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ジュースを手に取ってその場から二人のいる方向を振り向いた時、そこには二人はいなかった。

「え……?」

唖然と目を見開いてオレンジジュースを元の場所に戻して二人のいたはずの場所に戻ればそこにはやはり二人の影はなく、私の脳裏浮かんだのは『イベント発生』の六文字。

私は不思議そうにこちらを見ている少女に声を掛けた。

「あの、いきなりで申し訳ないのですが先程までここにいた二人を知りませんか……?」

すると、「あぁ!」と可愛らしい声で手を合わせた彼女は会場の外へと繋がるドアを指さして「そのお二人でしたらトイレがと言いながらあのドアの方に向かいましたわよ」と教えてくれた。

私はそれを聞くなり彼女に礼をするとそのまま妹達が向かったというドアの方へ向かい、チラリとパーティー会場を一瞥してからそのドアノブを引いて廊下へと出た。

その際に扉から出るなり右を向けばそこには「離して!!」と叫ぶフェリナと「やめて!!」と叫ぶレインの姿。

私は思わずその光景に両手で口元を抑えると、これだけの声量で二人が叫んでるにも関わらず誰も助けに来ないなんてこの屋敷の警備はどうなっているのかと焦りながら物影に隠れながら二人の後を追う。

しかし、ある程度だが犯人達から距離を置きながら着々と二人への距離を縮めていた私は突如何者かに手首を掴まれて廊下の曲がり角の壁際に追い込まれていた。

咄嗟に口を開こうとすればその口は意図も簡単に目の前の人物に塞がれ、私は次の瞬間に視界に写ったアイザック少年を見て目を見開く。

そして、彼もまた私の顔を見るなり少し驚いた顔をしたかと思うと静かに人差し指を唇に添えるとそのまま小さな声で私に話し掛けてきた。

「……いきなりすまない。だが二人を助けたいならここで大人しくしてくれ」

「……分かりました」

私は私の返事を聞くなり真剣な顔付きで物陰から妹達と犯人を覗いているアイザック少年を見詰めながら、自身の首に掛かっている笛を吹くのが一番早いかも知れないと私は次の物陰へ移動して行ったアイザック少年を見送った後に首に掛かった笛を吹いた。

そして、笛を鳴らしてから少しすればそこに現れたのはなんとも言えない顔をしたギノ。

彼は私のパーティードレス姿を見るなりただ一言こういった。

「パーティー参加しないんじゃなかったの?」

「本当は来る気はなかったわよ。でも来るしかなくなったの……」

「ふーん、お疲れ様。で、何の用?」

「前に言ったでしょ、妹が攫われたから助けて欲しいの……」

真っ直ぐにギノの目を見てそういえば何やら外に目を向けて黙り込んだ彼。

彼は少し間を開けて「血の匂いがする」と言ったかと思うと私の手を取って走り出す。

「えっ、ちょ、ギノ早い!!」

「大丈夫、死にはしない」

淡々とした声色で私の叫びに返事を返す彼は外に出るなり私を横抱きにしたかと思うと、軽く地を蹴って木上へ登る。

「妹ってあれ?」

チラリとギノが見ている方向を見れば馬車に乗せられかけているフェリナとレインの二人組と、二人を攫おうとしている誘拐犯と向き合うアイザック少年の姿。

ゲーム内ではアイザック少年は誘拐犯達に勝つ。

しかし明らかにここから見えるアイザック少年は何処からどう見ても犯人達に圧されており、私ブンブンと首を縦に振りながら「そう、あの子!早く助けてちょうだい!!」と言ってギノを急かす。

そして、また次の瞬間には私とギノはアイザック少年と向き合う誘拐犯の前にいてギノは私を地面に下ろすなり「下がってて」といい目にも留まらぬ速さで目の前の誘拐犯の項辺りに手刀を入れて倒した。

そこからはもうギノの一方的な独壇場だった。

犯人達は次々とギノによって気絶させられていき、残り一人になった際にギノは相手の襟を掴みながら「主犯は誰?」なんて冷たい目で相手を見下ろしながら尋ねる。

すると犯人は上擦った声で地面に転がっている一人の男を指差す。

「そう、分かった」

ギノは男の指差す相手を一瞥するなりただ一言そういって男を沈める。

私はギノの「もういいよ」の声に礼を言うとそのままこちらを呆然と見ているフェリナとレインに「無事で良かった……」と言いながらその身体を抱きしめる。

けれど、二人を抱き締めたところでギノが「妹、怪我してるよ」と言ってきたので慌ててフェリナの顔を見れば明らかに叩かれたであろう少し腫れた頬とその頬に入った一本の赤い線。

フェリナはへらりと笑いながら「大丈夫だよ!」なんて言っているものの大丈夫な訳が無い。

私はフェリナとレインの手を取るとアイザック少年に対して「二人を助けようとして下さってありがとうごさます」と頭を下げて、ギノにも「ギノ、本当にありがとう。お礼はまたするわ」と告げるとその場から歩き出す。

そして私達はこの後すぐにパーティー主催者に今回の事件のことを伝え、屋敷の者に氷水を持って来て貰うとフェリナの傷の手当てをしてもらったのであった。


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