9 / 35
第8話 ブチ切れと決着
しおりを挟む
「きゃあっ!!」
エリスが声を上げる。
あまりにも突然のことだった。
ライカンスロープが飛びかかったのは明らかに俺たちではなかった。
俺たちから2mほどの横、そこに目がけて飛びかかっていた。
そして、エリスはその攻撃を阻むように身を投げ出したのだ。
突然だったので俺の反応も間に合わなかった。
なんとか拳で爪を弾こうとしたが完全ではなかった。爪はエリスの法衣に当たってしまっていた。エリスは跳ね飛ばされた。
「くっ....!!!」
「大丈夫かエリス!!!」
「私は大丈夫です。それより、あなたたちは大丈夫ですか?」
エリスが声をかけたのは俺ではなかった。あなたたちと言っているのだから当たり前だ。
エリスは目の前の人物たちに声をかけたのだ。
すなわち、茂みの陰に隠れていた2人の子供に。
「あぁ....聖女様....」
「良かった、ケガはないみたいですね」
この子達は村で見た子供達だった。エリスにカゴいっぱいの花びらを放っていた子供達のうちの2人。
なぜこんなところに。
「ご、ごめん聖女様。俺たち、聖女様が戦うところが見たくて...」
なるほど、俺たちに気づかれないように着いてきていたのか。
「そうでしたか! ですが、戦いの場は危ないですよ。ちゃんと村で待っているべきです」
「ごめんなさい! ごめんなさい! あの...血が出てるよ聖女様....!」
見ればエリスの横原、そこから血が流れていた。法衣が修復し切っていない部分に爪が当たっていたのだ。
「エリス!」
俺はライカンスロープに注意を払いつつ叫んだ。
「大丈夫ですマコト様。この程度なら法術で治せますよ。それより、血染めの咆哮から目を逸らさないようにお願いします」
「エリス...」
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい聖女様」
2人の子供は涙を浮かべて泣き出してしまった。
「良いんですよ、これくらいなんともありません。あなたたちが無事で本当に良かった。今から私とこの強い守護者様があのモンスターをやっつけますからね! 見ててください!」
なんてことだ。エリスのお人よしは底なしだった。
弱い俺も、戦闘に割り込んだ子供たちにもまるで怒りなんか抱いていなかった。
なんて良い娘なのか。
『グルル』
目の前のライカンスロープはまるで敵意を薄れさせてはいなかった。
下手をすればこの状況を作り出そうとしていた可能性もある。狡猾なモンスターだ。人間が子供を守ろうとする性質を理解しているのかもしれない。
真相はわからない。俺にモンスターの気持ちは分からない。
しかし、
『グルルァァアア!!!!』
そのまま襲いかかってきたライカンスロープを見て俺は確かに聞いた。
頭の中で『ブツン』という音が響くのを。
「こんな良い娘に、なにさらしてくれてんだテメエェエ────ッ!!!!!!」
俺はブチ切れていた。
エリスを守れなかった自分の不甲斐なさもある。だが、それ以上にこのライカンスロープがエリスを傷つけたということが俺の怒りを爆発させた。
そして、その瞬間だった。なにかが、体の中の何かが、歯車のようななにかがガチリとはまる感じがしたのだ。
途端、力がみなぎってきた。
途端、体が軽くなった
途端、全てが見えるようになった。
『グルァアア!!!』
俺たちに襲いかかってくるライカンスロープ。さっきまでバッティングセンターの球のようだと形容していたライカンスロープ。またすさまじい緩急をつけた動きをしてくる。
しかし、全部見えた。速さの体感も同じ、動きのランダムさも同じ。振るわれる爪の速度も同じ。だが、全てが手に取るように分かった。
「ウラァッ!!!!!」
襲いくるライカンスロープ、その鳩尾に俺のアッパーが吸い込まれるように入った。
ライカンスロープは宙に浮き上がる。
ライカンスロープはもう回避のしようがない。
俺はそこに、
「ウラウラウラウラウラウラッ!!!!!」
全力でラッシュを叩き込んだ。
すさまじい連撃がライカンスロープの体を打ち抜き続ける。
