1 / 1
本文
しおりを挟む
旧友である更紗は嘘つきだった。
『ニボシってね、ニボって魚の死体だからニボ、シって名前なんだよ』
『ニンジンは漢字で書くと人に参で人参でしょ? だから昔はニンジンを数える時、一人、二人って数えたんだって』
『カラスはね、昔はピーピーって鳴いてたんだけど、人間が出したゴミを漁って食べ始めたら遺伝子がおかしくなっちゃって、今みたいにカーカー鳴くようになったんだって』
今思えばくだらない嘘の数々。だけど、疑うことを知らなかった純粋な小学年生だったわたしは、本当のことじゃないのだと気付かなかった。それどころか彼女の嘘を、いつも感心しながら聞いてしまってさえいた。
ちなみに彼女から聞いた話が嘘だと気が付くのは、いつも学校から家に帰って晩御飯を食べた後だ。
気付く流れはこうだ。わたしの宿題を手伝って――もとい、監督して――くれていた八つ上の姉に、「今日、友達からこんな話を聞いたよ」と話す。すると姉から、「それは嘘だよ」と指摘が入るという訳だ。
翌日。小学校に行って更紗から聞いた話が嘘であったことを指摘すると、彼女はいつも「ごめんなさい」と謝るばかりだった。
「嘘だとは知らなかったの」
そう付け足して、申し訳なさそうに頭を下げる。
そんなふうに謝られると強くは責められなくて、わたしはその度に彼女を許していた。
けれど、小学校を卒業した日。
わたしや他の子たちとは違い、地元の公立中学校ではなく、遠くにある私立中学校に進学するという更紗がわたしに告げてきたのだ。あの嘘の数々はわざとついていたのだと――。
それが原因でわたし達は仲違いし、そこから縁が切れてしまった。
高校を卒業して二年。卒業後に就職した町工場で働き、慌ただしい毎日を過ごしている今。
時々、ふと思い返してしまう。更紗はどうして、わたしに毎日のように嘘を話していたのだろうかと。
姉は「自分がついた嘘を感心しながら聞いてくれるみーちゃんの様子を見ながら、内心馬鹿にしていたんだよ。また騙されてるーって」と言っていたけれど、本当にそうだったんだろうか?
だってそうだとしたら、わたしが熱心に作り話を聞いている姿を見ながら、どうして更紗は頬を赤くしながら照れていたんだろう。
どうしてあんなふうに、恋をしている乙女のように――。
『ニボシってね、ニボって魚の死体だからニボ、シって名前なんだよ』
『ニンジンは漢字で書くと人に参で人参でしょ? だから昔はニンジンを数える時、一人、二人って数えたんだって』
『カラスはね、昔はピーピーって鳴いてたんだけど、人間が出したゴミを漁って食べ始めたら遺伝子がおかしくなっちゃって、今みたいにカーカー鳴くようになったんだって』
今思えばくだらない嘘の数々。だけど、疑うことを知らなかった純粋な小学年生だったわたしは、本当のことじゃないのだと気付かなかった。それどころか彼女の嘘を、いつも感心しながら聞いてしまってさえいた。
ちなみに彼女から聞いた話が嘘だと気が付くのは、いつも学校から家に帰って晩御飯を食べた後だ。
気付く流れはこうだ。わたしの宿題を手伝って――もとい、監督して――くれていた八つ上の姉に、「今日、友達からこんな話を聞いたよ」と話す。すると姉から、「それは嘘だよ」と指摘が入るという訳だ。
翌日。小学校に行って更紗から聞いた話が嘘であったことを指摘すると、彼女はいつも「ごめんなさい」と謝るばかりだった。
「嘘だとは知らなかったの」
そう付け足して、申し訳なさそうに頭を下げる。
そんなふうに謝られると強くは責められなくて、わたしはその度に彼女を許していた。
けれど、小学校を卒業した日。
わたしや他の子たちとは違い、地元の公立中学校ではなく、遠くにある私立中学校に進学するという更紗がわたしに告げてきたのだ。あの嘘の数々はわざとついていたのだと――。
それが原因でわたし達は仲違いし、そこから縁が切れてしまった。
高校を卒業して二年。卒業後に就職した町工場で働き、慌ただしい毎日を過ごしている今。
時々、ふと思い返してしまう。更紗はどうして、わたしに毎日のように嘘を話していたのだろうかと。
姉は「自分がついた嘘を感心しながら聞いてくれるみーちゃんの様子を見ながら、内心馬鹿にしていたんだよ。また騙されてるーって」と言っていたけれど、本当にそうだったんだろうか?
だってそうだとしたら、わたしが熱心に作り話を聞いている姿を見ながら、どうして更紗は頬を赤くしながら照れていたんだろう。
どうしてあんなふうに、恋をしている乙女のように――。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃった件
楠富 つかさ
恋愛
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃうし、なんなら恋人にもなるし、果てには彼女のために職場まで変える。まぁ、愛の力って偉大だよね。
※この物語はフィクションであり実在の地名は登場しますが、人物・団体とは関係ありません。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
もっさいおっさんと眼鏡女子
なななん
ライト文芸
もっさいおっさん(実は売れっ子芸人)と眼鏡女子(実は鳴かず飛ばすのアイドル)の恋愛話。
おっさんの理不尽アタックに眼鏡女子は……もっさいおっさんは、常にずるいのです。
*今作は「小説家になろう」にも掲載されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる