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第三章

手掛かりは…

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「何でもいいアル。エル様の手掛かりは見つかったアルか?」

「…いえ」

「そう…アルか…」

「やはり、もう…エル様は…」

 エルの行方を捜す為に組織された捜索隊の一人が悲痛な面持ちでついそう口にしてしまう。

「ん…何を言ってる?」

「そうアル!縁起でもないアル!」

「…あの時…私が生命を賭してもエル様だけでも逃がしていれば…」

「こらっ、ミーニャ?何度も言うけど、そんな事をしてもエルは喜ばなかったわよ?」

「で、ですが…奥様…」

「私には分かるわ。エルはどこかで無事だって事が。レーティもリンリンもその事を疑っていないでしょ?」

「ん…勿論」

「当たり前アル」

「私も…そう信じたい…いえ、信じてるのですが…あの時のエル様の顔が…ずっと私に別れを言ってる様な気がして…そんな気がしてならないのです…ううっ…」

「ミーニャ…」

「「………」」


「マリア様ー!マリア様ーっ!!」

 そんななか、一人の女兵士が駆け寄ってくる。

「何かあったの?」

「はっ!ティア殿下より急ぎの書状が届いております」

「ティア殿下から?」


「はっ!こちらでございます!」

「……急ぎローズレイン城へと戻ります!みな準備をっ!」

「ん…何かあった?」

「何かあったアル?」

 レーティとリンリンの声がハモり、ミーニャは何があったのかと固唾を飲む。

「エルの…ぐすっ…エルの手掛かりが見つかったの。あの子はやっぱり無事だったのよ…」

「それはホントですか、マリア!?」

「ふふっ…ええ、間違いないわ、ミーニャ」

「ホントに本当に…良かった…」

「ん…信じる者は救われる」

「ホントアル」


 マリア達は急ぎレインローズへと向かう事に。別働隊としてエルの行方を捜していた、ミリア、レイラ、カミラ、エリン達もまたその報せを受けレインローズへと向かう。

 ようやく見つかったエルの行方の手掛かり…。それがどの様にしてティアが見つけたのかはこの時より少しだけ時を遡る…。






 エルを攫って自分達の物にと企てた王国が地図から消え、ティア自身もエルの捜索に参加していたそんなある日の事。

「ティア」

 王都へと一度戻ってきたティア。城下町の入口付近で、自分の名を呼ぶ声がしたので、振り返るとそこに居たのはランスだった。2人は護衛を何名か引き連れ、広場へ移動。そして近況報告がてら話をする事に。

「そっかぁ…ランスの方もエルの手掛かりはゼロなんだね…」

「…うん、残念だけど…」

「…やっぱりもっと人員も範囲も広げて…」

「ねぇ、ティア…」

「もしかして何か良い案でもあるの?」

「違う…そうじゃないんだ」

「?」

「エルはもう…死んだんじゃないかな…」

「えっ…」

「だって…嵐に巻き込まれて…乗ってた船が沈んだんだよ?」

「な…なんで…そんな事…言うの?」

「僕達は同年代の子に比べても頭がいい。流石にエルとまではいかないけど…。でも、だからこそ分かると思うんだ…」

「…何を?」

「もうすぐ半年だよ?エルは海に呑み込まれて死…「聞きたくないよっ!そんな事っ!」…」

「エルは必ず…生きてる…もん…」

「お願いだから現実を見てよ、ティア?エルが居なくなったあの時から君は少しやつれて、それに笑う時も無理して笑って…」

「っ……」

「だから…エルの事は諦めて先を見てよ?僕もエルは生きてるって信じたかったけど流石に無理だよ…」

「…だっ……そんなの…やっ…」

「僕と婚約して欲しい、ティア…」

「こんな…時に…婚約なんて…そんな事…」

「こんな時だから僕が傍にいる」

「私は…エルを…」

「僕達の歳で婚約って普通でしょ?早い人はもっと早くに婚約してるでしょ?返事は今度会った時でいいからさ…今はエルの事が好きで構わないからさ…。婚約してるうちに僕を見てくれれば…それでいいから…」


 そう言ってランスは広場から離れていった。





 
 私は一人広場に設置された簡素に造られた木の椅子から動けなかった。護衛の人は少し遠くから私を見守っている。

「エル…私…どうすればいいかな?」

 空へと呟く様に発したその問いに答えてくれる人は勿論居ない。

「私…婚約して…欲しいと…言われちゃったよ?」

 
 私は一応王族…。ランスの言う通り婚約してても何らおかしくない。同年代の男性にエルやランスが居るから今迄何も言われなかっただけで、2人が居なかったら今頃、顔も知らないどこかの男性と婚約、あるいは…子供が産めるようになったら子供の種だけ貰う契約をしてたのは間違いなかったとは思う。

 だから…このままいけば私は自分の意思とは関係なくランスの元へ嫁ぐ事になると思う。ランスはカッコよくて頭もいい…。告白がされれば断る女性はいないと思う。

 だけど…。出来るならば…昔に戻れるのなら…もっと早くに…。

「エル? 私…あなたにこんなに恋い焦がれているのに…本当にもう…逢えないの?」

 ツーっと勝手に涙が頬にゆっくりと道を刻んでいく。

「好きなのに…こんなに好きにさせたくせに…馬鹿…バカバカバカっ…」


“バサッバサッバサッ…”

 
「…あなたも…大事な鳥を捜してるの?」


 バサバサッっと私が座る椅子に羽休めに降りてきたであろう鳥に話し掛ける…。人慣れしてるみたいで私が話し掛けても逃げようとはしなかった。滲んだ視界を軽く拭き上げ改めてその鳥に視線を向ける。

「っ!? 怪我してるの?」

 足に何やら小さな木片というか枝というか、鳥の足のサイズにあわせられた物が巻き付けらている。足を折ったのか、傷を負ったのか、それで誰かが手当てでもしたのだろうか?

「傷を見せてくれる?」

 治っていたら取ってあげないと邪魔になるよね?と、思った私はその子をそっと抱き上げ、巻き付けられているモノを包帯を外すかの様にそっと外していく。

「痛くない? もう少しで取れるから ねっ?」

 それを取ってあげると傷らしい傷はなくて一安心。足もしっかりと動いているし問題はないみたい。

「はい、コレで大丈夫よ? 怪我もないようだしね」

 怪我もないのに何でこんな物を巻いたんだろうとそれに視線を移す……


「だ、誰かっ!!!」

 私の声に反応した護衛の一人が慌てて駆け寄って来る。

「どうされました殿下っ!?」

「この鳥は!?種類はっ!?」

「えっ?」

「知ってるの?知らないのっ!?どっち!?」

「あっ…失礼しました!こ、この鳥は確か渡り鳥…」

「すぐにマリア様に書状でも伝令でも何でもいいからレインローズに来るように送って!!」

「はっ?」

「それと急ぎこの鳥に詳しい者を呼び寄せてっ!!」

「えっ?えっ?」

「エルが…エルの行方が分かりそうなの」

「え、エル殿のっ!?は、はっ!すぐに殿下の申される通りにっ!!」

 護衛の一人が慌てて王城へと駆けていく。

「エル…待ってて?必ずあなたの元に…」
 

 私はソレに視線を向けながら言った。その木片には小さな文字でたった二文字だけ刻まれていた。

【エル】と。

 



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