『グガァアアァア!!!』
「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラーッ!!!!!」
宙で地面を砕くパンチの雨を受けたライカンスロープは体がぶち砕かれていく。
もはや、抵抗することさえない。
ただ殴り続けられる肉塊だ。
そして、
「ウラァアッッッ!!!!!!」
俺は最後に渾身の右ストレートを打ち込み吹っ飛ばした。
ライカンスロープは吹っ飛び、地面ににぶい音を立てて落ちた。
そして、そのまま黒い霧になって消えていった。
「ボケナスがッ!!」
俺は最後に言ってやった。
目の前ではライカンスロープが完全に霧になって消えていた。
目にもの見せてやった。
一昨日きやがれドチクショウが。
こんな良い娘を傷つけてやがって。
「す、すごい....!」
後ろで声がした。無論、エリスだった。
「す、すごい! すごいですよマコト様!!! 血染めの咆哮をこんなにあっという間に!!!」
エリスは嬉しそうに跳ねている。
傷が淡く光っていた。法術で回復しているようだ。本当に良かった。
「なんか....頑張ったら倒せた」
俺は素直な感想を口にした。あまりにも素朴な感想だった。
なぜなのか、ブチ切れた瞬間からすごい力が身体中にみなぎっていた。そしてその力のままに戦ったのだ。
それに、なんかジョ○ョみたいなラッシュをしてしまった。若干恥ずかしくなったが、なぜか自然とやってしまった。これも守護者としての性質だとでも言うのか。
「すごいすごい!!! 勝ったんですよ私たち!!!!」
「あ、そうか」
そこでようやく俺は血染めの咆哮を倒したのだと言う事実に気づいた。無我夢中だったのだ。
エリスが手を挙げている。
俺はそれに応じた。
エリスと俺の手のひらが打ち合わされ良い音が鳴った。
こうしてエリスと俺の聖女としての初仕事は終わったのだった。
エリスが声を上げる。
あまりにも突然のことだった。
ライカンスロープが飛びかかったのは明らかに俺たちではなかった。
俺たちから2mほどの横、そこに目がけて飛びかかっていた。
そして、エリスはその攻撃を阻むように身を投げ出したのだ。
突然だったので俺の反応も間に合わなかった。
なんとか拳で爪を弾こうとしたが完全ではなかった。爪はエリスの法衣に当たってしまっていた。エリスは跳ね飛ばされた。
「くっ....!!!」
「大丈夫かエリス!!!」
「私は大丈夫です。それより、あなたたちは大丈夫ですか?」
エリスが声をかけたのは俺ではなかった。あなたたちと言っているのだから当たり前だ。
エリスは目の前の人物たちに声をかけたのだ。
すなわち、茂みの陰に隠れていた2人の子供に。
「あぁ....聖女様....」
「良かった、ケガはないみたいですね」
この子達は村で見た子供達だった。エリスにカゴいっぱいの花びらを放っていた子供達のうちの2人。
なぜこんなところに。
「ご、ごめん聖女様。俺たち、聖女様が戦うところが見たくて...」
なるほど、俺たちに気づかれないように着いてきていたのか。
「そうでしたか! ですが、戦いの場は危ないですよ。ちゃんと村で待っているべきです」
「ごめんなさい! ごめんなさい! あの...血が出てるよ聖女様....!」
見ればエリスの横原、そこから血が流れていた。法衣が修復し切っていない部分に爪が当たっていたのだ。
「エリス!」
俺はライカンスロープに注意を払いつつ叫んだ。
「大丈夫ですマコト様。この程度なら法術で治せますよ。それより、血染めの咆哮から目を逸らさないようにお願いします」
「エリス...」
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい聖女様」
2人の子供は涙を浮かべて泣き出してしまった。
「良いんですよ、これくらいなんともありません。あなたたちが無事で本当に良かった。今から私とこの強い守護者様があのモンスターをやっつけますからね! 見ててください!」
なんてことだ。エリスのお人よしは底なしだった。
