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22 誘拐

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「別に貴方のことを忘れてたわけじゃないのよ~ ? というか、ふふ。あり得ないでしょう、貴方の様な個性的な生徒を忘れるなんて~」

 何かしら? ミララ先生、口調こそ穏やかだけど、怒りが隠しきれてない感じだわ。お姉様、何かしたのかしら?

 お姉様が色紙に新たな文字を書く。

『登校初日にしてこの存在感。さすわた』
「お姉様? さすわたとは何ですか?」
『流石は私の略です』
「ああ、なるほーーうっ!?」

 首筋に鋭い痛みが走った。

「嫌だわ~。姉妹揃って先生のこと無視しないでほしいわね~」

 先生の爪、ナイフというよりもまるで剣のような切れ味だわ。吸血鬼は魔族の中でも特に戦闘能力が高いと聞くし、私の力でこの状況を脱するのは難しそう。

「GA」
「あら、態度を改める気になったかしら?」
「GA」
「ごめんなさいね~。なんて言ってるのか分からないわ。お得意のお絵かきで教えてくるかしら。妹さんを人質に取られている今の気持ちを」
「お姉様、私のことはーーんぐっ!?」
「もう、シルビィさんったら、そんなに私の指を舐め舐めしたかったのかしら~? 良い子だから黙ってましょうね~」

 また口の中に指を入れられた。いっそ噛み付いてやろうかしら? あっ、でもこの爪、ナイフのように伸ばせるのよね。

 お姉様は口の中に凶器を入れられた私をジッと見つめた後、色紙にサラサラと文字を書いていく。そしてーー

「GA」

 いや、授業じゃないんだから、手を上げる必要はないでしょうに。

「流石は偽王。妹を人質に取られているというのに余裕ね~。そんなヘレナさんはこの状況で一体何を言いたいのかしら? はい、そう言うわけでヘレナさん。答えをどうぞ~」
「GA」

 お姉様が色紙をこちらに向ける。

『私の可愛い妹に手を出すと~』

 両面に書いていたようで、そこで色紙がクルリと反転する。

『死んじゃうぞ(>人<;)』

 お姉様の残像が見えた気がした。直後ーー

 ドカン!! と激しい音がしたと思ったら私の隣にお姉様が立っていた。

『お姉ちゃんの活躍見てくれた?』
「えっと、早すぎて何も見えませんでした」
『oh(T ^ T)』
「あの、お姉様? その変な顔のような絵は何ですか?」
『可愛くない?』
「え? うーん。……あっ、そんなことよりも先生はどうしたんですか?」
「GA」

 お姉様が指を刺した方向には大きな穴が開いた壁があった。人をどんな速度で叩きつければあんな風に穴が開くのかしら? 普通なら生存を疑うレベルだけど相手は吸血鬼なのよね。

「お姉様、倒したとは限りません。油断しないでくださいね」
『任せて~✌︎('ω'✌︎ )』

 私とお姉様は壁の穴を警戒する。するとーー

「きゃああああ」
「え ?」
「GA?」

 何で背後から悲鳴が? 慌てて振り返ってみればクラスメイト達が何やら驚いたような顔をしているだけで、特に何も……あれ?

「ロイ? ロイはどこ?」
「あの、ターニャ先生がいきなり起き上がったと思ったら、転移の魔法具でロイとクルス君を連れて行っちゃいました」
「そ、そんな!?」
『Σ(゚д゚lll)』

 転移の魔法具による誘拐。それは六年前の私達と同じじゃない。
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