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53 違和感
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デビルキラー。悪魔に対して絶大な効果を発揮する剣王国の至宝。それにありったけの力を込めて守護剣と呼ばれる護国の騎士へと切り掛かるその最中、微かな違和感を覚えた。
先程は確かに行為の最中だったのに?
母の部屋は壁という区切りを全て廃され、大広間化していた。床にいくつもの術式が施された部屋の中心に石のベッドがあり、そこに母が生まれたままの姿で眠っている。
そこまでは魔法具で見たままの光景。だが無防備な母の隣に立つブライス卿は衣服を着ており、とても一瞬前まで不埒な行為をしていたようには見えない。
おかしい。
そうは思うものの、怒りのままに飛び出した体は既に静止の意思を受け付けない。さらには眼前でブライス卿が攻撃体制に入ったことで、刹那に生まれた違和感が吹き飛んだ。
刃を振り下ろす。それにブライス卿はーー
「弾け。『空弾』」
「なっ!?」
魔力の弾丸が私の横を素通りする。魔術との激突に備えていた私の剣は何の抵抗もなく守護剣の体を切り裂いた。
「どうして!?」
ブライス卿に、ではなく、彼の魔術をくらって吹き飛んだ男へと問いかける。
「ラーズ、まさか貴方……」
出来るなら私と一緒にブライス卿に攻撃しようとしたのだと信じたい。だが攻撃を合わせるにしても、あまりにも私の背後に接近しすぎてはいなかっただろうか? もしも彼に攻撃の意思があった場合、怒りに我を失っていた私に防げただろうか。
ゾクリ、と背筋に薄ら寒い感覚が走った。
そうだ。ピピナとラウは? もしもラーズが背後から私を狙ったのだとしたら、二人は何故止めてくれなかったのか。
二人を探して視線を部屋の入り口に戻せば、そこではーー
「なっ!? そ、そんな……」
ピピナの胸を片刃の反り返った剣が貫いている。口の端から赤い線を流しながら、ピピナが力なく振り返って背後から己を貫いた卑劣漢を睨みつけた。
「せ、せこいんじゃないかな?」
「不意打ちも立派な兵法だ。どれほどの才を持っていようともそんなことを言っている内は、まだまだ小娘だな。もっとも……」
ラウは刀を持っていないもう一方の手をピピナの背後から回すと、彼女の体を嫌らしく撫で回した。
「小ぶりだが、こちらの方は中々だ」
「くっ、はな……ゴホッ、ゴホッ」
「無駄だ。呪術の籠った刃に貫かれたのだ。しばらくは指一本動かせん」
今までと変わらぬ淡々とした口調でそう言いながら、ラウはピピナの首筋に口をつける。
誰もが認める剣士の堕落した姿を前に、私は悪夢の中に迷い込んだかのような錯覚を覚えた。
「よもや、貴様までもが裏切り者だったとはな」
「ブライス卿、傷は?」
「姫がすんでのところで剣を引いてくれたおかげで、薄皮が切れた程度で済みました。しかし……謀れましたな」
「申し訳ありません」
ことここに至っては誰が敵で誰が味方なのかはハッキリしている。信じられない。いや、信じたくない。だが……
「ラーズ、どうしてですか?」
幼馴染は魔術をくらって蹲っていた体を起こすと、苛立ちを隠そうともせずに舌を鳴らした。
先程は確かに行為の最中だったのに?
母の部屋は壁という区切りを全て廃され、大広間化していた。床にいくつもの術式が施された部屋の中心に石のベッドがあり、そこに母が生まれたままの姿で眠っている。
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おかしい。
そうは思うものの、怒りのままに飛び出した体は既に静止の意思を受け付けない。さらには眼前でブライス卿が攻撃体制に入ったことで、刹那に生まれた違和感が吹き飛んだ。
刃を振り下ろす。それにブライス卿はーー
「弾け。『空弾』」
「なっ!?」
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「どうして!?」
ブライス卿に、ではなく、彼の魔術をくらって吹き飛んだ男へと問いかける。
「ラーズ、まさか貴方……」
出来るなら私と一緒にブライス卿に攻撃しようとしたのだと信じたい。だが攻撃を合わせるにしても、あまりにも私の背後に接近しすぎてはいなかっただろうか? もしも彼に攻撃の意思があった場合、怒りに我を失っていた私に防げただろうか。
ゾクリ、と背筋に薄ら寒い感覚が走った。
そうだ。ピピナとラウは? もしもラーズが背後から私を狙ったのだとしたら、二人は何故止めてくれなかったのか。
二人を探して視線を部屋の入り口に戻せば、そこではーー
「なっ!? そ、そんな……」
ピピナの胸を片刃の反り返った剣が貫いている。口の端から赤い線を流しながら、ピピナが力なく振り返って背後から己を貫いた卑劣漢を睨みつけた。
「せ、せこいんじゃないかな?」
「不意打ちも立派な兵法だ。どれほどの才を持っていようともそんなことを言っている内は、まだまだ小娘だな。もっとも……」
ラウは刀を持っていないもう一方の手をピピナの背後から回すと、彼女の体を嫌らしく撫で回した。
「小ぶりだが、こちらの方は中々だ」
「くっ、はな……ゴホッ、ゴホッ」
「無駄だ。呪術の籠った刃に貫かれたのだ。しばらくは指一本動かせん」
今までと変わらぬ淡々とした口調でそう言いながら、ラウはピピナの首筋に口をつける。
誰もが認める剣士の堕落した姿を前に、私は悪夢の中に迷い込んだかのような錯覚を覚えた。
「よもや、貴様までもが裏切り者だったとはな」
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「申し訳ありません」
ことここに至っては誰が敵で誰が味方なのかはハッキリしている。信じられない。いや、信じたくない。だが……
「ラーズ、どうしてですか?」
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