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君と同じ瞬間を
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俺は有村尚宏。つい先日誕生日を迎え17歳になった高校2年生。誕生日の当日隣の家の幼馴染みに告白、付き合う事になった。住んでる所が隣ということもあり両家の仲も家族ぐるみのお付き合いをしている。
彼女の紹介をしよう。ショートボブの艶のある黒髪でパッチリ二重の可愛い女の子。名前は永山愛子。体型は細身だな。胸はA…ゲフンゲフン。胸の話は止めておこう。怒られるから。
そんな彼女との日常は愛子が俺を起こしに来るところから始まる。
『ガチャ!』
「おはよ~尚ちゃん。昨日も遅く迄ゲームしてたでしょ?早く起きないと遅刻しちゃうよ!」
「…んっ?…ああ…おはよ~、もう朝か?」
「そうだよ。早く用意しないと先に行っちゃうから!」
「やべっ!直ぐに準備するわ!」
「だからいつも遅く迄ゲームしたら駄目って言ってるのに…」
「わ、分かってるよ!」
「んっ?」
「どうかしたか?」
「ううん、髭が少し伸びてるから気になっただけだよ」
「髭?…んっ、ホントだ!一昨日剃ったんだけど伸びるの早くなったかな?」
「も~だからいつも遅く迄起きてたら駄目って言ってるのに…はぁ、尚ちゃん。髭剃る時間無いと思うよ…」
「くっ…これが若さゆえの過ちという奴か…」
「馬鹿な事言ってると遅刻しちゃうから…私は先に行くからね!」
「そんな殺生な!」
「はいはい…じゃ、学校でね!ちゃんと来るんだよ!」
「ぐっ…」
俺は慌てて髭を剃り、歯を磨き、学校へと向かう。そんな何気ない日常の1コマが崩れ様としているとはこれっぽっちも思っていなかった。
*****
「ハッ、ハッ、ハッ、ふぅー、ギリギリセーフだな」
「ホントだよ。尚ちゃん待ってたら私絶対に遅刻してたよ!」
「確かにな。ふぅー、愛子は足が遅いからな」
「私は普通だよ、普通!尚ちゃんが私より早いだけ!それよりも大丈夫?かなり息切れしてるみたいだけど?」
「ハッ、ハッ、んっ?ああ、確かに。ふぅー。いつもより疲れた…な」
「これに懲りたら明日からちゃんとしてよね、いい!」
「ヘイヘイ、愛子様のいう通りに、ふぅ…」
「相変わらず朝から仲良いなお前ら」
「おぅ、健二。居たのか?」
「居るに決まってるだろ!俺の席、お前の隣だろうが!」
「お前が隣なんて俺運がないな」
「何言ってんだお前!前の席は彼女の席で恵まれてるじゃねえか!寧ろ運が無いのは俺だろ!『ぱかん!』イテッ!」
「アンタの前の席は彼女のアタシでしょ!アンタこそ何言ってんの?」
「す、すまねぇー、言葉の綾というか何と言いますか…」
「「プッ!」」
「「何笑って(んだ)(るの)?」」
「いやいや、お前達こそ仲良いなと思って。なぁ、愛子」
「そうだねぇ。未希ちゃんも健二君も仲凄く良いもんね」
「べ、別にアタシは…」
「「「ツンデレか(なの)!!!」」」
「くっ、3人でハモらないで!」
「「「ハハハ(フフフ)」」」
「おいーっす!皆ぁ、静かにしろよ!じゃあいつもの様に出席から取るから…」
*****
「いやー時間過ぎるの早くねぇ?もう昼だぞ」
「ああ、昔は遅く感じたけど最近は早く感じるよなぁ?」
「アンタ達年寄り臭いわよ!」
「いや、愛子もそう思うよなぁ?」
「う~ん、そうだねぇ。確かに早く感じるかも」
「だよなぁ!」
「年寄りで思い出したけどもう少し身だしなみは気にしなさいよね、尚宏」
「えっ?」
「そうだぜ尚宏。幾ら彼女がいるからって身だしなみは整えないと愛子ちゃんに嫌われるぞ」
「はっ?」
「別に私は嫌いにならないけど…」
「3人共何の事を言ってるんだ?」
「はぁー!しょうがないわね尚宏は。はい、私の鏡貸したげる。見れば分かるでしょ?」
「鏡?何か顔に付いて…えっ…」
「なっ!言っただろ!髭は根本迄しっかり剃って来いよ。時代は4枚刃だぞ!」
「…な…んで俺はちゃんと…」
「朝から見てたけど尚ちゃん、ちゃんと剃ってたよね?」
「愛子はいつも尚宏の事見てるもんね」
「そ、そんなにいつも見てる訳じゃないけど…」
「照れない、照れない」
朝からちゃんと剃った筈たぞ俺は。それなのに結構伸びてる?髭剃りの切れ悪いのか?新しい刃に付け替えないと…
───1週間近く同じ様な事が続いたんだ。その時の俺は俺って髭が毛深かったんだなと思うだけだった。伸びるのが早いので学校でもたまに剃る事が増えた。一応身だしなみだな…
*****
「はぁ~。なぁ、尚宏?」
「うん?」
「なんでマラソンなんてあるんだろうな?」
「…健全の為?」
「真面目に返すなよ!」
「まぁ、しょうがないさ。あるものはあるんだし、嫌なら休むしかないしな」
「…そうだな。俺、休めばよかったよ」
「おーい!男子はそろそろ出発させるぞ~。よし、行って来い男子共!」
「さぁ、行くか?」
「あ~、始まっちまった…」
─────「はぁはぁ、もうすぐ1キロ地点だな、尚宏!」
「はぁはぁ、はぁはぁ、はぁはぁ…」
「尚宏?どうした?お前がこんなところでバテるなんてって、汗が酷いぞ!調子悪いのか?」
「分かんねぇ、はぁはぁ、めちゃくちゃ…はぁはぁ、心臓が締め付けられる様な気がして…」
「そこに座って待ってろ!誰か呼んでくる!」
「はぁはぁ、悪い健二、ぐっ、はぁはぁ」
なんなんだ。急に今迄こんな事1度も無かったのに。最近は早く寝てるけど疲れがとれないからか?とにかく息苦しい…
「おい、有村大丈夫か?」
「はぁはぁ」
「念の為救急車を呼んだ!もう少し頑張ってくれ」
「先生!尚宏は大丈夫なんですか?」
「分からん。息遣いが荒い。あ~くそ!救急車はまだか?」
「はぁはぁ、健二、先せぃ………」
「おい、有村!有村ぁぁ!」
「尚宏ぉ!」
俺はいつの間にか意識を手放していたんだ…
かすかに聞こえる救急車のサイレンの音がやけに耳に残っている。
*****
「…んっ…俺は…」
「良かったわ。気が付いたのね。尚宏」
「…母さん?」
「マラソンの途中で倒れたのよ。覚えてる?」
「…んっ。なんか急に息苦しくなって…」
「お父さんももうすぐ来る筈よ。愛子ちゃんを連れて!」
「愛子も?心配掛けちまったな」
「ホントよ。まぁ、検査結果ももうすぐ出るらしいから何でも無いと良いけど…」
「多分、大丈夫じゃない?今は何とも無いし…。久し振りのマラソンで疲れただけだと思うから…」
─『ガラッ!』
「失礼します。あっ、目を覚まされたみたいですね」
「はい。今目を覚ましまして」
「…どうも」
「お気分はいかがですか?」
「あ、はい。今は大丈夫です。それで検査の結果って出ました?」
「そうですね。もうすぐ出ると思いますのでまだゆっくり寝てて下さい。尚宏君のお母さんで間違いないですか?」
「ええ、尚宏の母です」
「事務の手続きで話がありますので今から宜しいですか?」
「はい、分かりました。尚宏。ゆっくりして待ってなさい。母さんが居ないからといって寂しがったら駄目よ」
「誰が寂しがるんだよ!」
「ふふっ、愛子ちゃんがそろそろ来ると思うからしっかり甘えるのよ!」
「うっせー!」
「じゃあ、お母さん行って来るからまた後でね」
「…ああ」
──────「あのー、手続きの話では?」
「息子さんの担当をさせて頂く鏑木と申します。早速ですが息子さんの症状のお話を本人にお話するよりも先に親御さんさんにお話をと判断しました」
「!?…っ、どういうことでしょうか?息子はどこか悪いんですか?」
「落ち着いて聞いて頂きたいのですがまず、必ず息子さんの精神的にも肉体的にもサポートをお願いしたいと思います」
「…サポートですか?」
「ええ、必ず必要になります。下手をすれば自分で命を絶つ恐れが考えられるからです」
「…そこまで…息子は悪いと、いうことですか?」
「…息子さんの病名は……
*****
─『ガラッ!』
「おっ、目が覚めてるみたいで何よりだ。心配したんだぞ!」
「ああ、心配掛けて悪い父さん」
「全くだ悪いと思っているなら早く良くなれよ。母さんは?」
「うん。母さんなら手続きに行ったけど」
「そうか、分かった。じゃあ俺は母さんの所に行ってくるから!愛子ちゃん。気を遣って貰って悪かったね。こっちに来て馬鹿息子を頼めるかい?」
「はい、おじさん。尚ちゃんの事はしっかり見ておくので!」
「うん。頼むね、じゃあまた後でね」
「…心配掛けたか?」
「…うん」
「わりぃ」
「…うん」
「あ~なんだ。その、な…こっちに来るか?なんなら抱き締めてやろうか!な~んて…『ポスン!』…!?」
「『ギュゥ!』…本当に心配したんだからね!」
「…うん。悪かった」
「謝る事じゃないよ。それより本当に大丈夫なの?痛い所とか調子悪い所は無い?」
「ああ、今すぐ退院出来る位だよ。母さんが今、手続きに行ってるけど結構時間が長いからもしかしたら退院手続きだと思うし」
「そっかぁ、良かった…」
「もう少しこのままいる?」
「…ぅん」
「…愛子」
「何?」
「すっげぇー良い匂い。甘い香りがする」
「ふぇ!?」
「初めて抱き合ったけどなんかいいな」
「尚ちゃんの変態!スケベ!」
「言い方酷くねぇ!?」
「酷く無い!」
「「ふふっ」」
「来てくれて本当に嬉しかった。愛子」
「うん」
*****
「…母さん。それは本当に…?」
「…今はどうすればいいのか何も考えれないわ」
「どうして尚宏が…」
「愛子ちゃんにも何て言えば…」
「尚宏本人にも何て伝えれば…」
*****
「おばさん達遅いね」
「多分、気を遣ってくれてるんだろ?」
「そっかぁ。あっ、おじさん戻って来たみたい。」
─『ガラッ!』
「あれ、父さんだけか母さんは?」
「んっ、ああ…もうすぐ来る」
「…父さん…何かあったのか?」
「…どうした、急に」
「何年家族やってると思ってるんだよ」
「…ああ、そうだな」
