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第7話 襲撃者
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轟音があったのは屋敷の前。敷地に入る正門から離れたちょうど石畳の道が始まった辺りだった。そこには3人の人影があった。
1人は男だった。やたらニヤニヤと口元を緩ませている金髪の男。
もう1人は女だった。生気のない瞳、生気のない手足。男装と言って良いような労働者の服装だった。
そして、もう1人も男だった。大きな男だった。金髪の男もそれなりの体躯をしているようだったが、この男はそれをゆうに越えている。伸び放題の黒髪、そして着の身着のまま半ばボロ布のようになった衣服をまとっていた。
私はそれを上から眺めていた。しかし、その場で空から見ているわけではない。ミルドレイクが使った遠見の魔術で映像を見ている形だった。
この3人が轟いた爆音の元凶らしかった。
「旦那の拳でも破れる気配なしか。なら俺なんか何しても無駄だな。大したもんだなヴィンセント・ミルドレイクの結界ってやつは」
金髪の男が言った。
「バカを言うな。無駄かどうかはやってから決めろ。そのために金を払ってるんだ」
女が言った。
「やれやれ、厳しい雇い主だぜ」
そう言うと金髪の男は懐から何かを取り出した。それは灰色の楕円形のなにか、卵のようななにかだった。
金髪の男はそれをぽい、と放る。
その次の瞬間、目映い青い閃光が発生した。それは、館の窓を抜けこの室内を照らすほど強いものだった。
そして、轟音と衝撃。屋敷はゴトゴトと揺れた。
爆弾かなにかだったらしい。
「ほらね。ダメですよ姉さん。俺のとっておきだったけどこっち側の地面がえぐれるだけだ。その向こうは無傷ですよ」
そして、土煙が晴れて現れたのは地面が大きく吹き飛んだ光景だった。ただし、それは男達の居る側だけだった。ちょうど石畳の始まりを境に綺麗な半円となって地面の損傷は止まっていた。
「それが無理なら別の方法を考えろ。それがお前の仕事だ」
「ええ。まだどうにかしろってのかい。どうにもならないですよこれは。こんな強度の結界なんて世界でも指折りでしょう。そんなもんこんな三下用心棒にどうにかしろってんですか?」
「どうにかしろ」
女の声は陽気な調子の男の声と違ってどこまでも冷たかった。まるで人間味というものが感じられなかった。鉄のような声色だった。
「弱った雇い主についちまったなまったく」
憎まれ口にも女が反応することはなかった。
「来た」
そこで、2人の前に立つ大男が初めて口を開いた。男が見ているのは石畳の先、屋敷の方角。
そこから悠々とやってきたのはリーアとダリル、そして下の部屋で会ったレイヴンとかいう男とサヤとかいう女だった。皆武装している。4人は攻撃が届かない石畳の切れ目の手前で止まる。
「ふぅん3人。様子見の先遣隊ってとこ?」
リーアが襲撃者たちに言う。
「『瑠璃のリーア』に『山割り』、元白柄魔獣狩りのダリル・オールドマンか。中々の大物がそろってるな。運が悪いといったところか」
襲撃者の女が言った。
「そういうことよ。生半可なことじゃ押し切れるとは思えないけど。大体、結界の強度は大体分かってるんでしょ。とっとと退散してくれればこっちも楽なんだけど」
「ああ、ヴィンセント・ミルドレイクの結界は本物だ。さすがはエルダー級の吸血鬼。一国の軍隊を連れてきても破れるかどうかといった話だな」
「分かってるなら話は早いじゃない。さっさと帰った帰った」
リーアはヒラヒラと手を振る。
「ふむ。だが、そうも行かない。『目撃者は確実に抹殺する』それが我々の方針だ。その中に目撃者が居る以上、私はその決まり事を遂行しなくてはならない」
「ふぅん。組織に忠実なのね。彼を見逃すことはないの? 彼本当にただ見ただけの一般人よ?」
