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真っ赤っか
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「お前の様子を見に来たんだ。心配だったから」
その言葉を聞いて、思わず眉間に皺が寄った。
「心配?」
「ああ。失神したまま、ずっと起きる気配がなかったから心配だったんだ。体調が悪くなったんじゃないかと思って不安だった。だから、お前が目を覚まして安心した」
従兄さんはそう言うと、優しい眼差しを向けてきた。……うう。そんなことを言われて、そんな顔をされたら、気絶する前にされたことを許したくなっちゃう。でも、駄目だ。ここで許してしまったら、また同じことが起きてしまうかもしれない。
私は頑張って眉を吊り上げると、腰の両端に手を当てて、下から従兄さんを睨み付けた。
「今後私に、失神する前にしてきたことと同じことを許可なくやったら、従兄さんとは別れるから!」
「別れる?」
意味が伝わっていないのか、従兄さんがわずかに首を傾げた。
「もうお付き合いしないって意味! 破局するってことだよ」
説明してあげると、従兄さんは怪訝そうな顔をした。
「今別れても、いずれ俺たちは結婚させられる仲だろう? 意味があるのか?」
「あ、あるよ! 別れたら手も繋がないし、キスもしないし、エッチなことなんか絶対しないもの!」
私が必死になって言葉にすると、従兄さんの顔色がさっと変わった。その目は真剣だ。
「それは嫌だ」
「バカ!」
「なんだ、急にバカって」
「だって、私と付き合ってる目的が身体目当てみたいでムカついたんだもん」
「別にそうじゃないが、そもそも他人の心を確実に手に入れる方法なんかないだろう。愛し合っていると思っていたのに、急に心変わりされる例だってある」
なんだかドライというか現実味のある回答に、私は目を丸くした。もしかして、体験談? どうしてそんな風に考えているのか詳しく訊いてみたくなったけど、今は我慢することにした。話がズレてしまうからだ。
「じゃあ、私のことも信じてないの? そのうち、従兄さんのことを嫌いになると思ってるの?」
私は胸を騒がせながら返答を待った。もしそう思われているなら、すごく悲しい。信用されていないのに身体だけは求められているなんて、そんなの嫌だ。
「そうじゃない。お前に嫌われるのは堪える。だけど、もし嫌われたとしても仕方がないとは思っている」
「そんなこと言わないでよ。私、まだ子供だけど……信用ないかもしれないけど、そんな風に諦められたら悲しい」
エッチなことをされるのはまだ恥ずかしいし、怖さもある。恋愛がどういうものかだって、未だによくわからない。だけど好きな人に投げやりな気持ちで恋人でいられたら、私の方が全部投げ出したくなっちゃう。
「なら、諦めなくてもいいのか? この先も、お前は俺のことを好きでいてくれるのか?」
少し疑うような声色で訊ねられた。
「好きでいるよ。だって従兄さんは、お祖父様の意志とは関係なしに私のことをお嫁さんにしたいんでしょ? 将来、旦那さんになるかもしれない人のことを嫌いになるの、私、嫌だもの」
「俺の嫁になってくれるのか?」
その声は少し嬉しそうだ。
「そ、そんなの、まだわからない……でも、なんだかもう決まっちゃったような感じだし」
なんだか恥ずかしくなってきてもじもじしながら俯くと、両腕が伸びてきてぎゅっと抱きしめられた。驚いて口から変な声が漏れる。
「へぁっ」
「俺と結婚してくれ、椿。俺のものになってくれ」
熱の籠もった声が降ってくる。どうしよう。胸がどきどきして、顔が熱い。耳まで熱い。
「ど、どうして? どうしてそんなに私にこだわるの?」
今の雰囲気をどうにかしたくて、慌てて訊ねた。だって放っておいたままだと、顔と耳が真っ赤になったまま元に戻らなくなりそうだからだ。これからお夕飯をいただく予定なのに、それだと困る。
「お前が可愛いからだ。それに健気なところも好きだ。さっき叔母さんが帰ったことを知ったときに俺を睨んでたのだって、家事の手伝いができなかったことが気に入らなかったからだろう?」
「え……よくわかったね」
まるでテレパシーみたい。
「そういうところが好きだからな」
当たり前のように言われながら頭を撫でられて、照れくさくてたまらなくなる。おかげでますます頬が熱くなってしまった。これじゃ逆効果だ。
「なんか恥ずかしい……」
「そうか」
「でも、えっと、ありがとう。嬉しい」
私が素直にそう言うと、額に何か柔らかいものが触れた。一拍置いてからキスされたのだとわかって、もっともっと恥ずかしくなってしまう。
もはや何も言えなくなって、私は従兄さんの腕の中でしばらくもじもじしていた。従兄さんはそんな私に何も言わなかった。ただ私を抱きしめたまま、じっとしていた。
その後。結局私は、顔と耳に宿った熱が離れないまま、お夕飯をいただくことになってしまった。
私の顔を見た伯母様は「今日は暑いものね」と言ってくれたけど、お祖父様からは「その顔はどうした。ああ、なるほど。猛といちゃついとったのか」と言われてしまって、私はオーバーヒートを起こすに至った。
