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(25)咲夜11歳 『浄玻璃鏡』

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「翡翠殿、こちらに布を12枚もらえるか? 幽霊画と壺と提灯はこちらでかけておくから」

 30センチばかりの人形のような背丈、美豆良みずら衣褌きぬはかまの小さな神が話しかけてきた。
 
「小さいおにいさん、だれ?」
「咲夜、この方は少名毘古那神すくなびこなのかみ様だ」
「すくない? かみさま?」
「すくなびこなのかみさまだ。お酒とお薬の神様だな」

 もちろん、ここにいるのは本物の神などではなく、江戸時代に描かれた屏風絵に宿るあやかしだ。名高い医者のもとにあった屏風絵で、患者達からの信仰を受けていつしか力を持つようになったらしい。
 今は石像のアスクレピオス様と共に『きさら堂』に住むあやかし達の面倒を見てくれていた。

「かみさまなの? わぁ、おれはじめて見た」
「さきほどアスクレピオス様にもお会いしただろう?」
「へびにょろにょろのおじさん?」
「ふふ、そうだ。蛇の杖を持ったお方だ。あの方も医学の神様なんだ」
「そっかー、きさらどうはかみさまがいっぱいだ!」
「そうだな。神様がたくさんいらっしゃる」

 少名毘古那神がくすくすと笑う。

「その子が翡翠殿の愛し子か」
「はい」
「まるで本物の親子のようじゃ」
「親子でも兄弟でもありません」
「物の例えじゃ。それだけ仲が良く見えるという……」
「この子が大人になったなら、新月を共に過ごしたいと……私はそう望んでいます」
「……なるほど。それも良いだろう」
「こんな子供を相手にけしからんとは言わないのですね」
「あやかしにとって、性別も年齢も関係ないじゃろう。狸の親分は300歳も年下の嫁をもらったそうだし、あやかしは魂そのもので惹かれあうものだから」
「はい」

 翡翠が咲夜をそっと抱き寄せると、咲夜が嬉しそうにぎゅっと抱き返してきた。

「うらやましいものじゃ」
「あの、大己貴神おおなむちのかみ様は」
「オオナはめったに起きてこぬ」

 屏風絵に一緒に描かれたもうひと柱の神は、翡翠もこれまで一度しか話したことが無かった。

「地下の扉を少し開きましょうか」
「よいよい。オオナとは数百年も互いに深く語らってきた仲だ。今はただそこにいてくれるだけで良いのだ。ではな、布掛けを急ぐと良いぞ」
「はい」

 今日は朝から忙しかった。

 使用人館はきさら狐達が、本館は狸の若い衆と子供達が、すべての家具とすべての美術品に白い布をかけて回っている。

 翡翠と咲夜はあやかし館を受け持って、住人のあやかし達と協力して布を配って回っていた。

 たいていのあやかしは自分で布をかぶってくれるのだが、中には自分で動くことのできないあやかしも、何十年に一回しか目覚めないようなあやかしもいるので、翡翠は一人も漏らさないよう各部屋を順番に確認しながら進んでいた。

