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第一部

ズレ

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 歌羽さんは今、治療を受けている。俺は待合室で歌羽さんの治療が終わるのを待っていた。その間、俺は今日の事で少し…いや、かなり後悔の念に囚われる事になった。 

 あんな風に歌羽さんに怖い思いや嫌な思いをさせてしまった事に対しての念だ…。 

 そもそもの話…俺はこうならないように準備を入念にして来たつもりだったんだ。立物が歌羽さんを今日レイプする事が分かっていたのだから…。 

 だから立物達が来る前に俺と俺に手を貸しに来てくれた愛さんとともに、の物陰に隠れて待機していたんだ…。でも…立物達は一向にこの場に来る気配がなく、嫌な予感がした俺は、愛さんには念の為にその場に残ってもらうことにして、校舎中のを駆けながら見て回る事にしたんだ。 

 そして、その舞台の一つとなる視聴覚室の前へと辿り着き、ドアの上部に付いている小窓から中を覗くと…歌羽さんに迫る立物の姿が…。俺は急ぎ隣の部屋から椅子を手に取り、ベランダへ。そしてベランダ側から視聴覚室の窓を割って視聴覚室の中へと入って行ったんだ。 

 立物が歌羽さんに覆いかぶさっていた時には間に合わなかったのかと心臓がぎゅうっと握り潰されるかのようなそんな感覚を感じた。 

 無事だったと知った時はどんなに嬉しかった事か…。 

 とにかく後の事は警察を通じて愛さんにお願いしてきた形だ。愛さんなら悠介さんを通じてうまい事処理してくれるだろうからな。そして俺は歌羽さんを連れて急いで病院へと来たわけだが… 治療が長すぎないか?もしかして骨にヒビが入ってたり、折れていたのか!?そんな事を思っているとひょこひょこと歩いてくる歌羽さんの姿が視界へと入ってきた。

 俺は歌羽さんの元へと駆け寄る。 

「ごめんね、長い時間待たせてしまって。診察終わったよ」

「どうだった?」 

「うん。骨とかには異常はなくて、捻挫だって…。テーピングで固めてもらったし、ゆっくりなら歩けるよ」 

「そうか。良くはないけど少しだけ安心したよ」 

「ごめんね、心配掛けたみたいで…それに…改めて…ありがとうございます!おかげさまで捻挫だけで済みました!本当に…豊和君が来てくれなかったらどうなっていたか…(ブルブルっ)…そう考えると恐ろしいよねっ!」 

「…もう少し早く助けられていたら歌羽さんが怖い思いとかしなくて済んだのに。ホントにごめんな」 

「そ、そういう意味で言ったんじゃないからねっ!?」 

 歌羽さんは何度もそういう意味じゃないから、助けてくれたからこうやって話が出来るんだから、責めてるわけじゃないのとアタフタしていた。 

 …うん。俺もあんまり謝り過ぎるのも逆に歌羽さんに対して悪いなと歌羽さんのそんな様子を見てて思った。それにいつまでもこうやって立って喋るわけにもいかないからな。 俺は歌羽さんの前で背を向けてしゃがみ込む。 

「…えっ?」 

「まだ足が痛むだろ?車迄おんぶしていくから遠慮せずに乗ってくれ」 

「そ、そんな…わ、悪いよ」 

「なら…学校でした様に「お、おんぶでお願いしますっ!」あ、嗚呼…分かった。いつでもどうぞ?」 

「し、失礼しましゅっ…」 

 そっと歌羽さんが体重を預けてくる。しっかりと歌羽さんをからうと、まずは病院の受付へと向かった。それから歌羽さんには待合席にジュースでも飲みながら座っていてもらい、お金を払ったり、湿布等をもらってから再び歌羽さんをからうとそのまま病院を後にした。 




