデザインと実用性を重視した粗野で武骨なデザインが合わさった不思議な見た目です。
 先程、目が合ってしまったのは頭部に備えられた赤く輝く一つ目。
 しっかりと目が合ってしまいました。

 どうやら、コレが声の主のようです。
 まずいかもしれないと思い始めています。
 命の危機で危ないのではなく、より面倒なことに巻き込まれると察したからです。

 何故なら、赤い単眼には敵意や殺意といったものが感じられません。
 それどころか、どこか興味深そうな色さえ、浮かんでいるようです。

「どうしたものかしらね?」

 お母さんは呑気に呟きながらもやっぱり、他人事みたいに……っ!

「お母さん!」
「あらあら?」
「あらあらじゃないですよ! 」

 お母さんの腕を引っ張るとようやく、こちらを向いてくれました。
 しかし、表情からは危機感というものが全く伝わってきません。

「お前らが何者かは知らん! だが……砂漠の民は恩義を重んじる」
「そうだとも! 我らは君達に恩がある。恩は返さねばならない!」

 武装した集団の一人が例の声に同調するように叫びました。

「恩を返させろー!」
「そうだ! 返させろ!」

 また、別の男が同調します。
 まるで波のように広がっていきます。
 『返せ!』ではなく、『返させろ!』というのは珍しいですが……。
 嫌な予感を飛び越えて、もっと先に行けそうです。

「そんなことは言っていないわよね、レイチェル?」
「そうですね……」

 もはや、乾いた笑い声と引き攣った笑顔しか披露出来ませんでした……。



 わたしは『砂漠の民』と名乗る方々の集落にお邪魔しています。
 あの後、お母さんは『後はお前に任せようではないか。我はずっと近くにいよう』とだけ、言い残すと本来の姿に戻り、飛び去ってしまいました。
 残された『砂漠の民』とわたしは呆気にとられ、唖然とするばかり。
 そうなると思ってましたけどね……。

 暫くの間、呆けていた『砂漠の民』の皆さんですが我を取り戻すとわたしを駱駝に乗せて、集落まで運んでくれたのです。
 駱駝という生き物を見たのも初めてなら、乗るのも当然、初めての経験。
 過酷な砂漠という環境に適合した生物だけあって、乗り心地はともかくとして、楽は出来ました。
 気になったのは少し離れたところをついてくるあの巨大な甲冑のお化けのような物体でした。
 ミシミシギシギシと何かが軋むような音を立てて、歩くのであまり、近づくと駱駝が驚いてしまうのだとか。

 そして、わたしは集落の皆さんに取り囲まれています。
 そこにあるのは敵意や悪意ではなく、敬意と期待に満ちた目。

「俺はカーミル。ここの長という形になっているが……しがない戦士だ」

 彼らを代表するように挨拶をしてくれたのはあの甲冑のお化けを操っていた例の凛とした声の主でした。
 黒いローブに身を包んでいますが、仮面を付けていないのでその顔がはっきりと見えています。
 やや浅黒い肌で猛禽類を思わせる鋭い目つきの精悍な青年でした。
 右目を隠すようにダークブラウンの髪が伸びています。

「これはご丁寧にありがとうございます。私はレイチェルです」
「レイチェル……? まさか……ブレイズ家のか?」
「はい。確かにブレイズ家に御厄介になっていましたけど……それがどうかしまして?」

 カーミルさんの鋭さを感じさせる左目が驚きの為か、やや見開かれた理由が分からず、小首を傾げてしまいました。

「では、貴女があの噂の……それならば、あの奇跡も分かるな」
「奇跡……?」

 聞き捨てならない単語が聞こえきました。
 奇跡とは何のことでしょう?
 わたし、何もしていないと思うのです。

「貴女のお陰で甦ったんだ……」
「……はい?」

 わたしは人を癒す力は持っていません。
 それにそのような人助けを最近したでしょうか?
 記憶に全く、ありませんでした。

「あの泉は既に枯れ果てて久しい、死んだオアシスだった。それが貴女の力で甦ったんだ!」

 ええ!?  あんなにきれいな水が豊かに湧くオアシスが既に死んでいた!?
 何ということでしょう。
 そのようなこと、ありえるのでしょうか?
 いえ、それよりも何故、わたしがそれをしたことになっているのでしょう。

「そんなこと言われても困ります。そもそも、わたしは何も……」
「いや、間違いなく貴女の力がこの集落を救ってくれたのだ! だから、恩返しさせてくれ! 何でも構わない!」
「は、はあ……」

 どうしましょう。
 正直、困惑しています。
 そんなわたしを他所に皆さん、ヒートアップしていきます。

「そうだ! 俺達の力も貸そう! 恩には恩をもって報いる! それがオラ達の流儀だ!」
「そうだ! そうだ!」

 こうなることを知っていたから、お母さんはさっさと逃げたんですね?
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