「そおーれい! どっこらしょー!」

 中庭から、狸の若い衆の威勢の良い掛け声が響いてくる。蔵の中から例の藍甕あいがめを運び出しているのだ。

「わぁ! おっきい! あれがあいがめ?」

 あやかし館の3階の窓から身を乗り出して、咲夜が楽しそうに声を上げた。腕に抱えていた白い布を落としそうになり、翡翠が慌てて横から受け止める。

「そう、あれが白殺しの藍甕だ。大きくて咲夜がすっぽり入りそうだろう?」
「ほんとだ! あれもつくもがみなの? おはなししたり、うごいたりしないね」
「それは」

 翡翠が質問に答えようとすると、きゃきゃきゃと甲高い笑い声がそれを遮った。

「一口に付喪神といっても、その性質は千差万別、百人百様、十人十色、たで食う虫も好き好きとな。ひとくくりにされてはたまらんのじゃが」

 きぃきぃとした声でしゃべりながら、5センチほどの小さな猿が翡翠の肩に登って来る。

「うわっ、ちっちゃいおさるさんだ!」
「この者はイワザル、根付の付喪神だ」
「ねつけってなーに?」

 きゃきゃきゃとまた笑い声を立てて、猿の根付のイワザルが翡翠の肩から咲夜の肩にぴょんと飛び移る。

「わ、こっちにきた!」
「根付も知らんのか、ちんまいの」
「おれ、ちんまいのじゃないよ。咲夜だよ。夜に咲くってかくんだ」
「ほほう、咲夜か。良い名じゃのう」
「ひすいさまがつけてくれたの」
「そうかそうか。ちんまい咲夜よ、根付の世界は奥深いぞ。その魅力は手のひらに収まる小宇宙といってもいい」
「しょーうちゅー?」
「根付ってのはの、煙草入れなんかの小物を帯にひっかけるための留め具で、実用品でありながら芸術品でもあり……」
「イワザル、ご高説はまた今度にしてくれ。それより、根付仲間に布は配り終わったのか?」

 かなり早めに得意の講釈を止めた翡翠に、イワザルはぷんと横を向く。

「ミザルとキカザルがやっておろう」
「お前もさっさと仲間のところへ戻って布をかぶっていなさい。象牙の体が青く染まってしまうぞ」
「八目姫はまだ来ておらんだろ。ふたを開けるのはまだまだ先じゃ。のうのう、ちんまい咲夜や、なんで藍甕をわざわざ蔵から出すか知ってるか? 八目の姫は大蜘蛛の化身、本性を現すとあまりにもでかすぎてあの蔵の中には入れんのじゃ。そんな巨大な化け物なんぞ、近頃じゃぁ、とんとお目にかかれるもんじゃない。どうだ、見てみたいか?」
「うん、みてみたい!」
「そうかそうか。ではな、かけられた布をそーっとはずして中庭を覗いてみるといい。面白いもんが見れる代わりに、その黒い目玉が青くなっちまうがな!」

 うきゃきゃと下品な笑い声をあげて、イワザルが咲夜の肩でぴょんぴょんと跳ねる。

「目だまが青くなるの? すごーい!」
「……おい、ちんまいの、怖くないのか?」
「こわい? どうして?」

 思ったような反応が返ってこなかったのが面白くないのか、イワザルはふんと鼻息を漏らすと咲夜の肩から飛び降りた。

「おさるさん、どこいくの?」

 咲夜がイワザルを追いかけようとした時、誰かがすごい勢いで階段を駆け上がって来た。

「あ! 翡翠様! ちょうど良いところに」
「そなたは親分さんのところの、確か悠真だったか」
「はい! 悠真です」
「ゆうまおにいちゃん、どうしたの?」
「あ、咲夜。大牙達を見なかったか?」
「ううん、みてないよ」
「翡翠様は知りませんか? さっきから弟が4人とも姿が見えなくて」
「いや、見ていないが」
「なんだなんだ、あの頭の悪そうな子狸どもが消えてしまったのか?」

 いつのまにかイワザルが戻ってきて悠真の肩に乗り、野次馬のように目を輝かせる。

「ほっほー、もしや大階段の途中で立ち止まったのか? それとも中庭から地下へ降りて行って戻れなくなったのか?」
「『きさら堂』のみっつの約束はきちんと言い聞かせてある。絹田家の子供はそれぐらいのことが守れないような馬鹿ではない!」 

