楓剣の騎従士と黒い亡霊

かもめ

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第15話

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「くそっ!」
 アリシアは黒い刀身を紅い刀身で受け流す。苦悶の表情だ。
 しかし、それは黒騎士の勢いに負けてのことではない。
 純粋な意味での黒騎士との戦いは、最早アリシアに軍配が上がっている。アリシアは黒騎士の動きを完全に見切っており、動きのクセを完全に見破っていた。何度やってもアリシアが負けることはないだろう。
 アリシアは黒騎士との戦いにすでに勝っていた。
 アリシアは黒騎士を倒したのだ。
 しかし、倒したはずなのに黒騎士は滅びなかった。
 なんど急所を斬っても、頭をはね飛ばしても、黒騎士は復活しアリシアに襲いかかる。
 斬り合いでは決して負けることはないのに、アリシアは黒騎士を倒すことが出来なかった。
 今、アリシアには目の前の黒い亡霊を倒す手段が思いつかなかった。
「どうする!」
 黒騎士の剣をかわし、距離を取った後パックが言う。
 そこに黒騎士が真っ直ぐ突っ込んでくるがアリシアはそれを横に抜けながら一刀両断にした。黒騎士の動きが止まり、また霧が吹き出す。
「倒す方法はあるのか!?」
「分からん。分からんが、とにかく一旦逃げるぞ!」
「合点!」
 言葉と同時にアリシアは一目散に逃走を始めた。霧を吹き出している黒騎士の横を走り抜け、そのまま玉座の間を脱出する。とにかく、一旦距離を空ける。少しでも思考する時間が必要だった。
「なんなんだ、どうしてあいつは倒せないんだ。亡霊に言うのもなんだが不死身なのか?」
「さてな」
 走りながらアリシアは目を細める。亡霊の正体について考えているのだ。
「土地に憑く亡霊というのがある。それかもしれない」
「土地に憑く? いつも迷宮とかに居る亡霊とは違うのか?」
「連中は死者の残留思念がマナによって負の方向に形を成した存在だ。単体で魔物として成立している。だが、土地に憑く亡霊は少し違う。残留思念にマナが作用しているのは同じだが、連中はその土地への残留思念が元だ」
 アリシアの考察によれば、あの黒騎士、あの亡霊は普通のダンジョンの亡霊とは違うらしい。普通の亡霊は主もなにもなく、生者の怨念がマナによって形になっただけの存在だ。その怨念に従い人間を襲う、そういう存在だ。
 しかし、あの黒騎士はそういった普通の亡霊とは違うらしい。単純な怨霊ではなく、土地への強い執着によって成立しているタイプだということだった。
「えーと、すると何が違う」
「簡単に言えば、本体が土地だということだ」
「なんじゃそら」
「実質、土地が消滅しない限り何度でも蘇る可能性がある」
「なにぃ!?」
 土地への執着が元になった亡霊、それは半ば土地と存在を一体化させているということらしかった。
「だが、それでも亡霊なら殺し続ければ持ってるマナが薄れて消滅するはずだろ?」
「いや、城に入った時にも思ったが、この城は半ば異界になっている。あの黒騎士が自分のテリトリーとしてこの城を書き換えてしまっているのだろう。大体おかしいと思わないか」
「なにがだ?」
「この城にはここに来るまで戦闘の後がまるでなかっただろう」
「......確かにそうだ」
 アリシアの言うとおりだった。この城はどこまでも廃城、廃墟だった。壁は崩れ、床は剥がれ、天井は崩れ落ち、何もかもが朽ち果てている。しかし、それだけだった。今までオムニが送ったという探索舞台が黒騎士と戦った後が何一つなかった。
 百歩譲って人間側の攻撃の跡が分かりにくかったとしても、黒騎士側の跡がないのは不自然だ。
 何せ、アリシアとさっき少し戦闘をしただけで玉座の間はメチャクチャになるほどだったのだ。
 その跡がここまで影も形もないというのは明らかにおかしかった。
「恐らく、この城は停まっているんだ。黒騎士という存在も、城自体も。だから、どれだけ黒騎士を倒しても、やつのマナもこの城のマナもなにもかもが元通りになってしまう。そういう異界になっているだろう」
「じゃ、じゃあ。どんだけやつを倒しても絶対倒せないのか」
「恐らくな」
 黒騎士は正真正銘、不死身ということらしかった。
「なんてやつだ」
「土地に憑く亡霊がここまで強力になっている例も初めてだがな」
「どうする、どうすりゃいい」
「城ごと吹き飛ばせばまず間違いなく倒せるだろうが」
「無理だろ」
「ああ、無理だ」
 土地に憑いているということは土地ごと消せば倒せるのは道理だ。しかし、この城丸々吹き飛ばすなんていう芸当は不可能だった。国家戦力クラスの魔術師を連れてこなくてはならないだろう。アリシアには到底叶わない。
「一旦出直すか?」
「恐らく、簡単には出られないだろう。もう見つかってしまったからな」
「じゃあどうするんだ! 死んじまうぞ!」
 パックがそう言った時だった。
 突如アリシアの直上の天井が轟音を立てて崩落したのだ。
 すんでで横に飛んでかわすアリシア、パックは悲鳴を上げる。
 土埃の中から現れたのは当然、黒騎士だった。
 黒騎士はまた金切り声を上げながらアリシアに襲いかかった。
 アリシアはそれを受け流す。
「どうする!? もう俺達終わりか!?」
 実際の所、最早アリシアは黒騎士の動きを見切っているとはいえこのままでは敗北は濃厚だった。なにせアリシアは人間だ。亡霊の黒騎士と違い体力には限界がある。
「方法は恐らくある」
 しかし、アリシアは言った。
 またアリシアの紅い剣が黒騎士の首をはね飛ばした。
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