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料理を乗せた台車を押しながらやって来た応接間の扉の前。

私は軽くその場で深呼吸を一つすると、意を決して目の前の扉をノックした。

すると、間を開けることなく扉の向こう側から聞こえてきたのはグラオスの「入れ」の一言。

私はその言葉を聞くなり「失礼します」の一言と共に、部屋の扉を開けた。

そして、部屋に入るなり案の定こちらに向くのはその場にいる全員からの視線。

この際、思わず真剣な目でこちらを見てくる彼らを目の前に「あはははは……」と乾いた笑みを漏らせば、冷たい瞳でこちらを見詰めてきたグラオス。

これはあれだ、さっさとしろという目だ。

私は彼からのその視線に気付くなり、慌てて台車の上から先程作ったスープをテーブルへと並べた。

途端に、スープを見るなり目を見開いたシルヴィー様を除く全員。

レイネルがスープを並べ終えた私にこんなことを尋ねてきた。

「君は一体何処でそのスープの作り方を……?」

「前世での母です」

すかさず、私がそういえば「イグリスから教えてもらったのでは?」とこちらを疑っている様子の彼。

私は内心でそんな彼に対して『疑われても仕方ない』と思いつつも、「どうなんですか?」と更に詰め寄ってきた彼に対して首を振った。

「そんなことしませんよ。何ならイグリスさんに聞いもらってもいいです」

「ならそうさせて貰うとしよう」

レイネルはそういうなり彼の隣にいたジェラードに「イグリスを呼んできてくれ」と告げ、ジェラードはほんの一瞬だけこちらに目をやってからその言葉に頷いて部屋を出て行った。

私は部屋から出て行ったジェラートを見送ると、無言でそっとスープに手を伸ばすニアへと目を向ける。

すると、ニアは私と目が合うなりふんわりと微笑むと「いただきます」と告げ、そっとスプーンを手に取ってスープに口を付けた。

その瞬間、そんなニアの行動を見て驚いている様子のグラオス達とそんな彼らの様子を見てケラケラと笑うシルヴィー様。

だが、スープを口にしてから少ししてニアが唐突にポロポロと涙を流し始めたでは無いか。

これにはレイネルは勿論のことグラオスやレグロスも慌て始め、流石の私も唐突に泣き始めた愛娘を見て慌てて彼女の前にしゃがみ込む。

そして、出来るだけ優しく「どうしたの?」と問い掛けながら頭を撫でれば大きく目を見開きながら「……お母、様?」とこちらを見て呟くニア。

シルヴィー様は、そんなニアの言葉を聞くなり彼女に対してこう告げた。

「お前の母親はちっとも変わってないだろ?」

途端にニアはシルヴィー様のそんな言葉を聞くなり小さく頷き、こちらに目をやるなり私のことをこう呼びながら抱き着いてきた。

「お母様……!」

涙を流しながらではあるものの、本当に嬉しそうに自身に抱きつく彼女。

私は自身の首元に顔を埋める彼女の頭を軽く撫でてやると、こちらを見て微笑むシルヴィー様に対して泣きそうになりながら笑いかけた。

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