 むっとした顔で悠真がイワザルを片手で乱暴に払いのける。イワザルはひょいと身軽によけて、廊下の照明に飛び移った。

「なにをするか! 乱暴なタヌキめ!」
「黙っていろ! うるさいサルめ!」
「二人ともいがみ合っておる場合か。もしかしたら、ロングギャラリーに行ったのではないか? あそこは無限回廊になっておるし」
「無限回廊? 大丈夫なのですか?」
「それほど心配はいらない。あそこの回廊はルールも分かりやすいし、もしも迷っているようなら幽霊のグレイスが出口に導いてくれるから……」

 その時、突然、あやかし館にぎゃーという大きな悲鳴が響き渡った。それはそれは恐ろしい断末魔のような叫び声だ。

「悲鳴?!」

 悠真が慌てて声の方へ走り出そうとする。

「待ちなさい、悠真!」

 翡翠の制止に、悠真がいら立った顔を見せる。

「でも、今の声は」
「私が先に行く! そなたは少し遅れて来なさい」
「どうしてですか? あれは大牙達の悲鳴では?」
浄玻璃じょうはりかがみじゃな」

 イワザルの言葉に翡翠はうなずく。

「あぁ、おそらく浄玻璃鏡だ」
「浄玻璃鏡? 地獄の閻魔えんま様の? 『きさら堂』にはそんなものまであるのですか?」

 浄玻璃鏡とは、地獄の審判の場で死人の過去の罪を映し出すというあの鏡のことだ。

「もちろんここにあるのは本物ではない。ただ、その鏡を見た者がみな恐怖で震えあがるのでな、そんな恐ろし気な名前を付けられたらしい」
「くわばらくわばら、ありゃあガキの肝試しには刺激が強すぎるて。わ、わしは絶対に見に行かんぞ!」

 イワザルは叫ぶと、ぴゅーっという効果音を入れたくなるほど素早くこの場を逃げて行った。

「ひすいさま」

 咲夜が不安そうに翡翠の袖をつかんでくる。

「咲夜も悠真とここに残っていなさい」
「や……やだ、ひすいさまといっしょにいく!」
「だめだ。咲夜は見ない方が良い」
「おれ、おれ、ひすいさまといっしょがいい!」
「わざわざ怖い思いをすることは無かろう」
「翡翠様、その鏡には何が映るというのですか?」

 聞かれて、翡翠は悠真を振り向く。

「その者が一番怖いと思うモノ」
「一番、怖い……?」
「見た者の心が一番恐れているものだ」
「えっと、例えば熊とかの猛獣なんかですか?」
「それは悠真が怖いものだろう? そういう分かりやすい怖さもあれば、中には、子供が十人以上で遊んでいるのが怖いとか、左巻きの渦巻きを見つめるのが怖いとか、その者にしか分からない怖さもある。本物の浄玻璃鏡のように、本人が犯した過去の大罪とかな……」

 きっと咲夜は、自分を虐待していた母親を見るだろう。咲夜にそんなつらい思いはさせたくなかった。

「とにかく、その鏡をのぞくと心の底から一番怖いモノが見えてしまうのだ」
「翡翠様は平気なのですか」

 翡翠はうなずき、ほんの少し微笑んだ。

「『きさら堂』の使用人は全員、その鏡の中に同じお方のお姿を見る。最も敬愛し、最も畏怖するお方、つまり時津彦様だな」
「あ……」

 生みの親への深い敬愛と、生死を握る存在への強烈な畏怖。
 『きさら堂』で生きる者にとって、時津彦様への感情が何よりも強いのは明白だった。

「なるほど。そうですよね」

 納得したような顔をする悠真の肩をポンと叩き、翡翠は安心させるように言った。

「浄玻璃鏡は2階の奥の部屋に置かれている。私が行って鏡に布をかけるから、その後で若い衆を連れて来ると良い」
「は、はい」
「怖いモノを見たとしても、命に別状はないから安心しなさい。ただ、おそらく子供達は気絶しているだろうから、温かい寝床と薬湯の準備を艶子に頼んでおくように」
「分かりました」
「ひすいさま……」
「咲夜はここで待っているように」
「………」

