楓剣の騎従士と黒い亡霊

かもめ

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第2話

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 オートモービルはゴトゴトと舗装されていない田舎道を走る。魔法で動く魔駆動の動力機は年式が古いのか時折ノイズ混じりの音を響かせていた。古そうな割には屋根付きで車輪もゴムが使われており乗り心地は快適だったが。
「アリシア様は王都勤めだと伺っていますが、どうですか最近の王都は」
「はぁ、まぁ。王都に拠点があるだけで実際はほんどいませんし、大体こんな感じで国中を飛び回っているので。あまり王都の事情には詳しくないですね」
「そ、そうですか」
 中での会話はあまり弾まなかった。
 シェハードは気を遣っているのが半分、純粋な興味が半分の世間話を女性に、アリシア・ルフェーブルに投げかけた。しかし、アリシアは会話が下手なためにそこから話が広がることはなかった。
 モービルはシェハードが握るハンドルに任せ田舎の田園風景の中をひたすら走っていた。この辺りは本当に何もないらしい。放牧地ですらないらしく、遠くから見ればのどかな風景だったが、近寄れば自然のままといった感じだった。
 そして、また丘を越えたところで、
「見えました、あれがミンスターです」
 突如として街が現れた。
 いくつかの丘に挟まれるようにある小さな街だった。街の真ん中には大きな時計塔がある。その周りをレンガ造りの家々の赤い屋根が囲んでいる。どこにでもある田舎町。しかし、そこから浮いているのは町外れにある大きな近代的な工場、そしてそこから少し離れたところに立つ新しいお屋敷だった。
 モービルはお屋敷に向かう分かれ道に入り、真っ直ぐそこへ向かった。
 途中横目に見える工場はモクモクと大きな煙を上げ見ているだけで咳き込みそうだった。
 恐らく魔駆動機構の部品を作る工場だろう。魔力を運動エネルギーに返還する魔駆動の発明により世の中は爆発的に発展し工業化した。そのあおりがこの地の果ての田舎街にまで及んでいるのだ。
 やがてモービルは屋敷の前に停まり、門番が門を開くとエントランスまで入った。屋敷は大きかった。しかし、どことなく王都で見る貴族の屋敷とは意匠が違う。種類が違うというよりは質が違うといった感じをアリシアは受けた。
「ようやくですが、着きましたアリシア様。田舎道は堪えたでしょう」
「いえ、それほどでも。乗り心地は良かったですよ」
「それは良かった。では、中へ。旦那様がお待ちです」
 シェハードが促すまま厳めしい扉を開き、屋敷の中へ入る。
 大きな広間があり、そこに小太りの男が立っていた。
 高そうなモーニングコートを羽織り、高そうなシャツを着込み、高そうなステッキを持っていた。髪や髭もこれでもかと纏められている。とにかく全身全てが高そうな男だった。 いや、男だけではない。この広間もやけに高そうなシャンデリアだの、どこぞの国の大きな瓶だの、絨毯だの、高そうなものがそこいら中に溢れている。
「ようこそ。お待ちしておりましたぞアリシア殿」
 男はにっこりと笑った。
「オムニ・エールズです」
 男は手を差し出し、アリシアはそれを握った。
「アリシア・ルフェーブルです。今回はお仕事をいただきありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。まさか、特級騎従士様に来ていただけるとは。光栄の極みですよ」
 ほほほ、とオムニ・エールズは笑う。どことなく作り笑いっぽかった。
「どうにも胡散臭い野郎だな。今んところ全部嘘くせぇ」
 と、唐突に声が響いた。オムには目を丸くする。
 駅のホームで聞こえた声だった。しかし、やはり周囲に今ここに居る人間以外の人影はない。失礼な物言いよりもその不審さにオムニは一気に険しい表情になった。
「パック」
「思ったことを言ったまでだ」
「ご破算になったらパックのせいだからね」
「分かったよ」
 そう言うと声は押し黙った。
「今のは......」
 オムには用心深そうにキョロキョロと周囲を見回す。その視線は今までの柔らかいものではなかった。まるで自分を殺しに来た相手でも探すようだ。
「私の相棒です。その辺も含めた依頼の話をさせていただきたいのですが」
「あ、ああ。そうですね。失礼しました」
 オムニは努めて笑顔を作っていたがその下の不信感までは覆い隠せていなかった。どうも、今の流れでオムニはアリシアへの信頼を失っているらしかった。
 どうやら難物だぞ、とアリシアも感じていた。
「では、応接間へどうぞ。暖かい飲み物もありますので」
「ありがとうございます」
 アリシアはオムニとシェハードの後に付いて応接間に入った。
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