雷槌のロビンと人形遣い

かもめ

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第9話 街からの脱出経路

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「で、でけぇ」
 伊口は口をあんぐり開けていた。空を漂う巨大ウツボの人形。あんなに大きなものが空を飛んでいるのを伊口は見たことがない。いや、伊口だけではないだろう。あんなものが空を飛ぶなんて誰も思いもしないはずだ。
「あれも俺を狙ってるのか!? あんなものに襲われたらどうすりゃ良いんだ!?」
 そして、あのウツボも拝神の人形だというのなら当然狙うは伊口なのだろう。
 戦慄する話だ。さっきのオオムカデやマネキンに襲われるのでさえ大概なのに、あんな怪物としか言えないものに襲われたらどうすれば良いのか。あの巨大な顎が目の前に迫っているところを想像するだけで伊口には絶望しかなかった。
「落ちついてください。幸い動きは速くありません。このマシンなら襲われても逃げ切れます」
「本当か? 本当なんだな?」
「恐らくは。なので、あれは私達を狙って出されたというよりは別の目的があるのかと」
 そう言うロビンの声は苦悶に歪んでいた。まるで、もうあのウツボの目的を理解しているかのようだった。
 そして、ウツボはそのロビンの予感を再現し始めた。
 大きなウツボはその顎をくわっと開くとそのまま大きな動きで降下を始めた。そして、並ぶ家屋の中にその頭を突っ込んだのだ。
「街を壊してるのか!?」
「いえ、あそこはまさしく私達が向かっているセーフハウスのある場所です。あのウツボは恐らくこの街のセーフハウスを壊すために出されたのです」
「な、なら俺が逃げ込む場所は.....」
「どうやらなくなったようです」
「なんてこった」
 二人が言っている間にもウツボはその大きな頭を持ち上げて空中に戻していた。そして、またゆらゆらとゆっくりと動き、その体をひるがえした。そのまま移動していく。
「次のセーフハウスを狙っていますね。この街にあるセーフハウスは全部で4つ。あの分ならあっという間に全て破壊されるでしょう」
「ど、どうするんだ!?」
 このままでは伊口の身の安全を確保する場所がどこにもなくなってしまうということだった。
 ロビンはバイクの方向を転換し、セーフハウスから進路を変えた。もはや向かう意味はないからだ。
 そして、通信をする。
「『C』、状況は?」
『君たちが向かっていたセーフハウスは完全に破壊されちゃったね。結界のおかげで内部の人間と周辺への被害は最小限に抑えられてるみたいなのが幸いだけど』
「ですが、もう伊口さんを匿う場所はないと見ても良いでしょうね」
『そうだね。これから全部破壊されるだろう。まったく、とんでもないやつだな拝神って男は。あんなにでかい人形なんか報告にないよ』
 どうやら俵駄菓子店は完全に破壊されてしまったらしかった。どうやら人的被害は大したことはないらしいことが幸いだろう。
 しかし、これでは伊口の安全を確保する手段はなくなってしまったということだった。
 こうして街を走り回っている間にも道の脇から、工場の敷地から、次々マネキンの人形が現れる。本当に拝神は街中に人形を発生させているらしかった。
 どこに逃げれば良いのか見当もつかない。
『どうする? もう彼の安全を保証出来る場所はなくなってしまったけど』
「仕方がありません。最早この街で一番安全なのは私の側となってしまいました。私と行動を共にし街を脱出します」
『OK。それしかないだろうね』
「拝神を見つけながら逃げだすのは口惜しいですが、彼を隣町まで移送します。確かこの地域の都市部には機構の支部がありましたね」
『ああ。そこならさすがの拝神も手は出せない。彼をそこまで運ぶとしよう』
「了解」
 そう言うロビンの操るバイクはさっきからすでに街を貫く国道に出ていた。この道をまっすぐ行けばこの速度ならすぐにでも街を出るだろう。どこまで拝神がこの人形の包囲網を築いているか定かではなかったが永久に続くわけがない。走り続ければどこかで終わるはずだ。そして、出てくる人形は一体一体が弱い。突破することは不可能ではないように思われた。
 しかし、
『あー、ロビン。悪いお知らせだ』
「どうしました?」
『この先を進むと、だね』
「ああ、いえ。もう見えました。最悪ですね」
 ロビンが言った頃にはもう伊口にもその光景が見えていた。
「なんだこりゃ」
 二人の乗るバイクが走る先、国道の向こう側。そこに異様な景色が広がっていた。
 その景色を前にバイクは停止せざるを得ない。
 国道の真ん中、そこにはおぞましいほどの量のマネキン人形が溢れていた。文字通り溢れていた。今まで出現していたマネキンはまだ均整が取れていたのだ。
 ここのマネキンは文字通り湧き出るように出現し続けていた。出てきたマネキンが次に出てきたマネキンに押しつぶされ、さらにその上にマネキンが湧き出る。その繰り返しで山のようにマネキンが積み上がり、それがウザウザと動いている。人型だが、それはどこか蟲の群れを思わせた。
「き、気持ちわりい」
 思わず伊口は言ってしまった。
 あふれ出るマネキンは道からはみ出し、近隣の建築物の隙間にギチギチに入っていって居た。見れば、右も左もそんな風にマネキンの山に包囲されていた。
「『C』」
『ああ、どうやら街の周囲がこのマネキンの山に包囲されている。脱出は困難だ』
「まったく、これは困りましたね」
 ロビンは苦々しそうに言った。
 実際、これは問題だ。マネキンの山に突っ込めばたちまちに二人は襲われるだろう。ロビンの戦闘力がどれほどなのか分からないが、伊口を護りながらでは旗色は悪いはずだ。
 つまり、もう街から脱出することは諦めた方が良いと見ても良いだろう。
 伊口は想像していた何倍も大変なことに巻き込まれたことを理解した。
『とりあえず、その場所を離脱してくれ。どんどん人形達が集まってきてる』
「了解です。一旦立て直します」
 ロビンはそう言うとバイクをぐるりと翻した。そして、ロビンと伊口を乗せたバイクは国道を来た方向に戻るしかなかった。
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