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18 将来の可能性
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「お姉様、ちゃんと授業を受けられるなんて凄いですわ」
『妹の私に対する評価が低すぎる件』
あんな小さな色紙に長い文章をピッタリと合わせて書けるなんて、お姉様は達筆ね。内容については触れないでおきましょう。
「次はいよいよ実技の授業だけど、その様子だと大丈夫そうだね」
「GA」
「お姉様、文字で、文字でお願いします」
ヘレナお姉様の野性味あふれる声音に近くにいた生徒の何人かがビクリと反応した。
『すまぬ』
「いえ、お姉様のせいでは……。でもその言葉遣いはどうかと、お母様にまた怒られますよ」
『ごめんあそばせ』
貴族として間違った言葉ではないのだけど、なんかお姉様が使うと違和感が凄いわ。どうしてかしら?
『妹にナチュラルにディスられてる気がする』
「ディス? ちなみにヘレナ、後どれくらいで喋れそうとか分からないのかい?」
『全然。声帯難しすぎ、ワロタ』
「ん? 難しいだって?」
「……お姉様、それはどういう意味なんですか?」
てっきり能力の制御の問題で喋れないと思っていたのに。あっ、でもこれはお父様がそう思っただけで、お姉様が言ったわけじゃないのよね。
『森の中で喋る必要はなかったから、毒とか炎とかを吐いてたんだけど、そしたら喉の仕組みが変わって喋れなくなっちった』
なんでもないことのように言うけれど、お姉様が過ごした壮絶な日々の一端に触れた気がして、私はヘレナお姉様をギュッと抱きしめた。
「無理せず、ゆっくり取り戻していきましょう。声も、私達姉妹の時間も」
『GA』
お姉様ったらまた声を上げて。……でも、まぁいいわよね。誰にも文句は言わせないわ。
「ヘレナ。気になったんだけどさ、君は腕とか足とかを変形させても普通に戻してたよね? なんで声帯だけ無理なんだい?」
『腕とか足とかは形さえ整えれば中身は好きに弄ればいいけど、声帯はキチンとしてないと喋れないみたい』
「なるほど、一見普通に見えても、ヘレナの体内構造はもう僕らとはまったく別物なのか」
「ロイ、その言い方は……」
「ああ、ごめん。他意はないんだ。ヘレナがどんな風に変わろうが僕の大切な友人であることに変わりはないからね。でもだからこそ現状を正確に把握しておく必要があると思うんだ」
「それは……そうかもしれないけど」
何だかお姉様を魔物認定しようとしているみたいで嫌だわ。
「特に一番気になるのはヘレナの寿命だ。ドラゴンは数百年の時間を普通に生きるんだよ? その力を取り込んだヘレナ……どうなるんだろうね?」
「え? それってまさか……」
嫌な予感にお姉様を見る。するとお姉様は色紙にーー
『つまり私は永遠の十六歳。二人の介護は任せて』
あら、嫌だ。私としたことがお姉様に軽くイラッとしてしまったわ。
「もう、馬鹿なこと言わないでください」
「いや、十分にあり得る可能性だよ。少なくともそういう可能性も考慮しておくべきだ」
お姉様の戯言を真面目に検討するロイ。そんなロイを静かに見つめるお姉様。まるで一人だけ馬車に乗り遅れたようなお姉様の顔が気に入らなくて、私はお姉様の手を取った。
「大丈夫です。そんなことになったとしても絶対に私がお姉様を一人にはさせません。私がいなくなった後は私の子供が、私の子供が寿命を迎えても私の子供の子供がずっとお姉様と一緒にいます。だから絶対に大丈夫なんです」
「……シィ、G、ビ」
お姉様は私の名前を呼ぼうとしたけれど、それが出来ないと思い出して色紙に文字を書く。
『ありがとう』
「お姉様」
私は堪らなくなってまたお姉様を抱きしめる。これ以上ないくらい強く抱きしめる。そしたらーー
「貴方達、どこにもいないと思ったら。授業はとっくに始まってますよ! 早く来なさい!!」
先生にすっごく怒られてしまった。
『妹の私に対する評価が低すぎる件』
あんな小さな色紙に長い文章をピッタリと合わせて書けるなんて、お姉様は達筆ね。内容については触れないでおきましょう。
「次はいよいよ実技の授業だけど、その様子だと大丈夫そうだね」
「GA」
「お姉様、文字で、文字でお願いします」
ヘレナお姉様の野性味あふれる声音に近くにいた生徒の何人かがビクリと反応した。
『すまぬ』
「いえ、お姉様のせいでは……。でもその言葉遣いはどうかと、お母様にまた怒られますよ」
『ごめんあそばせ』
貴族として間違った言葉ではないのだけど、なんかお姉様が使うと違和感が凄いわ。どうしてかしら?
『妹にナチュラルにディスられてる気がする』
「ディス? ちなみにヘレナ、後どれくらいで喋れそうとか分からないのかい?」
『全然。声帯難しすぎ、ワロタ』
「ん? 難しいだって?」
「……お姉様、それはどういう意味なんですか?」
てっきり能力の制御の問題で喋れないと思っていたのに。あっ、でもこれはお父様がそう思っただけで、お姉様が言ったわけじゃないのよね。
『森の中で喋る必要はなかったから、毒とか炎とかを吐いてたんだけど、そしたら喉の仕組みが変わって喋れなくなっちった』
なんでもないことのように言うけれど、お姉様が過ごした壮絶な日々の一端に触れた気がして、私はヘレナお姉様をギュッと抱きしめた。
「無理せず、ゆっくり取り戻していきましょう。声も、私達姉妹の時間も」
『GA』
お姉様ったらまた声を上げて。……でも、まぁいいわよね。誰にも文句は言わせないわ。
「ヘレナ。気になったんだけどさ、君は腕とか足とかを変形させても普通に戻してたよね? なんで声帯だけ無理なんだい?」
『腕とか足とかは形さえ整えれば中身は好きに弄ればいいけど、声帯はキチンとしてないと喋れないみたい』
「なるほど、一見普通に見えても、ヘレナの体内構造はもう僕らとはまったく別物なのか」
「ロイ、その言い方は……」
「ああ、ごめん。他意はないんだ。ヘレナがどんな風に変わろうが僕の大切な友人であることに変わりはないからね。でもだからこそ現状を正確に把握しておく必要があると思うんだ」
「それは……そうかもしれないけど」
何だかお姉様を魔物認定しようとしているみたいで嫌だわ。
「特に一番気になるのはヘレナの寿命だ。ドラゴンは数百年の時間を普通に生きるんだよ? その力を取り込んだヘレナ……どうなるんだろうね?」
「え? それってまさか……」
嫌な予感にお姉様を見る。するとお姉様は色紙にーー
『つまり私は永遠の十六歳。二人の介護は任せて』
あら、嫌だ。私としたことがお姉様に軽くイラッとしてしまったわ。
「もう、馬鹿なこと言わないでください」
「いや、十分にあり得る可能性だよ。少なくともそういう可能性も考慮しておくべきだ」
お姉様の戯言を真面目に検討するロイ。そんなロイを静かに見つめるお姉様。まるで一人だけ馬車に乗り遅れたようなお姉様の顔が気に入らなくて、私はお姉様の手を取った。
「大丈夫です。そんなことになったとしても絶対に私がお姉様を一人にはさせません。私がいなくなった後は私の子供が、私の子供が寿命を迎えても私の子供の子供がずっとお姉様と一緒にいます。だから絶対に大丈夫なんです」
「……シィ、G、ビ」
お姉様は私の名前を呼ぼうとしたけれど、それが出来ないと思い出して色紙に文字を書く。
『ありがとう』
「お姉様」
私は堪らなくなってまたお姉様を抱きしめる。これ以上ないくらい強く抱きしめる。そしたらーー
「貴方達、どこにもいないと思ったら。授業はとっくに始まってますよ! 早く来なさい!!」
先生にすっごく怒られてしまった。
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