 咲夜は返事をせず、不安そうな目で見上げてくる。

「すぐに戻って来るから」

 可愛い咲夜の頭を撫でて、翡翠は浄玻璃鏡のある部屋へ向かった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 あやかし館の2階の一番奥の部屋に着くと、ほんの少しドアが開いていた。
 中を覗くと、さきほど布をかけたはずの姿見が、こちらにキラリと鏡面を向けている。

「おやまぁ4人そろって」

 姿見の前には、陽斗はるとみなと颯太そうた大牙たいがが仲良く狸になってひっくり返っていた。陽斗の手には白い布がしっかりと握られている。

 いったい誰にこの鏡のことを聞いたのか、子供というものは好奇心には逆らえないものらしい。

 翡翠は鏡へ布をかけようとして近づき、目に映ったものに驚いて一瞬動きを止めた。

―――― 時津彦様ではない。

「……は?」

 意味が分からなくて、二度三度瞬きをする。

 そこには翡翠が映っていた。というより、まるで普通の鏡のように、翡翠自身と倒れた子供達と室内の壁やドアが映し出されている。

(どういうことだ……? これは浄玻璃鏡ではないのか?)

 動揺する翡翠の耳に、愛しい声がぽつりと届く。

「ひすいさま、それがこわいかがみ?」
「咲夜!?」

 髪をひるがして、翡翠が振り向く。

「なぜここに……!」
「ご、ごめんなさ……」
「それよりすぐに目をつぶれ! 鏡を見てはいけない!」

 翡翠は咲夜に飛びついて、その可愛い瞳を隠すようにぎゅっと頭を抱きしめた。

「どうしてここまで来たんだ、咲夜」
「だって……」
「待っているように言ったであろう?」
「だって、きさらどーにいるあいだ、ずっといっしょにいてもいいって、やくそく……」
「確かにそう約束した。だが、咲夜まで気を失ってしまったら、私がどんなにつらいか考えなかったのか? 私は咲夜に怖いモノなど見せたくはないのだ」
「でも」
「でもとかだってとか言っても、ダメなものはダメなんだ。さぁ、目をつむってそのまま後ろへ……」
「でもそれ、ふつうのかがみだよ」
「え」
「だってさっき、ふつうにおれがうつってたもん」

 思わずゆるんだ翡翠の腕から咲夜が抜け出し、何でもないことのように浄玻璃鏡の前にすとんと立った。

「ほら! ふつうにおれがいて、へやのなかとかもうつってて……あれ?」
「どうした、咲夜」

 翡翠も鏡の前に行くと、さっと咲夜の顔が蒼ざめた。

「なんだ? やはり怖いモノが映ったのか?」
「……うつって、ない……! うつってない! うつってない!」

 映っていないと言いながら、咲夜が怖いモノを見たような顔でぎゅっと翡翠の手をつかんだ。

「ここにいるのに、うつってない……!」

 ハッとして翡翠は浄玻璃鏡を見る。
 やはり普通の鏡のように、翡翠自身の姿、倒れている狸達、そして部屋の壁を映しているが……。

「あっ!」

 それに気付いてしまった時、ぞぞぞっと背中に寒気が走った。
 鏡の中に、咲夜だけが映っていないのだ。

 翡翠は急いで鏡に布をかぶせ、咲夜の手を引いて逃げるように廊下へ飛び出した。

「ひ、ひすいさまが……!」
「大丈夫だ、咲夜」
「ひすいさまがいない……!」
「咲夜、咲夜、私を見ろ。私の目を見なさい。私はここにいる。ちゃんと咲夜の前にいる」
「うん……うん……ひすいさまがいる……」
「そうだ。私達は一緒にいる。ちゃんと一緒にいる」

―――― 咲夜の見る鏡には、翡翠がいない。
―――― 翡翠の見る鏡には、咲夜がいない。
 まるでふたりが別の世界にいるような……。
 まるで二人の運命を暗示するような……。

