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第22話 双子の過去 Ⅳ

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「……」
「そんな感じで、気付いたら私と姉ちゃん二人で木陰に横になっていて、胸元にメモがあって『水の国へ行け』と、そうして2年が経って、現在に至る感じですね」
「……あれ、泣いちゃってます?」

「な”いでない」
 泣いてはいない、少し涙腺に来ただけだ。まだ泣いてない。今のも大げさにしただけなんだ。

「ふふ、乗ってくれてありがとう。私達もちゃんと話をしたのが初めてで、内心ドキドキですよ。なんで話そうと思ったのか自分でも良く分かってないんですよね、すごく話易いのでしょうか」

 最初に話す相手が俺で良かったのか、なんて無骨にも思ってしまうが勇気を出して俺なんかに話してくれたんだから信頼として心に受け止めておこう。とそこで思い出す。
「あ、そうだ。師匠に俺が似てるって言ってたけど、似てるのか?」
 聞く限りあまり似ている気はしないのだが――。

「雰囲気ですよ、雰囲気」
「雰囲気……」
「そういう真面目な所も、優しい所も、何も考えていない様で相手の事をちゃんと考えている所もどこか面影を感じるんです。自分よりも相手を優先してしまう所だって――」

 重々しく視線を落とす。師匠の事を考えているんだろう。
「だから、あんなに言ってくれるんだね」

 もうあんな思いはしたくない。俺だってもう人が死ぬなんていやだ。死んで欲しくない。それと同じように俺に無理をしてほしくない人が居るのは嬉しい事だ。なるべく無理はしないように、と思っても前線に行けば無理したくなくてもしなきゃいけない場面が必ずある。だから約束は出来ない。

「うん。ありがとう。なるべく気を付けるよ」
 微笑んだ、なるべく上手く作ったつもりだけど――。

「そうしてもらえると嬉しい」


 多分、見抜かれている。こればっかりはしょうがない。二人も分かってるはずなんだ。




「んで、話は変わりますけども」

 確実に約束は出来ないのが分かってるからか、あえて話題を逸らしたように感じた。俺もこのまま話し続けても心苦しくなるだけだったから正直助かる。


「SAMURAI伝記ですよ、ギンジも読者なんでしょ? 隠したってもう遅いんですから」
「いやあれは――」
「誰が好きなんです? 私はやっぱり武蔵さんですかね……姉ちゃんは沖田さんだったよね」

「えぇ……沖田さんって新撰組の?」
「そう! 剣の腕が素晴らしいの!」

 あぁ、しまった……。つい突っ込んでしまった。しかもこの言い方だと本の内容を知ってる風じゃないか。

「池田屋に突入したときは凄い熱い展開でした。狭い室内での戦闘は技術が入りますからね、あそこはベストシーンです」
「巖流島のも熱いですよね! ね!」

 いや、同意を求められてもですね……。

 これは自分のことを言うべきか? 聞いたなら行ってもおかしくはないし、下手な嘘もつかなくてよくなるし、言った方が良い? 終わったら言うつもりだったし今言っても変わらないよね。うん。そうだ。そうしよう。


「えっと、実はですね――」











「日本は本当に存在してる……? 本当!?」

 予想外の反応で驚く、普通は何か疑うようなことを言うもんだと思ったけども……。

「沖田さんも武蔵さんも、居たんだ……」
「えっと、疑わないの?」
「嘘ではないのは分かりますからね、それにそのお二方の事が知れただけでもう十分です」

 二人でうんうんと頷いてる。愛が深いのですね。


 いやいやいや、それでいいのか?  うーん、頷いてるし納得? しているようだしいいのかな。
「そんな感じなんだ。お互いの事少しは分かった所で今後ともよろしくしてくれると嬉しい」

 癖と言うか右手を差し出してしまう。双子だし両手出そうか? 考えてる間に何故か手が出ていた。

「ええ、此方こそよろしくお願いします」
「よろしく、お願いします……」

 握手を交わしてから気付く、男性が苦手と言ってたのを思い出したけど、握手に応じてくれてよかった。いや、この状況じゃ断れないか。
「あ、ごめん。男性が苦手だったんだよね。つい――」
「えっと、ギンジは優しいので……。大丈夫です……」

 何だ、何か変なスイッチが入りそうだ。駄目だ駄目だ。頭を振りたくって無理やり振り払う。

「あの……そろそろ手を――」
「はっ」

 ずっと手を握っていたみたいだ、不快な思いをさせてしまっただろうか……。にしても二人ともすべすべした綺麗な手をしていた。大きさも一回り小さくて可愛い。

「そんなに手をじっと見て……何か変なこと考えてない?」
「やや、そんなことは」
 綺麗な手だったし、すべすべしてた。女の子の手ってなんであんなに特別感があるのだろうか。

 
 ジトーと見られてる気がして思い出したように質問をする。
「そういえば、昔はお姉ちゃんって呼んでたんだね」
「っ!」
 言葉にならない小さな悲鳴と共に、顔が茹ダコみたいになってしまった。耳まで真っ赤で珍しい表情が見れて得した気分になる。

「そうなの、昔はお姉ちゃんお姉ちゃんって言ってくれて可愛かったのに今じゃこんなに……」
「こんなにってなに! ちょっと恥ずかしいだけよ!」
「ふふふ~」
「ねえ! 何か言ってよ!」

 妹を構っているときは活き活きしてるのね、楽しそうだ。美少女姉妹の仲睦まじい様子はどんな薬よりも効く気がする。 そうだ、少女と称したけど、推定は同い年なんだよね。フィリアといい、みんな綺麗で同じ二十歳としてなんだか申し訳なくなる。


 争奪戦が終わったら話そうって思ってたけど、ここまで来ればもういいや。時間があったらギルとファルテにも話そう。



 キャッキャッと燥いでる双子を横目に昼下がりの時間をのんびり過ごした。



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