「で?」
「…主治医の先生と母さんが来たみたいだ」
「…尚ちゃん?」
「…ぁあ!なんだ愛子」
「不安そうな顔しないで尚ちゃん。私がここにいるから」
「…サンキュー、愛子」
─『ガラッ!』
「こんにちは。有村尚宏君。私は君の主治医の鏑木です。体調はどうかな?」
「はい、今は大丈夫です。どこか痛むとかは無いので…ただ…」
「どうかしたのかい?」
「…俺はどこか悪いんですね?」
「どうしてだい?」
「なんとなく分かりますよ。父さんも母さんも表情が先程と違うから…」
「なるほど。尚宏君のお父さん、お母さん、宜しいですか?」
「「はぃ」」
「私も聞いていいですか?」
「君は?」
「尚宏君とお付き合いしています」
「先生。宜しければ愛子ちゃんにも聞かせてあげて下さい。分かる事ですから」
「分かりました。それでは最初に尚宏君の病名ですがまずウェルナー症候群と聞いた事はありますか?」
「…いいえ、ないです」
「たまにテレビでも取り上げられたりするのですが難病指定になっています。病状として老化が急速に進んだりするのが主な症状になります」
「!?」
「ウェルナー症候群は日本が一番多く世界でも6割を日本が占めています。原因の説は色々あるのですがハッキリとは分かっていません。分かっているのは遺伝子に問題がある事位の難病なのです。そのウェルナー症候群の一種だと思って下さい。」
「一種?」
「…はい。尚宏君の場合、他の人より進行が早いのです」
「もしかして髭が伸びるのも最近息切れし出したのも?」
「成長が急速に進んでいるからだと思われます」
「…治す、又は止める方法はありますか?」
「残念ながら治療法が無いのが現状です」
「…先生。俺はどうなるんです…か?」
「……」
「大丈夫です。父さん、母さんの表情から決して軽く無いと思っていました。自分の体も何か変だなとは思っていました。知りたいんです先生!俺は、俺に残された時間を…」
「…20歳前後、今から約3年から4年で…」
「…そう…ですか…」
「「「………」」」
「…悪い皆。暫く1人にして欲しい」
「「「尚(ちゃ…ん)(ひ…ろ)」」」
「大丈夫じゃないけど大丈夫。変な事は考えないから」
─── 皆が病室を後にした後俺は涙が止まらなかった。どうして俺が?どうして?どうして?これから何の為に生きて行けば良いのか分からなかった。どの位そうしていたのだろうか分からない。窓から見える光は夕方と夜の間、薄暮の灯りがそっと俺の病室を照らしていた。
『ガラッ!』
「尚ちゃん」
「…あ、愛子?どうして?」
「どうしてっていつまでも尚ちゃん1人にする訳にはいかないでしょ?おじさんとおばさんには無理言って今日は私がここに残る事にしたから」
「…ぁ、あ、愛子。色々考えていたんだけど…」
「うん。今、尚ちゃんが思った事って私との事かな?かな?」
「!?…ああ、そうだよ」
「じゃあ先に言って置くけど尚ちゃんが何言っても別れないから!」
「…何で?」
「何年一緒に居ると思ってるの?」
「けど…」
「けど…じゃないの!それとも尚ちゃんは私の事嫌いなの?」
「そんな訳無い!ある筈ないだろそんな事!俺は愛子が好きだ!めちゃくちゃ好きだ!でも…愛子も聞いただろ?俺はもう老化が始まっているんだ。何年も立たないうちに髪の毛も抜け若いのに歳を取りあっという間に俺は爺さんになって死んでしまう。愛子の事を考えたら俺は…俺は…」
『チュッ!』(えっ?愛子の顔が目の前に、えっ?この唇に柔らかい感触って愛子の唇?)
「…尚ちゃん。私達のファーストキスは病室になっちゃったね!」
「い、いや。お前何言って…」
「尚ちゃんの気持ちは分かりたくても分からない。自分だけ歳を急激に取っていくって考えただけで怖くて恐ろしくて物凄く不安になると思う。でも分かりたいと私は思うの。分けて欲しいと私は願うの。だから本来ならプロポーズは尚ちゃんからして欲しかったけど来年尚ちゃんが18歳になったら私と結婚して下さい!」
「愛子。俺だって愛子と将来は結婚したかった!でも先に死ぬ俺と結婚しても愛子は幸せには…」
「尚ちゃん。幸せって何だと思う?」
「えっ…そりゃあ、人それぞれ違うとは思うけど」
「だよね!幸せって自分が何を思うかなんだよ。だから私の幸せは1日1日尚ちゃんとこれからも色々出来る事はして心のカメラで写真を取り、心のアルバムに1枚1枚写真を納めていくの!」
「でも…だな…」
「尚ちゃん。私の唇を奪っておいて私をやり捨てるの?」
「おぉーい。言い方!言い方が悪い!」
「もぅ!ハッキリしなさい!尚宏!尚宏は私が好きなんだよね?結婚したいんだよね!やり捨てしないよね!どうなの尚宏!」
「は、はい。勿論」
「宜しい!ちなみに私の両親にも尚ちゃんの両親にももう許しは得ているから!」
「早っ!外堀埋まってるし!」
「そりゃあ、勿論!もう人生計画立てているから従う様に!」
「いいんだな?後悔するぞ」
「うん。後悔なんてしないから!尚ちゃんは私の全てだよ!」
「それ俺のセリフな!愛子は俺の全てだよ!」
「うん」
そして俺達は病院の病室で2度、3度と唇を交わした。
*****
「俺は昨日から心配で心配ですぐ来るつもりだったんたぞ!」
「ごめんね。健二君。私が昨日は2人にして欲しいと連絡したから」
「いや、愛子ちゃんはいいんだよ。問題は親友の俺を蔑ろにしてメールもしない尚宏が悪い!」
「いや、俺かよ!」
「当たり前だろ!」
「はぁ~、ごめんね、尚宏。健二が我が儘言って。コイツ、愛子ちゃんに尚宏とられたの拗ねてるのよ!自分が支えるつもりだったみたいね」
「おおーい!全部言うんじゃ無いよ、未希!」
「事実でしょ!それにアタシに文句あ・る・の・か・な・健二は!」
「…くっ、無い」
「宜しい!」
「「夫婦漫才?」」
「「違ーう!!」」
「あはは、いつも通りで逆に安心したよ2人共。ありがとな」
「尚宏…」
「悪いんだけど2人共、健二と2人だけにしてくれないか?」
「えっ、うん、分かった。それじゃ~未希と売店とか行ってくるね!行こうか未希」
「分かったわ。尚宏!後で私も話があるからね!ちゃんと聞きなさいよ!」
「おっ!彼氏の前で俺に告白か?」
「馬鹿!とにかく後でね!愛子、行こう!」
「うん」
『ガラッ!』
「どうしたんだ尚宏?」
「病気の事は聞いたんだよな?」
「…どうして…どうしてお前なんだと思った…ううっ…うわぁ…どうして俺の親友のお前がそんな聞いた事ない難病にって、ううっ…」
「日本では多いらしいよ。サンキューな!親友!」
───「悪い、泣きたいのはお前なのに俺が泣いちまって」
「いいさ。俺の為に泣いてくれたんだ。それに俺は十分泣いたさ。愛子のお蔭で残りを楽しむ事が出来そうだしな」
「本当に高校は辞めるのか?」
「ああ。俺はどんどん老けていく一方らしいし何より身体がついていかないだろう。しょうがないさ。お前達ともう少し学校生活を楽しみたかったけど健二達が休みの時にでも遊べるしな!」
「尚宏。約束だぞ!俺はいつでも呼んでくれたらお前の所に行くから!」
「ああ、約束だ!」
「で、俺に何か頼みたい事でもあるのか?」
「…どうしても頼みたい事がある。健二にしか頼めないんだ!」
「何でも言ってくれ!」
「実は──────────────────
─────────────────────なんだけど頼めるか?頼めるのが健二しか居なくてな」
「分かってる。必ずやるよ!」
「頼むな。健二」
「ああ」
*****
『ガラッ!』
「尚ちゃん。話は終わった?」
「ああ、サンキュー」
「…何の話よ?」
「そこでお前は聞くんか~い!」
「ふん。健二がどうせ私に突っ込むと思ったから言っただけよ」
「…そうかい」
「それよりも私も話があると言ったでしょ?」
「ああ、言ってたな。どうした?」
「愛子にも健二にも了承を得ているから」
「うん?何の『ガバッ!』…おい、健二に怒られるぞ。他の男に抱きつきやがってって!」
「ううっ…うわぁぁん、怒る訳…無いでしょ。グスッ!ズズッ!私、私嫌だよ、ううっ…グスッ我が儘を、ヒック、言っているのはわかっでいるげどうわぁぁん、4人でまだ色々したいのにぃー」
「わりぃな。だけど身体が動く限り付き合うから勘弁な未希」
「根性で治して、グスッ!ヒッ!ううっ…」
「無茶言うなよ!お前の気持ちは本当に嬉しい。俺は本当に良い親友を持ったな。あ~もう、泣くな未希。そして健二!お前の彼女だろうが!こういう時はお前の胸元だろ?」
「バ~カ。こういう時はお前が泣かせた責任としてしっかり受け止める様に!ちゃんと俺の未希の鼻水も取ってやれよ!」
「健二君!色々と台無しだよー!」
「うわぁ~健二。それはない。それはないよ」
「ぐすん。私もそう思う…」
「えっ、俺かよ。俺が悪いのか?」
「くくく」
「「「「ははははは」」」」
俺は本当に友達に恵まれた。出来る事ならずっと4人で過ごしたかったものだ。
*****
俺は入院して二日後退院。その日の内に高校へ退学届けを持って行った。クラスメイトへの挨拶は遠慮させて貰った。しんみりするのは分かっているし俺が耐えられないからだ。担任の先生には泣かれてしまったが。この日高校を2人で一緒に退学した。
「なぁ、愛子迄本当に退学して良かったのか?」
「もうその事は言ったでしょ?」
「しかしなぁ、俺、愛子の人生を壊してしまってるんじゃあ…」
「相変わらず馬鹿なんだから尚ちゃんは!」
「馬鹿とは何だ、馬鹿とは。俺は真剣にだなぁ」
「勿論。学校は大切だと思うよ。就職なんかは特に学歴重視するからね。でも仕事ってさ、学歴でするものじゃないじゃん。今の私にとっては高校よりも尚ちゃんとの時間が重視されるだけの事だよ」
「…もう何も言わない。本音を言うと俺も片時も離れずに愛子に側に居て欲しいから」
「うん。うん。素直な尚ちゃんは可愛いね!」
「ぐっ…」
「尚ちゃん。そんな事で照れててどうするの?」
「んっ…どういう事?」