 ドクドクと心臓が鳴って、嫌な予感が体を寒くする。

「ひすいさまぁ……」
「大丈夫、大丈夫だ、咲夜」

 翡翠は両手で咲夜を抱きしめる。

(大丈夫、ここにいる。咲夜は私の腕の中にいる)

「うう……うああああん……」

 咲夜が翡翠の胸に顔を押し付けて、声を出して泣き始めた。
 翡翠の目にも、涙が浮かんでくる。

 震えながら抱き合っている内に、やっと複数の足音が近づいてきた。

「翡翠さん、大丈夫かい?」

 どすどすと大きな音を立てて近づいてくるのは、大狸の源吾だ。

「親分さん、子供たちは中に……」
「おう、助かった。野郎ども、急げ!」

 布を持った若い衆がバタバタと部屋に入っていく。

「翡翠さん、聞いてくれ。衣装屋がもう来ちまったんだ。気分が乗ってるから、すぐに始めたいって言ってよ」
「は? すぐ?」
「そう、すぐにだ。ほら、ふたりも布をかぶんな」

 ふわりと布がかけられ、翡翠と咲夜は一瞬で白い世界に包まれた。

 シャララララと明るく透き通った鈴の音が聞こえてくる。

「合図だ! 藍甕のふたが開くぞ! みんな布から出るんじゃねぇぞ!」
「へい、親分!」

 若い衆らの元気な返事が聞こえた後、あやかし館の廊下はしんと静まり返った。

 シャンシャンシャンと弾くような音で、7回、5回、3回、鈴が振られ、またシャララララと連続音を響かせる。
 ひたすらそれが繰り返される中、ずん、ずん、と地震のように床が揺れ始める。

「ひすいさま……ひめさまがきたの?」

 ふたりで布にくるまって、ひそひそ声で囁き合う。

「あぁ、そうだ。八目姫様が来た」
「すごく、ゆれるね」
「大丈夫、何も怖くない」
「うん、おれ、なにもこわくないよ。ひすいさまがいる」

 さっきまで泣いていたくせに、咲夜はもう笑っていた。
 白い布は光を通して、見つめ合う二人を照らす。
 咲夜の可愛い黒い瞳に、翡翠の姿が映っている。
 きっと、翡翠の緑の瞳にも、咲夜の姿が映っている。

「何も、怖くない。咲夜がいれば、何も怖くない……」

 やっと気付いたように、翡翠は呟いた。

(怖くない……私はもう怖くないんだ。時津彦様が……)

 いつか飽きられてしまって、時津彦様に元の絵を破られるかもしれないのに。
 相変わらず、時津彦様の手に命を握られているのに。

「ふふふ」
「ひすいさま、わらっている」
「あぁ、なんだかすごく楽しくて」
「えへへ、おれもたのしい」
「うん、楽しいな」
「たのしいな」

 翡翠は咲夜のおでこにチュッとキスをした。
 咲夜の黒い瞳がぱぁっと見開かれ、頬が紅潮して笑みがこぼれる。

「わー、おれもおれも! おれもそれする!」

 翡翠がかがんでやると、咲夜は背伸びして翡翠のおでこにチュッとキスをくれた。

 ふわっと体が浮いて天まで飛んでいきそうなほどに、翡翠の胸が高揚する。

「なぁ、咲夜。八目姫様を見てみたいか」
「うん、みてみたい!」

 躊躇なく答えた咲夜に、ふっと翡翠は笑いかけた。

「では、ふたりで青く染まってしまおうか?」

 ほんの一瞬、咲夜はきょとんと翡翠を見た。
 そして、ぱぁっと満面の笑みを浮かべた。

「ふたりでそまる!」
「よし、出るぞ!」

 翡翠は二人を覆っていた布をバサリと払いのける。
 途端に、翡翠と咲夜は前が見えないほどの青い霧に包まれた。


 
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