「我々のキメラは存在を秘匿しなくてはならない。それが何者であろうと、どの地位にいる人間であろうと知った者は消す。どこにいようと、どれだけの犠牲を払おうと」
「取り付く島もないわね。交渉でどうにかならないかと思ったけどあんた達相手にその考えは甘かったわね」
やれやれとリーアは肩をすくめた。
どうやら、あの襲撃者は私を殺しに来たらしい。そして、彼女たちが私を見逃すことはまったくないらしかった。私は面倒極まりない立場にあるらしいことがより明らかになった。
そして、4人は石畳の向こう側へと歩み出て武器を構えた。
「やるしかないってことね。先に言っとくけど、今逃げれば死ななくて済むわよ。まぁ、私たちは生け捕りにするつもりだけど、そうなったらあんた達確実に死ぬでしょ」
「そんなことは覚悟の上だ」
そう言いながら女は後ろに下がった。ついでに金髪の男も後ろに下がった。どうやら、2人は後衛らしい。前に残ったのは大男だけだった。
「ギース、お前は前だ」
「いやいや、旦那の戦いに巻き込まれたら俺戦いようがないし。ここから援護した方が的確な配置だと思うんですけど」
「ダメだ。前で戦え」
「ホント手厳しいねぇ」
ギースと呼ばれた男はやや前に出た。それがこの男の精一杯らしい。
リーアたちの目の前に居るのは大男だけだ。
大男はボサボサに伸びた髪の隙間から鋭い眼光で4人を見据えていた。
「リーア、この男」
サヤが言う。
「ええ、なんでかなぁ。どう考えても人間とは思えない魔力量なんですけど。あんた何者? 魔力量だけならミルドレイク卿に迫ってるわよ」
大男は答えなかった。
代わりに大男は両腕を高く振り上げ、そして振り下ろした。
それだけで、まるで爆発のような衝撃が起き、地面が大きく砕けたのだった。
「ちぃ! どうやらこいつカンパニーの切り札ね!」
リーアは光のカーテンのような防御魔法を張りながら言う。
その間にサヤとダリルは相手が起こした粉塵の中に突っ込んでいき、レイヴンは一歩後に飛び退いた。
戦闘開始だった。
1人は男だった。やたらニヤニヤと口元を緩ませている金髪の男。
もう1人は女だった。生気のない瞳、生気のない手足。男装と言って良いような労働者の服装だった。
そして、もう1人も男だった。大きな男だった。金髪の男もそれなりの体躯をしているようだったが、この男はそれをゆうに越えている。伸び放題の黒髪、そして着の身着のまま半ばボロ布のようになった衣服をまとっていた。
私はそれを上から眺めていた。しかし、その場で空から見ているわけではない。ミルドレイクが使った遠見の魔術で映像を見ている形だった。
この3人が轟いた爆音の元凶らしかった。
「旦那の拳でも破れる気配なしか。なら俺なんか何しても無駄だな。大したもんだなヴィンセント・ミルドレイクの結界ってやつは」
金髪の男が言った。
「バカを言うな。無駄かどうかはやってから決めろ。そのために金を払ってるんだ」
女が言った。
「やれやれ、厳しい雇い主だぜ」
そう言うと金髪の男は懐から何かを取り出した。それは灰色の楕円形のなにか、卵のようななにかだった。
金髪の男はそれをぽい、と放る。
その次の瞬間、目映い青い閃光が発生した。それは、館の窓を抜けこの室内を照らすほど強いものだった。
そして、轟音と衝撃。屋敷はゴトゴトと揺れた。
爆弾かなにかだったらしい。
「ほらね。ダメですよ姉さん。俺のとっておきだったけどこっち側の地面がえぐれるだけだ。その向こうは無傷ですよ」
そして、土煙が晴れて現れたのは地面が大きく吹き飛んだ光景だった。ただし、それは男達の居る側だけだった。ちょうど石畳の始まりを境に綺麗な半円となって地面の損傷は止まっていた。
「それが無理なら別の方法を考えろ。それがお前の仕事だ」
