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57 救出

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 メイドに請われたからでも、女剣士に頼まれたからでもなく、三人の異変を感じて来てみれば、あまり予想していなかった場面に出くわした。

「はぁ」

 思わずため息が溢れる。

 俺の教え子たちは三人が三人とも服を剥ぎ取られて霰もない姿を晒している。与えた魔力紋があればほとんどの状況を切り抜けられると思っていたのに、まさか別れて一年と経たずにこのような状況に陥るとは……。

「別れるには早すぎたか?」

 一人前にするという契約はしっかり守ったつもりだったが、これだとなんか俺が手抜きをしたようではないか。

「貴様……何者だ?」

 胸に真っ赤な花を咲かせたピピナ。彼女の上に跨った男が聞いてくる。

「何者だと言われてもな」

 それは俺も知らない。ただ人間の身分を聞いているのであれば答えは簡単だ。

「冒険者をやっているクロウだ」
「クロウ~!? お前が、お前がクロウかっ!?」

 フローナの乳から顔を上げた男が憎々しげに睨んでくる。

 ……はて? 記憶にない顔だが、過去に俺と何かあったのだろうか。

「よくも、よくも、僕のローズマリーを汚したな。クソが! チクショク。何でお前がここにいるんだよ。訳ただずな暗殺者どもが。お前をぶっ殺して股間のものを切り取ってこいと命じたのに」

 その言葉で相手の正体が分かった。

「お前がラーズか」

 リーナ達の幼馴染。見たところ交尾の直前だったようだが、つまるところ俺に暗殺者を送ったのはコイツが三人に惚れてたのが原因? 百歩譲って三人とまだ一緒にいるならともかく、既に別れた相手をわざわざ殺害しようとするとは。人間は本当に好戦的な生き物だと思う。まぁ、俺も他種のことはあまり言えないのだが。

「お前がピピナの師か」

 ピピナの上からどくと、男がこちらに剣を向けてきた。

「? 折れた剣で何がしたいんだ?」
「折れた剣だと? ふん。貴様にはそう見えるのか。ピピナは貴様のことを随分と持ち上げていたが、その様子ではやはり過大な評価だったようだな」

 そう言って男が剣を振れば、床に一本の亀裂が走った。

「俺ほどになれば、このように研ぎ澄ました魔力がそのまま刃となる」

 困った。言いたかったことがうまく伝わってないようだ。なんて説明しようか? 

 言葉を探してたら男が問答無用で切り掛かってきた。

 人間にしては中々の速度。避けるのが面倒だったこともあり、男の剣は素直に俺の首に届いた。無論、そんなもの何の意味もないが。

「何だと!? 切れない? 馬鹿な! 貴様一体ーー」
「やっぱりお前の剣、折れてたぞ」

 顔面に拳を入れる。リーナ達の知り合いのようだし、死なせていいのか分からないので一応手加減はしておいた。

「ぷはぁ!?」

 とか何とか声を上げて、男は壁にめり込んだ。あの勢いで突き抜けないとは、人間の建物にしては中々頑丈な作りのようだ。

「おい、ピピナ。大丈夫か?」

 胸の傷……はこいつなら自力で治せる程度のものだ。ああ、呪術にかかっているのか。

 俺はピピナを縛り付ける呪を断ち切った。

「うっ!? ……し、師匠?」
「寝てろ。すぐに終わる」
「へへ。やっぱり師匠は……さい……きょ……」

 うっすらと開いたピピナの瞳が再び閉じる。俺は彼女の周りに結界をはった。

「フローナもこっちに寝かせるか」

 そんなわけでフローナを連れてこようとしたら、彼女に跨っている男が凶悪な目で睨んできた。

「なんだ? 何なんだよ、お前は!! 何でそんなことするんだ!! そんなのまるで、まるで……クソ、クソ、僕が、僕が彼女達の騎士になるはずだったのに。このぼーーブハァ!?」

 うるさいし、一応俺に対して敵対行動をとったことは間違いないので、殴って黙らせた。さっきの男の隣に食い込んだが、肉体の強度は前の男に劣るので、手加減が不十分だったかもしれない。リーナ達が目を覚ます前に生死を確認しておいた方が良さそうだ。

「うっ……クロ……さ、ん?」

 俺が抱き抱えるとフローナが一瞬だけ目を開けた。

「寝てろ」

 フローナにかかった呪術を解除して、ピピナの隣に寝かせる。

「まったく、手のかかる」

 しかし不思議と悪い気はしない。むしろ薬草をいくら集めても得られなかった充足感のようなものさえある。寝ている二人を見ていて沸き起こってくるこの感情は一体何なのか。とても興味深い。だが今はそれよりもーー

「待たせたか?」

 俺は先程からずっとこちらを観察している最後の一人、いや、悪魔へと声をかけた。
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