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第8話 怪物
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「ははっ! やっぱおっかねぇな旦那は」
そう言いながら金髪の男は銃をぶっ放した。二丁の回転式銃。それがギースと呼ばれた金髪の男の武器らしい。
それを男は粉塵で何も見えない中、ダリルとサヤを狙ってぶっ放していた。
「クソが」
ほどなくダリルの声が響く。そして、一瞬で粉塵が晴れた。中にはサヤと大男の姿。ダリルの姿はない。
見れば、いつの間にかリーアの真ん前で立て膝をついていた。
「なにが起きたんだか良くわかんないんだけど」
「あのキザ野郎、土埃で見えねぇはずなのに正確に俺の横腹に当てやがった。そんでもって、それで足止めてる間にあのデカ物は平手で俺をここまで吹っ飛ばしやがった」
「つまり」
「どっちも化け物だってことだ」
ダリルの右腹は赤く滲んでいた。兵士や魔獣狩りが使う護りの魔術のおかげだろう。弾は体の表面で止まっているようだ。致命傷ではないらしい。
「お褒めにあずかり光栄だがよ。旦那の平手食らって平然としてるあんたも大概だぜ」
金髪がダリルに言う。
「お互い様ってことだ。七面倒くせぇ」
大男の前ではサヤが刀を鞘に収めたままの姿勢でジリジリと間合いを取っている。
お互いに相手の出方を伺っているらしい。
そこにリーアが指を振った。リーアの魔術。爆発の魔術が大男の顔面を襲った。それだけでかなりの爆発だった。目くらましにしてはやり過ぎなほどだろう。
そして、視界を奪われた大男の間合いに次の瞬間にはサヤがいた。
サヤはさっきとまったく同じ姿勢だった。
しかし、その顔は引きつっていた。サヤはそのまま後に跳ぶ。
「斬れませんでした」
「どういうこと?」
「さすがに生け捕りという話ですから急所を外しましたけど、まったく斬れませんでした」
「無傷ってこと?」
「はい」
サヤは大男をひたすら睨んでいた。まるで親の仇でも見るようだった。
それをも見て金髪がパチパチ手を叩く。
「そのお嬢ちゃん山斬り倒したっていう『山割り』だろ? 旦那山より固いのかよ」
金髪は面白そうに笑っていた。
大男は自分の腹を撫でる。
「いや、無傷じゃない。俺の肌に傷を付けるだけでも大したもんだ」
よく見れば大男の肌にはうっすらと赤い筋が走り、血が滲んでいた。どうやら薄皮一枚ほどの傷が出来ているらしい。
「私の中ではそれは斬ったとは言わないんですよ。このクソ野郎」
サヤはどうも怒っているらしい。なぜなんだか私には分からない。
とにかく、どうやらサヤの攻撃には大男に傷らしい傷を負わせられなかったということらしかった。そもそもその前にリーアの魔術が顔面に直撃している。剣でまともに斬られて、顔面に爆発を受けて、あんな傷しかつかないなんてどういうことなのか私には分からない。少なくとも私の常識では考えられない話だ。
「へぇ、なるほどね。なら、お互いがお互いを怪物認定したってことだな」
金髪はくるくると二丁の銃をもてあそんでいた。
相手も相手でリーアたちもリーアたちらしい。一般人の私にはもはやなにがなんだか分かりもしないが、両者は互いの実力を理解したようだ。
「そういうこと。やり合えばそっちもこっちもただじゃ済まないって話ね。改めて言うけど帰るなら今のうちよ」
「それはこちらの台詞だな。大人しくジグ・フォールを引き渡せ」
「無理に決まってるでしょうが」
そう言ってリーアは指を振るう。サヤと大男の間で大きな爆発が起きる。
それを合図に再び戦闘が始まった。爆発が一体を埋め尽くす。その隙間をダリルとサヤ大男が縫いながら拳と刃をぶつける。そこに金髪が銃弾を浴びせる。
戦場は混沌としているのか秩序だっているのか。
シロウトの私にはまるで爆発と刃と銃弾の嵐が起きているようにしか見えなかった。
「ヴィンセント・ミルドレイク」
その中で唐突に襲撃者の女が言った。それは目の前のリーアたちに向けられたものではない。遠見の魔術で横で見ているミルドレイクに向けられたものだった。
「我々は本気になればここに居る4人を瞬時に殺害出来る。大人しくジグ・フォールを引き渡せ」
脅しだった。それを材料にミルドレイクと交渉をしようという腹らしい。
「お前が大人しくジグ・フォールを差し出せばここに居る4人の命は保証しよう。5分以内に連れてこい。でなければこいつらを殺す」
女は驚いたことに。遠見の魔術を使って宙から俯瞰している私たちをはっきりと見あげた。女と私は目が合ったように感じられるほどだった。ミルドレイクの話ではこれは敷地の結界を利用しているらしく、別に目となるものがあの場にある訳ではないらしい。
しかし、女は確かに私たちの方を見ていた。
「簡単な話だろう。昨日までお前達の組織となんの関わりもなかった一般人とお前達の主力と言える人間4人の命。どっちが重いかなど分かりきっている。それとも『トネリコの梢』はいつの間にか正義の組織にでもなっていたのか? 笑えるな」
女はひたすらに高圧的だった。余裕と言ってもいいのかもしれない。
しかし、シロウト目に見てもリーアたちが女の態度ほど追い詰められているようには見えなかった。むしろ若干押しているようにも見える。いかに相手が怪物的だと言っても3対2だ。数でリーアたちが有利なのだろう。
「なるほど。あまり切迫感を感じていないのか。確かにそうだろうな、現状を見れば。良いだろう」
女はパチンと指を鳴らした。
「ズライグ。本気でやれ」
女は言った。
「了解」
その声に大男が答えた。そして、大男の体がうねり始めた。バキバキと音を立て始めた。
異様な現象にサヤとダリルは一旦距離を取る。
大男の体は変わり続ける。皮膚がミシミシと割れて鱗になっていく。腰から大きな尾が下がる。足がうねり、関節がねじくれて太い爪が伸びる。腕も強靱になりこちらも鋭い爪が生える。鼻が伸び、口が耳元まで裂け、頭には2本鹿のような角が生えた。
背中からはコウモリのような翼が広がった。
そして大男の体はさらに大きくなった。
「わぉ!! すげぇ!! 龍人かよ!!!!」
ここまでぼーっと戦闘を眺めていたレイヴンが喜び叫んだ。
大男は確かに、大きな二足歩行のドラゴンになっていた。
そう言いながら金髪の男は銃をぶっ放した。二丁の回転式銃。それがギースと呼ばれた金髪の男の武器らしい。
それを男は粉塵で何も見えない中、ダリルとサヤを狙ってぶっ放していた。
「クソが」
ほどなくダリルの声が響く。そして、一瞬で粉塵が晴れた。中にはサヤと大男の姿。ダリルの姿はない。
見れば、いつの間にかリーアの真ん前で立て膝をついていた。
「なにが起きたんだか良くわかんないんだけど」
「あのキザ野郎、土埃で見えねぇはずなのに正確に俺の横腹に当てやがった。そんでもって、それで足止めてる間にあのデカ物は平手で俺をここまで吹っ飛ばしやがった」
「つまり」
「どっちも化け物だってことだ」
ダリルの右腹は赤く滲んでいた。兵士や魔獣狩りが使う護りの魔術のおかげだろう。弾は体の表面で止まっているようだ。致命傷ではないらしい。
「お褒めにあずかり光栄だがよ。旦那の平手食らって平然としてるあんたも大概だぜ」
金髪がダリルに言う。
「お互い様ってことだ。七面倒くせぇ」
大男の前ではサヤが刀を鞘に収めたままの姿勢でジリジリと間合いを取っている。
お互いに相手の出方を伺っているらしい。
そこにリーアが指を振った。リーアの魔術。爆発の魔術が大男の顔面を襲った。それだけでかなりの爆発だった。目くらましにしてはやり過ぎなほどだろう。
そして、視界を奪われた大男の間合いに次の瞬間にはサヤがいた。
サヤはさっきとまったく同じ姿勢だった。
しかし、その顔は引きつっていた。サヤはそのまま後に跳ぶ。
「斬れませんでした」
「どういうこと?」
「さすがに生け捕りという話ですから急所を外しましたけど、まったく斬れませんでした」
「無傷ってこと?」
「はい」
サヤは大男をひたすら睨んでいた。まるで親の仇でも見るようだった。
それをも見て金髪がパチパチ手を叩く。
「そのお嬢ちゃん山斬り倒したっていう『山割り』だろ? 旦那山より固いのかよ」
