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第13話 討伐
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俺は静かに息を整え、しばらくの間、風のざわめきと地面に響くかすかな振動を感じていた。目の前には、異様な存在感を放つ巨獃キンモクオドシ。その四肢はまるで山のように太く、その長く伸びた触手は蛇のように絡まりながら、周囲の空間を不気味に揺るがせていた。
「俺、ちょっと行ってくるよ」
俺は声を張りすぎないようにしながら、仲間のラプラスに告げた。目の前の状況が緊迫しているのは明らかだったが、彼女の表情にはどこか落ち着いた、あるいは挑戦的な冷静さがあった。
「相手はA+ランクの危険な魔物だ。くれぐれも油断するなよ」
その忠告は、重く鋭い意味を帯びていた。ラプラスは、自身の知識と経験からくる冷静さを保ちながらも、心の奥では緊張が走っていたのだ。だが、俺ははあくまで軽やかに答える。
「了解ッス」
【メニュー・オープン】
俺はメニュー画面を開き、【ファイター】を選択。俺の中で、戦いのスイッチが静かに入った。
一方、その間にも他の冒険者たちは苛立ちを募らせていた。
「だーかーら!!脚狙えっつってんだろうが!!」
荒々しく声を張り上げたのはファイガーだった。彼は巨獣の動きを封じるために足を攻撃するよう必死に指示を出していたが、その焦りは明らかに伝わっていた。
「さっきから狙っとるわボケェ!!お前がヘナチ
ョコパンチばっかしとるからやろ!!」
ステルバイが反論した。二人の言葉の端々には、長引く戦いの中での苛立ちと、戦況を打開できない無力感がにじみ出ていた。
「んだとテメェ!!その棒へし折ってやろうか!」
その言葉に、場の空気が一瞬静まった。巨獣が人里に向かえば、無数の命が危険にさらされるのだ。その重大さを誰もが理解していたが、事態はすでに彼らの手には負えなくなりつつあった。
「何度モ切ッテル。ケド止マル気配ナイ。脚
攻撃、ヤッパリ無駄?」
マイケルが冷静に呟いた。
その時、俺は密かにキンモクオドシの直下まで忍び寄っていた。巨獣の圧倒的な存在感に、胸中にも恐怖が走る。間近で見上げたその姿は、さらに巨大に、そして恐ろしげに映った。
巨獣の巨大な瞳がゆっくりとこちらの方へと向けられた瞬間、俺の心は一瞬凍りついた。
キンモクオドシは足を止め、静かに、まるで意思を持つかのように俺を見つめ始めた。その目はまるで人間を試すように、深く、そして無表情だった。
「止まった?」
ファイガーが驚きの声を上げる。
「ちったァ効いたんか!?」
ステルバイも続けて叫ぶが、俺にはそれが錯覚に過ぎないことがわかっていた。キンモクオドシの動きには明らかな変化が見られたが、それは俺に対する反応に過ぎない。
「いや、なんか様子が変だ.....」
ハイドロが不安げに咳いた。その言葉は、戦士としての直感が告げる危険を予感してのものだった。
「チョット待ッテ、誰カイルヨ?」
マイケルの剽軽な声が他の冒険者たちの注意を引いた。
「あ!?誰だテメェ!?」
ファイガーが声を張り上げ、皆がアカシの方を振り向く。
「あ、どうもっス......」
俺は軽く挨拶したものの、その緊張感の中では自分でもその言葉が場違いに感じられた。
ハイドロが額に汗を滲ませながら冷静を保とうとする。
「ここはフタバ原野、恐らく訓練中だった冒険者が逃げ遅れたのだろう。君、大丈夫か?コイツは危険だ。急いでここから離れろ!」
だが、俺は笑みを浮かべ、「いや、俺も戦います!」と毅然と言い放った。
その一言に、場の空気が凍りついた。ハイドロは驚愕し、すてるばいかも言葉を失った。
「ア、アホォ!!戦える訳ないやろ!俺らAランク4人がかりでも倒せへんのやぞ!」
