異世界でスローライフを満喫する為に

美鈴

文字の大きさ
上 下
34 / 37
第一部

レイニーとメルル

しおりを挟む
「──それならウチがその子の奴隷契約の解除をさせてもらいまスッ♪ 」


「えっ…と…君は?」

「あっ!?ちょっと待ってっス!まずは領主様に挨拶させて下さいっス!」


 あ、ああ。確かに。ティアはこの町の領主だし、先に挨拶しないと彼女からしたらマズイのか。腰まである長いブロンドの髪の女性はティアに対して片足を斜め後ろの内側に引くと、もう片方の膝を軽く曲げて、背筋を伸ばしたままお辞儀をする。いわゆるカーテシーって奴だ。

「領主ティア様。はじめまして。わたくしはドレインの孫のレイニー・シュバルツと申します。先日わたくしの祖父のドレインよりお話を聞いていらっしゃると思われますが、トヨカズ・ハヤブサ様の手足になり、この町で商売をしたいと思っていますので以後宜しくお願いします」

「こちらこそ宜しくお願いします」


 ティアとの挨拶が終わると俺にも彼女はカーテシーをキめる。俺にはそんな所作はいらないからね? 

「はじめましてハヤブサ様。ウチの事はレイニーと呼んで下さいっス!話し方はこれが素なのでどうかこれで勘弁して欲しいっス!」

「俺にはそんな大層なアレはいらないですよ?気にしないで下さい。逆に素の方がありがたいです」

「助かるッス!」

「それで…この子の奴隷契約の解除の件なんだけど」

「そうでした…それはさっき言った通りっスッ!ウチに任せて欲しいッス」


 彼女はそう言うなり、奴隷の子に向けて指パッチン。パチンと音が鳴り響くと同時に奴隷の子の体が淡い緑色の光に包まれる。光に包まれたのは1秒か2秒くらいだ。


「これで奴隷契約は解除されたッス!」


 奴隷契約が解除されたという事で俺は約束した通り男性にマヨネーズが入った小樽を渡した。たぶん男性はまたすぐに奴隷を間違いなく買うだろう。男性自身が奴隷はいつでも手に入るみたいな事を言ってたし、労働力としてこの男性には奴隷が必要みたいだしな…。だから…一言だけ添えさせてもらった。出来れば新しく契約した奴隷には鞭を使ったり、暴力を使わないで欲しいと。男性は少し戸惑った表情をみせたものの、必要な事以外ではそういう事はしないと了承はしてくれた。


『──立場場奴隷に舐められるわけにはいきませんし、中には力で抑え込まないと言う事を聞かない奴隷もいますからね…』

『…分かってるよ…この世界じゃあそれが普通なんだという事は…。それに…元いた世界でもそういうのはあったし、綺麗事ばかりじゃあないのも分かってるよ…』

『──とりあえず彼は大丈夫ですよ。マスターが女神様と関わりがあるという事を知っていますからね。さあ、マスター。湿っぽいのはなしです!マスターが救った子に声を掛けて上げてくださいな!』

『…そうだな。まあ、救ったなんて大層なもんじゃあないんだけどな…』


「えっ…と…名前から聞いてもいいかい?」

 俺は犬耳の子の傍にしゃがみ込んでそう問いかけた。その際ビクっとしたのは暴力か鞭を振るわれると思ったんだろうな。

「約束するよ。俺は暴力を振るわないし、ここにいる女性二人も君にそんな事しない。それに君に万が一暴力を振るおうとする奴がいるなら俺が止めるからさぁ」
 
「…あの…ボクの名前…メルル」

「メルルだね。良い名前だね」

「…うん…ママがつけてくれた…」

「そっかぁ…」  
 

『サチ…。メルルの両親の事は何か分かったりするか?』

『──すでに亡くなっていますね…。魔物に襲われた際にこの子を護る為に…』
   
『そっかぁ…この子も…大切な人達を亡くしてるんだな…』

『──マスター…』



「あのさぁ…メルルが良かったらなんだけど、俺と一緒に住まない?」

「…一緒に…?」

「そう。美味しいご飯もお腹いっぱい食べさせてあげられるし、君が何かやりたい事が見つかるまででもいい、俺にメルルの御世話をさせて欲しいんだ。俺がそうしたいからするだけだから恩とかそういうのも感じなくていいしね」

「じゃあ…お兄ちゃんと…住む…」

「…そっかぁ…良かったよ。そういうわけでティア。悪いんだけど…」

「はい。私は構いませんよ」

「ありがとう」

「いえ」

「ほならウチは先ずこの町に構える店の場所から探す事にするっス!店ができるまでは宿屋にいるので何かあればいつでも言って欲しいッス!」

「了解。ありがとうね。んで、ちょっと気になったんで聞くんだけど…それにしてもレイニーは来るのが早かったよね?どうやって来たの?もっと日にちがかかるとばかり思ってたから気になって」

「そんな事ッスか!それは知り合いの竜騎士の竜に乗せてもらってウチだけ急ぎ来たっス!」

 空からかぁ…。しかも竜騎士とは…道理で早いわけだ…。今度俺も乗せてもらおうかな…。機会があればだけど。まあ、そんなわけでレイニーは早速店を建てる場所を探しに向かったんだ。

「じゃあ…俺達も屋敷に戻ろうか」

「そうですね」

「…うん」

「その前にメルルに回復魔法をかけないとな。【ハイヒール】!」

「傷が…」

「回復魔法まで使えるのですね。それにしても傷が全て消えてるなんて…」

「この間覚えたんだ。あっ…それから、ティア」

「は、はい、なんでしょう?」

「いつもありがとうね?こっちに来てから御世話になりっぱなしだし」

「気になさらないで下さい。それにトヨカズ様の御世話を申し出たのは私の方なんですよ?」

「だから…その…お礼というわけではないんだけど…」

「?」

「これ…さっき買っておいたから…良かったら使ってくれる?」

 俺はそう言ってヘアアクセサリーをティアに手渡した。ティアがサミーちゃんに色々と言われてアタフタしている時に買っておいたんだよな。エスコートのスキルが発動していたからだろうな。普段の俺ならそんな風に気が利かないだろうしね。

「…へっ…あ、あにょう…あ、ありがとうございます…た、大切にしますね」

「うん。じゃあ…戻ろうか…」

「は、はい」



 回復魔法をかけて傷はなくなっているのだが、心配なのでメルルを抱えて屋敷へと戻るとリーンとリカも依頼を終えて戻ってきていた。余談になるけどリーンとリカにもヘアアクセサリーをプレゼントしたらとても喜んでもらえた。エスコートのスキルも最初はどうなるかと思ったが、こういうのはいいかも知れない。キザな言葉は二度と言いたくないけどね…。

 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

男が少ない世界に転生して

美鈴
ファンタジー
※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです! 旧稿版も一応残しておきますがあのままいくと当初のプロットよりも大幅におかしくなりましたのですいませんが宜しくお願いします! 交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。

処理中です...