金髪は面白そうに笑っていた。
大男は自分の腹を撫でる。
「いや、無傷じゃない。俺の肌に傷を付けるだけでも大したもんだ」
よく見れば大男の肌にはうっすらと赤い筋が走り、血が滲んでいた。どうやら薄皮一枚ほどの傷が出来ているらしい。
「私の中ではそれは斬ったとは言わないんですよ。このクソ野郎」
サヤはどうも怒っているらしい。なぜなんだか私には分からない。
とにかく、どうやらサヤの攻撃には大男に傷らしい傷を負わせられなかったということらしかった。そもそもその前にリーアの魔術が顔面に直撃している。剣でまともに斬られて、顔面に爆発を受けて、あんな傷しかつかないなんてどういうことなのか私には分からない。少なくとも私の常識では考えられない話だ。
「へぇ、なるほどね。なら、お互いがお互いを怪物認定したってことだな」
金髪はくるくると二丁の銃をもてあそんでいた。
相手も相手でリーアたちもリーアたちらしい。一般人の私にはもはやなにがなんだか分かりもしないが、両者は互いの実力を理解したようだ。
「そういうこと。やり合えばそっちもこっちもただじゃ済まないって話ね。改めて言うけど帰るなら今のうちよ」
「それはこちらの台詞だな。大人しくジグ・フォールを引き渡せ」
「無理に決まってるでしょうが」
そう言ってリーアは指を振るう。サヤと大男の間で大きな爆発が起きる。
それを合図に再び戦闘が始まった。爆発が一体を埋め尽くす。その隙間をダリルとサヤ大男が縫いながら拳と刃をぶつける。そこに金髪が銃弾を浴びせる。
戦場は混沌としているのか秩序だっているのか。
シロウトの私にはまるで爆発と刃と銃弾の嵐が起きているようにしか見えなかった。
「ヴィンセント・ミルドレイク」
その中で唐突に襲撃者の女が言った。それは目の前のリーアたちに向けられたものではない。遠見の魔術で横で見ているミルドレイクに向けられたものだった。
「我々は本気になればここに居る4人を瞬時に殺害出来る。大人しくジグ・フォールを引き渡せ」
脅しだった。それを材料にミルドレイクと交渉をしようという腹らしい。
「お前が大人しくジグ・フォールを差し出せばここに居る4人の命は保証しよう。5分以内に連れてこい。でなければこいつらを殺す」
女は驚いたことに。遠見の魔術を使って宙から俯瞰している私たちをはっきりと見あげた。女と私は目が合ったように感じられるほどだった。ミルドレイクの話ではこれは敷地の結界を利用しているらしく、別に目となるものがあの場にある訳ではないらしい。
しかし、女は確かに私たちの方を見ていた。
「簡単な話だろう。昨日までお前達の組織となんの関わりもなかった一般人とお前達の主力と言える人間4人の命。どっちが重いかなど分かりきっている。それとも『トネリコの梢』はいつの間にか正義の組織にでもなっていたのか? 笑えるな」
女はひたすらに高圧的だった。余裕と言ってもいいのかもしれない。
しかし、シロウト目に見てもリーアたちが女の態度ほど追い詰められているようには見えなかった。むしろ若干押しているようにも見える。いかに相手が怪物的だと言っても3対2だ。数でリーアたちが有利なのだろう。
「なるほど。あまり切迫感を感じていないのか。確かにそうだろうな、現状を見れば。良いだろう」
女はパチンと指を鳴らした。
「ズライグ。本気でやれ」
女は言った。
「了解」
その声に大男が答えた。そして、大男の体がうねり始めた。バキバキと音を立て始めた。
異様な現象にサヤとダリルは一旦距離を取る。
大男の体は変わり続ける。皮膚がミシミシと割れて鱗になっていく。腰から大きな尾が下がる。足がうねり、関節がねじくれて太い爪が伸びる。腕も強靱になりこちらも鋭い爪が生える。鼻が伸び、口が耳元まで裂け、頭には2本鹿のような角が生えた。
背中からはコウモリのような翼が広がった。
そして大男の体はさらに大きくなった。
「わぉ!! すげぇ!! 龍人かよ!!!!」
ここまでぼーっと戦闘を眺めていたレイヴンが喜び叫んだ。
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