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第7話 守護者としての力

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「このまま押し切りましょう。マコト様」

「了解だ」


 唸るライカンスロープ。しかし、一度捉えたならあとはもう何度も来ようが同じことだ。

 一度打てたボールは何度来ようが同じ軌跡ならば打ち返せる。

 同じ軌跡ならば。


「来ます!」


 ライカンスロープが再び飛びかかってくる。

 しかし、今度は動きが違った。なんというかその動きが波打っていた。動きにすさまじい緩急がついているのだ。

 俺の守護者の目をもってしても反応しづらい。


「この野郎!」


 俺は拳を振るうが当然当たらなかった。

 さらにライカンスロープは俺たちの周りを張り付くように動き、執拗に牙や爪を振るってきた。


「くそっ!!!」


 俺は拳を何度も撃ち、それを迎撃するがライカンスロープはそれをもかわしてしまう。

 そして一度離脱してまた距離を取り始めた。

 唸りながら俺たちの周りを回りタイミングをうかがっている。


「なんだ? 動きが一気に変わったぞ」

「これは、ひょっとすると今までは手加減をしていたのかもしれません」

「どういうことだ?」

「エルドで聞いたことがあります。血染めの咆哮ブラッディ・ロアは本気で人間を襲い、被害を広げれば広げるほど強い人間が来るのを学習している。なので必要ない場合はあえて実際より弱く見えるように戦うと」

「ってことはさっきまでも、今までの戦士たちと戦った時も」

「ええ、本気ではなかったのだと思います。だから、大きな噂になるほどの被害が出ていなかったんです。それで、このライカンスロープが血染めの咆哮ブラッディ・ロアだとバレることもなかった」

「なんてやつだ」


 狡猾と言われていたがこれほどなのか。

 並の人間よりよほどずる賢いじゃないか。

 これがレートAAとやらのモンスターの強さということか。


「また来ます!」


 エリスは法術を放つ。しかし、ライカンスロープはまるでそれはないかのように正面からそれをかわし、そのままバネのように跳ねて俺たちに爪を振るってきた。


「ちくしょう!!」


 俺は拳でそれを弾き返す。

 しかし、ライカンスロープはそのままうねうねと俺たちの周りを張り付き、執拗に攻撃を仕掛けてくる。

 俺はそれに必死に応戦する。

 エリスだけは守らなくてはならない。

 ライカンスロープはまた離れていく。


「つ、強い!」


 エリスは言う。

 俺は悔しかった。

 エリスを守ると思ったのに、エリスは俺を褒めてくれたのに。全然力を出せていない。

 大体、守護者というにはこの世界でも頂点に位置する精霊だという話ではないか。

 なのに俺はこの有様だ。

 このライカンスロープが常軌を逸した強さなのは間違いないが、だからといっても守護者が最上位の強さだというならもうちょっとどうにかなるのではないか。

 導かれる答えは『俺が弱い』ということだった。

 当たり前だ。つい数日前まで普通のおじさんだったのだ。

 いくら守護者になったからと言ってもいきなり強くなるわけがあるものか。

 だが、それで負けを認めたらここでエリスが傷ついてしまう。


「すまん...」


 俺はつい口にしていた。


「大丈夫です! マコト様! 私とマコト様ならいけますよ! よく動きを見て対処しましょう。私は法術で血染めの咆哮ブラッディ・ロアの軌道を制限します。マコト様はそれに合わせてください!」

「お、おう!」


 なんて良い子なのか。「あれ? この守護者弱いかも?」とかまるで考えていないらしい。エリスはただ俺を信じている。自分の守護者を信じている。

 なら、俺はそれに応えなくてはならない。


『グァアアァア!!!』


 ライカンスロープがまた襲いかかってくる。

 エリスが法術を何発も放ち、軌道を制限する。


「ボケナスが!」


 俺はライカンスロープの爪をまた弾き返す。

 しかし、


「くっ!!!!!!」


 俺の視界が吹っ飛んだ。

 いや、吹っ飛んだのはエリスだった。

 攻撃に目が慣れていったのはライカンスロープも同じだったのだ。

 やつは俺の拳のタイミングを読み、体を回転させてカウンターの蹴りをお見舞いしたのだ。

 そして、それはエリスに直撃した。

 そのまま転がるエリス。


「大丈夫かエリス!!!!」


 俺の言葉にエリスは笑った。


「大丈夫ですマコト様。心配いりません! 言ったでしょう。この法衣はBレートまでの攻撃を無効化するんです」


 そう言って笑い、エリスは起き上がる。

 確かに見た感じダメージはなさそうに見える。

 しかし、攻撃で横腹のあたりの法衣が破けていた。柔肌があらわだったが今それを気にするタイミングでないのは俺でも分かる。

 くそ、ダメなのか俺では。

 所詮、守護者なんて大層なものになってもこんなものなのか。ふがいないおじさんになるしかないのか。現実の前に頭を垂れるしかないのか。

 俺に頭を悔しさが満たしている時、


「マコト様、なにかおかしいです」

「なに?」


 見ればライカンスロープは俺たちではなく少し外れた横手を見て唸っていた。

 戦闘中に無意味に別の方向を向くような抜けたモンスターでないのはここまでで明らかだ。

 そのライカンスロープの視線の先には。


「いけない!!!!!」


 ライカンスロープは砲弾のように吹っ飛んでくる。

 そして、ライカンスロープの前にエリスはその身を投げ出した。
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