男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

第五章

散りざま

　ミーニャさんが手強い敵を一人仕留めると男の声が響き渡った。 

「役立たずのババアがぁぁーーー！」 

　その言葉に敵軍の動きが一瞬止まる。声の方へ視線を向けると黒い甲冑姿の男が嫌でも私の視線に入ってくる。


　自分の為に戦ってくれた者への容赦ない罵倒…。生命すらも投げ捨てた者へと弔いとは程遠いその男の態度が私を苛つかせた。気が付いた時にはソイツに向かって私は駆け出していた…。 

「ティア！？」 　　

　ミリアの声が聞こえた気がした。 

「マリン！レーティ！」 

「む、無理しっ！」 

「ん、無理」 

「くっ…ティアちゃん…」 

「殿下ぁぁー！お戻りをぉー！」

　迫り来る敵は斬り伏せて、真っ直ぐ男の元へと向かう…。

　男もこちらに気付いて剣と盾を構えた。両手に持つ剣に力が入る。 

「あなたがレインローズをぉぉっ！」 　　

「そ、それがどうした！？」 

「それに私のエルを利用しようとしたな！？」

　私が放った剣は…空を斬り…躱したっ！？

「そんなのに当たる訳ないだろ？この体になってからは昔と違うんだよっ！俺の方に付けばお前にも特別に子種を分けてやるぞっ！？」 

「―誰がっ…あんたのなんてっ！」 

　ブン―っと力任せに振られた男の一撃を避け… 

「誰があなたのモノを欲しがるというのです！それにっ！既に私は頂いてもらっていますっ！」
　

　獲った！ そう思って男の首に向けて私が放った渾身の一撃は、いつの間にか男が構えていた盾に防がれ… 

ギィィィーーーン！ヒュンヒュン…ザクッ！

　剣が折れてしまった…。その瞬間私はようやく我に返り自分の愚かさを呪った…。あまりにも頭に血が上りすぎていて周りが見えてなかったことを悟る。それと同時に男が装備していた盾で横顔を殴られ… 

「あぐっぅ…」 　　

　倒れたところを私との距離を詰めていた一般兵に取り押さえられてしまった…。 

「デイル様！この者は…この国の姫です！」

　ちっ…余計な事を… 

「…なるほどな…どおりで器量が良いわけだ？」

「…殺しなさい」 

　エル…ごめんね？愛する我が子たち…ごめんね？

「おい、ソイツを連れてこの場を離脱するぞ…」 

「残念ながら私は人質にはなりえませんよ？姫といってもそんな価値はありませんよ？知らなかったのですか、ほんと…無能な男みたいですね。私がこの身を捧げた男性とは天と地ですね」 

「チッ…おい、そこら辺の奴等…」

　男が兵に何やら指示を出そうとしている様ですが無駄ですよ… 

「そこで壁になって、ここに誰も越させるなよ？今から敵の前でコイツを犯して、辱めてやるからよぉ～」 

「っ！？」 

　戦闘の最中に何を… 

「俺のモノを見たら女は平伏し、欲しがるだろうよ？この世界はそういう世界だ！存分に犯し尽くしてやるぞっ…クックックッ…アッハッハッハッハッハッハッ…」 

「こ、殺しなさい！殺しなさいよっ！さっきも言った筈です！私は既にこの身を彼に捧げているとっ…」 

「な～に…俺のモノの方がいいと絶対に言わせてやるさっ」 

　カチャッカチャッ…

　男は身に着けている兜や鎧を本当に外し始める。本気でするつもり…！？ 必死に抵抗しながら周りの様子を窺う…。

　ミリアが必死にこちらへと向かおうとしている…。ミリアだけではない…。みんなも同じ…。必死に敵を斬りながら何か叫んでいる…。

　私の名前を呼んでくれている…私に手を出すなと叫んでくれている… 

「エル…」 　　

　視界が滲み…大好きな彼の名を口にする…

「いいねぇ～ 女の涙程ぐっとくるもんはねぇ～よな？唆るぜっ…捧げたって言った男の顔でも思い浮かべてろよ、直ぐにソイツの顔を俺の顔で染めてやる」 

　男が近付いて来た… エル…ごめん…ごめんね…私… 私…汚れちゃう… 


“パァァァーン！ ”

　凄い音が戦場に鳴り響いた。その音にみな動きを止める。のたうち回る男以外は…。

「ぎゃあああぁぁぁぁーーーーーーーぁぁ！？俺のっ…俺のっ…股間がぁああああ！」

　男の悲鳴が響き渡り… 同時に…


「ティアに触れるな！」

「…エ…ル？」

「ここにいる者達よ！みな剣を捨てよ！」


　その言葉に私を取り押さえていた兵が手を離し距離をとる。私は急ぎ兵が持っていた剣を手にして立ち上がり、エルの元へ。 


「ティア！無事か？」

「どうしてここに？」

「愛する人達が心配だったからね」

「…エル」


「貴様ーっ！貴様がエルかっ！？よくもよくも俺の大事なちんぽを…」

「お前が女性をたぶらかせて…俺を狙って来た男か」

「だったら…なんだ！？男だぞ！？この世界で一番偉いのは…俺なんだぞっ！？お前は俺に使われるべき存在だろうがぁぁあー！」

　男は剣を拾い上げるとこちらへと剣を構え駆けて来た。ティアがそれを迎え撃とうとしたのでそれを制止。手にもったものを構え…狙いをつけ…引き金を引いた。

“パァァァーン！”

　俺が撃ったのは拳銃…。放たれた弾丸は男の眉間を貫き…

「けん…じゅう…まで…っ………」

　その言葉を最期に男は物言わぬ人となる…。彼の言葉…たぶん…彼は俺と同じ転生者だったんだろうな。道を違わねば…仲良くなれただろうに…。

「そちらの敵将はこのエルが討ち取った！戦いをやめろ！無意味にその生命を散らすのはやめるんだぁー！」


　そんなエルの言葉に…一人一人武器を捨てていき…やがで全員投降…。戦いは終焉を迎えた。