「今日から私は籍はまだだけどお嫁さんなんだから尚ちゃんの部屋で一緒に暮らすんだよ」
「へっ?」
「一緒にご飯食べて、お風呂に入って、当然一緒に寝るんだから」
「いやいやいや、おじさんもおばさんもそれは流石に許可しないと思うんだが…」
「何言ってんの!尚ちゃんは!孫の顔見たいと言ってるよ」
「孫だと…」
「そうだよ!私もそのつもりだし!お医者さんにも聞いたけど子供に遺伝する確率はかなり低いらしいし、とにかく尚ちゃんは心配しなくていいの!」
「…うん。分かった。俺は俺の全てで愛子を大切にするから」
「うん。私も」
俺達はこの日から一緒に暮らし始めた。
*****
「一緒にお風呂って恥ずかしいね、尚ちゃん」
「………」
「どうしたの?」
「綺麗過ぎて見惚れてた」
「…馬鹿ぁ、もう~私、我慢していたのに猛烈に恥ずかしくなってきちゃったよ」
「すまん」
「ほら、背中洗って上げる。こっちに来て!」
「ば、馬鹿!お前今は…」
「あっ……」
「だから急に引っ張るから」
「尚ちゃんのエッチぃ」
「しょうがないの!愛子が綺麗だから」
「尚ちゃんこそ急にそんな事言うの禁止!」
「理不尽!」
「「フフッ、ハハハ…」」
*****
「…ホントに良いのか?」
「…うん」
「17歳で妊娠。18歳で母親になって本当に後悔しないか?」
「しないよ!尚ちゃんが相手なんだから」
「…愛子…愛してる」
「うん、私も。尚ちゃん……………来て…」
*****
「おはよー尚ちゃん」
「あ~おはよー愛子」
「昨日は凄かったね!尚ちゃんと1つになれて私凄く幸せだったよ」
「…俺もだよ。凄く幸せだよ」
「「チュッ!」」
「じゃあ私ご飯作ってくるから尚ちゃんはゆっくりとしておいて」
「ありがとうな。愛子」
*****
一年が過ぎた。18歳になった。籍を入れた。あれから愛子との思い出は沢山増えた。山に行ったり、海に行ったり、遊園地に行ったり、水族館、動物園にも行った。同じ所にも何度も行った。1つ1つが素敵な思い出として心に残る。俺の見た目にも変化が起きている。もう四十代半ばには見える気がする。愛子はまだまだ若く見えると言ってくれはするがデートに行っても端から見れば親子に見えるだろう。それでも愛子は気にせず外でも家でも沢山愛をくれる。教えてくれる。
そんな俺達に家族が増えた。愛子はあの後直ぐに妊娠。俺の子を産んでくれたのだ。嬉しかった。感動した。言葉では言い表せ無い程幸せな時間を運んでくれた。子供の名前は尚子。2人の名前から一字ずつ取って付けた。現在俺達は絶賛子育て中。俺達の両親は孫が可愛くて可愛くて仕方ないみたいだ!面倒を見てくれるので助かっている。愛子がもう1人というのでそちらの方も現在頑張っている最中だ。健二と未希も頻繁に会いに来てくれる。2人共本当に良くしてくれる!
*****
また一年が経過した。19歳。顔は更に老け今では両親の親と間違えられてもおかしくはない程老化が進んだ。身体的にもどんどん足腰は弱くなり近い距離なら杖、距離があるなら車椅子が必要になってしまった。子供には恵まれ愛子は双子の男女を出産。俺は3人の子供の父親になる事が出来た。愛子は俺がこんなになっても変わる事無く愛してくれる。俺はそれが嬉しい。健二と未希は会う度悲しそうな表情を見せるが気にするな!俺はこんなになっちまったけど幸せだから!
*****
更に一年が経過した。俺は二十歳になった。顔は更に老けしわくちゃ。身体も介護無しでは動けない。愛子に負担を掛けてしまっているな。愛子はそんな素振りは無く今でも俺の傍に居て率先して何でもしてくれるが嬉しい反面、申し訳なく思う。両親、お義父さん、お義母さんにも申し訳なく思う。俺の子供の面倒、生活費等全て賄ってくれているのだ。今の俺には感謝する事しか出来ない。親友の健二も未希と結婚した。俺の身体…というより俺自信来年迄持たないだろう。つまり俺に死が近付いているのがわかる。2人の結婚式出席出来て本当に良かった。
夜眠るのが恐くなる。このまま目覚めないのでは無いかと思ってしまう事が多くなる。ベッドには可愛い子供達。愛しい子供達の成長を見れないのも心残りだが仕方ない。どうにもならないのだ。ベッドから窓の外の景色が見える。月は満月。何時もよりも月が綺麗に見えた。暫く眺めていると流れ星。生きたいと思う願いは叶う事は無い…。だからこそ最愛の妻愛子と子供達の幸せを願うのだ。
「どうしたの、尚ちゃん。眠れないの?」
「…目が覚めただけだよ」
「ホントに?何かあったら直ぐに言ってね」
「ああ、ありがとう愛子。愛してる」
「私も愛してるよ」
*****
更に3ヶ月が経過した。子供達は両親ズが見てくれている。俺は愛子に伝え外に連れてきて貰った。愛子が車椅子を押してくれる。イチョウの葉っぱが散り始めている。一番景色が綺麗な場所で車椅子から降ろして貰い座り愛子に寄り掛かる。
「寒くない?」
「ああ、大丈夫」
「珍しいね、尚ちゃん。出掛けたいだなんて」
「悪いな。最近は身体がホント動かなくなって見た目も身体もヨボヨボだからな。ホントはもう少し出掛けたかったんだが…」
「ううん。久しぶりの2人っきりだね。デートだ」
「…ああ。デートだ。悪いな。1人こんなに年取ったみたいになってしまって…」
「それは尚ちゃんのせいじゃないでしょ!怒るよ!」
「ハハハ!愛子に怒られる訳にはいかないからさっきのは取り消しで頼むよ」
「うん。分かった。今回だけだよ」
「愛子」
「な~に?」
「幸せか?」「うん。幸せ!」
「間髪入れずに答えるなぁ」
「そりゃそうでしょ!親に恵まれ子供達にも恵まれ、何より最愛の人に恵まれたんだから幸せだよ!」
「そっかぁ!幸せかぁ!」
「うん。尚ちゃんは幸せ?」「勿論愛子と同じだな!愛子のお蔭で幸せなんだ!」
「尚ちゃん」
「ホントにありがとうな!」
「どういたしまして!そろそろ帰る?寒くない尚ちゃん?」
「もう少しだけ…もう少しだけ…いいか?もう少しだけ…愛子とこの景色を見ていたい…」
「うん。分かった。寒かったりしたら言わないど駄目だよ!」
「あぁ…」
────「尚ちゃん、そろそろ戻ろ!」
「…」
「尚ちゃん?こんなところで寝たら駄目だよ」
「」
「な…おちゃん?」
「」
『ポトッ…ポトッ…』
「逝っちゃったんだね…尚ちゃん…グスッ…早いよ…早いよ…尚ちゃん…グスッ……うぇぇえ……なぉぢゃん…なぉぢゃん……クズッ…今は……泣いても…ゆるじでね……」
─この日尚ちゃんは旅立ちました。
*****
「この度は御愁傷様でした…」
「どうしてこんなに早く…尚宏…ううっ…」
「俺を置いていくなんて…親友だ…ろ…俺達…」
「尚宏ぉぉ…」
「尚くん…」
────────
通夜、葬式が終わり尚ちゃんの初七日の日。
「愛子ちゃん」「愛子」
「どうしたの?健二君も未希ちゃんも」
「これは尚宏からだ」
「えっ?」
「私も昨日始めて聞いたんだけど尚宏が健二に頼んでいたらしいの」
「俺が死んで暫くしたら渡してくれって頼まれてたんだ。名義も有村愛子になってるだろ?」
「でもどうやって?」
「愛子ちゃん、ビジネスチューブって知ってる?」
「そりゃあ、勿論。デルキンテレビとかカラフルパインとか有名なBチューバーの人達が活動している共有サイトだよね?」
「検索でNAOをサーチすれば全て分かるよ」
「分かった。後で観てみる。健二君ありがとうね。尚ちゃんと何か約束してて守ってくれだんでしょ?」
「ああ、守るさ、当然だろ。俺はアイツの心友なんだから」
「うん。未希ちゃんもありがとう」
「うん」
*****
尚ちゃんが居る時は尚ちゃんとの時間を優先していたので私はビジネスチューブを見た事が無かった。私は健二君に教えて貰ったNAOをビジネスチューブでサーチ。いわゆるサムネと呼ばれる所にはタイトルと共に尚ちゃんが映っている。最近の尚ちゃんの姿だった。始めてビジネスチューブを開いたからどうすれば最初から観れるのか分からない。取り敢えず動画を再生すると広告が流れ始める。テレビみたいだと思っていると広告が終わり動画が始まり出す。尚ちゃんが映っている。初めから見たかった私は画面下にチャンネル名とチャンネル登録という所があったのでチャンネル名をタップ。そして動画をタップ。動画は新しい順になっておりサムネの写真とタイトル。下迄スクロールすると『ウェルナー症候群』とタイトルと共に笑っている尚ちゃんのサムネ。私は動画を再生した。
─────「あ~、初めましてNAOです。動画投稿なんて初めてで拙い所が多々あると思いますが寛大なお心で観て下さると嬉しいです」
これ初めて病院に運ばれた後だよね。尚ちゃんたらいつの間にこんなの撮ったのよ?場所は待合室かな?背景は暗いので多分、私が寝た後に撮ったのだろう。
「まず始めに言って置きたい事があります。私はウェルナー症候群という難病に指定された病気になった様です。どういった病気か簡単に説明すると老化する病気です。俺は二十歳になる頃には完全に老化が進んでいることだと思いますじゃない、確実に進んでいます。俺は症状が進むのが早いらしいです。治す方法はありません。これから動画を度々出すのでそれを見て頂ければこういう病気なんだというのが分かると思いますので宜しければチャンネル登録して下さい」
1本目の動画が終わり続けて動画が始まった。
「皆さんどうも~NAOです。まだまだ元気です。初めましての方はなんだコイツと思われるかも知れませんが長い目で観てやって頂けると嬉しいです。さて、少し私の事を話させて貰いますね。私には幼馴染みがいるのですがその娘はとても可愛い女の子です。え~ちなみに結婚も先の無い俺なんかとしてくれる物好きな女の子です。やべぇな。この動画観られたら絞められかも…後で、カットして貰うしかないな」
尚ちゃん。親友の健二君はカットしてくれなかったみたいだよ。それに物好きって何よ。物好きって!それに俺なんかじゃないでしょ!もう~!
