上 下
9 / 9

9

しおりを挟む
あれからベッタリと私から離れる様子のないニアと、そんなニアを心底心配そうに見詰めるレイネルとグラオス。

私はそっと自身の肩に頭を乗せながら満足そうな顔をする彼女に苦笑を向けながら、コンコンというノックの音と共に部屋に入って来たジェラートとイグリスへと目を向ける。

すると、部屋に入って来るなりイグリスは私を見るなりこんな事を口にした。

「なんだなんだ、ティリア嬢ちゃん。グラオス坊ちゃん達に疑われてるのかい?」

ケラケラと心底面白いと言った風にお腹を叩きながら笑うイグリスと、そんなイグリスの発言を聞くなり勢いよくこちらに目を向けてくるその場にいるシルヴィー様とニアを除く全員。

そして、イグリスはそんなグラオス達を気にすることなく「で、なんだ。坊ちゃん達はそこにあるスープを俺が作ったって疑ってるのか?でも、残念だがそこにあるスープの作り方を教えることは勿論、そのスープを作る手伝いも俺は何一つしちゃいないぜ!」と腕を組みながら言い放った。

そうすれば間を開ける無く腕を組み、足を組み直しながら「証拠は?」とイグリスを睨み付けるグラオス。

昔から疑り深いのは私自身理解しているが、自分が疑われる側に回るなんて……。

ふぅと軽く溜息を吐けば「大丈夫ですか?」と首を傾けるニアと、溜め息を吐いた私の様子を見て「本当に坊ちゃんは困ったやつだ」と笑うイグリス。

彼は目の前で鋭い瞳をしているグラオスとレイネルを気にすることなく、隣にいるジェラードに目を向けてこう問掛ける。

「ジェラード。お前は一体どう思う?」

何故そこでジェラードが出てくるのだろう?

私は小さく首を傾け、ジェラードを見詰める。

すると、彼はほんの少しだけ間を開けてこう言った。

「……嘘ではないかも知れないと思っています」

「……その理由は?」

「……仕草や動作がティリアにそっくりだからとしか」

じっと交わる彼の赤い瞳と私の緑の瞳。

彼は暫くじっと私の瞳を見据えてから、小さく頷いたかと思うと豪快にも机にあったスープのお皿を一気に飲み干した。

「……ジェラード」

ポツリ、小さく彼の名前を呼べばほんの少しだけ微笑みながら「はい」と返事を返してくれる彼。

私はそんな彼に対して口元を片手で抑えると、再び泣き出しそうになるのを我慢して「ありがとう」と一言告げて微笑んだ。




しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(14件)

あすら
2021.08.23 あすら

続きがとても気になります。更新ずっと待ってます。

解除
姫奈-hina-
2020.09.07 姫奈-hina-

続き続きが気になる!((o(。>ω<。)o))

楽しく読ませて頂きました!

解除
三日月
2020.02.22 三日月
ネタバレ含む
解除

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。

曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」 きっかけは幼い頃の出来事だった。 ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。 その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。 あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。 そしてローズという自分の名前。 よりにもよって悪役令嬢に転生していた。 攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。 婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。 するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました

市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。 ……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。 それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?! 上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる? このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!! ※小説家になろう様でも投稿しています

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

『番』という存在

恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。 *基本的に1日1話ずつの投稿です。  (カイン視点だけ2話投稿となります。)  書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。 ***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。