ステルバイが鋭く言い放った。彼の言葉には、経験と実力に裏打ちされた確信が込められていた。キンモクオドシは、彼らでも苦戦する相手。俺の行動は無謀にしか見えなかったのだろう。
彼らの警告を背に、俺は静かに目の前の脅威に集中した。全身を走る緊張感の中で、思考は鋭く研ぎ澄まされ、瞬時に判断を下す───逃げない、と。
触手がゆっくりと、しかし確実に俺に向かって伸びてくる。
その動きはまるで、獲物を確実に仕留めるために余裕を持っているかのように見えた。だが、俺ははその動きに臆することなく、逆にその触手の動きを冷静に見極め、足を前に出した。足は疾風のごとく突っ走り、まるで風そのものとなったように、その巨体に向かってまっすぐに突き進む。
「おいアホッ!!」ステルバイの叫びも、ハイドロの「何してんだ!?」という驚きも、アカシの耳には届いていなかった。
その瞬間、無数の触手が襲いかかる。だが俺は、軽い身のこなしで次々と触手の攻撃を回避していく。まるで自分が風の一部となり、その動きを読み取るかのように、俺は躍動する触手の隙間を縫って進んだ。
「アイツ、避けやがった!」
遠くからファイガーが驚愕の声を上げた。
俺はついに一つの触手を掴む。その感触は冷たく、ぬるりとした異様なものだったが、俺は一切の躊躇を見せなかった。
「オラァ!!」と声を上げ、そのまま力を込めて引っ張った。触手は彼のカに応え、ブチブチという音を立てて、キンモクオドシの背中から引きちぎれる。
その音は、俺にとっては勝利の予兆、だが同時に魔物の怒りを引き起こす。キンモクオドシは悲鳴に近い音をあげ、体がわずかに揺れた。触手のちぎれた部分からは青い体液が流れ出し、その姿はまさに痛々しい。
だが俺は、冷徹に状況を分析していた。
目の前の魔物の体力ゲージに視線を送ると、わずかにではあるが、その数値が減少しているのを確認する。これまでのどんな攻撃も通じなかった相手に、確かなダメージを与えた事実は、俺の中で自信を生み出していた。俺はすかさずキンモクオドシの右前脚に鋭い蹴りを放った。
衝撃は的確に魔物の巨体を捉え、次の瞬間、巨体が地面に崩れ落ちた。
その動きは大地を揺らし、ズシンという音が周囲に響き渡る。空気に広がる土の匂いと、魔物の腐臭が混じり合い、異様な雰囲気が漂う。
ステルバイは、目の前の光景に呆然とし、「はぁ!?嘘やろ!?倒れたで!!」と口走った。
ファイガーも、しばし絶句した後、震えるように声を漏らした。
「な、何モンだこいつ......」
だが、俺は油断しなかった。
そのまま、空中へと高く飛び上がる。体中にみなぎる力を感じながら、まるで天空から神の制裁を下すかのように、キンモクオドシの頭部にかかと落としを放つ。
「どうだ!?」
だが、キンモクオドシの体カゲージは完全にゼロにはならなかった。俺はその事実に苛立ちを感じ、再び跳躍し、再度かかとを振り下ろす。
「二発目どうだ!?」
その瞬間、キンモクオドシの体からは鮮烈な音が響いた。
頭部からバキバキと砕ける音がし、目に見える形で何かが崩壊していく。眼球が飛び散り、口から血が吹き出し、頭の骨が完全に潰れたのを、己の足で確かに感じ取った。
「どうだ?今度こそ!」
俺は再び体カゲージを確認する。そしてついに、キンモクオドシの体力がゼロになっていることを確認すると、俺の中で静かな勝利の実感が沸き起こった。
「しゃあ、討伐成功!」
【110ポイント獲得】という謎のメッセージが俺の目の前に現れる。この表示、ワイバーンを倒した時も現れたが、魔物を討伐したら出てくるのか?しかし、ポイントとは一体なんだろう。
俺は振り返り、その場にいた4人を見やる。だが、その表情は驚愕と困惑が混ざり合ったものだった。
「あっ…………。じ、じゃあ俺はこれでー……。失礼しまーす………」
俺は気まずく目を逸らし、キンモクオドシの死骸を背にゆっくりと歩き出した。肩越しに振り返ることなく、淡々とその場を後にしようとする俺の姿は、どこか落ち着きがなく、意図的に無関心を装っているかのように見えただろう。周囲の空気が張り詰め、静寂の中で俺の足音が妙に大きく響く。
だが、その瞬間、冷たい手が俺の肩に触れた。 振り向くと、そこにはファイガーが立っていた。その眼光は鋭く、疑念と怒りが入り交じっている。
「おい」
短い言葉に、圧倒的な威圧感が込められている。彼の手が肩に乗る重さをじわじわと感じながら、曖昧に返事をする。
「はい?」
ファイガーの目が射抜くように見つめ、彼の口元が険しく歪んだ。
「てめぇ、何モンだ?俺の獲物を勝手に横取りしやがって」
ファイガーの声は低く抑えられていたが、その中に潜む怒りと苛立ちが明確に伝わってきた。 俺の背中に冷たい汗が流れる。彼の周りに立つ他の冒険者たちも、じっとこちらを見つめている。どの顔も、理解できないものを前にした戸惑いに満ちていた。
「あっ、えっと~……」
俺は困惑し、視線を泳がせる。どうにかしてこの場を切り抜けようと、頭の中で必死に言い訳を探し始めた。だが、どうやっても言葉が見つからない。まるで不良に絡まれているような感覚だ。ここは適当なことを言って、なんとか切り抜けるしかない。
「おい!答えろ!」
俺は一瞬、目を閉じて息を吸い込み、そして自信のない声で返事をした。
「…………お、お前!今の俺に触れるのはやめておいた方がいいぞ!」
ファイガーは一瞬驚き、眉をひそめる。
「な、なんだと?」
「今日、何の日か知っているか?」
「あん?なんの話しだ?」
周囲が静まり返る。ステルバイや他の冒険者たちも、今の会話に興味を示し、じっと耳を傾けている。俺は、ここが正念場だと思い、無理矢理な笑みを浮かべながら続けた。
「そう。今日は天皇陛下の誕生日。祝日だ」
「あ?」
「俺のスキルはな、祝日に覚醒する特別な力だ。この日の俺は力を制御できない。だから今の俺に関わらない方がいい。祝日の日の俺は、俺でさどうなるか分からねぇからな!」
言葉が次々と口から出てくるが、自分でも何を言っているのかわからなくなる。祝日?なんだそれ?自分でも信じられないような説明をしている。しかも今日は祝日でも何でもない。心の中で自分にツッコミを入れながらも、なんとかその場をしのごうと必死だった。
「ん?えっ?」
ファイガーの顔には困惑が浮かんでいた。そりゃそうだ。
「ふっ、じゃあな」
俺は軽く手を振りながら、ファイガーの手を肩からそっと外し、ゆっくりとその場を離れる。心臓がバクバクと鳴り響き、冷や汗が背中を伝う。歩幅を広げて早足で立ち去りたい衝動を抑え、自然に見えるようにその場を去ったが、内心では、すぐにでも駆け出したい気持ちだった。
「………………しゅ、祝日?」
その背後で、ファイガーがポツリとつぶやいたのが聞こえた。俺はそのまま足を止めず、ラプラスの元へと急いだ。
「アイツ、一人で片付けおったで。ほんま何モンなんや……」
「と、とにかくこれで人里への侵攻は防がれたな……」
ハイドロがようやく安堵の息をつく。
「これで、クエスト達成ってことになるんか?あんま実感ないなぁ……」
「ソレデモクエストの達成条件、確カにクリアシテル。ギルドにリターンシマショウ」
だが、ファイガーは依然として納得がいかない様子で、その場に立ち尽くしていた。彼の眉間には深いシワが寄り、苛立ちを抑えきれないようだった。
「おい!なにボサっとしとんねん、はよ帰るで役立たず」
ステルバイが、沈黙しているファイガーに向かって呼びかける。しかし、彼の言葉はファイガーの耳には届いていないかのようだった。
「………………」
「おい!!」
ファイガーは、静かに唇を噛み締めた。
「納得いかねぇ……」
「はあ?」
その声には、怒りと疑念が込められている。
ファイガーは、再び視線を遠くに走るアカシの背中に向けた。
「アイツ、あの野郎、あの強さ……。納得がいかねぇ!」
彼は、己の拳を強く握り締めた。 その目は、アカシの背中を鋭く追い続けている。まるで、彼の本当の姿を暴こうとするかのように、その視線は鋭さを増していた。