「ええ。まだどうにかしろってのかい。どうにもならないですよこれは。こんな強度の結界なんて世界でも指折りでしょう。そんなもんこんな三下用心棒にどうにかしろってんですか?」
「どうにかしろ」
女の声は陽気な調子の男の声と違ってどこまでも冷たかった。まるで人間味というものが感じられなかった。鉄のような声色だった。
「弱った雇い主についちまったなまったく」
憎まれ口にも女が反応することはなかった。
「来た」
そこで、2人の前に立つ大男が初めて口を開いた。男が見ているのは石畳の先、屋敷の方角。
そこから悠々とやってきたのはリーアとダリル、そして下の部屋で会ったレイヴンとかいう男とサヤとかいう女だった。皆武装している。4人は攻撃が届かない石畳の切れ目の手前で止まる。
「ふぅん3人。様子見の先遣隊ってとこ?」
リーアが襲撃者たちに言う。
「『瑠璃のリーア』に『山割り』、元白柄魔獣狩りのダリル・オールドマンか。中々の大物がそろってるな。運が悪いといったところか」
襲撃者の女が言った。
「そういうことよ。生半可なことじゃ押し切れるとは思えないけど。大体、結界の強度は大体分かってるんでしょ。とっとと退散してくれればこっちも楽なんだけど」
「ああ、ヴィンセント・ミルドレイクの結界は本物だ。さすがはエルダー級の吸血鬼。一国の軍隊を連れてきても破れるかどうかといった話だな」
「分かってるなら話は早いじゃない。さっさと帰った帰った」
リーアはヒラヒラと手を振る。
「ふむ。だが、そうも行かない。『目撃者は確実に抹殺する』それが我々の方針だ。その中に目撃者が居る以上、私はその決まり事を遂行しなくてはならない」
「ふぅん。組織に忠実なのね。彼を見逃すことはないの? 彼本当にただ見ただけの一般人よ?」
「我々のキメラは存在を秘匿しなくてはならない。それが何者であろうと、どの地位にいる人間であろうと知った者は消す。どこにいようと、どれだけの犠牲を払おうと」
「取り付く島もないわね。交渉でどうにかならないかと思ったけどあんた達相手にその考えは甘かったわね」
やれやれとリーアは肩をすくめた。
どうやら、あの襲撃者は私を殺しに来たらしい。そして、彼女たちが私を見逃すことはまったくないらしかった。私は面倒極まりない立場にあるらしいことがより明らかになった。
そして、4人は石畳の向こう側へと歩み出て武器を構えた。
「やるしかないってことね。先に言っとくけど、今逃げれば死ななくて済むわよ。まぁ、私たちは生け捕りにするつもりだけど、そうなったらあんた達確実に死ぬでしょ」
「そんなことは覚悟の上だ」
そう言いながら女は後ろに下がった。ついでに金髪の男も後ろに下がった。どうやら、2人は後衛らしい。前に残ったのは大男だけだった。
「ギース、お前は前だ」
「いやいや、旦那の戦いに巻き込まれたら俺戦いようがないし。ここから援護した方が的確な配置だと思うんですけど」
「ダメだ。前で戦え」
「ホント手厳しいねぇ」
ギースと呼ばれた男はやや前に出た。それがこの男の精一杯らしい。
リーアたちの目の前に居るのは大男だけだ。
大男はボサボサに伸びた髪の隙間から鋭い眼光で4人を見据えていた。
「リーア、この男」
サヤが言う。
「ええ、なんでかなぁ。どう考えても人間とは思えない魔力量なんですけど。あんた何者? 魔力量だけならミルドレイク卿に迫ってるわよ」
大男は答えなかった。
代わりに大男は両腕を高く振り上げ、そして振り下ろした。
それだけで、まるで爆発のような衝撃が起き、地面が大きく砕けたのだった。
「ちぃ! どうやらこいつカンパニーの切り札ね!」
リーアは光のカーテンのような防御魔法を張りながら言う。
その間にサヤとダリルは相手が起こした粉塵の中に突っ込んでいき、レイヴンは一歩後に飛び退いた。
戦闘開始だった。
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