♢ 

 そして病院を出てすぐの事… 

「あ、あの…お金は明日にでも払うからね?」

「気にしなくていいよ?」 

「そ、そんなの駄目だよ。助けてもらった事もそうだけど…豊和君にはいっぱい借りが出来ちゃったもん」 

「借りとかそういう風に俺は想っていないから」 

「私がそう思うんだよ?」 

「…じゃあ…一つだけ…お願いを聞いてもらってもいいか?」 

「えっと…何?」 

「今回の事なんだけど…事件を表沙汰にはせずに隠してもいいか?」 

「…えっ?」 

「隠すと言っても歌羽さんの事だけなんだけどな。だからといって立物を許す訳じゃないからな?アイツには相応の罪をつぐなってもらうし、他にもアイツが犯した罪もあるからそっちの罪で償ってもらうんだ…」 

「あ、あの先生、他にも悪い事してたんだぁ…」 

「うん。まあ、とにかく許すつもりはないって事なんだけど…」 

「それ…って…私の事も考えてくれたんだよね?」 

「…うん」 

 事件が表沙汰になるとアイドルレイプ未遂とか騒がれたうえに裁判にも出ないといけなくなるからな。被害者からすれば出来れば顔も見たくないだろうしな。 

「…いいよ。それで」

「…ホントに?」

「…うん。あっ…その代わりに…豊和君のメッセージアプリのIDを教えてもらってもいいかな?私、転校してきたばかりだし…こっちに友達少ないからさ」 

「勿論。いいよ。でも…俺のなんかでいいの?」 

「えっ!?う、うん。と、豊和君のがいいんだよ…」 

「了解……んっ?そういえばよく俺の名前を知ってたな歌羽さんは」 

「…ふぇっ!?」 

「…俺言ったんだっけ?」 

「ほほほほほほっ、ほらっ!な、名前言ってたじゃん!?わ、忘れちゃったのっ!?あああ、あの時だよ、あの時っ!」 

(あわわわっ…!?う、嘘ついちゃったよぅ~~~!?) 


「えっ…とっ…ごめんごめん。色々あったから言ったのを忘れてるみたいだ。悪い、ごめんな、歌羽さん」 

「いい、いいんだよっ!?そんなの本当に気にしないでいいからねっ!?」 

(し、信じちゃったよ!?ど、どうしよう…また謝られたんだけどっ!?良心の呵責に苛まれちゃうよぅ~~~!?) 

「とにかく歌羽さんに何かあったら連絡してくれていいからな?些細な事でもいいから」

「う、うん。あっ…それと…私の呼び方は…天音でいいよ?私も豊和君って呼んでるからさぁ」

「了解…天音」 

「……………(どどどどど、どうしよう……な、名前を呼ばれただけで…全身が熱くなっちゃう…それに…心臓が高なってしまう。もしかして…これって…)……」 

「天音?」 

「ひゃいっ!?にゃんでもありましぇん!」 

 天音の様子がおかしい様な気がしたけど…まあ、気のせいか?とにかく手配した車に乗り込んだ後で、連絡先の交換をして天音を自宅へと送り、俺もその日は帰路へと着いた。 



♢ 
 

 少し先の話にはなるんだけど…立物は刑務所に収監後、毎日自分が掘られる側になった。そしてそこから出てくる事はない事を伝えておく。 





*** 
あとがき 

優花「これはもう!スリーアウト、チェンジでしょっ!?」 

凛「ホントだよね!?歌羽さんが助かったのはいいんだけどさぁ!?」

芽依「くぬぅぅぅ~~~。さりげなく連絡先も交換してるしぃぃぃ~」 

愛「まあ、それはいつでも連絡がついた方が都合がいいでしょう☆」 

優花「しかも恋を自覚しそうじゃないのっ!?」 

日和「ホントだよなぁ~」 

天音「そっかぁ…これって恋だったんだね」 

優花「な、何で歌羽さんがここにっ!?」 

天音「それはわかんないけど…モヤモヤしてる気持ちの正体は今分かったよ?」 

凛「まだ分からないでっ!?」

優花「そ、そうよ!まだ早いわ」

天音「早くないもん」
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