「リア充かよ!と思われるかも知れませんが勘弁して下さい。俺は家族、彼女、親友、環境に運よく恵まれただけですから。そして先が無いのに結婚して彼女が可哀想だと思われる方も居ると思います。俺自身そう思い1度は1人で余生を過ごす事も考えました。彼女は若いまま俺は老化するだけですから…それでも一緒に居たいと言ってくれて…絶望しかない俺に希望という光をくれたのです。希望といっても長くは生きられません。濃密な時間と言えば良いでしょうか。普通の人が歩む道、結婚とかがそうですね。来年俺が18になったら籍を入れます。その時はまた報告しますね。それでは今日はこの辺で。今の所ちょっとした彼女自慢みたいな動画になってるとは思いますがチャンネル登録お願いします」
少しでも尚ちゃんを照らせていたみたいで私は嬉しいよ。今でも尚ちゃんを選んで後悔した事は無いからね!動画は暫く動物園に行ったとか水族館、遊園地に行った等デートした話と共に尚ちゃんが撮ったと思われる写真が紹介される。少しずつ動画でも尚ちゃんが老けていくのが分かる。
「初めて動画を投稿してから1年が経過しました。かなり老化が進んで来たのが分かると思います。40代半ば位には見えるのではないでしょうか?少しずつ身体的にも衰えを酷く感じて来ました。知ってるか?これでも20歳なんだぜ!どこから見ても見えないだろ?と、いう訳で私事ですが籍を入れ、結婚式を挙げ、子供が産まれました。娘なのですが凄く可愛い!そして俺に子供という宝を与えてくれた妻には頭が上がりません。感謝だけでは表せない程です。この場を借りて改めてありがとう。凄く幸せだ。と言わせて下さい。親友にも同じ言葉を。この動画の編集は親友がしてくれているので。それでは今日もこの辺で、NAOでした。あっ、チャンネル登録お願いします。俺はこんな身体なので働いて親孝行とか妻や子供の為に働いて稼いで来る事が出来ません。お互いの両親におんぶされているのが現状です。だからこそこういう方法で稼いで残そうと思ったのです。お金目当てかよと思われる事でしょう。それでも私にはこれしか無かった事を少しでも思って頂ければ有り難いです。どうか、どうか今後も宜しくお願いします!」
動画は次々に流れていった。
「動画をずっと観てくれてる人は分かると思うけどNAOです。え~お前誰だよという声が聞こえてきそうな程老化しました…。見た目は60代後半ですかね?両親より老けてしまいましたね。両親からすれば病気とはいえ息子が自分達より老けるのは精神的にかなりキツイ事だと今なら分かります。病気って本人が一番辛いとかいうけど順番なんか無いと思います。周りも辛いのです。初っぱなから暗い話になってしまいましたがここでご報告を。妻が双子を出産してくれました。3人の子宝に恵まれました。そういえば皆さん病気の遺伝を心配されていましたがほとんど遺伝する事は無いとの事でした。そして日本ではこの病気は全体の6割を占めているそうです。原因は分かりません。ただ近くにこんな病気があるんだと認識して下さい。何故今頃伝えたかについては動画を観て症状を観て貰わないと分からないと思ったからですね。動画を見返して貰えば老けていってるのが分かると思います。それではまた…」
色んな動画が流れていく。私は1つ1つ大切に観ていく。介護が必要になってからは健二君が来た時に尚ちゃんが言って撮って貰ったんだと思う。動画の期間も開いてきた。そして最後の動画が流れる。タイトルは『伝えたい事』。最後の動画だけは1人で撮ったんだろう。画面が最初だけ物凄くブレていた。そして固定されたのだろう。画像が安定、尚ちゃんが語り始める…
「やぁ、皆さん。久しぶりだね…。声が聞き取りにくかったらすまないな。最近は喋るのもキツくなってきたから…動画も時間が開いてしまってるだろ?……多分、これが最後の動画になると思う。見た目通り老化が進み二十歳なのに見た目は80歳位に見えるんじゃないかな?ふ~息を整えながら喋るけど分からなかったりしたらホントすまない……え~、そうだなぁ、まずは動画を…観てくれて今迄本当にありがとう。俺の動画を見て少しでもこの…病気、家族の事、そして壮大な話だけど自分の人生について…考えてくれたら嬉しいかな…次に俺の我が儘でここまで付き合ってくれた…俺の親友、心の友と書いて心友…名前出すけど後で編集頼む…健二と未希。本当に出会えた事、俺なんかの心友になってくれた事…変わらず接してくれて本当にありがとう。ありがとうしか言えなくて本当にわりぃ…老化のせいか涙が酷いな…見苦しかったらモザイク入れてくれ。輪廻は巡るというがもし本当なら…また心友として頼むな……次に父さん、母さん。俺を産んでくれてありがとう…父さん母さんの息子で俺は本当に良かった。これだけは言っておきたかった…病気でこんなことになってしまったけどまた生まれかわったら宜しく…そして、お義父さん、お義母さんも本当の息子の様に接してくれて本当にありがとう…俺には2人も父さんが居て2人も母さんが居る…本当に恵まれている…ありがとう…そして子供達。父さんは居なくなってしまうけど元気に育ってくれ…お前達をこの手に抱く事が出来たのは短い間だったけど俺は忘れないよ…父さんが居なくて不憫な思いをする事が多いと思う…だけど、どうか…強く、ママと支え合いながら成長してくれ…成長するところが観れないのは残念で仕方ない……そして愛子…本当にありがとう…愛してる…俺が老化しても変わらず傍に居続けてくれた…どうか…どうか…神様…居るのなら生まれ変わってもまた愛子に出逢い…今度こそ同じ時を…瞬間を生きれる様…お願いします。愛子は俺の全てです。俺は先に逝ってしまうけど…見守ってるから…愛子が幸せな様に…願っているから………皆も、どうか後悔が無い生き方を…どうか変哲が無い毎日だけどそんな普通の生活を大切に……NAOでした。」
尚…ちゃん。私は涙が止まりませんでした。後日、お義父さん、お義母さん、私の両親も同じです。動画は色々な思いで溢れていました。
勿論そんな動画はチャンネル登録者数も再生数もかなり多く私達が生活出来るだけの収益も得ていたのです。尚ちゃんは普通の旦那さんみたいに家族の為、仕事してくれて稼いでくれました。病気でも普通であり続けたかったんだと私は思う。
────毎日の日々は大人になると特に時間が過ぎるのが早くなる。子供達もあっという間に大きくなっていった。皆良い子に育ってくれた。子供達はやがて大人になりそれぞれ結婚、子供を出産、命が紡がれていく……
私も年を取った。今年もう80になる。尚ちゃんとの日常は胸にいつまでも残っている。鏡を見て歳を取っていく度、同じ年齢位の尚ちゃんを思い浮かべた。そうすることで同じ様に尚ちゃん歳を取って生きてく事を心の中で想像してきた。私の大切な人。今日は本当に温かい!多分…私にもその時が来たのだと感じる。尚ちゃんが願った様に私も願うとしよう。どうか神様来世があるのならまた尚ちゃんと出逢わさせて下さい。そして今度こそ同じ瞬間を過ごさせて下さい………
『愛子!』
『尚ちゃん!』
完
彼女の紹介をしよう。ショートボブの艶のある黒髪でパッチリ二重の可愛い女の子。名前は永山愛子。体型は細身だな。胸はA…ゲフンゲフン。胸の話は止めておこう。怒られるから。
そんな彼女との日常は愛子が俺を起こしに来るところから始まる。
『ガチャ!』
「おはよ~尚ちゃん。昨日も遅く迄ゲームしてたでしょ?早く起きないと遅刻しちゃうよ!」
「…んっ?…ああ…おはよ~、もう朝か?」
「そうだよ。早く用意しないと先に行っちゃうから!」
「やべっ!直ぐに準備するわ!」
「だからいつも遅く迄ゲームしたら駄目って言ってるのに…」
「わ、分かってるよ!」
「んっ?」
「どうかしたか?」
「ううん、髭が少し伸びてるから気になっただけだよ」
「髭?…んっ、ホントだ!一昨日剃ったんだけど伸びるの早くなったかな?」
「も~だからいつも遅く迄起きてたら駄目って言ってるのに…はぁ、尚ちゃん。髭剃る時間無いと思うよ…」
「くっ…これが若さゆえの過ちという奴か…」
「馬鹿な事言ってると遅刻しちゃうから…私は先に行くからね!」
「そんな殺生な!」
「はいはい…じゃ、学校でね!ちゃんと来るんだよ!」
「ぐっ…」
俺は慌てて髭を剃り、歯を磨き、学校へと向かう。そんな何気ない日常の1コマが崩れ様としているとはこれっぽっちも思っていなかった。
*****
「ハッ、ハッ、ハッ、ふぅー、ギリギリセーフだな」
「ホントだよ。尚ちゃん待ってたら私絶対に遅刻してたよ!」
「確かにな。ふぅー、愛子は足が遅いからな」
「私は普通だよ、普通!尚ちゃんが私より早いだけ!それよりも大丈夫?かなり息切れしてるみたいだけど?」
「ハッ、ハッ、んっ?ああ、確かに。ふぅー。いつもより疲れた…な」
「これに懲りたら明日からちゃんとしてよね、いい!」
「ヘイヘイ、愛子様のいう通りに、ふぅ…」
「相変わらず朝から仲良いなお前ら」
「おぅ、健二。居たのか?」
「居るに決まってるだろ!俺の席、お前の隣だろうが!」
「お前が隣なんて俺運がないな」
「何言ってんだお前!前の席は彼女の席で恵まれてるじゃねえか!寧ろ運が無いのは俺だろ!『ぱかん!』イテッ!」
「アンタの前の席は彼女のアタシでしょ!アンタこそ何言ってんの?」
「す、すまねぇー、言葉の綾というか何と言いますか…」
「「プッ!」」
「「何笑って(んだ)(るの)?」」
「いやいや、お前達こそ仲良いなと思って。なぁ、愛子」
「そうだねぇ。未希ちゃんも健二君も仲凄く良いもんね」
「べ、別にアタシは…」
「「「ツンデレか(なの)!!!」」」
「くっ、3人でハモらないで!」
「「「ハハハ(フフフ)」」」
「おいーっす!皆ぁ、静かにしろよ!じゃあいつもの様に出席から取るから…」
*****
「いやー時間過ぎるの早くねぇ?もう昼だぞ」
「ああ、昔は遅く感じたけど最近は早く感じるよなぁ?」
「アンタ達年寄り臭いわよ!」
「いや、愛子もそう思うよなぁ?」
「う~ん、そうだねぇ。確かに早く感じるかも」
「だよなぁ!」
「年寄りで思い出したけどもう少し身だしなみは気にしなさいよね、尚宏」
「えっ?」
「そうだぜ尚宏。幾ら彼女がいるからって身だしなみは整えないと愛子ちゃんに嫌われるぞ」
「はっ?」
「別に私は嫌いにならないけど…」
「3人共何の事を言ってるんだ?」
「はぁー!しょうがないわね尚宏は。はい、私の鏡貸したげる。見れば分かるでしょ?」
「鏡?何か顔に付いて…えっ…」
「なっ!言っただろ!髭は根本迄しっかり剃って来いよ。時代は4枚刃だぞ!」
「…な…んで俺はちゃんと…」
「朝から見てたけど尚ちゃん、ちゃんと剃ってたよね?」
「愛子はいつも尚宏の事見てるもんね」
「そ、そんなにいつも見てる訳じゃないけど…」
「照れない、照れない」
朝からちゃんと剃った筈たぞ俺は。それなのに結構伸びてる?髭剃りの切れ悪いのか?新しい刃に付け替えないと…
───1週間近く同じ様な事が続いたんだ。その時の俺は俺って髭が毛深かったんだなと思うだけだった。伸びるのが早いので学校でもたまに剃る事が増えた。一応身だしなみだな…
*****
「はぁ~。なぁ、尚宏?」
「うん?」
「なんでマラソンなんてあるんだろうな?」
「…健全の為?」
「真面目に返すなよ!」
「まぁ、しょうがないさ。あるものはあるんだし、嫌なら休むしかないしな」
「…そうだな。俺、休めばよかったよ」
「おーい!男子はそろそろ出発させるぞ~。よし、行って来い男子共!」
「さぁ、行くか?」
「あ~、始まっちまった…」
─────「はぁはぁ、もうすぐ1キロ地点だな、尚宏!」
「はぁはぁ、はぁはぁ、はぁはぁ…」
「尚宏?どうした?お前がこんなところでバテるなんてって、汗が酷いぞ!調子悪いのか?」
「分かんねぇ、はぁはぁ、めちゃくちゃ…はぁはぁ、心臓が締め付けられる様な気がして…」
「そこに座って待ってろ!誰か呼んでくる!」
「はぁはぁ、悪い健二、ぐっ、はぁはぁ」
なんなんだ。急に今迄こんな事1度も無かったのに。最近は早く寝てるけど疲れがとれないからか?とにかく息苦しい…
「おい、有村大丈夫か?」
「はぁはぁ」
「念の為救急車を呼んだ!もう少し頑張ってくれ」
「先生!尚宏は大丈夫なんですか?」
「分からん。息遣いが荒い。あ~くそ!救急車はまだか?」
「はぁはぁ、健二、先せぃ………」
「おい、有村!有村ぁぁ!」
「尚宏ぉ!」
俺はいつの間にか意識を手放していたんだ…
かすかに聞こえる救急車のサイレンの音がやけに耳に残っている。
*****
「…んっ…俺は…」
「良かったわ。気が付いたのね。尚宏」
「…母さん?」
「マラソンの途中で倒れたのよ。覚えてる?」
「…んっ。なんか急に息苦しくなって…」
「お父さんももうすぐ来る筈よ。愛子ちゃんを連れて!」
「愛子も?心配掛けちまったな」
「ホントよ。まぁ、検査結果ももうすぐ出るらしいから何でも無いと良いけど…」
「多分、大丈夫じゃない?今は何とも無いし…。久し振りのマラソンで疲れただけだと思うから…」
─『ガラッ!』
「失礼します。あっ、目を覚まされたみたいですね」
「はい。今目を覚ましまして」
「…どうも」
「お気分はいかがですか?」
「あ、はい。今は大丈夫です。それで検査の結果って出ました?」
「そうですね。もうすぐ出ると思いますのでまだゆっくり寝てて下さい。尚宏君のお母さんで間違いないですか?」
「ええ、尚宏の母です」
「事務の手続きで話がありますので今から宜しいですか?」
「はい、分かりました。尚宏。ゆっくりして待ってなさい。母さんが居ないからといって寂しがったら駄目よ」
「誰が寂しがるんだよ!」
「ふふっ、愛子ちゃんがそろそろ来ると思うからしっかり甘えるのよ!」
「うっせー!」
「じゃあ、お母さん行って来るからまた後でね」
「…ああ」
──────「あのー、手続きの話では?」
「息子さんの担当をさせて頂く鏑木と申します。早速ですが息子さんの症状のお話を本人にお話するよりも先に親御さんさんにお話をと判断しました」
「!?…っ、どういうことでしょうか?息子はどこか悪いんですか?」
「落ち着いて聞いて頂きたいのですがまず、必ず息子さんの精神的にも肉体的にもサポートをお願いしたいと思います」
「…サポートですか?」
「ええ、必ず必要になります。下手をすれば自分で命を絶つ恐れが考えられるからです」
「…そこまで…息子は悪いと、いうことですか?」
「…息子さんの病名は……
*****
─『ガラッ!』
「おっ、目が覚めてるみたいで何よりだ。心配したんだぞ!」
「ああ、心配掛けて悪い父さん」
「全くだ悪いと思っているなら早く良くなれよ。母さんは?」
「うん。母さんなら手続きに行ったけど」
「そうか、分かった。じゃあ俺は母さんの所に行ってくるから!愛子ちゃん。気を遣って貰って悪かったね。こっちに来て馬鹿息子を頼めるかい?」
「はい、おじさん。尚ちゃんの事はしっかり見ておくので!」
「うん。頼むね、じゃあまた後でね」
「…心配掛けたか?」
「…うん」
「わりぃ」
「…うん」
「あ~なんだ。その、な…こっちに来るか?なんなら抱き締めてやろうか!な~んて…『ポスン!』…!?」
「『ギュゥ!』…本当に心配したんだからね!」
「…うん。悪かった」
「謝る事じゃないよ。それより本当に大丈夫なの?痛い所とか調子悪い所は無い?」
「ああ、今すぐ退院出来る位だよ。母さんが今、手続きに行ってるけど結構時間が長いからもしかしたら退院手続きだと思うし」
「そっかぁ、良かった…」
「もう少しこのままいる?」
「…ぅん」
「…愛子」
「何?」
「すっげぇー良い匂い。甘い香りがする」
「ふぇ!?」
「初めて抱き合ったけどなんかいいな」
「尚ちゃんの変態!スケベ!」
「言い方酷くねぇ!?」
「酷く無い!」
「「ふふっ」」
「来てくれて本当に嬉しかった。愛子」
「うん」
*****
「…母さん。それは本当に…?」
「…今はどうすればいいのか何も考えれないわ」
「どうして尚宏が…」
「愛子ちゃんにも何て言えば…」
「尚宏本人にも何て伝えれば…」
*****
「おばさん達遅いね」
「多分、気を遣ってくれてるんだろ?」
「そっかぁ。あっ、おじさん戻って来たみたい。」
─『ガラッ!』
「あれ、父さんだけか母さんは?」
「んっ、ああ…もうすぐ来る」
「…父さん…何かあったのか?」
「…どうした、急に」
「何年家族やってると思ってるんだよ」
「…ああ、そうだな」
「で?」
「…主治医の先生と母さんが来たみたいだ」
「…尚ちゃん?」
「…ぁあ!なんだ愛子」
「不安そうな顔しないで尚ちゃん。私がここにいるから」
「…サンキュー、愛子」
─『ガラッ!』
「こんにちは。有村尚宏君。私は君の主治医の鏑木です。体調はどうかな?」
「はい、今は大丈夫です。どこか痛むとかは無いので…ただ…」
「どうかしたのかい?」
「…俺はどこか悪いんですね?」
「どうしてだい?」
「なんとなく分かりますよ。父さんも母さんも表情が先程と違うから…」
「なるほど。尚宏君のお父さん、お母さん、宜しいですか?」
「「はぃ」」
「私も聞いていいですか?」
「君は?」
「尚宏君とお付き合いしています」
「先生。宜しければ愛子ちゃんにも聞かせてあげて下さい。分かる事ですから」
「分かりました。それでは最初に尚宏君の病名ですがまずウェルナー症候群と聞いた事はありますか?」
「…いいえ、ないです」
「たまにテレビでも取り上げられたりするのですが難病指定になっています。病状として老化が急速に進んだりするのが主な症状になります」
「!?」
「ウェルナー症候群は日本が一番多く世界でも6割を日本が占めています。原因の説は色々あるのですがハッキリとは分かっていません。分かっているのは遺伝子に問題がある事位の難病なのです。そのウェルナー症候群の一種だと思って下さい。」
「一種?」
「…はい。尚宏君の場合、他の人より進行が早いのです」
「もしかして髭が伸びるのも最近息切れし出したのも?」
「成長が急速に進んでいるからだと思われます」
「…治す、又は止める方法はありますか?」
「残念ながら治療法が無いのが現状です」
「…先生。俺はどうなるんです…か?」
「……」
「大丈夫です。父さん、母さんの表情から決して軽く無いと思っていました。自分の体も何か変だなとは思っていました。知りたいんです先生!俺は、俺に残された時間を…」
「…20歳前後、今から約3年から4年で…」
「…そう…ですか…」
「「「………」」」
「…悪い皆。暫く1人にして欲しい」
「「「尚(ちゃ…ん)(ひ…ろ)」」」
「大丈夫じゃないけど大丈夫。変な事は考えないから」
─── 皆が病室を後にした後俺は涙が止まらなかった。どうして俺が?どうして?どうして?これから何の為に生きて行けば良いのか分からなかった。どの位そうしていたのだろうか分からない。窓から見える光は夕方と夜の間、薄暮の灯りがそっと俺の病室を照らしていた。
『ガラッ!』
「尚ちゃん」
「…あ、愛子?どうして?」
「どうしてっていつまでも尚ちゃん1人にする訳にはいかないでしょ?おじさんとおばさんには無理言って今日は私がここに残る事にしたから」
「…ぁ、あ、愛子。色々考えていたんだけど…」
「うん。今、尚ちゃんが思った事って私との事かな?かな?」
「!?…ああ、そうだよ」
「じゃあ先に言って置くけど尚ちゃんが何言っても別れないから!」
「…何で?」
「何年一緒に居ると思ってるの?」
「けど…」
「けど…じゃないの!それとも尚ちゃんは私の事嫌いなの?」
「そんな訳無い!ある筈ないだろそんな事!俺は愛子が好きだ!めちゃくちゃ好きだ!でも…愛子も聞いただろ?俺はもう老化が始まっているんだ。何年も立たないうちに髪の毛も抜け若いのに歳を取りあっという間に俺は爺さんになって死んでしまう。愛子の事を考えたら俺は…俺は…」
『チュッ!』(えっ?愛子の顔が目の前に、えっ?この唇に柔らかい感触って愛子の唇?)
「…尚ちゃん。私達のファーストキスは病室になっちゃったね!」
「い、いや。お前何言って…」
「尚ちゃんの気持ちは分かりたくても分からない。自分だけ歳を急激に取っていくって考えただけで怖くて恐ろしくて物凄く不安になると思う。でも分かりたいと私は思うの。分けて欲しいと私は願うの。だから本来ならプロポーズは尚ちゃんからして欲しかったけど来年尚ちゃんが18歳になったら私と結婚して下さい!」
「愛子。俺だって愛子と将来は結婚したかった!でも先に死ぬ俺と結婚しても愛子は幸せには…」
「尚ちゃん。幸せって何だと思う?」
「えっ…そりゃあ、人それぞれ違うとは思うけど」
「だよね!幸せって自分が何を思うかなんだよ。だから私の幸せは1日1日尚ちゃんとこれからも色々出来る事はして心のカメラで写真を取り、心のアルバムに1枚1枚写真を納めていくの!」
「でも…だな…」
「尚ちゃん。私の唇を奪っておいて私をやり捨てるの?」
「おぉーい。言い方!言い方が悪い!」
「もぅ!ハッキリしなさい!尚宏!尚宏は私が好きなんだよね?結婚したいんだよね!やり捨てしないよね!どうなの尚宏!」
「は、はい。勿論」
「宜しい!ちなみに私の両親にも尚ちゃんの両親にももう許しは得ているから!」
「早っ!外堀埋まってるし!」
「そりゃあ、勿論!もう人生計画立てているから従う様に!」
「いいんだな?後悔するぞ」
「うん。後悔なんてしないから!尚ちゃんは私の全てだよ!」
「それ俺のセリフな!愛子は俺の全てだよ!」
「うん」
そして俺達は病院の病室で2度、3度と唇を交わした。
*****
「俺は昨日から心配で心配ですぐ来るつもりだったんたぞ!」
「ごめんね。健二君。私が昨日は2人にして欲しいと連絡したから」
「いや、愛子ちゃんはいいんだよ。問題は親友の俺を蔑ろにしてメールもしない尚宏が悪い!」
「いや、俺かよ!」
「当たり前だろ!」
「はぁ~、ごめんね、尚宏。健二が我が儘言って。コイツ、愛子ちゃんに尚宏とられたの拗ねてるのよ!自分が支えるつもりだったみたいね」
「おおーい!全部言うんじゃ無いよ、未希!」
「事実でしょ!それにアタシに文句あ・る・の・か・な・健二は!」
「…くっ、無い」
「宜しい!」
「「夫婦漫才?」」
「「違ーう!!」」
「あはは、いつも通りで逆に安心したよ2人共。ありがとな」
「尚宏…」
「悪いんだけど2人共、健二と2人だけにしてくれないか?」
「えっ、うん、分かった。それじゃ~未希と売店とか行ってくるね!行こうか未希」
「分かったわ。尚宏!後で私も話があるからね!ちゃんと聞きなさいよ!」
「おっ!彼氏の前で俺に告白か?」
「馬鹿!とにかく後でね!愛子、行こう!」
「うん」
『ガラッ!』
「どうしたんだ尚宏?」
「病気の事は聞いたんだよな?」
「…どうして…どうしてお前なんだと思った…ううっ…うわぁ…どうして俺の親友のお前がそんな聞いた事ない難病にって、ううっ…」
「日本では多いらしいよ。サンキューな!親友!」
───「悪い、泣きたいのはお前なのに俺が泣いちまって」
「いいさ。俺の為に泣いてくれたんだ。それに俺は十分泣いたさ。愛子のお蔭で残りを楽しむ事が出来そうだしな」
「本当に高校は辞めるのか?」
「ああ。俺はどんどん老けていく一方らしいし何より身体がついていかないだろう。しょうがないさ。お前達ともう少し学校生活を楽しみたかったけど健二達が休みの時にでも遊べるしな!」
「尚宏。約束だぞ!俺はいつでも呼んでくれたらお前の所に行くから!」
「ああ、約束だ!」
「で、俺に何か頼みたい事でもあるのか?」
「…どうしても頼みたい事がある。健二にしか頼めないんだ!」
「何でも言ってくれ!」
「実は──────────────────
─────────────────────なんだけど頼めるか?頼めるのが健二しか居なくてな」
「分かってる。必ずやるよ!」
「頼むな。健二」
「ああ」
*****
『ガラッ!』
「尚ちゃん。話は終わった?」
「ああ、サンキュー」
「…何の話よ?」
「そこでお前は聞くんか~い!」
「ふん。健二がどうせ私に突っ込むと思ったから言っただけよ」
「…そうかい」
「それよりも私も話があると言ったでしょ?」
「ああ、言ってたな。どうした?」
「愛子にも健二にも了承を得ているから」
「うん?何の『ガバッ!』…おい、健二に怒られるぞ。他の男に抱きつきやがってって!」
「ううっ…うわぁぁん、怒る訳…無いでしょ。グスッ!ズズッ!私、私嫌だよ、ううっ…グスッ我が儘を、ヒック、言っているのはわかっでいるげどうわぁぁん、4人でまだ色々したいのにぃー」
「わりぃな。だけど身体が動く限り付き合うから勘弁な未希」
「根性で治して、グスッ!ヒッ!ううっ…」
「無茶言うなよ!お前の気持ちは本当に嬉しい。俺は本当に良い親友を持ったな。あ~もう、泣くな未希。そして健二!お前の彼女だろうが!こういう時はお前の胸元だろ?」
「バ~カ。こういう時はお前が泣かせた責任としてしっかり受け止める様に!ちゃんと俺の未希の鼻水も取ってやれよ!」
「健二君!色々と台無しだよー!」
「うわぁ~健二。それはない。それはないよ」
「ぐすん。私もそう思う…」
「えっ、俺かよ。俺が悪いのか?」
「くくく」
「「「「ははははは」」」」
俺は本当に友達に恵まれた。出来る事ならずっと4人で過ごしたかったものだ。
*****
俺は入院して二日後退院。その日の内に高校へ退学届けを持って行った。クラスメイトへの挨拶は遠慮させて貰った。しんみりするのは分かっているし俺が耐えられないからだ。担任の先生には泣かれてしまったが。この日高校を2人で一緒に退学した。
「なぁ、愛子迄本当に退学して良かったのか?」
「もうその事は言ったでしょ?」
「しかしなぁ、俺、愛子の人生を壊してしまってるんじゃあ…」
「相変わらず馬鹿なんだから尚ちゃんは!」
「馬鹿とは何だ、馬鹿とは。俺は真剣にだなぁ」
「勿論。学校は大切だと思うよ。就職なんかは特に学歴重視するからね。でも仕事ってさ、学歴でするものじゃないじゃん。今の私にとっては高校よりも尚ちゃんとの時間が重視されるだけの事だよ」
「…もう何も言わない。本音を言うと俺も片時も離れずに愛子に側に居て欲しいから」
「うん。うん。素直な尚ちゃんは可愛いね!」
「ぐっ…」
「尚ちゃん。そんな事で照れててどうするの?」
「んっ…どういう事?」
「今日から私は籍はまだだけどお嫁さんなんだから尚ちゃんの部屋で一緒に暮らすんだよ」
「へっ?」
「一緒にご飯食べて、お風呂に入って、当然一緒に寝るんだから」
「いやいやいや、おじさんもおばさんもそれは流石に許可しないと思うんだが…」
「何言ってんの!尚ちゃんは!孫の顔見たいと言ってるよ」
「孫だと…」
「そうだよ!私もそのつもりだし!お医者さんにも聞いたけど子供に遺伝する確率はかなり低いらしいし、とにかく尚ちゃんは心配しなくていいの!」
「…うん。分かった。俺は俺の全てで愛子を大切にするから」
「うん。私も」
俺達はこの日から一緒に暮らし始めた。
*****
「一緒にお風呂って恥ずかしいね、尚ちゃん」
「………」
「どうしたの?」
「綺麗過ぎて見惚れてた」
「…馬鹿ぁ、もう~私、我慢していたのに猛烈に恥ずかしくなってきちゃったよ」
「すまん」
「ほら、背中洗って上げる。こっちに来て!」
「ば、馬鹿!お前今は…」
「あっ……」
「だから急に引っ張るから」
「尚ちゃんのエッチぃ」
「しょうがないの!愛子が綺麗だから」
「尚ちゃんこそ急にそんな事言うの禁止!」
「理不尽!」
「「フフッ、ハハハ…」」
*****
「…ホントに良いのか?」
「…うん」
「17歳で妊娠。18歳で母親になって本当に後悔しないか?」
「しないよ!尚ちゃんが相手なんだから」
「…愛子…愛してる」
「うん、私も。尚ちゃん……………来て…」
*****
「おはよー尚ちゃん」
「あ~おはよー愛子」
「昨日は凄かったね!尚ちゃんと1つになれて私凄く幸せだったよ」
「…俺もだよ。凄く幸せだよ」
「「チュッ!」」
「じゃあ私ご飯作ってくるから尚ちゃんはゆっくりとしておいて」
「ありがとうな。愛子」
*****
一年が過ぎた。18歳になった。籍を入れた。あれから愛子との思い出は沢山増えた。山に行ったり、海に行ったり、遊園地に行ったり、水族館、動物園にも行った。同じ所にも何度も行った。1つ1つが素敵な思い出として心に残る。俺の見た目にも変化が起きている。もう四十代半ばには見える気がする。愛子はまだまだ若く見えると言ってくれはするがデートに行っても端から見れば親子に見えるだろう。それでも愛子は気にせず外でも家でも沢山愛をくれる。教えてくれる。
そんな俺達に家族が増えた。愛子はあの後直ぐに妊娠。俺の子を産んでくれたのだ。嬉しかった。感動した。言葉では言い表せ無い程幸せな時間を運んでくれた。子供の名前は尚子。2人の名前から一字ずつ取って付けた。現在俺達は絶賛子育て中。俺達の両親は孫が可愛くて可愛くて仕方ないみたいだ!面倒を見てくれるので助かっている。愛子がもう1人というのでそちらの方も現在頑張っている最中だ。健二と未希も頻繁に会いに来てくれる。2人共本当に良くしてくれる!
*****
また一年が経過した。19歳。顔は更に老け今では両親の親と間違えられてもおかしくはない程老化が進んだ。身体的にもどんどん足腰は弱くなり近い距離なら杖、距離があるなら車椅子が必要になってしまった。子供には恵まれ愛子は双子の男女を出産。俺は3人の子供の父親になる事が出来た。愛子は俺がこんなになっても変わる事無く愛してくれる。俺はそれが嬉しい。健二と未希は会う度悲しそうな表情を見せるが気にするな!俺はこんなになっちまったけど幸せだから!
*****
更に一年が経過した。俺は二十歳になった。顔は更に老けしわくちゃ。身体も介護無しでは動けない。愛子に負担を掛けてしまっているな。愛子はそんな素振りは無く今でも俺の傍に居て率先して何でもしてくれるが嬉しい反面、申し訳なく思う。両親、お義父さん、お義母さんにも申し訳なく思う。俺の子供の面倒、生活費等全て賄ってくれているのだ。今の俺には感謝する事しか出来ない。親友の健二も未希と結婚した。俺の身体…というより俺自信来年迄持たないだろう。つまり俺に死が近付いているのがわかる。2人の結婚式出席出来て本当に良かった。
夜眠るのが恐くなる。このまま目覚めないのでは無いかと思ってしまう事が多くなる。ベッドには可愛い子供達。愛しい子供達の成長を見れないのも心残りだが仕方ない。どうにもならないのだ。ベッドから窓の外の景色が見える。月は満月。何時もよりも月が綺麗に見えた。暫く眺めていると流れ星。生きたいと思う願いは叶う事は無い…。だからこそ最愛の妻愛子と子供達の幸せを願うのだ。
「どうしたの、尚ちゃん。眠れないの?」
「…目が覚めただけだよ」
「ホントに?何かあったら直ぐに言ってね」
「ああ、ありがとう愛子。愛してる」
「私も愛してるよ」
*****
更に3ヶ月が経過した。子供達は両親ズが見てくれている。俺は愛子に伝え外に連れてきて貰った。愛子が車椅子を押してくれる。イチョウの葉っぱが散り始めている。一番景色が綺麗な場所で車椅子から降ろして貰い座り愛子に寄り掛かる。
「寒くない?」
「ああ、大丈夫」
「珍しいね、尚ちゃん。出掛けたいだなんて」
「悪いな。最近は身体がホント動かなくなって見た目も身体もヨボヨボだからな。ホントはもう少し出掛けたかったんだが…」
「ううん。久しぶりの2人っきりだね。デートだ」
「…ああ。デートだ。悪いな。1人こんなに年取ったみたいになってしまって…」
「それは尚ちゃんのせいじゃないでしょ!怒るよ!」
「ハハハ!愛子に怒られる訳にはいかないからさっきのは取り消しで頼むよ」
「うん。分かった。今回だけだよ」
「愛子」
「な~に?」
「幸せか?」「うん。幸せ!」
「間髪入れずに答えるなぁ」
「そりゃそうでしょ!親に恵まれ子供達にも恵まれ、何より最愛の人に恵まれたんだから幸せだよ!」
「そっかぁ!幸せかぁ!」
「うん。尚ちゃんは幸せ?」「勿論愛子と同じだな!愛子のお蔭で幸せなんだ!」
「尚ちゃん」
「ホントにありがとうな!」
「どういたしまして!そろそろ帰る?寒くない尚ちゃん?」
「もう少しだけ…もう少しだけ…いいか?もう少しだけ…愛子とこの景色を見ていたい…」
「うん。分かった。寒かったりしたら言わないど駄目だよ!」
「あぁ…」
────「尚ちゃん、そろそろ戻ろ!」
「…」
「尚ちゃん?こんなところで寝たら駄目だよ」
「」
「な…おちゃん?」
「」
『ポトッ…ポトッ…』
「逝っちゃったんだね…尚ちゃん…グスッ…早いよ…早いよ…尚ちゃん…グスッ……うぇぇえ……なぉぢゃん…なぉぢゃん……クズッ…今は……泣いても…ゆるじでね……」
─この日尚ちゃんは旅立ちました。
*****
「この度は御愁傷様でした…」
「どうしてこんなに早く…尚宏…ううっ…」
「俺を置いていくなんて…親友だ…ろ…俺達…」
「尚宏ぉぉ…」
「尚くん…」
────────
通夜、葬式が終わり尚ちゃんの初七日の日。
「愛子ちゃん」「愛子」
「どうしたの?健二君も未希ちゃんも」
「これは尚宏からだ」
「えっ?」
「私も昨日始めて聞いたんだけど尚宏が健二に頼んでいたらしいの」
「俺が死んで暫くしたら渡してくれって頼まれてたんだ。名義も有村愛子になってるだろ?」
「でもどうやって?」
「愛子ちゃん、ビジネスチューブって知ってる?」
「そりゃあ、勿論。デルキンテレビとかカラフルパインとか有名なBチューバーの人達が活動している共有サイトだよね?」
「検索でNAOをサーチすれば全て分かるよ」
「分かった。後で観てみる。健二君ありがとうね。尚ちゃんと何か約束してて守ってくれだんでしょ?」
「ああ、守るさ、当然だろ。俺はアイツの心友なんだから」
「うん。未希ちゃんもありがとう」
「うん」
*****
尚ちゃんが居る時は尚ちゃんとの時間を優先していたので私はビジネスチューブを見た事が無かった。私は健二君に教えて貰ったNAOをビジネスチューブでサーチ。いわゆるサムネと呼ばれる所にはタイトルと共に尚ちゃんが映っている。最近の尚ちゃんの姿だった。始めてビジネスチューブを開いたからどうすれば最初から観れるのか分からない。取り敢えず動画を再生すると広告が流れ始める。テレビみたいだと思っていると広告が終わり動画が始まり出す。尚ちゃんが映っている。初めから見たかった私は画面下にチャンネル名とチャンネル登録という所があったのでチャンネル名をタップ。そして動画をタップ。動画は新しい順になっておりサムネの写真とタイトル。下迄スクロールすると『ウェルナー症候群』とタイトルと共に笑っている尚ちゃんのサムネ。私は動画を再生した。
─────「あ~、初めましてNAOです。動画投稿なんて初めてで拙い所が多々あると思いますが寛大なお心で観て下さると嬉しいです」
これ初めて病院に運ばれた後だよね。尚ちゃんたらいつの間にこんなの撮ったのよ?場所は待合室かな?背景は暗いので多分、私が寝た後に撮ったのだろう。
「まず始めに言って置きたい事があります。私はウェルナー症候群という難病に指定された病気になった様です。どういった病気か簡単に説明すると老化する病気です。俺は二十歳になる頃には完全に老化が進んでいることだと思いますじゃない、確実に進んでいます。俺は症状が進むのが早いらしいです。治す方法はありません。これから動画を度々出すのでそれを見て頂ければこういう病気なんだというのが分かると思いますので宜しければチャンネル登録して下さい」
1本目の動画が終わり続けて動画が始まった。
「皆さんどうも~NAOです。まだまだ元気です。初めましての方はなんだコイツと思われるかも知れませんが長い目で観てやって頂けると嬉しいです。さて、少し私の事を話させて貰いますね。私には幼馴染みがいるのですがその娘はとても可愛い女の子です。え~ちなみに結婚も先の無い俺なんかとしてくれる物好きな女の子です。やべぇな。この動画観られたら絞められかも…後で、カットして貰うしかないな」
尚ちゃん。親友の健二君はカットしてくれなかったみたいだよ。それに物好きって何よ。物好きって!それに俺なんかじゃないでしょ!もう~!
「リア充かよ!と思われるかも知れませんが勘弁して下さい。俺は家族、彼女、親友、環境に運よく恵まれただけですから。そして先が無いのに結婚して彼女が可哀想だと思われる方も居ると思います。俺自身そう思い1度は1人で余生を過ごす事も考えました。彼女は若いまま俺は老化するだけですから…それでも一緒に居たいと言ってくれて…絶望しかない俺に希望という光をくれたのです。希望といっても長くは生きられません。濃密な時間と言えば良いでしょうか。普通の人が歩む道、結婚とかがそうですね。来年俺が18になったら籍を入れます。その時はまた報告しますね。それでは今日はこの辺で。今の所ちょっとした彼女自慢みたいな動画になってるとは思いますがチャンネル登録お願いします」
少しでも尚ちゃんを照らせていたみたいで私は嬉しいよ。今でも尚ちゃんを選んで後悔した事は無いからね!動画は暫く動物園に行ったとか水族館、遊園地に行った等デートした話と共に尚ちゃんが撮ったと思われる写真が紹介される。少しずつ動画でも尚ちゃんが老けていくのが分かる。
「初めて動画を投稿してから1年が経過しました。かなり老化が進んで来たのが分かると思います。40代半ば位には見えるのではないでしょうか?少しずつ身体的にも衰えを酷く感じて来ました。知ってるか?これでも20歳なんだぜ!どこから見ても見えないだろ?と、いう訳で私事ですが籍を入れ、結婚式を挙げ、子供が産まれました。娘なのですが凄く可愛い!そして俺に子供という宝を与えてくれた妻には頭が上がりません。感謝だけでは表せない程です。この場を借りて改めてありがとう。凄く幸せだ。と言わせて下さい。親友にも同じ言葉を。この動画の編集は親友がしてくれているので。それでは今日もこの辺で、NAOでした。あっ、チャンネル登録お願いします。俺はこんな身体なので働いて親孝行とか妻や子供の為に働いて稼いで来る事が出来ません。お互いの両親におんぶされているのが現状です。だからこそこういう方法で稼いで残そうと思ったのです。お金目当てかよと思われる事でしょう。それでも私にはこれしか無かった事を少しでも思って頂ければ有り難いです。どうか、どうか今後も宜しくお願いします!」
動画は次々に流れていった。
「動画をずっと観てくれてる人は分かると思うけどNAOです。え~お前誰だよという声が聞こえてきそうな程老化しました…。見た目は60代後半ですかね?両親より老けてしまいましたね。両親からすれば病気とはいえ息子が自分達より老けるのは精神的にかなりキツイ事だと今なら分かります。病気って本人が一番辛いとかいうけど順番なんか無いと思います。周りも辛いのです。初っぱなから暗い話になってしまいましたがここでご報告を。妻が双子を出産してくれました。3人の子宝に恵まれました。そういえば皆さん病気の遺伝を心配されていましたがほとんど遺伝する事は無いとの事でした。そして日本ではこの病気は全体の6割を占めているそうです。原因は分かりません。ただ近くにこんな病気があるんだと認識して下さい。何故今頃伝えたかについては動画を観て症状を観て貰わないと分からないと思ったからですね。動画を見返して貰えば老けていってるのが分かると思います。それではまた…」
色んな動画が流れていく。私は1つ1つ大切に観ていく。介護が必要になってからは健二君が来た時に尚ちゃんが言って撮って貰ったんだと思う。動画の期間も開いてきた。そして最後の動画が流れる。タイトルは『伝えたい事』。最後の動画だけは1人で撮ったんだろう。画面が最初だけ物凄くブレていた。そして固定されたのだろう。画像が安定、尚ちゃんが語り始める…
「やぁ、皆さん。久しぶりだね…。声が聞き取りにくかったらすまないな。最近は喋るのもキツくなってきたから…動画も時間が開いてしまってるだろ?……多分、これが最後の動画になると思う。見た目通り老化が進み二十歳なのに見た目は80歳位に見えるんじゃないかな?ふ~息を整えながら喋るけど分からなかったりしたらホントすまない……え~、そうだなぁ、まずは動画を…観てくれて今迄本当にありがとう。俺の動画を見て少しでもこの…病気、家族の事、そして壮大な話だけど自分の人生について…考えてくれたら嬉しいかな…次に俺の我が儘でここまで付き合ってくれた…俺の親友、心の友と書いて心友…名前出すけど後で編集頼む…健二と未希。本当に出会えた事、俺なんかの心友になってくれた事…変わらず接してくれて本当にありがとう。ありがとうしか言えなくて本当にわりぃ…老化のせいか涙が酷いな…見苦しかったらモザイク入れてくれ。輪廻は巡るというがもし本当なら…また心友として頼むな……次に父さん、母さん。俺を産んでくれてありがとう…父さん母さんの息子で俺は本当に良かった。これだけは言っておきたかった…病気でこんなことになってしまったけどまた生まれかわったら宜しく…そして、お義父さん、お義母さんも本当の息子の様に接してくれて本当にありがとう…俺には2人も父さんが居て2人も母さんが居る…本当に恵まれている…ありがとう…そして子供達。父さんは居なくなってしまうけど元気に育ってくれ…お前達をこの手に抱く事が出来たのは短い間だったけど俺は忘れないよ…父さんが居なくて不憫な思いをする事が多いと思う…だけど、どうか…強く、ママと支え合いながら成長してくれ…成長するところが観れないのは残念で仕方ない……そして愛子…本当にありがとう…愛してる…俺が老化しても変わらず傍に居続けてくれた…どうか…どうか…神様…居るのなら生まれ変わってもまた愛子に出逢い…今度こそ同じ時を…瞬間を生きれる様…お願いします。愛子は俺の全てです。俺は先に逝ってしまうけど…見守ってるから…愛子が幸せな様に…願っているから………皆も、どうか後悔が無い生き方を…どうか変哲が無い毎日だけどそんな普通の生活を大切に……NAOでした。」
尚…ちゃん。私は涙が止まりませんでした。後日、お義父さん、お義母さん、私の両親も同じです。動画は色々な思いで溢れていました。
勿論そんな動画はチャンネル登録者数も再生数もかなり多く私達が生活出来るだけの収益も得ていたのです。尚ちゃんは普通の旦那さんみたいに家族の為、仕事してくれて稼いでくれました。病気でも普通であり続けたかったんだと私は思う。
────毎日の日々は大人になると特に時間が過ぎるのが早くなる。子供達もあっという間に大きくなっていった。皆良い子に育ってくれた。子供達はやがて大人になりそれぞれ結婚、子供を出産、命が紡がれていく……
私も年を取った。今年もう80になる。尚ちゃんとの日常は胸にいつまでも残っている。鏡を見て歳を取っていく度、同じ年齢位の尚ちゃんを思い浮かべた。そうすることで同じ様に尚ちゃん歳を取って生きてく事を心の中で想像してきた。私の大切な人。今日は本当に温かい!多分…私にもその時が来たのだと感じる。尚ちゃんが願った様に私も願うとしよう。どうか神様来世があるのならまた尚ちゃんと出逢わさせて下さい。そして今度こそ同じ瞬間を過ごさせて下さい………
『愛子!』
『尚ちゃん!』
完
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