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第一章 賽は投げられた
018 ターニングポイント その壱
しおりを挟む佐伯雄護を従えて大学部の医学部へ向かうリシャール王子の足元に白い猫が纏わり付くように着いてきていた。
「・・・佐伯、ちょっといい?」
「御意」
二人は立ち止まって白い猫を冷めた目で見下ろした。
リシャール王子はしゃがんで猫と視線を合わせると猫の手を右手ですくい取った。
「んにゃっ!」
猫は魔力が王子の方へ流れ出る感覚に全身が総毛立った。
王子の手が離れた時、くたりとその場に倒れ込んでしまった。
「魔力の相性サイアク。残念だよ、大雅君。」
*****
翌日の早朝。
伊月は学園指定の半袖Tシャツにジャージの長ズボンというラフな格好で顔を洗っていた。
タオルで水分を拭き取ると、前髪を下ろして手ぐしで適当に整え、黒縁のスクエア型の眼鏡を掛ける。
眼鏡は魔道具で、髪の色を黒、瞳の色を茶色に変化させてくれる。
鏡で今の姿を確認すると、伊月はダイニングスペースに向かった。
ダイニングでは制服を着込んだ伊月がトーストをかじっていた。
「おはよう、たつき」
「殿下、おはよ。」
制服の伊月は変化した土方樹生だ。
土方はアンブローシア王国の近衛銃士で暗部に所属している。
主な任務は土方が持つ特殊スキル「入れ替わり」で伊月と伊千花の影武者をすることだ。
「入れ替わり」は対象者の容姿に変化したり、距離に関係なく対象者と位置を瞬時に入れ替える事が出来る。
土方は魔力量が多いので自分と対象者だけでなく、他者と対象者の容姿と位置の入れ替えも可能だった。
今日のように伊月が単独行動をする時、土方が入れ替わりでリシャール王子になりすましていた。
「昼休みに戻るから、それまでよろしくね。」
「おけ」
*****
一号棟の自室にある転移陣から二号棟の特別室に転移した伊月は、リビングのソファーに置いてあるジャージの上着を羽織ると玄関から外へ出て行った。
部活動の朝練に向かうジャージ姿の生徒達が歩いている中に紛れて、伊月は武術専用の道場に向かった。
道場で天羽伊玖磨と合流し、一緒に柔軟や走り込み等、基礎的な体力作りのルーティンをこなす。
伊玖磨と体術の組み手を30分程してから伊月は伊玖磨と共にシャワー室に向かった。
シャワーで汗を流し、タオルで水分を拭き取っていると、伊玖磨は伊月の下腹部─子宮がある辺りを心配そうに見つめた。
「セイルの様子はどうだ?」
「枢の魔力と相性がかなり良かったみたいで、ここ数日は落ち着いてるよ。」
伊月は下腹部に手を添えて微笑んだ。
セイルは伊月の男子宮の中を住み処にし、一日の大半をそこで眠っている。
「龍王院か・・・
北大路と秋月の魔力はどうだったんだ?」
制服に着替えながら伊玖磨が伊月にそう訊いた。
「玄斗の方は量が全然足りないし、相性もイマイチ。大雅も相性が全然ダメだった。
セイルが受け入れられる魔力は枢のだけみたい。」
「やはり世伊琉皇子に近い血統だと魔力の相性も合い易いのか・・・
龍王院は双子の弟君の直系だったな。」
「見た目もその弟にソックリだから厄介なんだよね。セイルも伊織も伊玖磨も俺に隠れて枢達に接触してるし。」
「・・・」
伊月から恨めしそうな眼差しを向けられて、伊玖磨は気まずそうに視線を逸らした。
中等部の頃の龍王院達に伊織と伊玖磨は一度だけ皇妃主催の茶会で会ったことがあった。
「陛下に捕まっての強制参加だったんだよぉ・・・」
茶会で、獲物を見つけたようにギラギラした子息令嬢たちに取り囲まれた時のことを思い出した伊玖磨はガックリと項垂れた。
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