「なんで祝日と関係があんだよ!!なんだよ祝日って!」
その場に立ち尽くしながらも、ファイガーはずっとアカシの背中を見続けていた。その背は、夕陽に照らされて一層遠く小さくなっていった。
「俺、ちょっと行ってくるよ」
俺は声を張りすぎないようにしながら、仲間のラプラスに告げた。目の前の状況が緊迫しているのは明らかだったが、彼女の表情にはどこか落ち着いた、あるいは挑戦的な冷静さがあった。
「相手はA+ランクの危険な魔物だ。くれぐれも油断するなよ」
その忠告は、重く鋭い意味を帯びていた。ラプラスは、自身の知識と経験からくる冷静さを保ちながらも、心の奥では緊張が走っていたのだ。だが、俺ははあくまで軽やかに答える。
「了解ッス」
【メニュー・オープン】
俺はメニュー画面を開き、【ファイター】を選択。俺の中で、戦いのスイッチが静かに入った。
一方、その間にも他の冒険者たちは苛立ちを募らせていた。
「だーかーら!!脚狙えっつってんだろうが!!」
荒々しく声を張り上げたのはファイガーだった。彼は巨獣の動きを封じるために足を攻撃するよう必死に指示を出していたが、その焦りは明らかに伝わっていた。
「さっきから狙っとるわボケェ!!お前がヘナチ
ョコパンチばっかしとるからやろ!!」
ステルバイが反論した。二人の言葉の端々には、長引く戦いの中での苛立ちと、戦況を打開できない無力感がにじみ出ていた。
「んだとテメェ!!その棒へし折ってやろうか!」
その言葉に、場の空気が一瞬静まった。巨獣が人里に向かえば、無数の命が危険にさらされるのだ。その重大さを誰もが理解していたが、事態はすでに彼らの手には負えなくなりつつあった。
「何度モ切ッテル。ケド止マル気配ナイ。脚
攻撃、ヤッパリ無駄?」
マイケルが冷静に呟いた。
その時、俺は密かにキンモクオドシの直下まで忍び寄っていた。巨獣の圧倒的な存在感に、胸中にも恐怖が走る。間近で見上げたその姿は、さらに巨大に、そして恐ろしげに映った。
巨獣の巨大な瞳がゆっくりとこちらの方へと向けられた瞬間、俺の心は一瞬凍りついた。
キンモクオドシは足を止め、静かに、まるで意思を持つかのように俺を見つめ始めた。その目はまるで人間を試すように、深く、そして無表情だった。
「止まった?」
ファイガーが驚きの声を上げる。
「ちったァ効いたんか!?」
ステルバイも続けて叫ぶが、俺にはそれが錯覚に過ぎないことがわかっていた。キンモクオドシの動きには明らかな変化が見られたが、それは俺に対する反応に過ぎない。
「いや、なんか様子が変だ.....」
ハイドロが不安げに咳いた。その言葉は、戦士としての直感が告げる危険を予感してのものだった。
「チョット待ッテ、誰カイルヨ?」
マイケルの剽軽な声が他の冒険者たちの注意を引いた。
「あ!?誰だテメェ!?」
ファイガーが声を張り上げ、皆がアカシの方を振り向く。
「あ、どうもっス......」
俺は軽く挨拶したものの、その緊張感の中では自分でもその言葉が場違いに感じられた。
ハイドロが額に汗を滲ませながら冷静を保とうとする。
「ここはフタバ原野、恐らく訓練中だった冒険者が逃げ遅れたのだろう。君、大丈夫か?コイツは危険だ。急いでここから離れろ!」
だが、俺は笑みを浮かべ、「いや、俺も戦います!」と毅然と言い放った。
その一言に、場の空気が凍りついた。ハイドロは驚愕し、すてるばいかも言葉を失った。
「ア、アホォ!!戦える訳ないやろ!俺らAランク4人がかりでも倒せへんのやぞ!」
ステルバイが鋭く言い放った。彼の言葉には、経験と実力に裏打ちされた確信が込められていた。キンモクオドシは、彼らでも苦戦する相手。俺の行動は無謀にしか見えなかったのだろう。
彼らの警告を背に、俺は静かに目の前の脅威に集中した。全身を走る緊張感の中で、思考は鋭く研ぎ澄まされ、瞬時に判断を下す───逃げない、と。
触手がゆっくりと、しかし確実に俺に向かって伸びてくる。
