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深夜にする散歩も乙なものよね。今日は満月だから明るいし。
そう思いながら静かな街路をてくてく歩いていたら、見慣れない男に声をかけられた。
「おねーさん、今ヒマ? ヒマなら俺とイイコトしない?」
初対面のくせに、あまりにも馴れ馴れしい態度としゃべり方。
腹が立ったわたしは、
「おとなしくさっさと消えな! なんなら、わたしはアンタの玉を噛みちぎってやったって構わないんだよ!」
そう叫んでやった。
すると男はビクッと身体全体を揺らしてから、一目散に駆け出して行った。ダサい奴。思わずため息が漏れる。
気分を害されて、せっかくの散歩が台無しになってしまった。
もう散歩をやめようかな……そう思った矢先、前方から人間がやってきた。歩幅が長いせいで、あっという間にこっちまで来てしまいそう。
どうしようか迷っているうちに、人間はわたしの脇を通り過ぎて行った。ホッとしてその背中を見送ったのもつかの間、人間は急にくるっと振り返ってわたしを見た。
「あっ、やっぱり猫だ! 黒いから見逃しそうになっちゃったよ」
人間は何事かをしゃべると、わたしの前にしゃがみこんだ。
「触ってもいいかな?」
わたしには人間の言葉はわからない。とりあえず身体を固くして逃げるチャンスを待っていると、人間の腕がこっちにのびてきた。
こわい!
そう思って身構えたけど、人間はただわたしの頭を撫でるだけだった。
「かわいいなぁ。昔飼ってたマリに似てるかも」
ひとしきりわたしの頭を撫でたあと、人間は立ち上がった。
「さよなら、猫さん。また会えたらいいね」
人間はわたしに向かって寂しそうに何かを告げると、そのままゆっくりと去って行った。
わたしは警戒も兼ねて、その背中が見えなくなるまで見つめた。
今晩の散歩は変な男に声をかけられたり、人間に身体を触られたりとアクシデントはあったけれど。怪我もなく無事だったし、まあいいか。
ホッと息を吐き出した後、わたしはくるりと踵を返して再び真夜中の散歩タイムに舞い戻った。
ふと、空を見上げる。
――今宵の月はまんまるで、本当に美しい。
たったそれだけのことで、わたしは自慢のしっぽをくねくねと踊らせた。
そう思いながら静かな街路をてくてく歩いていたら、見慣れない男に声をかけられた。
「おねーさん、今ヒマ? ヒマなら俺とイイコトしない?」
初対面のくせに、あまりにも馴れ馴れしい態度としゃべり方。
腹が立ったわたしは、
「おとなしくさっさと消えな! なんなら、わたしはアンタの玉を噛みちぎってやったって構わないんだよ!」
そう叫んでやった。
すると男はビクッと身体全体を揺らしてから、一目散に駆け出して行った。ダサい奴。思わずため息が漏れる。
気分を害されて、せっかくの散歩が台無しになってしまった。
もう散歩をやめようかな……そう思った矢先、前方から人間がやってきた。歩幅が長いせいで、あっという間にこっちまで来てしまいそう。
どうしようか迷っているうちに、人間はわたしの脇を通り過ぎて行った。ホッとしてその背中を見送ったのもつかの間、人間は急にくるっと振り返ってわたしを見た。
「あっ、やっぱり猫だ! 黒いから見逃しそうになっちゃったよ」
人間は何事かをしゃべると、わたしの前にしゃがみこんだ。
「触ってもいいかな?」
わたしには人間の言葉はわからない。とりあえず身体を固くして逃げるチャンスを待っていると、人間の腕がこっちにのびてきた。
こわい!
そう思って身構えたけど、人間はただわたしの頭を撫でるだけだった。
「かわいいなぁ。昔飼ってたマリに似てるかも」
ひとしきりわたしの頭を撫でたあと、人間は立ち上がった。
「さよなら、猫さん。また会えたらいいね」
人間はわたしに向かって寂しそうに何かを告げると、そのままゆっくりと去って行った。
わたしは警戒も兼ねて、その背中が見えなくなるまで見つめた。
今晩の散歩は変な男に声をかけられたり、人間に身体を触られたりとアクシデントはあったけれど。怪我もなく無事だったし、まあいいか。
ホッと息を吐き出した後、わたしはくるりと踵を返して再び真夜中の散歩タイムに舞い戻った。
ふと、空を見上げる。
――今宵の月はまんまるで、本当に美しい。
たったそれだけのことで、わたしは自慢のしっぽをくねくねと踊らせた。
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