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1 ファーストコンタクト
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「ついに、ついに俺は戻ってきた!」
地上に。愛しい人間達が住う世界へと。実に三百年ぶりに。三百年、たったその程度の時間をこんなに長く感じたのは初めてだった。
「ル、ルド君? 大丈夫? 大丈夫なの?」
「ん? お前は……」
地面にへたり込んだ少女が俺を見上げている。後ろで一括りにされた緑色の髪に大きくパッチリとした赤い瞳。掛けている丸メガネがよく似合っている中々チャーミングな女の子だ。飴玉あげたい。いや飴玉でなくてもいい。何かあげて喜ばせたい。何せ三百年ぶりに肉体を通して見る生の人間だ。友達になりたい。彼女とは是非とも。何か彼女が喜ぶようなものを持ってはいないだろうか?
「だ、駄目だよ動いたら」
ポケットを弄ってたら少女が慌てて立ち上がった。しかし、はて。少女……と言っていいのだろうか? 千年も生きない人間の年齢は表現が難しい。だがレディを子供扱いして嫌われたくはない。多分見た感じだと十代の後半。少女か? 少女だと思う。だがこの少女がもしも三十歳だったら? 少女だ。五十歳の場合は? やはり少女だろう。……わからない。少女の基準が。あっ、ポケットにお金が入ってた。
「すまない少女よ。今君にあげられる物はこれだけのようだ」
ポケットに入ってた銅貨をプレゼントする。これの他にあげられる物がないとはいえ、お金は喜んでもらえる場合が多いので無難な選択肢とも言えた。……喜んでくれると良いのだが。
少女は受け取った銅貨と俺を何度か見比べた。
「お、落ちついて。ね? た、多分傷のショックで混乱してるんだと思うけど、今すぐにだ、誰か呼んでくるから。ああ、違う。違う。逃げなきゃ。早くここから逃げないと。だ、大丈夫だからね。絶対私がなんとかするから。だから、し、死なないでね、ルド君」
なんだか思っていた反応と違う。泣きそうだ。俺は笑って欲しいのに。言ってみようか? 笑ってと。しかし笑顔を強要するのは何か違う気がする。こういう時人間は……そうだ。冗談。冗談を言うのだ。
「君の顔に……スマ~イル!」
ニッコリと笑う。人を笑わせたいのでまずは俺から。あまり上手いことは言えなかったが、少なくとも正しい選択のはずだ。なのにーー
ブワリ! と少女の両の目から涙が溢れた。
「お、落ち着いて。だ、大丈夫。大丈夫だから。ハァハァ……わ、私がパニックになったらダメ。絶対。ル、ルド君はまだ大丈夫。まだ大丈夫だから…だ、だから……」
ああ、チャーミングな少女が泣いてしまう。なんとかしてあげたいが何故泣いてるのか理由が分からない。冗談がダメなら次は何をすれば良い? 思い出せ、人間の営みを。こういう時は……ハグだな。肌の触れ合いは心を落ち着かせる効果がある。これだ! 間違いない。
俺は両手を広げた。そして彼女を抱きしめーー
「ん? なんだこれ?」
腹部になにかあるぞ。これは……ナイフ? 何故ナイフが腹なんかに深々と突き刺さっているのか。
「邪魔だな」
少女を抱きしめるのにこの突起物は。だから引っこ抜いて放り捨てた。刀身が赤くなったナイフを。
「いやぁあああああああ!! ルド君!? ル、ル、ル、ルドぐぅうううん!? な、なんでこんな!? 早く抑えて。ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ、死んだら嫌だよルドぐぅううううん!!」
速い。凄まじい速さだ。少女は必死の形相で俺の体に手を当てる。正直に言おう。ちょっとビビッた。昔誰かが言っていた。泣く子には勝てないと。こういうことなのか? 納得した。今更になって。そして理解した。何故少女が泣いているのかを。
「ナイフが刺さった俺を心配していたのか。嬉しいが、その気遣いは不要だぞ」
「どうしよう! わた、わたしぃいいい!! ち、治癒魔術得意じゃなくて! でも、絶対、ぜ、ぜ、ぜ、絶対助けるからね。命に変えても、私がルド君を助けるからね!!」
困った。俺の話を全然聞く様子がないぞ。一先ず先に傷を治しておくか……と思ったらもう勝手に治っていた。まぁ、体はただの人間でも俺の恩恵を受けたのだ。この程度の傷ではむしろ死にようがないか。
「少女よ、心配してくれのは嬉しいんだが本当に大丈夫だ。傷はもう完璧にふさがーー」
ドスン! ドスン! と地面が揺れる。パニックに陥っていた少女の顔が一瞬で別物に切り替わった。凛々しい表情。戦士の顔だ。やはりプレゼントは飴玉よりも服とか武器とかの方が良さそうだ。
「この音に心当たりが?」
「大丈夫。ルド君は何も心配しなくていいから。私が……守るから」
質問の答えになってない。どうする? もう一度聞くか? だがしつこくはないだろうか? 同じことを何度も聞くのは。こいつとは友達になりたくないとか思われないだろうか?
悩んでいると音の正体が向こうから現れた。それは大きかった。少なくとも人と比べると。それは漆黒の鱗を持っていた。それと人の胴体ほどもある牙。瞳孔が縦に割れていて瞳は黄金に輝いていた。
「ドラゴンか」
この地上で最強の生物。ドラゴンは俺と少女を見るなりーー
「GUAAAAAAA!!」
牙を剥いた。
地上に。愛しい人間達が住う世界へと。実に三百年ぶりに。三百年、たったその程度の時間をこんなに長く感じたのは初めてだった。
「ル、ルド君? 大丈夫? 大丈夫なの?」
「ん? お前は……」
地面にへたり込んだ少女が俺を見上げている。後ろで一括りにされた緑色の髪に大きくパッチリとした赤い瞳。掛けている丸メガネがよく似合っている中々チャーミングな女の子だ。飴玉あげたい。いや飴玉でなくてもいい。何かあげて喜ばせたい。何せ三百年ぶりに肉体を通して見る生の人間だ。友達になりたい。彼女とは是非とも。何か彼女が喜ぶようなものを持ってはいないだろうか?
「だ、駄目だよ動いたら」
ポケットを弄ってたら少女が慌てて立ち上がった。しかし、はて。少女……と言っていいのだろうか? 千年も生きない人間の年齢は表現が難しい。だがレディを子供扱いして嫌われたくはない。多分見た感じだと十代の後半。少女か? 少女だと思う。だがこの少女がもしも三十歳だったら? 少女だ。五十歳の場合は? やはり少女だろう。……わからない。少女の基準が。あっ、ポケットにお金が入ってた。
「すまない少女よ。今君にあげられる物はこれだけのようだ」
ポケットに入ってた銅貨をプレゼントする。これの他にあげられる物がないとはいえ、お金は喜んでもらえる場合が多いので無難な選択肢とも言えた。……喜んでくれると良いのだが。
少女は受け取った銅貨と俺を何度か見比べた。
「お、落ちついて。ね? た、多分傷のショックで混乱してるんだと思うけど、今すぐにだ、誰か呼んでくるから。ああ、違う。違う。逃げなきゃ。早くここから逃げないと。だ、大丈夫だからね。絶対私がなんとかするから。だから、し、死なないでね、ルド君」
なんだか思っていた反応と違う。泣きそうだ。俺は笑って欲しいのに。言ってみようか? 笑ってと。しかし笑顔を強要するのは何か違う気がする。こういう時人間は……そうだ。冗談。冗談を言うのだ。
「君の顔に……スマ~イル!」
ニッコリと笑う。人を笑わせたいのでまずは俺から。あまり上手いことは言えなかったが、少なくとも正しい選択のはずだ。なのにーー
ブワリ! と少女の両の目から涙が溢れた。
「お、落ち着いて。だ、大丈夫。大丈夫だから。ハァハァ……わ、私がパニックになったらダメ。絶対。ル、ルド君はまだ大丈夫。まだ大丈夫だから…だ、だから……」
ああ、チャーミングな少女が泣いてしまう。なんとかしてあげたいが何故泣いてるのか理由が分からない。冗談がダメなら次は何をすれば良い? 思い出せ、人間の営みを。こういう時は……ハグだな。肌の触れ合いは心を落ち着かせる効果がある。これだ! 間違いない。
俺は両手を広げた。そして彼女を抱きしめーー
「ん? なんだこれ?」
腹部になにかあるぞ。これは……ナイフ? 何故ナイフが腹なんかに深々と突き刺さっているのか。
「邪魔だな」
少女を抱きしめるのにこの突起物は。だから引っこ抜いて放り捨てた。刀身が赤くなったナイフを。
「いやぁあああああああ!! ルド君!? ル、ル、ル、ルドぐぅうううん!? な、なんでこんな!? 早く抑えて。ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ、死んだら嫌だよルドぐぅううううん!!」
速い。凄まじい速さだ。少女は必死の形相で俺の体に手を当てる。正直に言おう。ちょっとビビッた。昔誰かが言っていた。泣く子には勝てないと。こういうことなのか? 納得した。今更になって。そして理解した。何故少女が泣いているのかを。
「ナイフが刺さった俺を心配していたのか。嬉しいが、その気遣いは不要だぞ」
「どうしよう! わた、わたしぃいいい!! ち、治癒魔術得意じゃなくて! でも、絶対、ぜ、ぜ、ぜ、絶対助けるからね。命に変えても、私がルド君を助けるからね!!」
困った。俺の話を全然聞く様子がないぞ。一先ず先に傷を治しておくか……と思ったらもう勝手に治っていた。まぁ、体はただの人間でも俺の恩恵を受けたのだ。この程度の傷ではむしろ死にようがないか。
「少女よ、心配してくれのは嬉しいんだが本当に大丈夫だ。傷はもう完璧にふさがーー」
ドスン! ドスン! と地面が揺れる。パニックに陥っていた少女の顔が一瞬で別物に切り替わった。凛々しい表情。戦士の顔だ。やはりプレゼントは飴玉よりも服とか武器とかの方が良さそうだ。
「この音に心当たりが?」
「大丈夫。ルド君は何も心配しなくていいから。私が……守るから」
質問の答えになってない。どうする? もう一度聞くか? だがしつこくはないだろうか? 同じことを何度も聞くのは。こいつとは友達になりたくないとか思われないだろうか?
悩んでいると音の正体が向こうから現れた。それは大きかった。少なくとも人と比べると。それは漆黒の鱗を持っていた。それと人の胴体ほどもある牙。瞳孔が縦に割れていて瞳は黄金に輝いていた。
「ドラゴンか」
この地上で最強の生物。ドラゴンは俺と少女を見るなりーー
「GUAAAAAAA!!」
牙を剥いた。
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