その動きはまるで、獲物を確実に仕留めるために余裕を持っているかのように見えた。だが、俺ははその動きに臆することなく、逆にその触手の動きを冷静に見極め、足を前に出した。足は疾風のごとく突っ走り、まるで風そのものとなったように、その巨体に向かってまっすぐに突き進む。
「おいアホッ!!」ステルバイの叫びも、ハイドロの「何してんだ!?」という驚きも、アカシの耳には届いていなかった。
その瞬間、無数の触手が襲いかかる。だが俺は、軽い身のこなしで次々と触手の攻撃を回避していく。まるで自分が風の一部となり、その動きを読み取るかのように、俺は躍動する触手の隙間を縫って進んだ。
「アイツ、避けやがった!」
遠くからファイガーが驚愕の声を上げた。
俺はついに一つの触手を掴む。その感触は冷たく、ぬるりとした異様なものだったが、俺は一切の躊躇を見せなかった。
「オラァ!!」と声を上げ、そのまま力を込めて引っ張った。触手は彼のカに応え、ブチブチという音を立てて、キンモクオドシの背中から引きちぎれる。
その音は、俺にとっては勝利の予兆、だが同時に魔物の怒りを引き起こす。キンモクオドシは悲鳴に近い音をあげ、体がわずかに揺れた。触手のちぎれた部分からは青い体液が流れ出し、その姿はまさに痛々しい。
だが俺は、冷徹に状況を分析していた。
目の前の魔物の体力ゲージに視線を送ると、わずかにではあるが、その数値が減少しているのを確認する。これまでのどんな攻撃も通じなかった相手に、確かなダメージを与えた事実は、俺の中で自信を生み出していた。俺はすかさずキンモクオドシの右前脚に鋭い蹴りを放った。
衝撃は的確に魔物の巨体を捉え、次の瞬間、巨体が地面に崩れ落ちた。
その動きは大地を揺らし、ズシンという音が周囲に響き渡る。空気に広がる土の匂いと、魔物の腐臭が混じり合い、異様な雰囲気が漂う。
ステルバイは、目の前の光景に呆然とし、「はぁ!?嘘やろ!?倒れたで!!」と口走った。
ファイガーも、しばし絶句した後、震えるように声を漏らした。
「な、何モンだこいつ......」
だが、俺は油断しなかった。
そのまま、空中へと高く飛び上がる。体中にみなぎる力を感じながら、まるで天空から神の制裁を下すかのように、キンモクオドシの頭部にかかと落としを放つ。
「どうだ!?」
だが、キンモクオドシの体カゲージは完全にゼロにはならなかった。俺はその事実に苛立ちを感じ、再び跳躍し、再度かかとを振り下ろす。
「二発目どうだ!?」
その瞬間、キンモクオドシの体からは鮮烈な音が響いた。
頭部からバキバキと砕ける音がし、目に見える形で何かが崩壊していく。眼球が飛び散り、口から血が吹き出し、頭の骨が完全に潰れたのを、己の足で確かに感じ取った。
「どうだ?今度こそ!」
俺は再び体カゲージを確認する。そしてついに、キンモクオドシの体力がゼロになっていることを確認すると、俺の中で静かな勝利の実感が沸き起こった。
「しゃあ、討伐成功!」
【110ポイント獲得】という謎のメッセージが俺の目の前に現れる。この表示、ワイバーンを倒した時も現れたが、魔物を討伐したら出てくるのか?しかし、ポイントとは一体なんだろう。
俺は振り返り、その場にいた4人を見やる。だが、その表情は驚愕と困惑が混ざり合ったものだった。
「あっ…………。じ、じゃあ俺はこれでー……。失礼しまーす………」
俺は気まずく目を逸らし、キンモクオドシの死骸を背にゆっくりと歩き出した。肩越しに振り返ることなく、淡々とその場を後にしようとする俺の姿は、どこか落ち着きがなく、意図的に無関心を装っているかのように見えただろう。周囲の空気が張り詰め、静寂の中で俺の足音が妙に大きく響く。
だが、その瞬間、冷たい手が俺の肩に触れた。 振り向くと、そこにはファイガーが立っていた。その眼光は鋭く、疑念と怒りが入り交じっている。
「おい」
短い言葉に、圧倒的な威圧感が込められている。彼の手が肩に乗る重さをじわじわと感じながら、曖昧に返事をする。
