上 下
7 / 9

7

しおりを挟む
料理長であるイグリスから材料を分けてもらい、ひたすらに黙ってスープを作っていると、私の隣で別の料理をしていたイグリスが突然私に声を掛けて来た。

「おい、嬢ちゃん。あんたもしかしてティリア嬢と縁がある家の子かい?」

心底不思議そうな顔をしながら私が煮込むスープの中身を覗き込む彼。

私はその言葉に曖昧に微笑みながら頷いた。

「まぁ、縁というかなんというか……」

すると、彼は私の顔を見るなり少し驚いた顔をしたかと思うと「少しおかしなことを言ってもいいかい?」と言った後に、私が頷いたのを見るなりこう告げた。

「嬢ちゃん、あんたもしかしてティリア嬢かい?」

ここで思わず目を見開いた私と、そんな私の反応を見て「やっぱりそうか!」と笑うイグリス。

彼はケラケラと笑いながらこう続けた。

「いやぁ、あんたが作ってるそのスープといい、包丁の使い方と仕草と言い、何処と無くティリア嬢に似ているなぁとは思いながら様子を見ていたんだがまさかなぁ!」

優しく頭を撫でてくれるその大きな手は昔と変わらず、私はクスリと笑いながら「よく分かりましたね」と呟く。

そうすれば、彼は私の頭を撫でるのをやめたかと思うと自身の腕の筋肉に触れながら前世の私ですら知らなかったことを話してくれた。

「そりゃまあ一応これでも俺はジェラードの坊主がこの国の騎士団長になる前の前騎士団長だからな!そいつが嘘を吐いてるか嘘を吐いてないか、そしてそいつの仕草なんかも見間違えるとこはない!!」

自信満々に最後は自身の胸を叩きながらそう言い切る彼。

私は彼はずっとここの料理長をしている人物だと思っていた為に軽く彼の発言に驚きつつ、目の前で「驚いたか?」と言ってきた彼の言葉に頷きながらこう答えた。

「私てっきりイグリスさんはずっと城の料理長をしていた人だと思ってました」

しかし、その瞬間に私は彼の口から思いもよらない言葉を耳にした。

「はははっ!まあティリア嬢ちゃんが城に来た時にはもうここにいたからなぁ。でも、実際はグラオス坊ちゃんが前王の首を討ち取る前まで俺は騎士団長を務めてたんだぞ?」

ここで、思わず「え……?」と呟いた私と、そんな私の様子を見て「どうかしたのか?」と首を捻るイグリス。

私は先程の彼の発言の中で気になったことに関して、目の前の彼に対して問い掛けてみた。

「イグリス、グラオスが前王の首を討ち取ったというのは一体……?」

途端、『やってしまった』というような顔をして私に対して別の話題を降って来る彼と、そんな彼からの話題を迷いなく跳ね除けながら彼へと詰め寄る私。

すると、イグリスは「分かった、分かった」と言いながら降参のポーズを取ったかと思うと「グラオス坊ちゃんには俺が教えたことは秘密にしてくれよ」と言いながらこんな事を話し始めた。

「元々、グラオス坊ちゃんは前王と同じく種族差別を酷くする人だった。だが、あんたと出会ったことによってグラオス坊ちゃんは種族の壁なんてなんでもない物だと思った。だから、国に帰って来てから坊ちゃんは前王に謁見した際に前王にあんたと結婚をしたいこと、そして鎖国状態だったこの国の鎖国を解こうという話しを持ち掛けた。でも、前王はそれを拒否した上にあんたを殺しに行くようにと俺を含む王国騎士達に言ってな。そこからは親子喧嘩という名の殺し合いだ。そして、勝ったのはあんたの旦那であり現国王のグラオス陛下。分かったか?」

トントンと自身の頭を指でこつきながら爽やかに笑う彼。

けれど、私がグラオスと婚姻をする前に彼は前王は元より患っていた病が悪化して亡くなり、彼が王位を継いだと聞いていたのだ。

それなのにまさか彼が自ら前王を殺めただなんて……。

まさに開いた口が塞がらないとはこのことだ。

私は彼の話を聞き終えるなり目を伏せ、何故この話を彼は私にはしてくれなかったのだろうと落ち込む。

しかし、そんな私の考えを読んだのかイグリスは何でもない様な口調で更にこう続けた。

「グラオス坊ちゃんにとっては父親であったガイル様よりもティリア嬢ちゃんの方がそれだけ大切で添い遂げたい相手だったんだろうよ。俺達自身、ガイル様が国を統一していた頃よりも今の方が生活しやすいし誰もグラオス坊ちゃんを恨んじゃいない。それに、ガイル様自身もグラオス坊ちゃんのことを恨んだりはしていないさ……」

どこか遠くを見ながら微笑んだイグリス。

私はそんな彼に対して小さく例の言葉を口にすると「ほら、そろそろスープができたんじゃないか?」と鍋を指さした彼に言われるがままにスープの様子を見る。

「……えぇ、出来てるわ」

「よしよし、まあ重苦しい話はここまでにしてさっさとグラオス坊ちゃんの所にそれを運んでやりな。あとついでにもしかしたらあの疑り深い坊ちゃんのことだからスープを見てもグダグダ言いそうだから、ボリアの実も分けてやるから昔あんたがよく剥いてた兎の形にでも皮を剥いて持って行きな!」

にこやかに笑いながらこちらにボリアの実を投げ渡して、スープの入った鍋の傍にスープを入れるお皿を並べてくれるイグリス。

「イグリス、何から何まで本当にありがとう」

私は昔から変わらない面倒みのいい彼にクスリと笑うと、そう感謝の言葉を告げたのだった。

そして、彼からの「気にするな!」の言葉を聞いた私はボリアの実を少し歪ではあるもののうさぎの形に剥くと、スープを台車に載せて、イグリスに頭を下げてから台車を押しながらグラオス達の居る元いた部屋まで歩き出した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。

曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」 きっかけは幼い頃の出来事だった。 ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。 その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。 あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。 そしてローズという自分の名前。 よりにもよって悪役令嬢に転生していた。 攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。 婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。 するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました

市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。 ……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。 それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?! 上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる? このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!! ※小説家になろう様でも投稿しています

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

『番』という存在

恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。 *基本的に1日1話ずつの投稿です。  (カイン視点だけ2話投稿となります。)  書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。 ***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

処理中です...