その言葉を聞いて、思わず眉間に皺が寄った。
「心配?」
「ああ。失神したまま、ずっと起きる気配がなかったから心配だったんだ。体調が悪くなったんじゃないかと思って不安だった。だから、お前が目を覚まして安心した」
従兄さんはそう言うと、優しい眼差しを向けてきた。……うう。そんなことを言われて、そんな顔をされたら、気絶する前にされたことを許したくなっちゃう。でも、駄目だ。ここで許してしまったら、また同じことが起きてしまうかもしれない。
私は頑張って眉を吊り上げると、腰の両端に手を当てて、下から従兄さんを睨み付けた。
「今後私に、失神する前にしてきたことと同じことを許可なくやったら、従兄さんとは別れるから!」
「別れる?」
意味が伝わっていないのか、従兄さんがわずかに首を傾げた。
「もうお付き合いしないって意味! 破局するってことだよ」
説明してあげると、従兄さんは怪訝そうな顔をした。
「今別れても、いずれ俺たちは結婚させられる仲だろう? 意味があるのか?」
「あ、あるよ! 別れたら手も繋がないし、キスもしないし、エッチなことなんか絶対しないもの!」
私が必死になって言葉にすると、従兄さんの顔色がさっと変わった。その目は真剣だ。
「それは嫌だ」
「バカ!」
「なんだ、急にバカって」
「だって、私と付き合ってる目的が身体目当てみたいでムカついたんだもん」
「別にそうじゃないが、そもそも他人の心を確実に手に入れる方法なんかないだろう。愛し合っていると思っていたのに、急に心変わりされる例だってある」
なんだかドライというか現実味のある回答に、私は目を丸くした。もしかして、体験談? どうしてそんな風に考えているのか詳しく訊いてみたくなったけど、今は我慢することにした。話がズレてしまうからだ。
「じゃあ、私のことも信じてないの? そのうち、従兄さんのことを嫌いになると思ってるの?」
私は胸を騒がせながら返答を待った。もしそう思われているなら、すごく悲しい。信用されていないのに身体だけは求められているなんて、そんなの嫌だ。
「そうじゃない。お前に嫌われるのは堪える。だけど、もし嫌われたとしても仕方がないとは思っている」
「そんなこと言わないでよ。私、まだ子供だけど……信用ないかもしれないけど、そんな風に諦められたら悲しい」
エッチなことをされるのはまだ恥ずかしいし、怖さもある。恋愛がどういうものかだって、未だによくわからない。だけど好きな人に投げやりな気持ちで恋人でいられたら、私の方が全部投げ出したくなっちゃう。
「なら、諦めなくてもいいのか? この先も、お前は俺のことを好きでいてくれるのか?」
少し疑うような声色で訊ねられた。
「好きでいるよ。だって従兄さんは、お祖父様の意志とは関係なしに私のことをお嫁さんにしたいんでしょ? 将来、旦那さんになるかもしれない人のことを嫌いになるの、私、嫌だもの」
「俺の嫁になってくれるのか?」
その声は少し嬉しそうだ。
「そ、そんなの、まだわからない……でも、なんだかもう決まっちゃったような感じだし」
なんだか恥ずかしくなってきてもじもじしながら俯くと、両腕が伸びてきてぎゅっと抱きしめられた。驚いて口から変な声が漏れる。
「へぁっ」
「俺と結婚してくれ、椿。俺のものになってくれ」
熱の籠もった声が降ってくる。どうしよう。胸がどきどきして、顔が熱い。耳まで熱い。
「ど、どうして? どうしてそんなに私にこだわるの?」
今の雰囲気をどうにかしたくて、慌てて訊ねた。だって放っておいたままだと、顔と耳が真っ赤になったまま元に戻らなくなりそうだからだ。これからお夕飯をいただく予定なのに、それだと困る。
「お前が可愛いからだ。それに健気なところも好きだ。さっき叔母さんが帰ったことを知ったときに俺を睨んでたのだって、家事の手伝いができなかったことが気に入らなかったからだろう?」
「え……よくわかったね」
まるでテレパシーみたい。
「そういうところが好きだからな」
当たり前のように言われながら頭を撫でられて、照れくさくてたまらなくなる。おかげでますます頬が熱くなってしまった。これじゃ逆効果だ。
「なんか恥ずかしい……」
「そうか」
「でも、えっと、ありがとう。嬉しい」
私が素直にそう言うと、額に何か柔らかいものが触れた。一拍置いてからキスされたのだとわかって、もっともっと恥ずかしくなってしまう。
もはや何も言えなくなって、私は従兄さんの腕の中でしばらくもじもじしていた。従兄さんはそんな私に何も言わなかった。ただ私を抱きしめたまま、じっとしていた。
その後。結局私は、顔と耳に宿った熱が離れないまま、お夕飯をいただくことになってしまった。
私の顔を見た伯母様は「今日は暑いものね」と言ってくれたけど、お祖父様からは「その顔はどうした。ああ、なるほど。猛といちゃついとったのか」と言われてしまって、私はオーバーヒートを起こすに至った。
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