弱い俺も、戦闘に割り込んだ子供たちにもまるで怒りなんか抱いていなかった。
なんて良い娘なのか。
『グルル』
目の前のライカンスロープはまるで敵意を薄れさせてはいなかった。
下手をすればこの状況を作り出そうとしていた可能性もある。狡猾なモンスターだ。人間が子供を守ろうとする性質を理解しているのかもしれない。
真相はわからない。俺にモンスターの気持ちは分からない。
しかし、
『グルルァァアア!!!!』
そのまま襲いかかってきたライカンスロープを見て俺は確かに聞いた。
頭の中で『ブツン』という音が響くのを。
「こんな良い娘に、なにさらしてくれてんだテメエェエ────ッ!!!!!!」
俺はブチ切れていた。
エリスを守れなかった自分の不甲斐なさもある。だが、それ以上にこのライカンスロープがエリスを傷つけたということが俺の怒りを爆発させた。
そして、その瞬間だった。なにかが、体の中の何かが、歯車のようななにかがガチリとはまる感じがしたのだ。
途端、力がみなぎってきた。
途端、体が軽くなった
途端、全てが見えるようになった。
『グルァアア!!!』
俺たちに襲いかかってくるライカンスロープ。さっきまでバッティングセンターの球のようだと形容していたライカンスロープ。またすさまじい緩急をつけた動きをしてくる。
しかし、全部見えた。速さの体感も同じ、動きのランダムさも同じ。振るわれる爪の速度も同じ。だが、全てが手に取るように分かった。
「ウラァッ!!!!!」
襲いくるライカンスロープ、その鳩尾に俺のアッパーが吸い込まれるように入った。
ライカンスロープは宙に浮き上がる。
ライカンスロープはもう回避のしようがない。
俺はそこに、
「ウラウラウラウラウラウラッ!!!!!」
全力でラッシュを叩き込んだ。
すさまじい連撃がライカンスロープの体を打ち抜き続ける。
『グガァアアァア!!!』
「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラーッ!!!!!」
宙で地面を砕くパンチの雨を受けたライカンスロープは体がぶち砕かれていく。
もはや、抵抗することさえない。
ただ殴り続けられる肉塊だ。
そして、
「ウラァアッッッ!!!!!!」
俺は最後に渾身の右ストレートを打ち込み吹っ飛ばした。
ライカンスロープは吹っ飛び、地面ににぶい音を立てて落ちた。
そして、そのまま黒い霧になって消えていった。
「ボケナスがッ!!」
俺は最後に言ってやった。
目の前ではライカンスロープが完全に霧になって消えていた。
目にもの見せてやった。
一昨日きやがれドチクショウが。
こんな良い娘を傷つけてやがって。
「す、すごい....!」
後ろで声がした。無論、エリスだった。
「す、すごい! すごいですよマコト様!!! 血染めの咆哮をこんなにあっという間に!!!」
エリスは嬉しそうに跳ねている。
傷が淡く光っていた。法術で回復しているようだ。本当に良かった。
「なんか....頑張ったら倒せた」
俺は素直な感想を口にした。あまりにも素朴な感想だった。
なぜなのか、ブチ切れた瞬間からすごい力が身体中にみなぎっていた。そしてその力のままに戦ったのだ。
それに、なんかジョ○ョみたいなラッシュをしてしまった。若干恥ずかしくなったが、なぜか自然とやってしまった。これも守護者としての性質だとでも言うのか。
「すごいすごい!!! 勝ったんですよ私たち!!!!」
「あ、そうか」
そこでようやく俺は血染めの咆哮を倒したのだと言う事実に気づいた。無我夢中だったのだ。
エリスが手を挙げている。
俺はそれに応じた。
エリスと俺の手のひらが打ち合わされ良い音が鳴った。
こうしてエリスと俺の聖女としての初仕事は終わったのだった。
20
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
【欧米人名一覧・50音順】異世界恋愛、異世界ファンタジーの資料集
早奈恵
エッセイ・ノンフィクション
異世界小説を書く上で、色々集めた資料の保管庫です。
男女別、欧米人の人名一覧(50音順)を追加してます!
貴族の爵位、敬称、侍女とメイド、家令と執事と従僕、etc……。
瞳の色、髪の色、etc……。
自分用に集めた資料を公開して、皆さんにも役立ててもらおうかなと思っています。
コツコツと、まとめられたものから掲載するので段々増えていく予定です。
自分なりに調べた内容なので、もしかしたら間違いなどもあるかもしれませんが、よろしかったら活用してください。
*調べるにあたり、ウィキ様にも大分お世話になっております。ペコリ(o_ _)o))
【完結】飛行機で事故に遭ったら仙人達が存在する異世界に飛んだので、自分も仙人になろうと思います ー何事もやってみなくちゃわからないー
光城 朱純
ファンタジー
空から落ちてる最中の私を助けてくれたのは、超美形の男の人。
誰もいない草原で、私を拾ってくれたのは破壊力抜群のイケメン男子。
私の目の前に現れたのは、サラ艶髪の美しい王子顔。
えぇ?! 私、仙人になれるの?!
異世界に飛んできたはずなのに、何やれば良いかわかんないし、案内する神様も出てこないし。
それなら、仙人になりまーす。
だって、その方が楽しそうじゃない?
辛いことだって、楽しいことが待ってると思えば、何だって乗り越えられるよ。
ケセラセラだ。
私を救ってくれた仙人様は、何だか色々抱えてそうだけど。
まぁ、何とかなるよ。
貴方のこと、忘れたりしないから
一緒に、生きていこう。
表紙はAIによる作成です。
婚約者の義妹に結婚を大反対されています
泉花ゆき
恋愛
伯爵令嬢のケリーティアは侯爵令息であるウィリアムとの結婚を控えている。
いわゆる婚約者同士ということだ。
両家の話し合いもまとまって、このまま行けば順当に式を挙げることになっていたが……
ウィリアムとは血の繋がらない妹のルイスが、いつまでも二人の結婚を反対していた。
ルイスの度重なる嫌がらせは次第に犯罪じみたものになっていき、ウィリアムに訴えても取り合われない……我慢の限界を迎えたケリーティアは、婚約破棄を決意する。
そして婚約破棄をしたケリーティアは遠慮することなくルイスの悪行を暴いていく。
広がってゆく義妹の悪評は、彼女がベタ惚れしているルイス自身の婚約者の耳に入ることとなって……
※ゆるゆる設定です
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
もしも、工作が好きな普通の男の子が伝説のスキルを手に入れたら
小林一咲
ファンタジー
「君は錬金術師になれる」
両親を亡くしたシント・レーブルは、悲壮感の中に居た。
何故両親は死ななければならなかったのか。
何故自分だけが生き残ったのか。
これから、一体どうしたら良いのか。
そんな時『世界一の錬金術師』に声をかけられる。
錬金術の上位互換『起源術』でドン底から登り詰める!
これは、1人の男の子が自分才能を見出し、起源術師として、人として成長する物語である。
転生王子はダラけたい
朝比奈 和
ファンタジー
大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。
束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!
と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!
ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!
ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり!
※2016年11月。第1巻
2017年 4月。第2巻
2017年 9月。第3巻
2017年12月。第4巻
2018年 3月。第5巻
2018年 8月。第6巻
2018年12月。第7巻
2019年 5月。第8巻
2019年10月。第9巻
2020年 6月。第10巻
2020年12月。第11巻 出版しました。
PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。
投稿継続中です。よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる