24 / 35
第23話 エンリケ・オーハイムの包囲網
しおりを挟む
『各自配置についたな』
司教から遠話の法術で声が届く。要は電話のような法術のようだ。
全ての聖女、全ての騎士団員が配置についた。
シュレイグの東側、住宅街と言って良い場所だろう。ファンタジーで見るようなレンガ造りの家が連なり、煙突からは煙が出ている。
俺たちからは300mほど離れているだろうか。そこにある一軒の廃屋にエンリケは潜伏しているらしい。
いよいよだった。
国際的な重犯罪者、聖人エンリケ・オーハイムとの戦いが始まる。
選りすぐりの聖女10人、教会騎士団員の精鋭50人。これだけの人数をかいくぐる方法があるとは俺には思えなかった。
「緊張してる? エリスちゃん」
「力入れてると逆に動けないぞ。深呼吸だ深呼吸」
「は、はい!」
一緒に配置についている2人の聖女はエリスを励ましてくれた。良い人たちである。ほんわかした赤髪の人がミリア、勝気な褐色の肌の人がイザベルという名前らしい。ミリアは天使のような守護者、イザベルは青い球の守護者だった。
俺たちの他に騎士団の魔法使いが4人。ここは6人体制だ。こういった後衛が5チームで周囲を囲み、アルメアとディアナ率いる前衛が1チーム。合計6チームの布陣でエンリケに挑む。
『では、作戦を開始する。各自、務めを果たすように』
『了解』
一斉に遠話が飛んだ。
いよいよ作戦が始まった。
それと同時だった。
「なんだありゃあ!?」
俺は思わず叫んだ。
ディアナたちが陣取っているはずの最前衛、エンリケのいる家屋、そこから大きな光の柱が立ち上ったのだ。
「あれがアルトリウス様の光の柱。アルメア様が対象としたもののみを貫く神の剣です」
「なんだって!?」
「おそらく、今エンリケが潜伏している家屋は蒸発しているはずです」
そして、そのまま光の柱は光の波動を放ちながら周囲一体を照らし出した。
なんだあれは。アルメアの守護者はリスキル最強とは聞いていたが規模が違う。
俺も守護者としては最上位と言われたがそんな称賛かすんでしまう。格が違いすぎる。
あんなもん勝てるわけがない。間合いがどうとかのレベルじゃないぞ。
「普通ならこれで勝負ありだけど」
「ていうか戦意喪失だわな。アタシら必要だったのかね」
ミリアとイザベラも口々に言っていた。確かに、普通ならあれで勝負がつきそうなものだが。
「お? 始まったか。それなりの使い手ってことだな」
光の柱が立ち上ったあたり、そこから何かが砕ける音が響いた。それとともに土埃が巻き上がる。明らかに戦闘が始まっている。
前衛はアルメア、ディアナを含めた18人。エンリケはそれと戦うことにしたらしい。よほどの自信があるのか。
「では、私たちも始めましょう」
「ああ、守りは任せたぞエリス」
「はい!」
ミリアとイザベラも守護者を顕現させた。
ミリアはバフ係、イザベラは遠隔で秘跡を発動させるようだ。
他の配置からも法術や秘蹟が飛んでいる。
すさまじい光景だった。
エンリケはこの包囲網を抜けれるのか。無理に決まっている。こんなものエンリケがどれだけの聖人でもたった1人で抜けれるわけがない。
「そぉら!」
イザベラが秘跡を飛ばす。確か対象の範囲の重力を操る能力だと聞いている。ミリアはバフをかけている。
50人の総攻撃がエンリケを襲っている。
形勢は明らかだった。
だが、その時だった。
『グォオオオオオオオオオ!!!』
突然地鳴りが響いた。いや、地鳴りではなかった。それは鳴き声だった。
エンリケとの戦闘が行われているあたり、そこから巨大な顎が現れた。それから長い胴体が流れるように出てくる。
現れたのはドラゴンだった。
俺が元いた日本の龍のようなフォルムの真っ黒なドラゴンだった。
「ドラゴンだぞ!!」
「なんでこんなところに!?」
俺たちの配置の全員が狼狽えている。
ドラゴンは最上位のモンスター、それがいきなり現れたのだから取り乱すのも無理はない。
だが、本当に一体なぜ。
『ドラゴン出現! ドラゴン出現! エンリケの守護者の能力により影より出現!」
なんだって。これはエンリケが出したのか。
そうか、エンリケは影の中に自由に出入りできる。それはつまり他のものも入れれるということなのか。
だが、
「今までこんな戦術を使った報告なんかなかったぞ」
「切り札ってことなんでしょう」
そうだ、エンリケは今までモンスターを影から出したなんて報告は聞かなかった。それもドラゴン。こんなものを住宅街で出すなんて、それはつまり誰が何人死のうが構わないと言っているようなものだ。
『前線のアルメア様他数名はドラゴンへの対応を優先する! それ以外で作戦を続行する!』
大変なことになってしまった。一気に現場は緊迫感の包まれる。それにアルメアと数人であのドラゴンをどうにかできるのか。
と、次の瞬間、巨大な光の柱がドラゴンを貫いた。
『グォオオオオオオオオオ!』
ドラゴンが鳴くとその周りに雷雲が現れる。そして、そこから爆雷が降り注いだ。しかし、アルトリウスから放たれた光の帯がそれを弾いた。
本当にアルメアのアルトリウスはドラゴンとやりあっている。とんでもない話だ。
ならドラゴンはアルメアの任せて俺たちは俺たちのことをやらなくてはならない。
と、その時だった。
俺の視界の端を何かがかすめる。
「うらぁあっ!!!」
勘でその方向を俺は殴りつけた。
「なんだってんだクソが!!」
何かが拳にあたり、弾き出された。
それは男だったら。汚らしい格好の男。神はボサボサだ。そして、その後ろには黒い立体化した影のようなものがいた。
「エンリケ・オーハイム!」
エリスが叫んだ。
司教から遠話の法術で声が届く。要は電話のような法術のようだ。
全ての聖女、全ての騎士団員が配置についた。
シュレイグの東側、住宅街と言って良い場所だろう。ファンタジーで見るようなレンガ造りの家が連なり、煙突からは煙が出ている。
俺たちからは300mほど離れているだろうか。そこにある一軒の廃屋にエンリケは潜伏しているらしい。
いよいよだった。
国際的な重犯罪者、聖人エンリケ・オーハイムとの戦いが始まる。
選りすぐりの聖女10人、教会騎士団員の精鋭50人。これだけの人数をかいくぐる方法があるとは俺には思えなかった。
「緊張してる? エリスちゃん」
「力入れてると逆に動けないぞ。深呼吸だ深呼吸」
「は、はい!」
一緒に配置についている2人の聖女はエリスを励ましてくれた。良い人たちである。ほんわかした赤髪の人がミリア、勝気な褐色の肌の人がイザベルという名前らしい。ミリアは天使のような守護者、イザベルは青い球の守護者だった。
俺たちの他に騎士団の魔法使いが4人。ここは6人体制だ。こういった後衛が5チームで周囲を囲み、アルメアとディアナ率いる前衛が1チーム。合計6チームの布陣でエンリケに挑む。
『では、作戦を開始する。各自、務めを果たすように』
『了解』
一斉に遠話が飛んだ。
いよいよ作戦が始まった。
それと同時だった。
「なんだありゃあ!?」
俺は思わず叫んだ。
ディアナたちが陣取っているはずの最前衛、エンリケのいる家屋、そこから大きな光の柱が立ち上ったのだ。
「あれがアルトリウス様の光の柱。アルメア様が対象としたもののみを貫く神の剣です」
「なんだって!?」
「おそらく、今エンリケが潜伏している家屋は蒸発しているはずです」
そして、そのまま光の柱は光の波動を放ちながら周囲一体を照らし出した。
なんだあれは。アルメアの守護者はリスキル最強とは聞いていたが規模が違う。
俺も守護者としては最上位と言われたがそんな称賛かすんでしまう。格が違いすぎる。
あんなもん勝てるわけがない。間合いがどうとかのレベルじゃないぞ。
「普通ならこれで勝負ありだけど」
「ていうか戦意喪失だわな。アタシら必要だったのかね」
ミリアとイザベラも口々に言っていた。確かに、普通ならあれで勝負がつきそうなものだが。
「お? 始まったか。それなりの使い手ってことだな」
光の柱が立ち上ったあたり、そこから何かが砕ける音が響いた。それとともに土埃が巻き上がる。明らかに戦闘が始まっている。
前衛はアルメア、ディアナを含めた18人。エンリケはそれと戦うことにしたらしい。よほどの自信があるのか。
「では、私たちも始めましょう」
「ああ、守りは任せたぞエリス」
「はい!」
ミリアとイザベラも守護者を顕現させた。
ミリアはバフ係、イザベラは遠隔で秘跡を発動させるようだ。
他の配置からも法術や秘蹟が飛んでいる。
すさまじい光景だった。
エンリケはこの包囲網を抜けれるのか。無理に決まっている。こんなものエンリケがどれだけの聖人でもたった1人で抜けれるわけがない。
「そぉら!」
イザベラが秘跡を飛ばす。確か対象の範囲の重力を操る能力だと聞いている。ミリアはバフをかけている。
50人の総攻撃がエンリケを襲っている。
形勢は明らかだった。
だが、その時だった。
『グォオオオオオオオオオ!!!』
突然地鳴りが響いた。いや、地鳴りではなかった。それは鳴き声だった。
エンリケとの戦闘が行われているあたり、そこから巨大な顎が現れた。それから長い胴体が流れるように出てくる。
現れたのはドラゴンだった。
俺が元いた日本の龍のようなフォルムの真っ黒なドラゴンだった。
「ドラゴンだぞ!!」
「なんでこんなところに!?」
俺たちの配置の全員が狼狽えている。
ドラゴンは最上位のモンスター、それがいきなり現れたのだから取り乱すのも無理はない。
だが、本当に一体なぜ。
『ドラゴン出現! ドラゴン出現! エンリケの守護者の能力により影より出現!」
なんだって。これはエンリケが出したのか。
そうか、エンリケは影の中に自由に出入りできる。それはつまり他のものも入れれるということなのか。
だが、
「今までこんな戦術を使った報告なんかなかったぞ」
「切り札ってことなんでしょう」
そうだ、エンリケは今までモンスターを影から出したなんて報告は聞かなかった。それもドラゴン。こんなものを住宅街で出すなんて、それはつまり誰が何人死のうが構わないと言っているようなものだ。
『前線のアルメア様他数名はドラゴンへの対応を優先する! それ以外で作戦を続行する!』
大変なことになってしまった。一気に現場は緊迫感の包まれる。それにアルメアと数人であのドラゴンをどうにかできるのか。
と、次の瞬間、巨大な光の柱がドラゴンを貫いた。
『グォオオオオオオオオオ!』
ドラゴンが鳴くとその周りに雷雲が現れる。そして、そこから爆雷が降り注いだ。しかし、アルトリウスから放たれた光の帯がそれを弾いた。
本当にアルメアのアルトリウスはドラゴンとやりあっている。とんでもない話だ。
ならドラゴンはアルメアの任せて俺たちは俺たちのことをやらなくてはならない。
と、その時だった。
俺の視界の端を何かがかすめる。
「うらぁあっ!!!」
勘でその方向を俺は殴りつけた。
「なんだってんだクソが!!」
何かが拳にあたり、弾き出された。
それは男だったら。汚らしい格好の男。神はボサボサだ。そして、その後ろには黒い立体化した影のようなものがいた。
「エンリケ・オーハイム!」
エリスが叫んだ。
10
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる