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第12話 旅支度
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「必要なものは大体クレアさんがまとめてくれたけど、他に欲しいものはある? 王都までは2日はかかるから」
リーアは廊下を歩きながら言った。広い、豪奢な赤い絨毯がひかれた廊下だ。私はリーアとダリルと一緒にそこを歩いていた。
旅支度をするためである。
私はこの身に宿った呪いを解くために王都に行かなくてはならなくなった。
出発は昼過ぎ。あと数時間ある。その間に私は自分の荷物をまとめなくてはならない。
「それにしてもバカにすんなり了承しやがったな。自分が死にかけてんの分かってんのか?」
ダリルが私に言った。
「あんまり分かってないと思う」
私は答えた。
朝、あのベッドの上で王都に行けと言われた時私は一言で了解した。
分かった、行くと。
あまりにすんなり答えた者だから周りの皆は唖然としたほどだった。
行けと言われたから行く。私にはその程度の認識しか無かった。だから、すぐに答えただけだった。
しかし、一瞬の思考もなく答えたことが周りには異様だったらしい。サヤとダリルなど恐ろしいものを見るような目で私を見ていた。
リーアはあきれ顔でレイヴンは物珍しそうでミルドレイクは変わらず酷薄な笑みを浮かべていた。
「本当に良いのだね? ジグ君」
ミルドレイクは再度聞いた。
「はい、行きます」
私は簡潔に答えた。
周りはまた言葉を失っていた。
本当のところ、要はなにも分かっていないだけだった。自分が置かれている状況も、自分がこれからどうなるのかも分かっていないだけだ。
だが、頼まれたから、命じられたから行くだけだ。今までの生活でそうだったように、いつも通りに従っただけだ。いつも通りだっただけだ。
少なくとも私はそういった人間だった。
「呆れた野郎だ」
ダリルは言った。実際あきれ顔だった。多分、ダリルは私がなにを考えているのか良く分からない異様なやつだと思っているのだろう。若干嫌悪さえしているかもしれない。
確かに世の中でいえばあそこまで従順なのは異常かもしれない。
だが、私は今までそうやってきたのだ。仕方が無い。
とにかく、私はこれから王都に行く。行ったこともない大都会に行くことになる。新聞の写真でしか知らない別世界に行くことになる。
そこでこの身に宿った死の呪いを解くことになる。
王都でなにが起きるのか、それまでになにが起きるのか。私のあずかり知るところではなかった。
「男の荷物は男にしか分からないでしょう。ダリル、あんた世話してやりなさい」
「仕方ねぇな。だが、旅の必需品ならお前の方が品揃えが良いだろ。その辺はお前が見繕え」
「え、ええ。そうね。ちょっと用意しとくわ」
リーアはどこか慌てた様子で目を泳がせていた。そして、リーアは自室に向かっていった。
「こっちだ」
そう言うとダリルは私を自室であろう扉の前に招いた。
中に入る。そこは他の部屋と同じように上質な造りをしていたが、他の部屋と違うのは斧だの鎖帷子だのが並んでいるところだった。ダリルの仕事道具なのだろう。あとは、上着やら、蓄音機やら酒やらが棚や机に並んでいた。
しかし、ダリル自身の猥雑な印象と違って部屋の中は綺麗に片付いていた。部屋に置かれているものも綺麗に整理して並べられている。こう見えて結構几帳面なのかもしれなかった。
「男ものがどうとか言いやがったが大体クレアが用意してるだろうが。俺が用意するもんあるのか?」
そう言いながらダリルはクローゼットを漁る。仕事着らしき厚手のコートなどの衣服がのぞき見えた。
「ああ、そうか。こいつを渡しとくか」
そう言ってダリルが出したのは剣、刃が短く私でも振れそうなショートソードだった。ダリルはベルトも引っ張り出してそれを私に渡した。
「貰いもんだがな。一応悪いものじゃねぇ。お前も一応自分の身は守らねぇとならねぇからな。俺たちがお前の護衛になるわけだが、完璧にお前を守り切れる保証はねぇ。その時は自分の身は自分で守れ」
「分かった」
私は答え剣を受け取る。
またすんなり受け取ったからだろう。ダリルは一瞬ヘンな顔をしたが、すぐに短い溜息と共に元の表情に戻った。
「まぁ、お前はそういうやつなんだろうな」
ダリルは言った。どういう意味なのか分からない。ひょっとしてヘンなやつとして嫌われたのかと思ったがダリルの表情に嫌悪感はなかった。単に呆れただけのように見えた。
とにかく、私はダリルの助けを借りながらベルトを巻いて剣を腰に差してみた。驚くほど軽かった。見た目では扱えるのか自身がないほどだったが、本当に腰にあるのか疑わしいほど軽かった。
「ちょっと抜いてみろ」
言われるがままに剣を抜いてみる。青みを帯びた刃が出てきた。私はそれを良く分からないまま両手で持ってみる。やはり軽い。普段ろくに運動をしない私でも扱えそうだった。
「大丈夫そうだな。俺が持ってる中で一番軽いのがそれだ。護身用で持っとけ」
「分かった」
私はまた短く答えた。そして、剣を鞘にしまう。しかし、これが中々難しく見かねたダリルに手伝って貰う形でようやく収めた。
振るのは簡単そうだが一通り扱うのは大変そうだった。
ようやく剣を収めた私にダリルが言う。
「護身用って言ったが使うのは本当にそれを使う以外の選択が無くなったときだけだ。ついでに相手が手練れなら本当に見せかけにしかならねぇ。正真正銘の気休めだ。持っとかないよりましってだけだ」
「なるほど」
私は答える。確かにこんなものは気休めだ。今日初めて剣を持った私があのヌエや金髪や、そしてあの龍相手にこれで何かが出来るとは思えなかった。せいぜい、ひとりぼっちの時に弱い魔獣に襲われた時威嚇するぐらいしか出来ないだろう。本当にないよりまし程度のものでしかないようだ。
そしてダリルはさらに続けた。
「俺たちが魔獣やカンパニーに襲撃されたとき、お前が真っ先に取るべき行動は逃げることだ。とにかくなにより優先して逃げろ。俺たちのことも他のこともなにも気にせず逃げろ。それがお前が取れる最善の行動だ。勝てない相手からは逃げろ。俺が言えるのはそれだけだ」
ダリルの言葉は本当の忠告だった。たしかに、戦いが始まったら私はむしろ邪魔でしかないだろう。私に戦闘能力はないのだ。そんな私が戦いの最中に居たら足手まといでしかない。ならばとっとと離脱して安全圏に行くのが最善なのだろう。
「了解だ」
私の返答にダリルはよし、と短く言った。
そして、ダリルは私に部屋から出るようにうながした。
「俺が渡せんのはこれくらいだろう。大体ほとんどのものはクレアが用意してんだ。あとはリーアのやつが便利な道具をいくつか持ってたはずだからそいつを貰いに行くか。あいつあれで旅好きでよ。旅行用品ばっかり集めてやがるんだ」
私達はダリルの部屋を出てリーアの部屋に向かう。リーアの部屋はダリルの部屋からしばらく進んだところだった。
しかし、
「な! あんたたちもう来たの!?」
そこには部屋の前に大量の荷物やゴミを積み上げたリーアの姿があった。
「お前、また部屋がメチャクチャだったのか」
「違うわよ違うわよ。ちょっと思い立って大掃除始めただけだから」
「普段から掃除してりゃあそんなゴミ山は出来ねぇ。どうせ、そいつ全部あのなんでもしまえる便利な箱にぶち込む気だったんだろ。あの魔法の箱の中どうなってんだ今」
「ペンドルトンの箱ねー。そうねぇ、あれは便利よねぇ」
リーアは体の後になにかをすっと隠したように見えた。それはなにかの箱だったように見えた。
「とにかく、お前が持ってる便利な道具こいつに渡しとけ」
「そうねそうね。だからもうちょおっと待っててねぇ」
そう言ってリーアは自分の部屋に入っていく。
そして、少し開いたドアの隙間からちらっと見えたリーアの部屋はなにもかもがうず高く積み上がり、どうも人間が住んでいるとは思えない状況なのだった。
リーアは廊下を歩きながら言った。広い、豪奢な赤い絨毯がひかれた廊下だ。私はリーアとダリルと一緒にそこを歩いていた。
旅支度をするためである。
私はこの身に宿った呪いを解くために王都に行かなくてはならなくなった。
出発は昼過ぎ。あと数時間ある。その間に私は自分の荷物をまとめなくてはならない。
「それにしてもバカにすんなり了承しやがったな。自分が死にかけてんの分かってんのか?」
ダリルが私に言った。
「あんまり分かってないと思う」
私は答えた。
朝、あのベッドの上で王都に行けと言われた時私は一言で了解した。
分かった、行くと。
あまりにすんなり答えた者だから周りの皆は唖然としたほどだった。
行けと言われたから行く。私にはその程度の認識しか無かった。だから、すぐに答えただけだった。
しかし、一瞬の思考もなく答えたことが周りには異様だったらしい。サヤとダリルなど恐ろしいものを見るような目で私を見ていた。
リーアはあきれ顔でレイヴンは物珍しそうでミルドレイクは変わらず酷薄な笑みを浮かべていた。
「本当に良いのだね? ジグ君」
ミルドレイクは再度聞いた。
「はい、行きます」
私は簡潔に答えた。
周りはまた言葉を失っていた。
本当のところ、要はなにも分かっていないだけだった。自分が置かれている状況も、自分がこれからどうなるのかも分かっていないだけだ。
だが、頼まれたから、命じられたから行くだけだ。今までの生活でそうだったように、いつも通りに従っただけだ。いつも通りだっただけだ。
少なくとも私はそういった人間だった。
「呆れた野郎だ」
ダリルは言った。実際あきれ顔だった。多分、ダリルは私がなにを考えているのか良く分からない異様なやつだと思っているのだろう。若干嫌悪さえしているかもしれない。
確かに世の中でいえばあそこまで従順なのは異常かもしれない。
だが、私は今までそうやってきたのだ。仕方が無い。
とにかく、私はこれから王都に行く。行ったこともない大都会に行くことになる。新聞の写真でしか知らない別世界に行くことになる。
そこでこの身に宿った死の呪いを解くことになる。
王都でなにが起きるのか、それまでになにが起きるのか。私のあずかり知るところではなかった。
「男の荷物は男にしか分からないでしょう。ダリル、あんた世話してやりなさい」
「仕方ねぇな。だが、旅の必需品ならお前の方が品揃えが良いだろ。その辺はお前が見繕え」
「え、ええ。そうね。ちょっと用意しとくわ」
リーアはどこか慌てた様子で目を泳がせていた。そして、リーアは自室に向かっていった。
「こっちだ」
そう言うとダリルは私を自室であろう扉の前に招いた。
中に入る。そこは他の部屋と同じように上質な造りをしていたが、他の部屋と違うのは斧だの鎖帷子だのが並んでいるところだった。ダリルの仕事道具なのだろう。あとは、上着やら、蓄音機やら酒やらが棚や机に並んでいた。
しかし、ダリル自身の猥雑な印象と違って部屋の中は綺麗に片付いていた。部屋に置かれているものも綺麗に整理して並べられている。こう見えて結構几帳面なのかもしれなかった。
「男ものがどうとか言いやがったが大体クレアが用意してるだろうが。俺が用意するもんあるのか?」
そう言いながらダリルはクローゼットを漁る。仕事着らしき厚手のコートなどの衣服がのぞき見えた。
「ああ、そうか。こいつを渡しとくか」
そう言ってダリルが出したのは剣、刃が短く私でも振れそうなショートソードだった。ダリルはベルトも引っ張り出してそれを私に渡した。
「貰いもんだがな。一応悪いものじゃねぇ。お前も一応自分の身は守らねぇとならねぇからな。俺たちがお前の護衛になるわけだが、完璧にお前を守り切れる保証はねぇ。その時は自分の身は自分で守れ」