「はい?」
ファイガーの目が射抜くように見つめ、彼の口元が険しく歪んだ。
「てめぇ、何モンだ?俺の獲物を勝手に横取りしやがって」
ファイガーの声は低く抑えられていたが、その中に潜む怒りと苛立ちが明確に伝わってきた。 俺の背中に冷たい汗が流れる。彼の周りに立つ他の冒険者たちも、じっとこちらを見つめている。どの顔も、理解できないものを前にした戸惑いに満ちていた。
「あっ、えっと~……」
俺は困惑し、視線を泳がせる。どうにかしてこの場を切り抜けようと、頭の中で必死に言い訳を探し始めた。だが、どうやっても言葉が見つからない。まるで不良に絡まれているような感覚だ。ここは適当なことを言って、なんとか切り抜けるしかない。
「おい!答えろ!」
俺は一瞬、目を閉じて息を吸い込み、そして自信のない声で返事をした。
「…………お、お前!今の俺に触れるのはやめておいた方がいいぞ!」
ファイガーは一瞬驚き、眉をひそめる。
「な、なんだと?」
「今日、何の日か知っているか?」
「あん?なんの話しだ?」
周囲が静まり返る。ステルバイや他の冒険者たちも、今の会話に興味を示し、じっと耳を傾けている。俺は、ここが正念場だと思い、無理矢理な笑みを浮かべながら続けた。
「そう。今日は天皇陛下の誕生日。祝日だ」
「あ?」
「俺のスキルはな、祝日に覚醒する特別な力だ。この日の俺は力を制御できない。だから今の俺に関わらない方がいい。祝日の日の俺は、俺でさどうなるか分からねぇからな!」
言葉が次々と口から出てくるが、自分でも何を言っているのかわからなくなる。祝日?なんだそれ?自分でも信じられないような説明をしている。しかも今日は祝日でも何でもない。心の中で自分にツッコミを入れながらも、なんとかその場をしのごうと必死だった。
「ん?えっ?」
ファイガーの顔には困惑が浮かんでいた。そりゃそうだ。
「ふっ、じゃあな」
俺は軽く手を振りながら、ファイガーの手を肩からそっと外し、ゆっくりとその場を離れる。心臓がバクバクと鳴り響き、冷や汗が背中を伝う。歩幅を広げて早足で立ち去りたい衝動を抑え、自然に見えるようにその場を去ったが、内心では、すぐにでも駆け出したい気持ちだった。
「………………しゅ、祝日?」
その背後で、ファイガーがポツリとつぶやいたのが聞こえた。俺はそのまま足を止めず、ラプラスの元へと急いだ。
「アイツ、一人で片付けおったで。ほんま何モンなんや……」
「と、とにかくこれで人里への侵攻は防がれたな……」
ハイドロがようやく安堵の息をつく。
「これで、クエスト達成ってことになるんか?あんま実感ないなぁ……」
「ソレデモクエストの達成条件、確カにクリアシテル。ギルドにリターンシマショウ」
だが、ファイガーは依然として納得がいかない様子で、その場に立ち尽くしていた。彼の眉間には深いシワが寄り、苛立ちを抑えきれないようだった。
「おい!なにボサっとしとんねん、はよ帰るで役立たず」
ステルバイが、沈黙しているファイガーに向かって呼びかける。しかし、彼の言葉はファイガーの耳には届いていないかのようだった。
「………………」
「おい!!」
ファイガーは、静かに唇を噛み締めた。
「納得いかねぇ……」
「はあ?」
その声には、怒りと疑念が込められている。
ファイガーは、再び視線を遠くに走るアカシの背中に向けた。
「アイツ、あの野郎、あの強さ……。納得がいかねぇ!」
彼は、己の拳を強く握り締めた。 その目は、アカシの背中を鋭く追い続けている。まるで、彼の本当の姿を暴こうとするかのように、その視線は鋭さを増していた。
「なんで祝日と関係があんだよ!!なんだよ祝日って!」
その場に立ち尽くしながらも、ファイガーはずっとアカシの背中を見続けていた。その背は、夕陽に照らされて一層遠く小さくなっていった。
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