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第三章

半年と半月

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 無人島に流れ着いて、とうとう半年と半月が経過した。どうやら渡り鳥の足に伝言作戦(命名エル)は失敗に終わったみたいだ。そう簡単に見てもらえる訳ないか。結構大変だったんだぜ?あの鳥が好きな物を与えて人に慣れさせたり…。まあ、仕方ない。んで、この無人島の様子はというと、島を覆う様に薄っすらと雪化粧が施されている。

 そうなると当然の事ながら寒いわけで(北◯国からのじ◯ん君のモノマネ)…。

  こうなる事は予想して、前もって準備をしていたつもりだった。自然を舐めていたのかと言われればそんなつもりは毛頭ない。予想以上にここが寒かったという他ない。

 作れる物は作ったんだよ?草、葉っぱ、木の皮、獲った鳥の羽等、利用出来る物は全て利用して作った防寒用具…。それでもやっぱり寒いものは寒い…。 そして寒さに負けた俺はというと… 

「ゲホッ…ううっ…ゴホッゴホッ…」

 はい!ものの見事に風邪をひいちゃいました!テヘペロ…。

 ううっ…まさか…風邪をひいて熱迄出してしまうとはどうにも情けない。子供だから抵抗力が思った以上になかったか?それとも俺がひ弱なだけだろうか? 

「エル…エル…しっかりするし…」 

 不安そうな表情のマリンが必死に俺を看病してくれる。マリンに風邪を伝染さない様にしたいんだけど住む場所を一つしか作っていなかったのものだから離れていた方がいいとも言えない…。マリンに風邪が伝染らない様に願うばかりだ。

 それと俺が風邪をひいてしまったことで余計な心配をかけさせてしまっているんだよね…。 逆の立場なら俺もそうなってるだろうしな。

 こういう時こそ笑いじゃあないか?人は笑うと幸せになれると昔の人は言ったもんさ。

 そして、こんな時に思い浮かぶお笑いのネタと言えば、最早これしかあるまいて!!

 「マリン?そんなに心配…しなくても…僕は…うっ―」 

“ガクッ… ”

「…エル? エルしっかりするしぃぃ!!」

 俺が死んだ振りをすると、当然の様に慌てるマリン。そんなマリンの様子を見てから、ガバっと上半身を起こす。そして… 

「こんくらいじゃあ俺は死にゃあしねぇーよ?へっへっへっ…」 

「……えっ…エル?」

 何が起きたか分かってないマリン。顔にはハテナが浮かんでるようだ。ならば、もう一度…。 

「ゴホッゴホッ…ううっ…うっ―」

“ ―ガクッ… ”

「…エル?エルゥゥ!?」 

 必死に俺を揺さぶるマリンを傍目にまた何事もなかったかの様にガバっと上半身を起こして… 

「まだまだ死にゃあしねぇーよ?俺は…」 

 有名なあのコントだ! 

「…何がしたいし?」 

「いや…元気出るかと思って…」 

「出るわけないしっ!こんな時にそんな事するエルは頭おかしいしっ!?馬鹿だしっ!?冗談でも…あ~しは…あ~しは…」 

 こんな時にする事ではないのは分かってはいるんだけど…

「僕は大丈夫だから…こんな事出来る位元気な証拠だろ? だからさっ、マリンも休んで?一睡もしてないでしょっ?マリンのお陰でこんな事しても平気な位になったんだ!だから…ねっ?」 

 ただ単にこんな事したんじゃないからね?マリン迄倒れたりしたらいけないからこんな風にしたんだよ?ホントだよ? 

「…んっ…分かったし。少しだけ…寝るし…。でも…何かあったらすぐ起こすし?分かってるし?」

「うん。ありがとうマリン」 

 それからしばらくして…すぅ~すぅ~ と、マリンの寝息が聞こえてきた。ようやく休んでくれたみたいだ。本当に良かった。何日間か徹夜で俺の看病してくれて、逆に心配だったんだよね。 

 しかし、それにしても…頭はガンガン…喉はズキズキとして唾を飲み込むだけでも痛いし…どんどん意識がボッーっとしてきた気がするし、
おまけに熱も高くなってる気がするな…。

 これは本格的にマズイかもね…。そんな事を考えながらうつらうつらとしていると…

“ ミシッッ…ジャリ…ジャリ…ジャリ” 

 夢じゃない…。熱でうなされてるからとかでもない。今も外から聞こえてくる。

 木の枝が踏み潰されて折れる様な音と砂利を音。この島にそういう動物は居なかった。夏場なら猪が泳いで来たとしても信じられるけど季節がら違うと思える。猪ってかなりの距離泳げるらしいぜ?

 それはさて置き、だとすれば音を発しているのは人だと思い当たる。耳を澄ませば何かを話す声が聞こえる。会話の内容やら詳しい事は分からない。

 とにかくマリンはさっき眠ったばかりだし…起こす訳にはいかない。俺は近くに置いてあった木の銛を手にふらふらとしながらも外へと向かう。

  外は吹雪いていた。吹雪いているうえに熱のせいか視界がボヤケてよく見えない…。でも…たぶんだけど…人らしき姿が見える…。そしてこちらに近付いてくるのが分かる。 

「…そこに居るのは誰っ?」

 俺を攫った奴じゃあなければいいなと思いながら声を出す。銛を力一杯握りしめながら。

 「っ…!?エ、エル?エルなのっ!?」 

「僕を…知ってる?」 

 女性みたいだけど…。

「エル…エルぅぅーーー!!」 

 俺の名前をどことなく聞き覚えのある声で呼びながらその人は急ぎ駆け寄って飛び込んで来る。不思議と敵意など感じず咄嗟に握っていた銛は手放して衝撃に備える。

「おっふっ…」

 病人の俺には堪える衝撃だ…。

 飛び込んで来た女性はもう離さないとばかりに俺を強く抱き締めてくる…。視界には一度見たら忘れないであろう彼女の真っ赤な真紅の髪が…。

「…ティア?」

「エルなら…無事だって信じてたの」

「ありがとう、ティア。僕を見つけてくれて」

「…何度でも…見つけてあげるから…」

 ティアをあやす様に頭を撫でていると俺に駆け寄って来る大人の女性が目に入る…。

「僕は無事だよ…ミーニャ?」 

「はい…はい!ミーニャですっ!ううっ…エル様!エル様ぁぁー!!よく…よくご無事で…」

 他にも駆け寄って来る人達の影…。

 しかしながら、かなりヤバイ…。感動の再会を祝いたい所だけど意識が遠くなる感覚…。せっかくの再会なのになぁ…。相変わらずの俺だな。

 でも…これだけは伝えておかないといけない。

 「はぁはぁ…ティア、ミーニャ…ごめん。意識がなくなる前に大事な事を言うからね?…この家の中にが居るから…どうか…宜し…く…っ…」 

「エルっ!?」

「エル様!?失礼します! っ、酷い熱!?レーティぃぃ!!!リンリーン!!!レイラァァァー!!!急いでここにっ!!!」 

そして…俺は完全に意識を手放した…。
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