「分かった」
私は答え剣を受け取る。
またすんなり受け取ったからだろう。ダリルは一瞬ヘンな顔をしたが、すぐに短い溜息と共に元の表情に戻った。
「まぁ、お前はそういうやつなんだろうな」
ダリルは言った。どういう意味なのか分からない。ひょっとしてヘンなやつとして嫌われたのかと思ったがダリルの表情に嫌悪感はなかった。単に呆れただけのように見えた。
とにかく、私はダリルの助けを借りながらベルトを巻いて剣を腰に差してみた。驚くほど軽かった。見た目では扱えるのか自身がないほどだったが、本当に腰にあるのか疑わしいほど軽かった。
「ちょっと抜いてみろ」
言われるがままに剣を抜いてみる。青みを帯びた刃が出てきた。私はそれを良く分からないまま両手で持ってみる。やはり軽い。普段ろくに運動をしない私でも扱えそうだった。
「大丈夫そうだな。俺が持ってる中で一番軽いのがそれだ。護身用で持っとけ」
「分かった」
私はまた短く答えた。そして、剣を鞘にしまう。しかし、これが中々難しく見かねたダリルに手伝って貰う形でようやく収めた。
振るのは簡単そうだが一通り扱うのは大変そうだった。
ようやく剣を収めた私にダリルが言う。
「護身用って言ったが使うのは本当にそれを使う以外の選択が無くなったときだけだ。ついでに相手が手練れなら本当に見せかけにしかならねぇ。正真正銘の気休めだ。持っとかないよりましってだけだ」
「なるほど」
私は答える。確かにこんなものは気休めだ。今日初めて剣を持った私があのヌエや金髪や、そしてあの龍相手にこれで何かが出来るとは思えなかった。せいぜい、ひとりぼっちの時に弱い魔獣に襲われた時威嚇するぐらいしか出来ないだろう。本当にないよりまし程度のものでしかないようだ。
そしてダリルはさらに続けた。
「俺たちが魔獣やカンパニーに襲撃されたとき、お前が真っ先に取るべき行動は逃げることだ。とにかくなにより優先して逃げろ。俺たちのことも他のこともなにも気にせず逃げろ。それがお前が取れる最善の行動だ。勝てない相手からは逃げろ。俺が言えるのはそれだけだ」
ダリルの言葉は本当の忠告だった。たしかに、戦いが始まったら私はむしろ邪魔でしかないだろう。私に戦闘能力はないのだ。そんな私が戦いの最中に居たら足手まといでしかない。ならばとっとと離脱して安全圏に行くのが最善なのだろう。
「了解だ」
私の返答にダリルはよし、と短く言った。
そして、ダリルは私に部屋から出るようにうながした。
「俺が渡せんのはこれくらいだろう。大体ほとんどのものはクレアが用意してんだ。あとはリーアのやつが便利な道具をいくつか持ってたはずだからそいつを貰いに行くか。あいつあれで旅好きでよ。旅行用品ばっかり集めてやがるんだ」
私達はダリルの部屋を出てリーアの部屋に向かう。リーアの部屋はダリルの部屋からしばらく進んだところだった。
しかし、
「な! あんたたちもう来たの!?」
そこには部屋の前に大量の荷物やゴミを積み上げたリーアの姿があった。
「お前、また部屋がメチャクチャだったのか」
「違うわよ違うわよ。ちょっと思い立って大掃除始めただけだから」
「普段から掃除してりゃあそんなゴミ山は出来ねぇ。どうせ、そいつ全部あのなんでもしまえる便利な箱にぶち込む気だったんだろ。あの魔法の箱の中どうなってんだ今」
「ペンドルトンの箱ねー。そうねぇ、あれは便利よねぇ」
リーアは体の後になにかをすっと隠したように見えた。それはなにかの箱だったように見えた。
「とにかく、お前が持ってる便利な道具こいつに渡しとけ」
「そうねそうね。だからもうちょおっと待っててねぇ」
そう言ってリーアは自分の部屋に入っていく。
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